オバマ大統領候補の演説

アメリカの大統領選挙が面白くて、ぼくはアメリカのメディアを通してインターネットで追いかけています。

オバマ氏が2008年10月17日に、Roanokeというバージニア州の中でも保守党が強い地域で行った演説がとても素晴らしかったので紹介したいと思います。

1961年生まれ、今年47歳になったばかり。若くて経験が浅いと一貫して指摘されてきたオバマ氏です。しかし、ジョン マケイン、ヒラリー クリントン氏などの強力なライバルと長く激しい選挙戦を戦っていくなかで、彼は明らかに成長してきました。最初は雄弁さと夢ばかりが強調された演説でしたが、今回の演説で夢を控えめにし、国民のニーズを捉え、具体的な政策を、説得力のある形で紹介するようになってきています。

日本国民には雄弁な演説というスタイルは一般的になじまないのかもしれません。しかし日本のいまの政治家は、それ以前の問題として国民のニーズすら理解できなくなっているように思います。その結果、重要法案とされているものは国民にとってどうでも良いものばかり。オバマ氏のように国民のニーズを汲み取り、国の方向性を示し、具体的な政策を雄弁に提案できる政治家がいれば、小泉人気など全く吹き飛んでいくほどの支持を国民から得られるのではないでしょうか。

ということで、そのオバマ氏の演説の中から僕が気に入った部分を取り上げていきたいと思います。

The credit crisis has left businesses large and small unable to get loans, which means they can’t buy new equipment, or hire new workers, or even make payroll for the workers they have. In households across the country, it’s getting harder and harder to get a loan for that new car or that startup-business or that college you’ve dreamed of attending. Wages are lower than they’ve been in nearly a decade. You’re paying more for everything from gas to groceries, but your paychecks have flat-lined.

金融危機によって大企業も小さい企業も融資が受けられなくなっています。その結果、新しい機器の購入ができず、新規に社員を採用することが出来ず、既存の社員の給料すら支払えない状況になっています。家庭においてはローンを組むことが困難になり、新車を買ったり、新しいビジネスを始めたり、夢に見た大学に進学したりすることができなくなっています。給料は10年間で最低の水準です。ガソリンから日用品まで価格は高騰しています。しかし給料はそのままです。

世界を揺るがしている金融危機は、かなり難解です。特にウォール街の危機が実体経済に与える影響がわかりにくく、どうして国民の税金で金融機関を援助しなければいけないのかが納得されづらいです。オバマ氏は、これをわかりやすい言葉で解説することをずっと心がけています。

一方で日本の政治家はこの金融危機を国民にしっかり説明することなく、行政の専門家が議会の事前承認を得ること無く公的資金を利用できる体制作りを先行させています。

The rescue plan that passed the Congress was a necessary first step to easing this credit crisis. It’s also important that we continue to work with governments around the globe to confront what is truly a global crisis. But now we need a rescue plan for the middle class. If we’re going to rebuild this economy from the bottom up, it has to start on Main Street – not just the big banks on Wall Street. That’s why I’ve outlined several steps that we have to take right now to help folks who are struggling.

First, we’ve got to act now to create good paying jobs. We’ve already lost three-quarters of a million jobs this year, and some experts say unemployment may rise to 8% by the end of next year. That’s why I’ve proposed a new American jobs tax credit for each new employee that companies hire here in the United States over the next two years. That’s how we’ll create good, new jobs here in Virginia and all across America.

先日議会を通過した金融の救済計画は、金融危機を解消するために必要な第一段階でした。この世界的な危機と対決するために、世界中の政府と協調して活動することも重要です。しかし今必要なのは、中流の人のための救済計画です。この国の経済をボトムアップで作り直すのなら、ウォール街の大銀行ではなく、皆さんが住んでいる街から始めないといけません。そこで、いま苦しんでいる国民のためにいくつかのステップを用意しています。

まず最初に、いまこそ給料の良い仕事の創出に取りかからないといけません。既に今年だけで75万の職が失われています。来年には失業率が8%になると言っている専門家もいます。これに対抗するために、アメリカで採用される新しい社員に対して、二年間、税品を軽減する措置を提案しました。こうやってバージニア州を初め、アメリカ中で良質の新しい仕事を作り出すのです。

金融危機に際して公的資金を投入し、国民に多大な負担を要求するわけですが、その国民はというと安い給料と高騰する生活費で貧窮しています。その国民を救済するメッセージを持っていない政治家なんて、本当はあり得ないはずです。

日本も過去に多額の公的資金を金融機関に注入しました。でもその間に国民の生活を豊かにする施策があったかというと、逆に国民生活を貧窮させ、金融機関を潤す超低金利政策、そして正社員採用を減らし企業を優遇する政策があっただけです。

If I am President, I will invest $15 billion a year in renewable sources of energy to create five million new, green jobs over the next decade – jobs that pay well and can’t be outsourced; jobs building solar panels and wind turbines and fuel-efficient cars; jobs that will help us end our dependence on oil from Middle East dictators.

私が大統領になったら、再利用可能なエネルギーの開発に$150億ドル(1.5兆円)を投資します。これによって環境関連の500万の仕事が創出されます。これらの仕事は給料が高く、アウトソーシングもされない仕事です。ソーラーパネルを作ったり、風力発電施設、低燃費自動車を作ったりする仕事です。この仕事によって、我々は中東の独裁者に頼らなくてすむようになるのです。

オバマ氏は、最高の経済対策は新しい仕事を生みだすことだと主張してきました。特に企業が仕事を海外にアウトソーシングしている現状を放置できないと繰り返しています。そこで海外にアウトソーシングできないような高い技術力を要する仕事をいかにして生み出すかについて、その戦略を明確にしています。

オバマ氏は新しい時代のアメリカを支えるべき新しい産業を予見し、そこで必要となる技術力の高い仕事の創出をしていく戦略を思い描いています。

一方の麻生政権はというと、彼らの景気対策は何十年前と同じ、減税と道路などの公共建設事業しか考えません。お金をばらまくことによって、市場がなんとか解答を見いだしてくれるだろうという考え方です。どちらかというと高度経済成長の日本を支えた輸出産業とゼネコンを支える政策です。その一方で将来の日本で最も重要になってくる産業、例えば高齢者福祉産業の惨状は放置したままです。省エネルギー技術など、日本が国連から最も期待されている役割にだって積極投資するわけではありません。

And we’ll give every child, everywhere the skills and the knowledge they need to compete with any worker, anywhere in the world. I will not allow countries to out-teach us today so they can out-compete us tomorrow. It is time to provide every American with a world-class education. That means investing in early childhood education. That means recruiting an army of new teachers, and paying them better, and giving them more support in exchange for higher standards and more accountability.

そして我々はアメリカの子供に、世界のどの労働者にも負けない技術と知識を与えます。アメリカの今日の教育が他国に劣っているがために、将来の我々の労働者が他国に競り負ける状況は許しません。すべてのアメリカ人が世界トップレベルの教育を受けなければ手遅れです。このためには幼少からの教育に投資しなければいけません。新しい先生たちを採用して、より高い給料を支払い、より多くのサポートを与えなければいけません。その代わりに先生たちにはより高い水準を要求し、成果に対してより責任を持ってもらわなければなりません。

グローバリゼーションおよび途上国の経済発展によって、アメリカを初めとする先進国が享受してきた豊かさが失われていくことが危惧されています。企業は途上国の安い労働力を求めて、次から次へと仕事をアウトソーシングします。あるいは海外での生産にシフトします。その結果、先進国の労働者は途上国の労働者と直接競争することになり、給料がどんどん安くなったり、仕事を失ったりしてしまいます。これに対抗する手段は、自国の労働者の能力水準を高め、途上国の労働者には簡単に置き換えられないようにすることしかありません。

日本のワーキングプア問題はまさにここにあります。日本の労働者の賃金水準が上がらない理由、日本企業が派遣という形で安い使い捨ての労働者を集めている理由は、途上国の安い労働との競争です。日本の労働者は途上国の安い労働者との価格競争にさらされ、そして一生懸命働いているにもかかわらず、貧しくなってしまっているのです。

一方で日本の教育水準は下降の一途をたどっています。ゆとり教育が悪者にされていますが、日本の教育に対する投資が先進国で最低だということの方がよっぽど問題でしょう。教員採用試験の異常な倍率を見ても、金銭的な投資をすればすぐに優秀な人材が採用できることは明らかです。ワーキングプア問題の根本的な解決策として、そして日本が将来にわたっても豊かな生活ができるための土台として、いまこそ教育への投資を積極的に行うときでしょう。

まとめ

世界競争力ランキングで日本がまたランキングを下げたことが先日報じられました。アジアでも日本は一番ではなく、シンガポールに遅れをとっています。

日本の技術の革新性、科学者・技術者の能力の高さはまだ高く評価されています。その一方で政治が大きく足を引っ張っています。プロ野球の楽天ゴールデンイーグルズの野村監督が繰り返し述べている言葉に「組織はリーダーの力量以上には伸びない」がありますが、日本もそろそろ付けが回ってくる頃です。

「日本にもオバマ氏のような立派な政治家が現れないかなぁ〜」

そんな思いで今日もアメリカの大統領選挙を、アメリカ人以上にじっくりとフォローしてしまいました。

  • GH三谷

    まったく同感です。米国は有権者の教育水準が一定ではないので、演説表現が極めて平易で具体性に富んでいますよね。「○○をするために大統領になる」という目的意識が明白です。とはいえ、私自身は日本の政治家や首相をはじめとした閣僚が甚だしく劣っているとも思っていません。実際のところ、政権公約に対する具体的なアセスメントを日本のマスコミが怠っている点が一番の問題であると思っています。まあ、政治関連のマスコミの無能は明治の頃から変わってませんけどね・・・。私も早く国際政治に参与したいと思っています。

  • 三谷さん、コメントありがとうございます。
    日本のマスコミの無能さは、政治関連に限らないのですが、アメリカとの差はインターネットの報道を追いかけているとひしひしと感じます。特に感じたのは、アメリカの記者は自分たちこそが民主主義の監査人であると自覚していて、ブッシュ政権を生み、イラク戦争に駆り立てた責任は自分たちにもあると自省している点です。特に共和党の選挙戦略にのせられてしまわないように自分たちの報道とその影響を振り返り、問題があればすぐに修正するということもやっていました。
    ただ、日本の政治家や閣僚の能力が劣っていないかというと、そういうことはないとぼくは思います。確かにブッシュ政権はひどいものがありましたが、これは例外的です。それに対して日本の首相や閣僚のレベルの低さは恒常的になってしまっています。特に世襲議員が閣僚の半数以上を占めているという状態は、短期間での改善の道が閉ざされているという意味で深刻です。マスコミのレベルの低さがこれを許している側面はあるにせよ、世界競争力ランキングで日本の政治が極めて厳しく採点されているのは真実に即していると思います。

  • GH三谷

    日本は官僚や政策秘書のレベルがそれほど低くはないと言われていますので、結果として政治家・閣僚のレベルが諸外国と比して相対的に甚だしく劣るわけではないのではないか、とは思うのですが、ご指摘の通り決して高いともいえませんよね(苦笑)「世襲は史上最大の暴悪である」と確かJ.S.ミルあたりがどこかに書いていたような気がしますが、政治家のみならず、世論の代表者にして政治家の監視者であるマスコミが、民主主義の本質を自ら否定している点で私も同種の憂いを持っています。
    明治は人材が国家に集中していた時代だったため、日露戦争のような一大国家事業も巨大な成功を収めることができましたが、戦後から現在に至るまでは人材が民間企業やベンチャーに集中している時代ですから、相対的に国家や自治体の人材レベルが低くなってしまったということもいえるかもしれません。
    とはいえ、結果として政治家の世襲が許されているという事実は、たとえば人材の宝庫である民間企業が議会に人材を送り込んでいないということもいえますので、結局民間も文句だけで具体的な行動を起こしていないということもいえます。
    私は、極端な話、職業政治家はさほど必要ないと思っています。民間の有為の人材が任期に応じて代わる代わる政権や議席を担当する発想こそ、本来の民主主義であると思っています。まさに結果で首がすげかわる企業の取締役や株主との健全な関係こそ、国家機構においても必要であると思います。(本当は国家機構を模倣したのが企業組織だったんですが、今では本末が完全に転倒していますね)