経済危機の解説 by 武藤敏郎 前日銀副総裁

世界的な経済危機をしっかりわかりやすく解説した日本語の記事がなかなかみつからないなと思っていましたが、今日(2008年11月8日)付けの朝日新聞の3面にすごくよいものがありました。

「繁栄続き、楽観しすぎた米国」
武藤 敏郎
大和総研理事長・前日本銀行副総裁
(財務省出身ということで、日銀総裁への昇格を民主党に反対された人です)

残念ながら記事はオンラインで無料で読むことができないのですが、以下に僕がよいと思ったポイントを紹介します。(それにしても朝日新聞はケチだ。こんなのこそ無料でウェブで読めるようにしてもらいたい)

「グリーンスパン前FRB議長も、サブプライムローンはアメリカンドリーム実現の手段だと評価していた。」
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「今からみれば、危機に陥った理由はすべて合理的で、納得できる。なのになぜ楽観論ばかりが支配していたのか。それは、危機の前夜に、きわめて長期の繁栄があったからだ。大恐慌の前の米国も、80年代後半の日本も、そうだった。」
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「バブルの最中に、それがバブルだと認識するのは、ものすごく難しい。投機の対象がチューリップの球根の時もあれば、土地の時もある(注:オランダで1637年に起こったチューリップ・バブル)。バブルは常に個性的なだけに、見極めにくい。」

武藤さんの見方が優れているのは、今回の経済危機の原因をウォール街の無責任さや無謀さなどの倫理的な問題に求めるのではない点です。そうではなく、長期の繁栄が起こると人間は実態を見失ってしまうという根本的な性に原因を求めています。

平家物語でいう

奢れる者も久しからず、唯、春の夜の夢のごとし。
(おごれるものもひさしからず、だだ、はるのよのゆめのごとし)

です。

「結局、政策もグローバルに同質化してくるだろう。」
「今回も、ある国が預金を全額保護すると、他国も追随せざるを得なくなった。銀行への公的資金注入も、横並びで実施しなければ、市場に狙われて株価が急落する。もはや一国だけ「我、関せず」ではいられない。」
「同様に、政府や公的部門の役割も今後、標準化が進むのではないか。欧州のように、公的部門が雇用や社会保障でそこそこ力を発揮するモデルに収斂していくような気がする。」
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「国民負担でも、これまでは米国型の低負担率でなんとかしようとしてきた。いまは将来世代からの借り入れで欧州並みの中福祉を得ているが、このままでは限界が来る。増税などによる負担増で公経済を拡充することを、国民がどう考えるか。」
「歴史を後から振り返ってみれば、今回の危機は、日本が欧州型に近づいていった転換点だった、ということになるかもしれない。」

小泉政権の行政改革は、英サッチャー首相や米レーガン大統領の政策をモデルに、政府機能の民営化(小さい政府)が中心でした。その小泉改革に多くの問題点があり、格差社会だとか医療問題を大きくしてきたことが非難されています。

今回の経済危機は、小泉改革をより根本的に否定するものと言えます。今回の経済危機を通して、政府よりも民間の方が良いとする基本的な発想の転換が迫られています。米国型の小さい政府よりも、欧州型の大きい政府の方が、経済の安定および国民生活の保障という意味で優れていることが言われるようになってきました。

米国自身、大規模な公的資金注入によって、実質的に大きな政府へ舵取りをしました。オバマ次期米大統領も選挙戦で欧州型社会保障への方向転換を訴え、中・低所得者層の広い支持を得ました(ただ米国では社会主義アレルギーがあるので、明確には言わないようにしていましたが)。

しかも、武藤さんが指摘していますように、政策がグローバルに同質化していくと予想されます。日本だけが小泉改革路線を継承することは実質的に不可能になります。

日本の政治家には、現実をしっかりと直視して、「埋蔵金」などという漫画の世界の馬鹿な言葉を使うのをやめて、しっかり税収を増やす方法を考えてもらいたいです。消費税という形ではなく、オバマ次期大統領が主張した高額所得者に限定した増税、大企業増税という形の方が一般国民の理解を得られるでしょう。

そして景気刺激策として公的事業を拡大するにしても、意味のない道路に税金を使うのではなく、国民の安心を支える福祉や医療、教育、そして次世代エネルギーの研究開発に使うようにしてもらいたいものです。これもオバマ次期大統領が言っていたことそのままですけど。