Appleは単に最高の製品を作りたいだけだ

Steve Jobs氏はインタビュー等でしばしば “We just want to make the best products that we know how to make.” 「我々は単に自分たちが作れる限りの最高の製品を作りたいだけなんだ」と言っています。

僕はこれがApple社の偽らざる真実だと思っています。Apple社がクローズドで排他的であるとか、利幅を優先しているとか、いろいろな議論がされていますが、僕はこれは「結果」でしかないと思っています。Apple社が常に最高の製品を作ろうとしている「結果」なんだと。

今朝のブログで「一部の新しいAndroid携帯ではGoogle検索ができない?Bingしか使えない」ことを紹介しました。米国で最もネットワークが充実している携帯電話キャリアのVerizonは、自社とMicrosoft社の間の提携を優先して、自社ネットワークにつながるAndroid携帯に制限を加えているのです。そしてAndroidはオープンソースなので、Google社は全く何もできないという話です。このようにAndroidはオープンですが、オープンであることによってGoogle社は「最高の製品を作る」ことにこだわるだけの権限を無くしてしまったのです。

それはAndroid携帯のOSがおおむね古いバージョンになってしまっていることからも言えます。Android携帯のユーザがどのバージョンのOSを使っているかを紹介した記事、“Android 2.2 Finally Starts To See Wide Adoption, Now On 28.7% Of Handsets”によると、Android携帯のメーカーはなかなかアップデートを提供せず、おかげで多くのユーザは古いOSを使い続けなければならないそうです。オープンであるだけに、Google社はメーカーに対して最新のOSを使うように強く働きかけることが出来ず、おかげで最新の機能を搭載したOSをユーザは利用できないでいます。

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それに対して、クローズドで統合されたバリューチェーンのiPhoneの場合は、iOS 4を公開してからひと月で利用者が半分を越えたそうです。Android 2.2が公開から3ヶ月でやっと30%弱に届くのと比べると、ずいぶんと違います。しかも1年前に公開されたAndroid 2シリーズ以前のOSがまだ30%弱残っています。iPhoneの場合、1年以上前のOSを使っているユーザはわずかに3%です。最新のOSを使用しているユーザの割合はiPhoneの方が圧倒的に高く、逆に古いOSを使用しているユーザは圧倒的に少ないのです。

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多くのユーザが古いOSに取り残されていると、ソフトを開発するデベロッパーは最新OSの新しい機能を積極に使ったアプリが開発しづらく、常に古いOSでも動作するように機能を制限しないといけません。ですから「最高のソフト」が作れなくなってしまうのです。Apple社がクローズドなバリューチェーンを維持している理由はここにもあります。

Apple社が日本国内でドコモと組まずにソフトバンクと組んだのも、同じように「最高の製品を作りたい」からでしょう。ソフトバンクならば、Apple社流の最高の製品のコンセプトを理解し、それを実現するために共に協力してくれるとApple社は判断したのでしょう。短期的にはドコモと組んだ方が大きなマーケットシェアが獲得できるのは間違いないのですが、シェアは眼中に無かったのでしょう。それよりはイノベーションを通して「最高の製品」を作りやすいパートナーを選択したのだと思います。

Macintoshが1990年代にWindowsによって窮地に追いやられたことを引き合いに出して、「クローズドよりはオープンの方が最後には勝つ」と考えている人をしばしば見かけますが、Steve Jobs氏はそう思っていないようです。そうではなく、Macintoshが負けたのはApple社が「最高の製品を作る」ことを忘れたからだと判断しているでしょう。実際、1984年に生まれたMac OSを抜本的に書き換えることが出来ずに十何年間も引きずったわけなので、最高の製品を作ることはできていませんでした。過去の栄光にすがって、古い技術につぎはぎをしているだけでした。

iPodはiTunesと強く結びついたクローズドなシステムでした。マイクロソフト社の音楽フォーマット(WMA)などは再生できず、著作権保護された楽曲はiTunes Storeから買ったものしか再生できませんでした。それでも2009年時点のマーケットシェアは73.8%と報告されています。1990年代のMacintoshと何が違ったかというと、常に「最高の製品」を作り続けていたことです。そして値段も非常にアグレッシブでした。クローズドかどうかで言えば、むしろMacintoshよりもクローズドでした。

まとめると、重要なのはオープンだとかクローズドだとかではなく、また利益を優先しているかシェアを優先しているかとかではありません。少なくともApple社が重要だと考えているのは「最高の製品を作り続けること」であって、たまたまクローズドにした方がやりやすい場合が多いというだけだと思います。

大幅にマーケットシェアを拡大したと報じられているAndroidにしても、勝負はこれからです。短期的にシェアを拡大する道を選んだAndroidは、「最高の製品を作る」点において不利な立場に追いやられるでしょう。Apple社ではこう考えているはずです。自分たちがイノベーションのペースを緩めなければ、Androidはついて来れないと思っているのでしょう。