生物は「効率」を重視したデザインではない

Nature Structural & Molecular Biology誌に“Transcription of functionally related constitutive genes is not coordinated”という研究が投稿されていました。

Constitutiveに発現している遺伝子のmRNA発現レベルは結構適当だし、とても効率を重視したような発現パターンではないよという話です。

The Scientistに解説記事“Surprisingly sloppy yeast genes
The findings suggest the current understanding of transcription networks should be reassessed”
が載っていますの引用して紹介します。

These essential genes — which work together to build important cell complexes like ribosomes and proteasomes — are turned on and off randomly, researchers report in today’s online edition of Nature Structural and Molecular Biology.

細胞のエネルギー効率の観点からすれば、余計なものを作らないことが大切です。無駄なものを作ることは資源の浪費であるのはもちろん、有害な物質の蓄積にもつながるからです。そのために遺伝子の発現レベルはコントロールされるだろうと考えるのが自然です。しかし実際にはコントロールされているどころか、ランダムに変化しているというのです。

“The genes are essentially clueless,” said Singer. “They don’t know what they’re making or the actual destiny of protein. They’re just there, cranking out proteins.”

非常に大切な遺伝子であるにも関わらず、発現レベルのコントロールは全くされていないよ、制御されていないよという話です。

“We have this bias about cells being efficient, but the more we learn about them, the more inefficient we find out they are,” said Singer. “But maybe that’s the way biological systems have to work. If they had too many controls, there’s a lot more opportunity for things to go wrong.”

研究すればするほど細胞は効率重視ではなく、無駄を多く残していることがわかってくるという話です。そして生物が行きていくためには、それは必然なのではないかということです。効率を重視しすぎていたら、うまくいかなくなってしまうことも多いのではないかという意見です。

感想

細胞は効率重視ではないというのは、僕もずっと前から感じていたことで、この論文が示していることは非常に自然に受け入れます。細胞生物学をある程度学んだ方も多くはそう思っているのではないかと思います。

一番分かりやすいのはゲノムです。全ゲノム配列のうち、遺伝子をコードしていると思われるのはわずか数パーセントであり、その他の箇所の大部分はいまだに何をしているかがはっきりしません。miRNAの発見等によって、古典的な遺伝子以外にも機能を持った配列があることはわかりましたが、それを加えたとしても、一見すると何も役に立っていないゲノム領域の方が圧倒的に多いです。

一見役に立っていないゲノム領域も何らかの機能があるはずだ。そう信じて様々に解析している研究者もいます。しかし今回の研究論文のように生物の「いい加減さ」が繰り返し証明されるにつれ、本当に機能があるのか、疑問に思えてきます。

僕はそういうとき、自分のオフィスの机、そしてパソコンのハードディスクの中身を思い出します。日常的に使っている領域や書類はやはり数パーセントです。その他のものの中にはもちろん大切で保管が必要なものもありますが、捨てても永遠に気付きそうにないもの、つまり無駄なものも多くあります。数年に一回オフィスを大掃除したり、ハードディスクの中身を見直したりしているにも関わらずです。

さらに自分の身の回りだけではなく、人間の営みそのものや社会、経済、会社組織についても考えてみます。どこを見ても無駄なものは見つかります。こうしたら効率化できるのではないかというものがあります。しかし現実にはそうなっていません。

効率化が進んでいるかどうかについて、細胞と自分のオフィス、パソコンのハードディスク、そして社会との間には本質的な差は無いと僕は常々考えています。

「そうか、細胞も僕と同じぐらいはずぼらなんだね。」

これが本質だと思います。