チラシと郵便物によるマーケティング(時代遅れ?)

何か新しい情報を顧客に伝えたいとき、バイオ研究用製品のマーケティングでは、未だにチラシと郵便物が主流です。

雑誌広告やインターネット広告というやり方もありますし、例えばNatureのメールアドレスなどを利用した電子メールによる告知というやり方も行われていますが、主流という訳ではありません。これらはどちらかというと時と場合によって使われるもので、主流は未だにチラシと郵送物です。

メーカーとして体感する効果が違うのです。チラシとか郵便物の場合は、それを見たと言ってくれる顧客からの問い合わせが入ってきます。今まで認知度が低い製品であれば、売り上げも確実に伸びます。それに対して、雑誌広告を見たという顧客が問い合わせてきた記憶というのはほとんどありません。インターネット広告に至っては皆無です。ですからチラシと郵送物を使うのです。

チラシを配布するときのコストというのは、単独でそれだけを配布するのであれば40-50万円あたりでしょうか。だいたい2万部から3万部を刷りますが、カラーで印刷であれば30万円程度、そして郵送代も馬鹿にならないのでだいたい上述の金額になります。印刷物の場合は印刷会社と校正を重ねないといけないので、だいたい1月のリードタイムが必要になります。結構馬鹿にならない金額ですが、雑誌広告も1月で掲載料が20-30万円とられます。効果を考えるとチラシの方がずいぶんとよく見えます。

ただチラシを誰が配布するかという問題があります。ある程度確立したメーカーであれば、代理店との付き合いがある程度固まっているので、代理店にチラシを配ればだいたい配ってくれます(とメーカーは信じています)。代理店は日本中の研究室に網を張っているので、だいたいの研究者にチラシが配られてくれているかなとメーカーは期待しています。現実はもう少しややこしくて、代理店だって特定のメーカーに肩を入れることがありますので、場合によっては自分が作ったチラシは積極的に配ってくれないかもしれません。

郵便物はダイレクトに顧客に届きます。大きいメーカーはだいたい季刊誌というのがあって、これは代理店から配布するかダイレクトに郵送します。この季刊誌は通常フルカラーで、やはり2万から3万部を刷ります。印刷のお金とこれを郵送するお金をあわせると、一回つくって配布するのに200万円から300万円はかかっていると思います。でも結構学術的なことも書いてあって、顧客が喜ぶ内容なので、メーカー側は効果は大きいと信じています。ブランドイメージの維持にも重要と位置づけられています。ちなみに製品カタログもだいたい3万部を用意していることが多いと思いますが、フルカラーの会社が多いこと、さらに週百ページになることがあるので、これは1回出すのに2000-3000万円かかっています。

もう一つ参考として、分子生物学会などのランチョンセミナー。あれは会場のむちゃくちゃ高い弁当を買わされるということもあって、全体で200万円弱になると思います。自分で会場を借りてセミナーをするとずいぶんとこれよりは安くなります。最近はやってくれるメーカーが少なくなってきているようで、学会企画側が苦労しているとか。

さて本題に戻ります。

チラシと季刊誌にかなり多くのお金が使われていることを紹介しました。でも、そんなにお金をかけた時代遅れのことをしないと顧客である研究者に情報が伝わらないのでしょうか。しかも先ほどもお話ししたように、チラシというのだ代理店経由での配布であり、代理店の思惑が入ってしまいます。もっとストレートなやり方は無いのでしょうか。

他の業界であれば、新聞の折り込み広告、リクルートのようなところが作っている雑誌、価格.com。。。

正直、メーカーでマーケティングを担当していたものとして言えば、いい媒体が無いんですよね。誰か作ってほしいーーー、って思って、いま、自分でそういうのを作ろうとしています。

オンライン広告が好調

Google, YahooそしてMicrosoftのオンライン広告収入が好調で、アメリカの景気が悪いにも関わらず30%程度の成長を見せていることについて、Adage.comに記事が掲載されていました。詳しいことはこの記事に譲るとして、いくつか気になったポイントを紹介したいと思います。

英国のオンライン広告の好調ぶりを以前にもこのブログに紹介していますが、今回のAdage.comの記事は、アメリカにおいても同様にオンライン広告が好調であることを紹介しています。その理由について、1) インターネット広告の方が一般に安いこと、2) インターネット広告の方がターゲットされていること、3) インターネット広告の方がよりトラッキングしやすいことを挙げており、これも以前取り上げた記事と同じです。38%のマーケターはオンライン広告への投資を増やし、一方で36%のマーケターは伝統的なメディアの広告を減らす予定であることが今回の記事で紹介されています。

景気が悪くなっている結果、マーケターは無駄を省き、既に購入を検討している顧客(in-market customers)に重点を移していることも紹介されています。このことはセールスファネルの一番下に位置する顧客層に体する広告の機会を提供する、市場を狭くターゲットしたバーティカルなサイトに有利だとしています。Vanity Fairなどのニュースサイトよりも、例えば新車・中古車の価格比較サイトであるedmonds.comに広告を掲載する方が、既に購入を検討しているin-market顧客を捉えやすいと解説しています。

その一方でバーティカルなサイトであっても、例えば医学情報サイトのWebMDの広告収入の40%は医学と直接関係のない業界からの広告なので、この40%の分の広告収入は2008年には減少していくことが予想されるとも紹介しています。

さて、バイオの業界ではどうでしょうか。

少なくとも日本のバイオの業界が不況と呼べる状態にあることは間違いないと思います。したがって同じようにインターネット広告に力点が置かれていく土壌はあります。しかし以前にも話していますが、バイオ業界では製品情報のインターネットサイトが十分ではなく、広告を掲載するべきサイトがほとんどないという状態です。したがって、本来ならばインターネット広告に収入が偏っていくべきなのに、古いメディアに相変わらず広告費が使われています。またより短期的な効果を得るために、そもそも広告にお金を使うのではなく、営業にお金を使っていく方向に偏っていってしまっています。

これは別に日本だけでなく、アメリカでも同じだと思います。製品比較サイトが実質Biocompare.comだけになってしまっているのは、1.5兆円強の市場規模を考えれば寂しい限りです。

バイオの買物.comに書き込まれたポストに対する回答

先日、以下の内容のポストをバイオの買物.comのフォーラムに書き込まれました。

2ch経由で入ってきたユーザで、主に「ニュース」を見てからコメントしたようです。言葉の調子が非常に強く、冷静な議論を難しくしてしまう危惧がありましたので、ポイントだけ抜粋させていただきました。また、もとのポストは削除させてもらいました。

ただしおっしゃっている内容は本質的なものなので、こちらのブログの方で取り上げました。

メーカーサイトのリンクばっかりで気持ち、どこで調べたかわからない実勢とは異なった価格とか載ってる。どうでもよい試薬の。….
具体的な現場の話でもあれば少しはましになるかもしれないと思います。…..
製品の比較も、一番マーケットシェアをとってるものに対して、2番手、3番手を取り上げるくらいに絞らないと。

まず、最初に僕のスタンスを明確にしたいと思います。

  1. おっしゃっていることは基本的にはよくわかります。
  2. それに対する解決策を提供するのが「バイオの買物.com」の使命と位置づけており、少しずつではあるけれどもその解決した姿に近づければと思っています。

以下、説明していきます。

どこで調べたかわからない実勢とは異なった価格 について

価格はすべて各社のウェブサイトから取り出しています。古い情報になってしまわないように、2週間に1回程度の頻度で更新を行っています。
ただし、この価格が実勢と異なる価格であることは事実です。そしてまさにここが問題になる訳です。

実勢価格は通常、研究室もしくは施設ごと、そしてメーカーごと取引代理店ごとに設定されています。仕組みとしては、メーカーは代理店に対して決まった卸価格で製品を卸します。この価格(仕切り価格)は通常定価の何%というように決まっていて、メーカーごとに異なります。同じメーカーであれば、ほとんどの製品は一律の%になります。またこの仕切り価格は、同じメーカーでも代理店ごとに異なります。最後に代理店が末端顧客(研究者)に製品を販売するとき、メーカーからの仕切り価格に代理店取り分のマージンをのせた価格で販売します。

言葉だけで説明するとわかりにくいのですが、要するにメーカーが代理店に製品を卸す時点で既に卸価格は一つではないですし、その後も代理店は顧客個別に値引きをする訳です。ですから実勢価格とメーカーが設定した希望小売価格は大きく異なってきますし、高い値段で買わされる顧客と安い値段で買えてしまう顧客も出てきます。

このように実勢価格とメーカーの希望小売価格が異なることは別に珍しいことではなく、むしろ当たり前のことです。家電や食品など、大部分の業界で一般的です。逆に実勢価格がどこでも希望校入り価格であれば独占禁止法違反の疑いが出てしまいます。

ただし、バイオ業界では、メーカー希望小売価格から実勢価格を概算するのはそれほど難しくない側面もあります。なぜなら通常は代理店ごとに各メーカーの割引率が一定に設定されているからです。例えば代理店AからメーカーGの製品を購入するときの割引率はほぼ一律15%引き、代理店AからメーカーHの製品を購入するときは一律10%引き、そして同じメーカーGでも、代理店Bから買えば割引率が17%になる、という感じかと思います。ですから、この情報を研究室ごとに整理すれば、メーカーの希望小売価格から実勢価格を計算することはだいたいですができるはずです。何しろ製品数が多いので、代理店が個別の小売価格を設定することはまずやらないからです。

ただし僕が問題と感じるのは、小売価格の不透明性です。代理店は小売価格をオープンにする訳ではなく、すべて各研究室ごとの個別対応です。家電業界の小売りであればインターネット上に価格を載せたりしますが、バイオの業界ではそんなこともありません。すべて個別に、研究室ごとに代理店が値段を変えているのです。実勢価格と異なる希望小売価格であっても、それを見やすい形で整理していくことによって、実勢価格までも少しずつ透明になっていくことを期待しています。そうすれば値引き交渉がうまい研究室でも下手な研究室でも、そして大きい研究室でも小さい研究室でも、それなりに安い価格で製品が購入できるようになると思います。要するに家電業界で起こっているようなことがバイオの業界でも起こるようになればと思っている訳です。

製品の比較も、一番マーケットシェアをとってるものに対して、2番手、3番手を取り上げるくらいに絞らないと について

これについては、僕の意見は逆です。簡便性を重視するのであれば、マーケットシェアが高いものだけを取り上げることは良いかもしれません。でもそればかりだと、結局市場は硬直化してしまいます。

今年もそうですけれども、多くのメーカーはまたもや4月から値段を上げてきました。日本の研究者は予算の減少に悩んでいるのに、試薬の値段が上がってしまいます。メーカーの論理(そしてこれは外資系の論理ですが)からすれば、どうせ研究者はいろいろ調べないだろうから、値上げしても買ってくれるだろうというわけです。言い方は悪いですが、日本の研究者は外資系メーカーからその程度に思われてしまっています。

それを回避するためには、研究者は他社の製品との比較検討を行い、そして性能が変わらないと思われるものに関しては、値段が安い方を買うようにしないといけません。そしてその比較検討の手伝いをするためのウェブサイトがあった方がよいだろうというのが「バイオの買物.com」の考えです。

トップ3社に絞ったときと同じような簡便性でありながら、10社ぐらいを同時に比較できてしまう。そんなサイトになれればと思っています。これは難しい課題ですが、乗り越えるだけの価値はあると思っています。

Invitrogen.com培地のページ

Invitrogen.comの培地のページはつくりはまぁまぁわかりやすいのですが、間違いだらけ。それもケアレスミス。

大急ぎで作ったのかな...

ちょっとみっともない。

 

Low glucoseなのかHigh glucoseなのか、どっちだ??

もっとも日本語のサイトはもっとひどくて、成分がさっぱりわからない。価格の載っていないので、正直、何の役にも立たないページになってしまっています。

これだと、一番上のD-MEMと一番したのD-MEMの何が違うのかはさっぱり見当がつかない。一つ一つ培地組成:検索サイトで調べろってこと?

ライフサイエンス業界を元気にするヒント(前アップルCEO 原田泳幸インタビューから)

Macで知られるアップルコンピュータは1990年代の大スランプから見事に復活し、今ではアメリカでMacの売上が全パソコンの21%にまでシェアが回復したそうです。

その成功は決して平坦な道のりではなく、特に最初の頃は非常識とも自殺行為とも思えることをかなりやっていました。例えば販売店を大幅に減らして、大部分の販売店はMacを売ることができなくなりました。またApple Storeを作ったときも、当時はDELLの電話・インターネット販売が主流と考えられていたので、多くのアナリストに非難されました。

しかし、その一見非常識と思える行動が正しかったのです。間違っていたのはマーケティングの常識の方でした。前アップルのCEO 原田泳幸のインタービュー記事が会ったので、そこからいくつかピックアップします。

次の年にiMacを発表する。それまでに相当、販売店のインフラの改革をおこなったり、サプライチェーンのインフラを整えていたから、大成功した。

Steve JobsがAppleに復帰した直後にやったことの中に流通とサプライチェーンの大幅な見直しがありました。これは全世界規模で行われたことで、日本はその流れを踏襲したまでですが、日本の商慣行という大きな壁がありましたので、それを実施するのは大変なことだったと想像されます。でもそれを日本でもしっかり行い、原田氏がおっしゃる通り後の成功の基盤が築かれました。

教訓: 地味ですけど、サプライチェーンのインフラの整備は成功の土台となります

40社以上あった1次卸店を4社に減らして、3000店舗以上あった販売店を100店舗に減らしました。これはとんでもない改革ですよ。

 雑誌を増やしたこともそうですし、ソフトの数を増やしたこともそうですし、販売店インフラのリストラをやったのもそうですが、限りなく経営資源をお客さんのために使うということですね。販売店にお金をあげても、店が多過ぎれば、ディスカウント競争をやってそこで消えるわけです。従って、販売店のマージンを少なくして、その分、お客さんのためにフリーセールス、ポストセールスにお金を使う、そのようにシフトをしていった。

当時のパソコン業界はコンパック・ショックの影響がまだ強く残っており、量販店でどんどんディスカウントをさせていかないとパソコンは売れないと考えられていました。アップルに対しても自社でパソコンを製造することをやめて、クローンメーカーにライセンスさせるべきだという考えが主流で、そうやって安いパソコンを売らないと生き残れないと考えられました。その中で販売店のマージンを少なくして、ディスカウントを抑制して、高い価格でパソコンを販売させるという戦略は自殺行為にも見えました。

でもアップルがやったのは、ディスカウントするのではなく、良質のサービスを提供する環境を整備することでした。マックの販売権のある販売店にはマックの専門家集団を配置させ、きれいにマックを陳列することを義務づけ、マックを見にきたお客様が良いサービスを受けられるようにしたのです。その環境が用意できない販売店はマックが売れなくなったのです。そしてその環境を用意できた販売店はディスカウント競争に巻き込まれないですむために、投資した分の利益をきっちり回収できたのです。

この活動は後のApple Store(直営店)に引き継がれて、アップルのブランドイメージが世界一になることに最終的につながりました。

教訓: ディスカウントでお金を失うのではなく、お客様の役に立つことにお金を使いなさい

これをライフサイエンスに当てはめると、以下のようになるのではないかと思います(メーカーの立場で書いています);

  1. サプライチェーンを見直しましょう。土台が怪しいメーカーが多すぎます。代理店との関係も考え直すタイミングです。
  2. 製品が話題になる環境を作りましょう。パソコン雑誌みたいなものはライフサイエンスには無いけれども、お客さんとか第3者が製品を語り合える環境を作りましょう。Web 2.0をうまく使いこなしましょう。
  3. ディスカウントキャンペーンとか営業強化、代理店政策にばかりお金をかけるのではなく、ポストセールスサービスなどを充実させて末端顧客が喜ぶサービスを提供しなさい。そのためには少数の代理店に徹底して教育をしてあげるとか、自社の営業がちゃんと製品をサポートできるようにしてあげるとかです。
  4. お客様のトラブルシューティングができるぐらいの営業を増やしましょう。研究者は「営業」とは話したがらなくても「学術」とは話したがるという話はよく聞きます。でもそうじゃなくて、どの「営業」でも「学術」並にお客様をサポートできるようにしないと行けません。Apple Store(直営店)のGenius Barのように。
その中で「バイオの買物.com」は2.と将来的には4.あたりに貢献できればと思っています。

競合が出てくると、自分にもプラス (BlackBerryの売上倍増)

日本以外の先進国に行くとBlackBerryという携帯電話があります。会社のメールやスケジュール管理ソフトと直接連動する携帯電話で、一般にスマートフォンと呼ばれる種類の製品です。日本では最近ようやくDoCoMoが売り始めていますが、まだ全然浸透していません。

このBlackBerryを販売しているResearch In Motion社(R.I.M.)の第4四半期の売上と利益が前年比で倍増したというニュースです。

競合のiPhoneが話題をさらっていて、Windows Mobileを超えていきなりアメリカ スマートフォン市場の27%を奪ったにも関わらず、どうしてBlackBerryがこんなに売れているのか。Cannaccord Adamsのアナリスト、Peter MisekはiPhoneが投入されたことによってスマートフォン市場が脚光を浴びたと考えているようです。「『BlackBerryとかiPhoneがあるんだったら、Razr(大人気の超薄型携帯)を買うことは無いな』と思う人が増え始めています。R.I.M.にとってはiPhoneが一番大きく貢献したのではないだろうか」

まだ利用者が比較的少ない新しい製品のマーケットでは、競合企業が出てくることによってマーケット全体が活性化して、パイが拡大することはよくあります。初期段階のマーケットの顧客は非常に限られたニッチ顧客で、特別なニーズがあったり、もしくはマニアだったりすることがほとんどです。BlackBerryは大企業ユーザには広く浸透していましたが、小さい企業やプライベートユースではほとんど顧客を集められていなかったと思われます。

Appleという有名大企業がスマートフォン市場に参入することによって、小さい企業やプライベートユースでのスマートフォン利用が急拡大したと考えられます。そして何らかの理由でiPhoneを選択できなかった多くの顧客がBlackBerryに流れたと考えられます。

さて話をライフサイエンスに戻しますと、インターネットを利用したマーケティングや広告宣伝というのはまだ非常に寂しい状態です。ちまたではインターネット広告が雑誌を抜いたなどと話題になっているのですが、日本のライフサイエンスでは全然そんな状態にありません。Nature Japanのウェブサイトに行ってもメーカーの広告はほとんどありませんし、羊土社もそうです。いずれもバナー広告をかなり低料金で募集しているのですが、メーカー広告が載っていることなんて滅多に無いので、気づいていない人がほとんどだと思います。

ライフサイエンスでのインターネットマーケティングを普及させ、ビジネスにしようという会社は少しずつ現れています。バイオ・コンシェルジェバイオインパクトバイオ百科などです。でもまだまだ活気が出てきていません。メーカーのマーケティング担当をしていた時の僕の感覚からいうと、ライフサイエンスでのインターネットマーケティングはまだまだ実験的なものです。僕も広告掲載などをお願いしましたが、実際の効果を期待していたというよりは、こういう会社にはがんばってもらいたいという応援の気持ちが大部分です。

多くの会社が参入してきて活気が出てくればどんどんパイが広がっていくと思いますので、どんどん参入してほしいものです。僕の「バイオの買物.com」もその一つになっていくと思いますが。

 

技術サポートを”Ask A Scientist”と呼ぶ

Sigma-Aldrich (大きいメーカーなのに日本語ウェブサイトがあまり役に立たないのですが)の英語のウェブサイトを見ていたら、おもしろいものが見つかりました。

製品ページ
http://www.sigmaaldrich.com/catalog/search/ProductDetail/SIGMA/G8168
ここの右側に

普通なら”Technical Support”と書いてある所ですが、”Ask A Scientist”と書いておいてあるのが面白いところです。「ちゃんと技術がわかる人がお答えしますよ」ということを強調したいんですね。

ちなみに僕が知っている限りでは、アメリカやヨーロッパのテクニカルサポートの人はPhDをもっていないか、PhDを持っていてもその後すぐに研究をやめたような人でした。ですから、それほど技術に詳しくない人がどちらかという多かったですね。バイオベンチャーバブルがはじけた後ですが、ポスドクをやった人がメーカーに入ってきたことがありました。その人の知識は格段に上でしたね。

日本だとテクニカルサポートは大抵修士卒ですが、やはり修士をとってすぐにメーカーに入ってきている人が多いので、技術はあまり詳しくないことが多いですね。もちろん入社後に努力してとても詳しくなる立派な人はいますが、残念ながら多数派ではないようです。社内の教育体勢にもよりますけど。

ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す

表題の「ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す」という考え方は別に新しいものではなく、これに関する著書は割とよく聞きます(僕自身は読んだことはありませんが)。どっちかというとミスに対してというよりは、その後に発生するクレームに関することが多く書かれているという印象はありますが。

今回は僕が購読しているブログにたまたまNetflix Says They’re Sorryという記事(英文)があったので、取り上げたいと思います。この記事で紹介しているのは、ブログの著者がウェーターをやっていたとき、クレームを上手に処理するといつも顧客が感心してくれてチップが弾んでいたそうです。そこで今度はさらに一歩先にいって、顧客が気づかないようなミスであってもわざわざ教えていたというのです。

さてライフサイエンスの業界では、顧客である研究者は一般にメーカーの技術サポートをあまり信用していなくて、「どうせわかっていない人が電話に出ているんでしょう」と考えている人が多数派ではないかと思います。メーカーに電話をするというのは最後の手段みたいなところがあって、簡単に別のロットと交換してくれそうなときとか、あまり技術的ではない質問のときに限って電話するという感じです。少なくとも僕を含め、何かうまくいかないときにメーカーに電話する人は僕の周りには一人もいませんでした。

このようにメーカーと研究者が離れてしまっている状態というのは、もちろんあるべき姿ではありません。製品で問題があったときには研究者がすぐにメーカーに連絡してくれるような、研究者がメーカーを信頼してくれるような関係が本来は理想的です。

そのような関係はもちろん簡単には築けるものではありません。でもバイオの業界ではこのブログに書いてあるような「ミス」というのは結構頻繁に起こります。社内システムがしっかりしていないことが多いので、納期遅れや小さな不良品、リコールというのは日常茶飯事です。ミスにうまく対応するにはもちろん人的リソースをしっかり割くことが重要ですが、それを優先課題と位置づけてきっちりやれば、「ミス」から逆に顧客との信頼関係を築く機会はいくらでもありそうです。

僕がメーカーの日本支店を経営していたら、研究者の技術サポートが十分にできる部隊をお金をかけて作り上げ、「ミス」を利用して研究者と会話する機会を作り出して、研究者の間で話題になるぐらいの対応をしていくのがいいと思いますけどね。僕がメーカーに勤務していたときは、ボスはそのリソースの必要性を全然理解してくれなく、結局は何もできずじまいでしたが。

バイオの製品比較サイト Biocompare

アップデートその2
この記事を書いてから、私が作っているバイオの買物.comはかなりアップデートしています。是非ご覧下さい。

アップデート
Biocompareの抗体検索に、日本のメーカー情報を連動させたサイトを作りました。まとめて抗体検索にありますので、試してみてください。
製品の機能と価格の比較もできます。

英語版しか無いのですが、ライフサイエンス製品の比較サイトとしてBiocompareというものがあります。ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)統合TVサイトビデオによるBiocompareの解説もあります。またJun Seita氏のブログにも紹介されています。

どうも抗体検索機能を高く評価している人が多いようです。

Biocompareはこのようにライフサイエンスで一番有名な製品比較サイトであり、事実上唯一のものです。ライフサイエンスの製品は多くのメーカーから多くの製品が販売されているので、このようなウェブサイトがあるというのは非常にありがたいのは間違いの無いことです。しかしBiocompareは比較サイトとしては本当に十分なものでしょうか。例えば価格.comと比べるとどんなものなんでしょうか。

結論を先に言うと、Biocompareは価格.comなどに比べれば、製品比較サイトとしてはずいぶんとレベルが低いと言えると思います。以下、解説します。

カテゴリー分けに依存しすぎていて、カテゴリーが細かすぎる

例えばPCR用の酵素を探したいとします。そのときは Molecular Biology > PCR/Real-Time PCR > PCR Reagents までいきます。さらにここから > Thermostable Polymerases に入る分けですが、ここに入ったときのカテゴリー分けが実にびっくり。

ちょっと普通に考えると訳が分からない分かれ方になっています。例えばOther Thermostable Polymerasesというカテゴリーが出てきますが、TgoとかTflというのがどんなpolymeraseなのかはPCRマニアでもなかなか知らないはずです。そして実はTgoというのはRocheが発売している非常にFidelityが高いPCR酵素なのですが、これは左にあるHigh Fidelity Polymerasesのカテゴリーには入っていないのです。

提携していないメーカーの製品は載せていない

同じPCR用酵素の中で例えば High Fidelity Hot Start Polymerase を見ると、9つのメーカーの製品が紹介されています。そして下の方に

というのが表示されて、リストアップされていないけど該当する製品を取り扱っているメーカーが表示されています。

繰り返します。下の方に表示されているメーカーの製品はBiocompareの製品リストの中に含まれていません。しかもその中には、PCR酵素で有名なStratagene、それほど有名ではないけど比較的知られているClontechも含まれています。

もっと悲惨な例もあります。Plasmid Purification Kits (Midi)になんとQiagenがない。なんじゃそりゃ〜〜〜!!

つまりBiocompareは情報を提供してくれたメーカー(Biocompareにお金を払わないといけないのかどうかは不明)の製品は載せますが、そうでないメーカーは載せていないのです。Biocompareには網羅性が基本的にありません。Biocompareを見たって言っても、実は一番有名な製品を見逃してしまう可能性は高いのです。

絞り込み抽出条件はメーカー名のみ

驚くべきことに、Biocompareの絞り込み検索はメーカー名しかありません。

これに対して価格.comはこんなに絞り込み条件があります。

大部分の製品は価格が載っていない

どっちみち日本の価格ではなく、アメリカでの価格なので直接関係はないのですが、Biocompareの大部分の製品は価格が掲載されていません。

これはかなり う〜ん という感じです。

比較するスペックが少ない

一覧表で表示されるスペックが非常に少ないです。どうやって比較するんだという感じです。例えば以下の例では、PCR酵素の容量しか書いてません。容量だけ書いてあっても、価格が書いてない訳ですから、いったい何を比較すればいいだって感じです。

これに対して価格.comでは

もう比較のしやすさが月とスッポンです。

ユーザレビューが書き込めない

決定的に重要なことですが、Biocompareでは製品ごとに書き込みをすることができません。価格.comやAmazonでは、製品ごとにユーザが自由に製品をレビューしたりできます。しかしBiocompareにはその機能がありません。

研究者というのは基本的にはメーカーの言うことよりも他の研究者のいうことを圧倒的に信じます。サイエンスというのがpeer reviewの上に成り立っている以上、これは当たり前のことです。なのにユーザがレビューを書き込めないのはBiocompareにとっては大きな欠点と言えると思います。

結論

今回はBiocompareの一側面しか見ていませんが、”compare” = 「比較する」という所においてかなり弱いことがはっきりわかると思います。

どちらかというと「あっ、こんな製品もあったのか」という発見には便利なのですが、そこから掘り下げて具体的にどの製品を購入するかを判断するためには、結局ユーザは相当な不便を強いられることになります。

ライフサイエンスの世界ではBiocompareの競合となる製品比較サイトが無いので、まぁ現状ですませているのでしょうが、製品比較サイトとしては決してレベルの高い作りにはなっていないと言っていいと思います。

まぁ、ひとことで言うと

Bio “compare” ではなく Bio “見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない” という名前の方がbiocompareのサイトを正しく表現していると思います。

この記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

ライフサイエンスでの代理店(ディーラー)の役割 その1

ライフサイエンス分野の代理店について、2chではかなり頻繁に話題になっています(例えばディーラーについてスレッド)。存在意義がどうであるとか、今後も存続していくのだろうかとか。Googleで検索しても2ch以外になかなか生の声がブログなどには掲載されていない用ですが、2chのスレッドもかなり正確で、ライフサイエンス業界の置かれている現状を理解するには良いと思います。一応業界関係者だった人間の意見として。

先のディーラーについてのスレッドの主題だったみたいですが、「(ディーラーの)存在意義を真面目に考えましょう 」というのを僕なりの立場から考えたいと思います。

かなり長い話になりそうですので、結論から先に言います。

僕は何らかの形でメーカーと研究者の間に小売業者が入るべきだと思います。その小売業者の形は現在の代理店の形とは異なりますが、かといって直販を主体とした欧米のライフサイエンス業界の形もあまり良いと思いません。時代の流れていずれはオンラインでの販売が多くなると思いますが、そのときもメーカーサイトからの直販という形ではなく、アマゾンのような小売りが間に入る形が理想的だと思っています。

欧米での事情を含め、話すべきは背景はたくさんありますので何回かのブログに分けて書こうと思います。今回は日本の現状のアウトラインの整理だけをしておきます。

日本のライフサイエンスでの代理店とメーカーの現状

  1. 日本ではライフサイエンス分野の製品の販売の100%近くが代理店を介して行われます。代理店がとってきたのではなく、顧客が自分から勝手に注文した場合およびメーカーの営業が自分自身でとってきた商談であったとしても、後づけで代理店が間に入ってくることがほとんどです。
  2. 代理店を必ず間に入れる理由として、一番はっきりしているのは大学からの代金の回収が非常に大変なケースがあることが上げられます。メーカーは外資系も多いので、比較的厳しい支払い条件を購入者に要求しますが、大学研究者はこの条件に対応できないケースも多いので、代理店がその間を仲介しているという形です。
  3. 大部分の代理店は、製品の知識が非常に不足しています。というか全然ないというのがより現実に近いです。最終顧客である研究者に対して、しっかりと製品を薦めることはほとんどの代理店営業担当者にはできません。
  4. ただし、代理店の営業担当者に製品をすべて把握せよというのもかなり酷な話です。ライフサイエンスの研究試薬はおそらく100万製品ぐらい発売されていて、専門性も高いものが大部分です。最初から勉強をあきらめてしまう気持ちもわかります。各メーカーの営業担当者だって自社の製品だけだって勉強していないのが現状ですし。
  5. 日本のライフサイエンス分野の代理店はほとんど在庫を持ちません。研究者から注文が入った時点でメーカーに注文し、翌日届いた製品をすぐに研究者に持っていくだけです。非常によく売れる一部の製品については在庫をとっていますが、95%の製品については研究者から受注が来てからメーカーに発注しています。
  6. もっとも外資系メーカーの日本支店もかなり限られた在庫しか持ちません。全製品の半分以下しか在庫を持っていないでしょう。販売数量が少ない製品はほとんどは注文が来てから海外に発注しています。しかも海外からの発送は週に1回しかないので、国内に入って顧客の手元に到着するまでは通常2週間程度かかってしまいます。
  7. 販促キャンペーンはほぼメーカー主導です。メーカーが大々的にキャンペーン中の割引率などを末端顧客に案内します。代理店が戦略を練って、販促資料などを用意して、顧客を呼び込むという活動を行うことはほとんどありません。
  8. 欧米では大部分はメーカーが末端顧客にダイレクトに販売しています。一部代理店はありますが、日本のようにほとんどの注文が代理店を通るということはありません。その一方でアメリカなどは国土面積が非常に大きいので、メーカーの営業がくまなくエリアをカバーすることなどは不可能であり、ダイレクトメールなどが大切になります。またメーカーの営業は、一般に大きい顧客しか訪問しないようにしています。
  9. 欧米ではフリーザープログラムというのが流行しています。これはそれぞれのメーカーが研究所のスペースを借りて、そこに自社専用の冷蔵・冷凍庫を置き、その中に自社の試薬だけを置きます。そして研究者は、試薬が欲しいときにその都度、この冷蔵・冷凍庫から取り出すのです。富山の薬売りと同じ形態です。また別の言い方をすれば、これは各メーカーの自動販売機を置いているのと同じです。実際、このフリーザーというのはバーコード読み取りやオンライン接続、タッチパネルディスプレーなどかなりのハイテクが導入されており、大型機器並みの価格です。このフリーザープログラムの場合、どこにフリーザーを置かせてもらえるか、近くに他社のフリーザーがどれだけ置いてあるかなど、かなり小売店舗での販売スペース競争みたいなことがメーカー間で起こるのは容易に想像できます。
  10. 日本は、新製品の売れ行きが世界の中でかなり早い方です。他国と比較すると、新製品の売れ行きは2-3倍早いそうです。欧米では直販制度をとっているので、新製品の情報を末端顧客に浸透させるのに非常に時間がかかってしまうのかもしれません。それに対して日本の代理店制度を利用すると、新製品案内が速やかに全国の研究者に届きます。これだけが理由ではないかもしれませんが、情報伝達に置いては日本の代理店網の有用性は高いと言えるでしょう。
今回はとりあえず以上にします。次回以降、より深く話していきたいと思います。