「増税」と「織り込み済み」

消費税増税の話が選挙戦をにぎわせています。

1) 増税をしないと日本の財政は破綻するという議論、2) 増税をすれば日本の景気はよりいっそう後退するという議論、そして 3) 増税しつつ景気を向上させる第三の道があるという議論等です。

僕は政権交代時には2)の立場を取っていましたが、今は3)という立場を取っています。なぜかというと株式市場でよく使う「織り込み済み」の状態になってきたと感じるからです。

「織り込み済み」というのは、『株価に影響があるはずのニュースなど(材料)が、すでに株価に反映されていること』を指します。つまり株価を下げる方向に働くニュースがあるにもかかわらず意外と下がらないとか、逆に株価を上げるようなニュースがあっても意外と上がらないというとき、すでにそのニュースは予想されていて、株価にすでに反映されていたということです。

増税の議論に対しても同様の概念は当てはまるはずです。不思議とこれに言及している評論家はいないのですが、考え方としては以下のような話です。つまり日本政府の累積赤字がGDPの200%に達する勢いで、国債発行高が税収を上回っていて、さらにギリシャの破綻等のニュースが報道されている中、国民は将来不安を抱えているはずです。そして近い将来に増税があるか、あるいは年金・社会保障を減らされるか、あるいは国家が破綻するかのどちらかが必ず起こるだろうと誰しもが思うはずです。そして自衛策としては無駄な出費を抑え、将来への備えとして収入を貯金に回そうと考えるはずです。

最近では国民以上に企業が内部に蓄えている余剰金の方が貯金として大きなウェイトを占めるようになってきているという話がありますが、そこでも同様です。日本の国家が不安を抱えていて、国民が消費を抑制していて、さらに世界の経済が冷え込んでいるため、今積極的な投資をするという判断を経営を企業のトップは取りません。利益は投資ではなく、借金の返済および余剰金に回すことになるでしょう。

政治家が今は増税はしないと言ったところで、将来的には増税があるというのは普通に予想がつきます。あるいは国家が破綻するとも予想されています。そして現在の国民および企業の消費水準は、それをすでに「織り込んでいる」と考えても無理はありません。

僕は政権交代時には、まだ日本の国民はそれほど財政について危機感を持っていないだろうと思っていました。国債を所有しているのがほとんど日本人だということもあり、まだまだ時間はあると思っていました。そして積極財政を行い景気を回復させることができれば、財政をなんとかする方向性が見えてくるのではないかと思いました。

しかし野党に追いやられた自民党は執拗に民主党政権の財源の根拠を突いてきます。またマスコミもこの問題を大きく取り上げます。事業仕分けもかなり成功ではあったと思いますが、財源の不安を払拭するものではありませんでした。その上ギリシャが破綻し、世界経済全体に大きな影響を与えています。つまり民主党政権発足時に比べて、増税もしくは大幅な緊縮財政はやむを得ないという空気は強くなったと思います。

その空気が現在もしくは今後数ヶ月間の景気に反映されるのは当然のことです。

ですから、今、税金を据え置くとか、積極的な財政支出をするとか、金融を大幅に緩和すると言ったところで、そう簡単に国民の財布のひもは緩みません。

逆に消費税を増税すると言っても、それは国民の想定の範囲内でしょう。すでに「織り込み済み」でしょう。いつかは来ると分かっていたことです。むしろようやく下らない政争が終わって、日本の将来についての議論がちゃんと始まったと国民が感じることができれば、将来に対する不安が解消され、そして消費向上に向かうかもしれません。今の日本に必要なことに対して真剣に取り組む政府が生まれた、自分たちのことをまじめに考えてくれる人が国を治めている。国民がそのように感じ、政府に対して信頼感を取り戻すことがあれば、一般国民の消費が拡大する可能性が十分にあります。

増税によるネガティブ要素はもちろんあります。しかしそれがすでに「織り込み済み」であれば、増税を行っても現在以上に景気は悪くなりません。それは株価と同様です。

したがって消費税増税の影響を考える上では、現時点でどれだけ「織り込み済み」なのかを正確に把握することが重要です。そして増税議論を政府がしっかり行うことが国民からの信頼回復につながるのかどうか、調査する必要があります。

残念ながらその議論はほとんど聞きません。株式の議論をするときには頻繁に使う「織り込み済み」のコンセプトをどうしてマクロ経済の議論で使わないのか。マネタリストの骨格をなす議論のはずなのに、どうしていざというときは忘れられるのか。そんなことを不思議に思うと同時に、経済学の現状ってこんなもんだよねとも思ってしまいます。

最後の僕のスタンスを紹介します。

僕は増税は織り込み済みだと思っています。だから増税そのものは景気に悪影響を与えないと考えています。むしろ菅首相が言うように、景気に好影響を与える可能性もあります。ただしそうなるためには、政府への信頼感を増すような増税でないといけません。公約違反だという議論に対しては誠実に対応していかないといけないでしょう。増えた税収が正しく使われるという安心感を国民が持たないといけません。その中で蓮舫さんなどの事業仕分けは金額以上に大きな象徴的意義を持ちます。また大部分の日本人が不安に思っている社会の格差に十分に配慮した税制でないといけません。さらにごり押しをした税制ではなく、超党派で議論が行われたものであることも重要です。

そういう意味で増税をするかしないか、消費税は何%になるかという議論ではなく、大切なのは税金の質、そしてそれに至る議論の質だと思っています。

蛇足ですが、消費税を何に使うかの議論はばかばかしくて早くやめてもらいたい。マスコミも取り上げるのをさっさと止めないといけません。借金をしている人が増収分で何をやるか、そんなのは決まっています。これ以上の借金を出さないために使うんです。