デザイナーが著作権侵害で訴えられないための簡単な方法

あらかじめ断っておく。私はデザインの世界は知らない。しかし自分が行った研究でしっかり特許をとって、権利を守るための方法は知っている。そしてそれに照らし合わせると、オリンピックエンブレムの問題に対するデザイナーの反発が非常に幼稚に見える。

簡単に言うとこういう反発だ。

  1. 中村勇吾: 「すごく基本的な形態の組み合わせのシステムなので世界中探したらどっかに似たアウトプットは必ずあるだろう。これでパクリだと揚げ足取られると今後シンプルな提案は何も出来なくなる」 リンク
  2. 水野祐弁護士: 「著作権法は偶然似たものを侵害とはしない」「『パクり』という言葉を使って煽ってるとしか思えない。発言を拾った報道側のリテラシーの問題では」 リンク
  3. ナガオカ ケンメイ: 「シンプルで力強いデザインはグラフィックに限らず、似てきます。」 リンク
  4. 中村勇吾: 「これでパクリだと挙足取られると今後シンプルな提案は何も出来なくなる。」 リンク

他にもこちらにいろいろある。

研究の世界では

理研の小保方晴子氏のときに話題になったのはノートである。別に3年間で2冊しかノートがなかったこと自体が問題ではない。もし他の研究者が実験を再現し、STAP細胞の存在が明確に確認されれば、ノートがどんなに少ないかは問題にならない。正直な研究者だって過去の実験を再現できないということはある。しかし正しく実験を行ったかどうかは、詳細なノートがあれば証明できる。問題はノートがなかったために自分の身を守れなかったことである。

実験ノートには日々の着想と実験計画、そして得られた細々とした結果を記す。そして理想的には共同研究者に毎日見てもらい、確認のサインをもらう。仮に実験結果を捏造するにしたって、このノートのすべてを捏造することは難しいので、だからこそ証拠として価値がある。

デザインの世界では

今回のオリンピックエンブレムで問題になっているのは著作権である。そして著作権を侵害したかどうかは、結果として似ているかどうかではなく、根源的には元の著作物を許可なく使用したかどうかである。したがって最終的な成果物ではなく、デザイン過程の問題である。だから佐野研二郎が示さなければならない証拠は最終成果物のに関するものではなく、製作途中に関するものである。

これについては私も言及しているが、やはり大阪芸術大学の純丘曜彰 教授が書いたものが詳しく書いてある。

では具体的にどのようなものをデザイナーは証拠として提示するべきなのか。純丘曜彰教授は以下の例を示している。

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ここでは最終的なデザインに至るまでの多数の試行錯誤が示されており、これがあれば最初の着想から最終的なデザインに至る道筋が説明できる。そして問題になっているベルギーの劇場のロゴがこの中にあれば問題外だが、ないのであればたまたま独立に似たデザインになったことを主張できる。

実際、ベルギーの劇場のロゴをデザインしたOlivier Debie氏はこう語っている

“Sano gave no explanation showing the artistic progression and development of his logo. He only explained how, according to him, the philosophy behind his design was different,”
“Sano’s explanations do not appear to me to be convincing,”

つまり佐野研二郎氏の説明では、ロゴがどのように発展し作られて行ったかの説明がなく、それでは著作権侵害がなかったという証明にならないというのである。裏を返せば、純丘曜彰教授が例示したようなものがあれば、著作権侵害がなかったことを証明できたことになる。

デザイナーはどうすれば良いか

答えはすごく簡単で、日本のデザイナーがそうしていないとは正直信じられない。

例えばデザインした電子ファイルは上書きせずに、日付などをつけた別のバージョンを毎日保存すれば良い。あるいはMacのTime Machineなどでバックアップしていれば、かなり過去にさかのぼってファイルを復元することが可能である。最近ではDropBoxでも過去のバージョンを復元できるし、プロバージョンであれば無制限に履歴を保存できる。理想的にはSubversionやGitなどのようなバージョン管理ソフトを使えば完璧である。

紙に書いたものであれば、毎日日付をつけてファイリングすれば良い。理想的には同僚にサインをしてもらえればよいし、研究でも使われているようなページを差し替えたり挿入したりできないようなノートを使えばよい。

こういったことも考えずに「これでパクリだと挙足取られると今後シンプルな提案は何も出来なくなる。」などというのは、研究者出身の身としては甘えにしか聞こえない。そろそろデザイナーも自分たちの身を守る方法を真面目に考えたらよいのではないかと思う。

そしてもうひとつ大切なことは、特許紛争では当然のように実験ノートの提出が求められるが、デザインに関する裁判でもこのようなノートの提出(もちろんSubversionやGitのリポジトリでもよい)が義務になればよいのではないかと思う。