日本のイノベーションに必要なのは、大学が優秀な人材を民間に吐き出すこと

1月1日なのに、大晦日に届いた Elhanan Helpman著 “The Mystery of Economic Growth”を読んでいます。

まだ読んでいる途中なんですが、すごく強く思ったことがありますのでここに書き留めます。

日本のイノベーションに必要なのは、博士を民間に吐き出すことです。日本のアカデミアに国民が税金を払う必然性はここにしかないと思います。もしも日本の大学などがアカデミアの人材しか排出しないのであれば、それは世界全体のイノベーションには貢献するかもしれませんが、日本の産業を有利にするものではありません。

どういうことかと言いますと、アカデミアは基本的に成果を世界中にシェアしますので、日本の研究者の成果は世界の誰もが利用できます。日本国民の税金で行われた研究であっても、中国の企業が利用できるのです。特許による保護は多少あったとしても、通常、これは限定的でしかありません。つまりアカデミアでどんなに高いレベルの成果を出しても、それだけでは日本の産業は有利になりません。逆に日本の産業界は米国で行われた研究の成果を利用できます。

アカデミアの研究はこのように世界共通の知識プールの中に入っていきます。世界の誰もがこれにアクセスできます。世界共通の知識プールに大きな貢献をすることは、名声を高めるという意味では大きな効果がありますが、直接的に特定の国の産業を有利に働きません。

問題は、この世界共通の知識プールからどこが最も大きな利益を得られるかです。最も大きな利益が得られるのは、この知識プールをいち早く理解し、産業に応用できる企業であり国家です。そしてこの担い手は、企業に勤める研究員です。研究員のレベルが高く、アカデミアで行われている研究の成果をいち早く理解し、いち早く実用化できる企業こそが世界共通の知識プールの成果を有利に活用できるのです。

ですから日本国家としては「世界一の研究成果を日本が生み出すこと」を目標に投資するべきではありません。あくまでも日本の産業界の研究を高めるために国内のアカデミアが存在すると認識する必要があります。日本の産業界に優秀な人材を送り出すこと、そしてその人材がアカデミアの最先端に常に触れられるようにしてあげることが重要だと思います。世界一レベルの研究を行うことが間接的に日本の産業界の活性化につながることはもちろんあります。でもあくまでもこれは間接的であり、自動的に行われるとは考えない方がいいでしょう。

繰り返します。世界共通の知識プールに日本の大学などが貢献することは、日本の産業の競争力を高める結果に直接つながりません。直接つながるのは、知識プールをいち早く利用できる国内企業研究者の育成です。日本の大学研究のレベルが高ければ高いほど、間接的にこの目的が果たされることは確かなので、大学研究のレベルを高めておくことは重要ですが、それはあくまでも手段の一つに過ぎず、十分条件とはならないと認識するべきです。

日本を選択的に有利にするという意味においては、最先端の研究をすることが日本のイノベーションを生むのではありません。最先端の研究の成果(世界のどこのものであっても)を日本の産業に応用することが日本のイノベーションを生むのです。

今はとりあえずここまで。後でもう少し私の考えを整理します。

極論注意

日本の大学院重点化政策やポスドクを増やす政策などのおかげで、それまでだったら修士で民間に行っただろう優秀な人材がアカデミアにずっと残るという事態が起きています。これは日本のイノベーションに重大なマイナスになっているかも知れません。博士の就職難なんて言っていますけど、そんなレベルの話では無いかもしれません。僕の言わんとしているのはこんなところです。