日本で元気な企業とClayton Christensenの”law of conservation of attractive profits”

The Economistのウェブサイトに、日本の元気な企業とゾンビ企業の話がありました(“New against old”)。

ゾンビ企業の滑稽さも面白いのですが(日本の企業の2/3は利益がなく、したがって法人税を払っていないこと等)、私が興味を持ったのは元気な企業のタイプです。

These high achievers represent the “new Japan”, says Ms Schaede. At the top of the chart is Keyence, which makes factory-automation equipment and had average profit margins of 47% between 2000 and 2009. Fanuc, a world leader in factory robots, enjoyed 33% returns. Last month it reported a quarterly operating profit of ¥49 billion ($594m) on sales of ¥118 billion. Gree, an internet company, boasted profit margins last year of 56%.

Most of Japan’s high-performance companies make “intermediate goods”, such as electrical components, specialist chemicals and precision-machinery parts, rather than final products. Drug firms also figure high on the list. But here the common features end. The group includes the large and the small, the export-oriented and the domestically focused. It spans high- and low-tech: Axell designs microchips for pachinko (roughly, pinball) machines; Nifco makes plastic fasteners to attach car parts. And the new Japan has some old members: Ono Pharmaceutical, a drugmaker with margins of 37% between 2000 and 2009, was founded in 1717.

※ 太字は私が付けました。

まず第一に注目したいのは、輸出型の産業か国内型の産業かは問題ではないということです。日本の経済をどうやったら元気にできるかという議論の中で、国内市場の需要を喚起するべきか、それとも海外市場への輸出を重視するべきかという話題が出てきます。そしてどの立場を取るかによって、相反する政策になってしまうことが珍しくありません。例えば内需を刺激するためには労働者の所得を増大させる政策が考えられますが、一方で海外競争力の立場で考えると、労働者の所得を減らしてでもコストを下げる政策が考えられます。

でも輸出型か国内型かはあまり企業業績に関係していないのであれば、この議論は不毛ということになります。この記事はそれを示唆していると思います。

Law of conservation of attractive profits

第二に注目したいのは、元気な企業の多くが最終製品ではなく中間製品を作っているということです。これはイノベーション論で有名なClayton Christensen氏がいう”law of conservation of attractive profits”そのものではないかと思います。

Christensen氏が言うには、最終製品がコモディティー化すると、最終製品を組み立てる企業の利益は減ります。しかしそれに対して中間製品や工業機械を作っている企業の利益は増えるというのです。そうやってattractive profitsは全体としては保存されると言っています。

パソコンを例に話します。

1980年代はNECのPC-9800シリーズのように、最終製品が儲かりました。しかし1990年代に入り、DOS/VパソコンやWindows 95が日本に入ってくると様相は一変します。NECは数あるパソコンメーカーの一つに成り下がってしまい、差別化が出来なくなってしまいました。価格競争に巻き込まれ、パソコンは赤字もしくはほとんど儲からない事業になってしまいました。富士通とかCompaqなどは今までほとんど入り込めなかった日本の市場でシェアを取れるようになり、売上げは増えましたが、これらの企業にとってもパソコンが儲からないというのは同じでした。

確かにNECを含めたパソコンメーカーは儲からなくなりました。しかしその一方でWindowsを作っているMicrosoftとCPUを作っているIntelは利益を大幅に伸ばします。Attractive profitsが保存されるというのは、このように最終製品のメーカーが儲からなくなった場合には、バリューチェーンの中のどこか別の箇所をになっている企業(この場合はパーツを作っているメーカー)が儲かるようになることです。

日本メーカーお得意の「(過剰)品質」は最終製品に適応できなくなった

話を日本の経済に戻します。

日本の社会全体の大きな特徴は、世界基準で言えば過剰とも言われる高品質です。電車の正確な運行にしても、デパートでの製品の包装その他の接客にしても、そして工業製品の精度にしても、海外では見られない高品質です。当然のこととしてそれにはコストに跳ね返っています。

日本の人件費が安く、円も安かった時代は過剰品質と安さを両立させることは可能でした。日本の製品は「安くてかつ過剰品質」でしたので、バカ売れしたのは当然のことです。それが現代では人件費が欧米先進国並みになり、円も高くなってきました。アジアの途上国が工業化したこともあり、「安い」のハードルも高くなりました。「安くてかつ過剰品質」はもう実現不可能になり、「高いけれども過剰品質」な製品をどうやって売っていくべきかという大きな課題にぶつかりました。

誤解している人が多いので、繰り返します。日本の経済が失速している原因は、何か政策的なミスによって衰えてしまったのではありません。先進国の仲間入りをし、人件費と通貨が高くなり、かつ高齢化も抱えたことにより、いままでの「安くてかつ過剰品質」路線が継続できなくなってしまったからなのです。路線変更を阻む政策を継承してしまったという側面はあるかもしれません。しかしどのような路線変更が必要だったのかという問題の本質的な部分を理解している人は、果たしてどれだけいるでしょうか。

今回紹介しているエコノミストの記事では、元気な企業は最終製品を作っているメーカーではなく、工業機械等の中間製品を作っている会社だとしています。これから類推すると、日本に必要な路線変更というのはソニーやシャープ等の家電メーカー、トヨタ等の自動車メーカー、そして日本航空などを見捨て、代わりに一般消費者が聞いたことないような中間製品メーカーを育てることではないかと思われます。日本の経済政策を論じている人の中で、このレベルで考えている人はどれだけいるでしょうか。

「過剰品質」が求められている市場はどこにあるか

「過剰品質」で勝負できるのは、産業構造上Attractive profitsが集積しているところだけです。そこ以外は「過剰品質」に伴う高コストを吸収できないからです。

世界中の企業は今中国市場に注目しています。中国は市場としてはもちろん魅力的ですが、同時に工業化も著しいため、中国市場を開拓する際には中国メーカーも競争相手です。中国人の平均所得はまだ低いので、当然ながら主戦場は低価格市場、つまり最終製品がコモディティー化している市場です。

Christensen氏の理論に従うと、最終製品がコモディティー化している場合はAttractive profitsはその部品を供給しているメーカー、あるいは工業機械を作っているメーカーになります。どんなコモディティー製品でも、attractive profitsがなくなってしまっているということはなく、どこか別のところにシフトしているだけです。

最終製品がコモディティー化している場合、価格競争が激しくなります。性能を保ちつつ低価格を実現するためには、例えば生産ラインを自動化することが必要です。あるいはパーツを自前でカスタマイズせずに、汎用性の高い出来合いのパーツをなるべく共通して使用することが必要になります。こうなると工業機械にしても中間製品のパーツにしても、品質の良いものが要求されます。性能の悪い工業機械だと安定稼働してくれないために、思うように製造ラインが動いてくれなかったり、あるいは歩留まりが悪くなったりするでしょう。また品質の悪いパーツだと、様々な製品に共通して使うことができません。このように最終製品のコモディティー化は、高い品質の中間製品を必要とすることが多いのです。

そう考えると日本が得意とする「高品質」を武器に中国市場等の途上国の市場を攻略できるのは、最終製品ではなく中間製品だと言うことできます。つまりエコノミスト誌が言っていること:中間製品メーカーが元気だというのは、イノベーション理論からも裏付けられている必然的なことなのです。