ソーシャルネットにおける破壊的イノベーションをmixi vs Facebook vs Google+で考察する

Facebookがどうして2011年だけで一気にmixiを抜去ったか?
どうしてGoogle+は早くも失速気味か?

これをイノベーションの視点で議論してみたいと思います。


2011年11月度のニールセン・インターネット視聴率(日本)が発表され、いろいろな面白いことがそこから読み取れます。

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  1. Facebookがとても伸びていること。
  2. mixiがここの2011年はずっと緩やかな下降をしていること。
  3. Google+は最初こそ人気が出たけど、2ヶ月目からは下降していること。
  4. mixiは女性比率が高く、かつ若い人に人気。

イノベーションや市場のダイナミックスの視点で見ると面白いのは、どうしてFacebookがmixiに支配されているように見えた日本市場に入り込んで、あっという間にトップの座になったか(Twitterは毛色がかなり違うので、ここでは比較対象にはしません)。それに対してGoogleの大プッシュにも関わらず、Google+がなかなかFacebookに勝てないか、ということです。

既存の巨大なSNS (Mixi)が既に日本市場を支配している(ように見えた)にも関わらず、Facebookは日本市場を席巻することができました。一方でGoogle+は最初こそ話題を集めましたが、今の様子ですとこのまま終わってしまいそうです。この2つの明暗を分けたのはいったいどこなのでしょうか。

Clayton Christensen氏による破壊的イノベーションの理論に則して考えたいと思います。

一言で言うと、FacebookとMixiは一見同じ市場で競争しているように見えますが、実はMixiがカバーできていない市場(カバーしたくてもできない市場)にFacebookが入ってきたのです。Christensen氏の言葉で言えば、Facebookはnon-consumptionのユーザ層を取り込みました(new-market disruption)。

それに対してGoogle+はFacebookと全く同じ市場にほとんど同じような製品で乗り込み、Googleというバックの強さだけで勝てるんじゃないかということで正面攻撃を仕掛けました。Christensen氏によれば、このような戦略は大きな力の差がない限りは成功しません。

以下に解説します。

Christensen氏による、破壊的イノベーションが成功するための条件

Christensen氏は、市場をひっくり返して新規参入企業がトップに躍り出るような大きな変化を破壊的イノベーションと呼んでいます。その意味では日本市場でFacebookがMixiを抜去ったのはまさに破壊的イノベーションです。

それでこのような破壊的イノベーションがおこるシナリオをChristensen氏は大きく2つに分けています。

一つは”low-end disruption”。”low-end disruption”は製品の機能が高くなりすぎて、大部分の人はもうその高機能を必要としないときです。このとき、機能を削ぎ落して価格を押さえた新技術がマーケットをひっくり返せます。

もう一つは”new-market disruption”。これは既存製品ではカバーできない新規市場が存在し、新しい技術やビジネスモデルがこの市場を掘り起こすときです。

大切のなのは”low-end disruption”にしても”new-market disruption”にしても、既存の企業がうまく対応できないような何らかの原因が存在するということです。新規参入の脅威を軽視する(軽視したくなる)必然的な理由があるときに破壊的イノベーションがおこるのです。

詳しくはChristensen氏の著書を読むのが良いのですが、このサイトでも詳解されています。

Facebook対Mixiでは、”new-market disruption”が進行している

2011年の始め、まだFacebookが日本で浸透していない頃、実名主義のFacebookが果たして日本で成功するかどうかが議論されていました。(例えばこのNY Timesの記事)。

残念ながら、「実名主義を好むユーザ層」と「匿名主義を好むユーザ層」というマーケットセグメンテーション無しにほとんどの人が議論していました。マーケットセグメンテーションをしないと、”new-market”、つまりMixiでは欲求を満たされていないマーケットセグメントがあることを見逃してしまいます。破壊的イノベーションが起こるスキがたくさんあることが見えなかったのです。

Facebookがやったのは、いままでのMixiでは欲求が満たされていなかった「実名主義を好むユーザ層」を獲得するということです。MixiもMixiページなどで対抗しようとはしましたが、今まで匿名主義でやっていたものを実名主義に変えるということだけはうまくできませんでした。努力を怠ったというのではなく、今までのユーザのことを考えると実名主義を打ち出すことはできなかったのです。「匿名主義」のマーケットにフォーカスしてきたMixiが「実名主義」のFacebookと正面から戦うことは不可能に近かったのです。

これはChristensen氏の破壊的イノベーションの典型的なパターンです。

Twitterは”low-end disruption”的

サービスの内容だけ見るとMixiはFacebookによく似ています。MixiもFacebookを意識した新しいサービスを展開しているように見えます。しかし前述したようにMixiとFacebookでは対象にしているマーケットが全く異なるように思われます。したがってMixiの本当の脅威はFacebookではないと考えられます。むしろMixiが本当に恐れなければならないのはTwitterによる”low-end disruption”ではないでしょうか。

“Low-end disruption”というのは、既存のサービスがどんどん高度化し、ユーザの欲求を飛び越えてしまった状態で起こります。このときに、機能を大幅に絞り込んで価格を安くしたものあるいは使い勝手をよくしたものが登場すると”low-end disruption”が起こる可能性があります。

Mixiは日記や写真を公開でき、コミュニティーを作ったりもできます。足跡機能などいろいろな付加機能もありました。問題はMixiを利用している人が本当にこれらを必要としていたかどうかです。

後になってみてわかったことですが、ほとんどのユーザにとってはTwitterのような非常に単純なつぶやき機能さえあれば十分だったようです。Mixiの多くの機能はあまり重要ではなく、日々のちょっとしたことをつぶやければそれでよかったユーザがほとんどだったようです。

ただしいったんたくさんの機能をつけたMixiとしては、簡単にこれらの機能を削るわけにもいかないので、Twitterと直接対抗することはできません。Mixiにつぶやき機能はつけましたが、日記や写真も残っているので、Twitterのようなわかりやすさはますます失われてしまいます。

“low-end disruption”では、最初は”low-end”から入ってきた新規参入企業が徐々に力をつけて、”high-end”の機能を持つようになるのが典型的パターンです。Twitterは最近、外部サービスを使わなくても写真を公開できるようになりましたし、ハッシュタグを使ってコミュニティーの機能を取り込むこともできています。

しがたってTwitterも典型的な”low-end disruption”です。しかもMixiにとって困るのは、Twitterは匿名主義ですので、マーケットが完全にかぶってしまうということです。

Mixiの将来は?

Mixiがほとんど成長しなくなっているどころか、むしろ利用が減ってきている状況を見ると、「匿名主義を好む」マーケットセグメントは今後大きな成長が見込めない可能性があります。その一方でFacebookはMixiの訪問者数抜いてもなお急成長を続けているので、「実名主義を好む」市場はまだまだ成長の余地があるように読み取れます。

Mixiの訪問者数が減っているもう一つの理由はTwitterによる”low-end disruption”です。「匿名主義を好む」マーケットセグメントでは、MixiはTwitterに顧客を奪われていってしまう危険にさらされています。

MixiがFacebookからの”new-market disruption”とTwitterからの”low-end disruption”にさらされていると解釈するならば、Mixiの今後は非常につらそうです。ただしSNSの市場はまだまだ欲求が満たされていないセグメントがたくさんあります。そういうセグメントにうまく投資することが重要でしょう。

Google+はなぜ失速しているのか?

一言で言うとGoogle+はFacebookに正面から勝負を挑み、跳ね返されてしまったということです。Christensen氏も述べていますが、破壊的イノベーションの戦略をとらずに正面から勝負を挑んだ場合、ほとんどのケースで既存企業が勝ちます。

Google+は「実名主義」という点でFacebookと同じであり、多機能であるという点でも共通しています。限りなくFacebookのクローンです。確かにCirclesという少し目新しい機能がありましたが、しばらくしたらFacebookも同様の機能をつけました。

“new-market disruption”あるいは”low-end disruption”が成功するときは、既存の企業はうまく反応できません。反応できない理由は、それが既存のビジネスモデルと合わないからです。MixiがFacebookに対抗しきれないのは「実名主義」が導入できないからであり、Twitterに対抗できないのは機能の大幅に簡略化できないからです。破壊的イノベーションが成功するには既存企業が対抗できない何らかの理由が必要なのですが、真っ正面からぶつかっているGoogle+の場合はFacebookはいつでも対抗策が打ち出せます。

Google+はGoogle社の全面的なプッシュがあるので、簡単には撤退せず、様々な機能を追加していくでしょう。でもいくらやってもFacebookの驚異には成長しないでしょう。

Facebookに対抗できるSNSは出てくるか?

SNSは一つあればよいというのではなく、同一の人であっても複数のSNSを使い分けています。それが最もはっきりしている例がLinkedInであり、これは仕事に特化したSNSです。上述では「実名主義を好むユーザ層」と「匿名主義を好むユーザ層」と分けましたが、実際には同一人物であっても使い分けていることが多いでしょう。

こう考えるとSNSの市場は様々なニッチがあり、共存が可能です。”new-market disruption”の可能性はいくらでもあります。Facebookにしてもハーバード大学の在校生と卒業生のためのSNSとして始まった、きわめてニッチなSNSから始まったのです。

その一方でSNSは基本的にソフトウェアであり、ソフトウェアの性格上、新機能をつけるのが簡単です。あっという間に機能が増えすぎて、ユーザのニーズをを飛び越えてしまいます。新たな”low-end disruption”に気をつける必要があるでしょう。

新興のSNSが出てくるチャンスは常にありそうです。でもGoogle+のような正面突破はうまくいかないようです。