学会の要旨集システムをゼロから考え直そう

Title312月13日から16日まで横浜パシフィコで開催された分子生物学会に参加してきました。おおよそ十年ぶりに一般参加をし、講演とポスターをしてきました(ずっとメーカーとして展示には参加していましたが、一般参加はしていませんでした)。

久しぶりに参加して思ったのですが、要旨集とかそれをオンラインで提供するシステムが非常に残念な状態でした。

そこでこのブログでは何が残念だったかをリストアップし、その解決策をゼロベースで考えたいと思います。

残念だった点

  1. ポスター会場のWiFiが全く使い物になりませんでした。学会が用意しているmbsj2011のWiFiが全く機能せず、そのため非常に多くの人がモバイルWiFiを使っていて、それも大混線していました。結果として、人が多いときは何をやってもインターネットにつながらないという状況でした。今年から要旨集やスケジュールがCDで配布されなくなったこともあったので、インターネットにつながらない状況は非常に問題でした。
  2. 「プログラム検索・オンライン要旨閲覧システム」は大部分の「要旨」がなぜか掲載されておらず、抜けていました。僕自身が書いた要旨もなぜかこのシステムには登録されておらず、見ることができませんでした。要旨が掲載されていない「オンライン要旨閲覧システム」というのはあり得ない話です。
  3. それ以外にも要旨集システムは不満が多く、10年前から何も進歩していないという印象を強く持ちました。それぞれの不満点については後述します。

要するに、相当にボロボロな状態でした。

いかにその原因についての考察を交えながら、いろいろな提案をしていきたいと思います。なるべくゼロベースで考え、理想の要旨集はどのようにあるべきかを考えたいと思います。

WiFiの環境について

ポスター会場のWiFiはほとんどつながらない状態で、完全に落第点でした。でも考えてみると、相当にセットアップが難しいものであるのも事実です。

分子生物学会の参加者数は1万人弱です。そしてポスター発表が行われる時間には、大半の人がポスター会場に現れます。多くの人はオンラインの要旨集を見ながら、自分の興味のある発表を探すでしょう。

iPadを利用している人も多くいました。ノート型のパソコンは立った姿勢で使うのが難しいのですが、iPadはたったままでも不自由無く操作できるので、実際にポスター会場を歩きながらiPadで要旨集システムを閲覧していた人も多かったと予想されます。

このことから、会場内でWiFiを受信している端末はピーク時には数千はあったとも考えられます。これだけ大規模なWiFiネットワークを運用するのは大変なことです。

モバイルWiFiルータが普及し始めたことも、WiFiネットワークを難している原因です。会場でパソコンを立ち上げてネットワークを探すと、最大で30以上のWiFiルータが見つかりました。モバイルWiFiルータの電波はそんなに遠くには届かないことを考えると、会場全体で100以上のWiFiルータが使われていたのではないでしょうか。大混線がおこっていたと考えられます。

以上を考えると、ポスター会場でWiFiが使えなかったのは決して展示会企画会社の怠慢だとは思いません。怠慢ではなく、無能です。今後は、大規模WiFiネットワークを運用した実績があるちゃんとした会社にネットワーク管理を発注するべきでしょう。

来年以降、同じ過ちを繰り返さないためには何が必要でしょうか。iPadが普及するにしたがって、ポスター会場でWiFiを使う人は大幅に増えます。WiFi利用者が数倍に膨らむ可能性だってあります。それにも耐えられる対策が必要です。

まずはWiFi環境の整備に十分な神経を払う必要があるでしょう。実際に大規模なWiFiネットワークに実績のある業者にお願いすることも必要かもしれません。限られた予算の中で対応しなければならないので大変ですが、大きな覚悟を持って取り組む必要があります。

もしも予算がどうしても足りないのであれば、紙で印刷された要旨集を作らず、その分のお金をWiFi環境の構築に割り当てることだって必要かもしれません。

もう一つ考えられる対策としては、要旨集システムがオンラインだけでなく、オフラインでも動作するようにすることです。ただし単にPDFを配るというのでは時代に逆行してしまいます。そうではなくてHTML5のlocalStorageなどを活用しながら、検索などの機能を保ちつつ、iPadでもローカルで使えるウェブサイトを構築する必要があるでしょう。このようなシステムは重要なバックアップになります。

要旨集システムの問題

要旨集システムには様々な問題がありました。

当たり前のことができていないという例は、最初に紹介した要旨が欠けているという問題です。これは本当にあり得ない話です。

その他、ちょっとした工夫すら全くされていません。例えば一般講演とポスター発表の両方を行っている場合、一般講演のページからポスター発表のページにリンクが張られているべきです。しかしそういったことが全くされていません。

インターネットの特性が全く生かされていない上に、最低限クリアするべきクオリティーにも達していないのが今回の要旨集システムでした。分子生物学会の会員が支払ったお金がこのようなシステムの構築に使われたことには怒りを感じますし、いったいどうなっているんだという気になります。

ダイナコムという会社

この章はかなり推測に基づいています。ここに書かれた内容を裏付ける証拠は不十分です。それでもここに掲載したのは、問題の難しさを理解するために不可欠と考えたからです。十分に注意して、内容を解釈してください。

さてこのような最低の仕事をしてくれた会社というのはいったいどんな会社なのでしょうか。オンライン要旨検索閲覧システムのURLが http://share.dynacom.jp だったことからわかりますが、このシステムを作成したのは株式会社ダイナコムだろうと思われます。

この会社は主にバイオインフォマティックスのパッケージソフトウェアを開発しているようですが、興味深いことに acPartner という、学会事務局のサポートシステムも提供しているようです。想像するに、分子生物学会の事務局もこれを使っていて、そのつながりで要旨集システムも開発してもらったのではないかと思われます。

非常に悪い言い方ですが、要旨集システムはおまけだったのかもしれません。

なおダイナコムはBIOWEBというウェブサイトも運用しています。私の知る限り、このウェブサイトは株式会社エー・イー企画のつながりで運営されているものですし、営業窓口もやはりエー・イー企画のようです。分子生物学会の企画を行っているのもエー・イー企画ですので、いろいろなつながりがあるのだろうと想像されます。

考えられる対策

僕の考えでは、要旨集システムは非常に大切です。どの発表を聞きにいくべきか、その内容はどのようなものかを知る上で要旨集は不可欠です。また講演で興味を持った内容をポスターで確認したい場合、どこにいつ行けば良いのかを教えてくれるのも要旨集です。

学会を有効に活用する上で、要旨集の果たす役割はきわめて大きいのです。

その要旨集システムが「おまけ」程度のクオリティーしか持っていなかったら、それは大問題です。

したがってまずは要旨集システムをしっかりさせることに事務局は神経を使うべきです。今年の要旨集システムは落第でしたので、他業者を探すことを含めた対策をとるべきです。もちろんコストは高くなってしまうかもしれませんが、それだけのことが必要でしょう。

ただしダイナコムが要旨システムの開発を受注しているのは、いろいろな業界のつながりがあってのことと想像されます。他業者を含めた選定をするためには、このつながりを断つ必要があります。決して簡単なことではないでしょう。

要旨集システムのあるべき姿

まずはあるべき姿について、僕がブレーンストーミングしているものを列挙します。

  1. 学会直前まで要旨の変更は可能であるべき
  2. 字数制限は紙媒体にあわせたものなので、より柔軟に対応するべき
  3. 論文や研究室ウェブサイト、関連ウェブサイトへのリンクを可能にするべき
  4. 図表の掲載を可能にするべき
  5. ソーシャルウェブに対応するべき

以後、個別に話していきます。

発表半年前に要旨を提出することの理不尽さ

ほとんどの学生が経験していることだと思いますが、学会の要旨を書いたときにはまだ予備的なデータしかなくて、これから半年近くでデータを蓄積していく予定だというのはよくあることです。結局は予定通りのデータが出なくて、演題を変えたという経験をした人も多いと思います。

学会は1年に一回、それに対して要旨の締め切りは学会の数ヶ月前です。今年の例で言えば学会の初日は12月12日。それに対して要旨の締め切りは8月26日でした。3ヶ月半の間が空きました。

どうして3ヶ月半も間に挟まなくてはならないのか。それは要旨集を印刷するための時間が必要だからです。紙媒体の場合は内容をレイアウトしたり、校正したり、印刷したりする時間が必要です。

でもインターネットに公開するだけだったら、直前まで変更を受け付けることもできるはずです。

もし直前まで変更することが可能であるならば、要旨集の内容と講演の内容をよりマッチさせることが可能です。演題を変更せざるを得ないときも、参加者に事前に新しい用紙にすり替えることができます。でも今の仕組みですと、演題が変更されたことは実際に会場に入って話を聞き始めるまでわかりません。

要するに紙媒体が主だった時代には、3ヶ月半前に要旨を締め切るのは仕方が無かったことですが、インターネット主体になった以上、その必要が全くありません。それにも関わらず何も変わっていないというのは、大きな問題です。

なお興味深いことに“Late-breaking Abstracts” (10月28日締め切り)はPDF形式の要旨集には反映されるものの、オンライン要旨検索システムには反映されませんでした。本来ならば逆のはずです。いろいろな意味で要旨集のシステムに問題があると感じます。

字数制限やリンク、図表の問題

分子生物学会の要旨の字数制限は全角850文字、半角1,700文字でした。これが多いのか少ないのかはいろいろな意見があるかと思います。しかしオンライン要旨検索システムを使う以上、紙媒体と異なり字数制限の必然性はありません。そもそも字数制限が必要なのかどうかというレベルから考え直すことができます。

オンラインシステムが主になれば、演題を登録する研究者自身が字数を決めれば良いのです。学会主催者側から字数制限を設定する必要はなくなります。

字数制限以上に大きなインパクトがあるのは、リンクの利用です。紙媒体が主の場合は、リンクを張っても読者にはあまり利用してもらえません。しかしwebページに要旨を掲載するのであれば、リンクは非常に役立ちます。例えば a) 関連論文へのリンク b) 研究室ウェブサイトへのリンク c) 研究者プロフィールへのリンク など、リンクは様々な使い方があります。リンクを使えば、ポスターのPDFや発表スライドへのリンクだって用意することが可能です。場合によってはビデオだって埋め込むことが可能です。

また内容をわかりやすくする上で図表は大きな役割を果たします。インターネットだったら、これらの図表を要旨集に掲載することだって可能なはずです。

繰り返します。印刷媒体を優先してしまうと、せっかくのオンラインの要旨も単なるテキストデータにならざるを得ません。しかしオンライン用紙集を優先すれば、ハイパーリンクやマルチメディアを活用することが可能になります。ビデオだって可能です。既存の要旨集の範疇を大きく超え、論文よりもリッチなコンテンツを提供することだってできます。

ソーシャルウェブの活用

学会のそもそもの目的は何でしょうか。研究成果を発表することが目的でしょうか。いろいろな研究の成果を聞くことが目的でしょうか。

もちろんそれらも目的です。しかし学会だからこそできる重大なことがあります。

それは研究者同士のface-to-faceのコミュニケーションです。昔からの研究仲間と友情を深めたり、あるいは将来一緒に研究したいと思っている人と顔を合わせたりできるのは学会ならではのことです。

そう、学会はそもそもがソーシャルなイベントなのです。だからこそ学会でソーシャルウェブを活用することを真剣に考えるべきなのです。

ここでは学会とソーシャルウェブを融合する提案をいくつか挙げます。詳細については後日別に加工と思います。

  1. 要旨集にTwitterのアカウントを掲載する。
  2. 講演を聴いて面白かったと感じた人は、後になってもその人がどのような研究をするかに関心を示すだろう。そのためにTwitterのアカウントをフォローするだろう。
  3. そうやって同じような研究に興味を持っている人同士、Twitterでつながりを持つことができます。
  4. 古い友人と年に1回再会するのが学会の魅力ではありますが、同じ友人とTwitterやFacebookでもつながれば、面白さは倍増です。Twitterのアカウントが要旨集にあれば、それができます。
  5. 例えば論文がアクセプトされたとき、それをTwitterで流せば、学会で興味を持ってくれた人に伝わります。そうやって学会で芽生えた縁が、長く続く状況をTwitterは作ってくれます。

最後に

分子生物学会の要旨集は問題点が多くかなり改善の余地があります。ただそれを直すだけではもったいないです。研究者が学会を活用する上で要旨集が果たす役割は大きいので、工夫次第で非常に魅力的なものが作れます。

そういったものを具体的にどうやって作っていくか、もう少し詰めて、後日紹介したいと思います。