参入障壁の幻想と、顧客が嫌がることに走る企業

散文的に長々と書いてあって読みにくいのですが、Michael Porterが昔に説いたFive Forcesを現代のハイテク業界に当てはめ、顧客が嫌がることを積極的に行ってしまっている企業の愚について紹介している文章がありましたので紹介します。

この文章(The Five Forces Circles of Hell)について、僕なりにまとめまてみました。

 

  1. AppleがMacやiPhoneで非常に好調な理由は、他のパソコンメーカーや携帯電話メーカー・ネットワークプロバイダーが問題を抱えているからです。他の企業の問題とは、これらの企業は顧客を嫌っていて、顧客の要望を嫌っていて、顧客のニーズを嫌っていて、そしてノート型パソコンや携帯電話の定義をわざと限定しているからです。
  2. これはMichael Porterの”Five Forces”を学んだMBAたちが、閉鎖的なシステムやプラットフォームを躍起になって作っているからです。つまり参入障壁をうまく築いて、維持して、そして自社製品から顧客が逃げられないように囲い込み、利益を搾り取ろうとしているのです。
  3. Porterの”Five Forces”に習って、製品は良くないのに参入障壁を巧みに利用している例として
    1.  レンタルDVDのBlockbuster社。全国に数多くのレンタル店を展開。DVD供給会社と契約を結び、DVDの一般発売より先にレンタルはできるようにしていた。ブランド力、DVD配給会社に対する強い力、強力なレンタル店網のため、参入障壁を高く維持できていた。レンタル料金だとかサービスは至って普通です。
    2. SMS (携帯電話メールの世界スタンダード)はだいたい160文字で$0.10ですが、これは一般的な携帯電話データ通信量の100倍。でも世界でみんなが使っています。
    3. ADSL vs. SDSL。一般家庭用のADSLは上りデータ通信速度が下りよりも遅くなってますが、これは技術的にはもはや必要がないと議論しています。ビジネスユーザ用のSDSLから高い料金がとれるように、わざと一般家庭用のスペックを制限している議論しています(僕は詳しくわからないのでなんともいえませんが)。
  4. Appleはこの参入障壁と利益搾取の構造にとらわれず、顧客が本当に欲しいものを提供するようにつとめています。
    1. 音楽配信はもはやコモディティーと捉え、新しい配信モデルを作り出しました。iTunes Music Storeではアルバムを丸ごと買わなくても、シングルを個別にかえるようにしました。人工的な規制であるDRMの廃止にも積極的に動きました。
    2. 無線ネットワークが牛耳っている携帯電話業界に対して、iPhoneで風穴を開けました。今はAT&Tとの契約でいろいろな規制をしていますが、必死に規制しているようにも見えないと議論しています。おそらく携帯ネットワーク業者に対して今後より圧力をAppleは加えて、業界構造を変えようとするのではないかと議論しています。
さて、僕の意見です。
紹介した文章は本当に読みにくいのですが、言っていることはすごく正しいです。自分なりにまとめると
  1. 利益を確保するためには参入障壁を高くすることが重要と勘違いしている企業が多いです。そして一番の問題は、人工的な参入障壁を築くために、製品そのものの魅力を制限してしまっていることです。マーケティングの教科書にはこの考え方が実に良く紹介されていて、大きな弊害になっています。
  2. Appleがやっているのは、その逆です。まず、圧倒的に魅力的な製品を魅力的な価格で提供します。誰もその製品に追いつけないがために、それが結果として参入障壁となります。
  3. Appleは閉鎖的と思われる箇所はいくつかあります。例えばMacOSはAppleのパソコン以外では動きませんし、iTunes Music StoreのDRM付き音楽はiPodでしか再生できません。しかしこれはイノベーションのためには必須なインテグレーションと捉えた方が性格だと思います(クレイトン・クリステンセン, “イノベーションへの解 収益ある成長に向けて” 参照)。
  4. バイオの業界では「機器では損をしても試薬で儲けられる」という考え方があります。機器は赤字で売ってもいいから、その分を試薬で儲けようという発想です。しかしこの考え方は顧客にメリットはありません。
    1. たくさん実験をすればするほど、研究者は損をします。たくさん実験をする研究者にとっては、機器が高くても試薬が安い方がメリットがあります。
    2. 試薬のゾロ品メーカーを抑えるために、あの手この手の人工的なことをメーカーはやってしまいます。例えばゾロ品を使ったときのサポートや保証を制限したりします。
    3. 特許などでゾロ品メーカーを完全に抑えられている場合は、試薬の値段はずっと高いままにされてしまいます。一旦手に入れた顧客からなるべく利益を搾り取るためです。
  5. バイオの業界では流通の障壁も問題です。いくつかの理由で代理店をほぼ100%通すという商習慣になっていますが、これは大手メーカーに有利に働き、参入障壁になります。代理店に体する力が弱い小さいメーカーは、良い製品を作っていても販売が難しくなります。結果として、売っている商品は体したことが無くても、代理店とうまくつきあっている大手メーカーが有利になってしまいます。
  6. 各企業が本当にやらなければならないのは、マーケティングのテクニックで利益を守るのではなく、圧倒的に魅力的な製品やサービスを作り出すための努力を重ねることです。
  7. 研究者のサイドでは、業界構造をよく理解して、メリットの無い参入障壁の温床を無くしていく努力が必要です。