分子生物学会の新しい抄録集システムの開発をしました

昨年の12月の分子生物学会に参加して、ITインフラをさんざんディスり、提案をしました。

  1. 学会にソーシャルをどうやったら持ち込めるか
  2. 学会の要旨集システムをゼロから考え直そう
  3. ソーシャルな要旨集システム:素案

そして今週あのときのブログ記事の思いを現実にするために半年間がんばった成果が日の目を見ました。

日本分子生物学会 第35回 年会 オンラインプログラムサイト(学会後しばらくしたら消えます)

まだβ版で、バグをとったり、修正したり、機能追加したりなどで仕事がたくさん残っているので詳しくは話しませんが、簡単に機能と技術について…

  1. 学会プログラムとしては世界で初めて、Facebook的な「いいね!」があります
  2. 学会プログラムとしては世界で初めて、著者名ごとにデータを整理しています
  3. PC版、スマホ版、ガラケー版の3つのサイトを完全に同調して作っています
  4. 学会プログラムとしては世界で初めて、コメントが書き込めます。著者自身も書き込めるので、例えば直前の変更とか、研究室ウェブページへのリンクはここにはれます
  5. まだ完全にスイッチオンしていませんが、ウェブサイトでありながら、オフラインでの閲覧を実現します
  6. 「夜ゼミ」という電子掲示板で、飲み会の参加募集ができます

結構、12月時点にブログで考えていたことが実現できました。

技術的には以下のことをやっています。

  1. 名寄せ支援システム:学会のデータは著者名ごとにIDなんて振っていないので、名寄せをしなければなりません。原則としてはマニュアルな作業ですが、それを支援するシステムを用意しています。
  2. モバイルおよびデスクトップを兼ねたJavascript framework, Kamishibai.js:スマートフォン向けのJavascript frameworkはいくつかありますが、オフラインでの閲覧をしっかりサポートしたものは皆無です。特に日本分子生物学会のように数千の演題があって、データが膨大なウェブサイトをサポートしたものはありません。1) 万以上のページがあっても平気、2) 部分的にオフラインでの閲覧が可能、3) Javascriptはあまり書かなくていい、4) メチャクチャ小さいのでレスポンスがいい、というJavascript frameworkです。ゼロから作りました。ページをスライドさせるイメージでKamishibai.jsと名付けています。

この2つの技術はいずれもバイオの買物.comを運営する上で重要でしたので、そこがうまく応用できました。

一番低く見積もっても世界一のことができました。

後は気を抜かず、完成させて、学会そのものがちゃんと成功するように注力します(あまりブログ書かないで)。

RocheがIlluminaに買収を仕掛けてることについて思うこと

RocheがIlluminaに対して買収を仕掛けていて、敵対的買収も辞さない姿勢を見せています。これはWebを賑わせている話題ですので、すでにご存じの方も多いと思います。

Rocheの狙いが何なのか、Illuminaが買収に抵抗したとしてもRocheはどこまでやり通す気でいるのか、僕なりに思うことを紹介したいと思います。なおこの件については、僕は詳しくフォローしているわけでもないし、またインサイダー情報も一切ありません。一般的に知られていることを組み合わせて議論したいと思います。

なお、このBusinessWeekの記事がいろいろの人の意見があって面白いです。

当のRocheの社長はなんと言っているか

以下のビデオでRocheの社長であるSeverin Schwanが説明をしています

私なりに話の要点をまとめてると;

  1. Illuminaは主に米国を中心に展開しています。それに対してRocheであれば、より小さな国にも入り込める販売網を持っています。
  2. DNAシーケンスは、将来の診断において中心的な技術になると考えています。
  3. 以前のDNAシーケンスは非常に高価でしたが、これだけ技術が発展してくると、今がまさにルーチンの臨床診断への応用を考えるべきタイミングと言えます。
  4. ルーチンの臨床診断への応用は非常に困難です。研究の世界から、レギュレーションが多い臨床の世界に持ってくるのは多くのノウハウが必要です。Rocheはそれを持っています。
  5. 以上のことを考えると、RocheがIlluminaを買収すると言うことは双方にとってメリットのある話です。

どんな買収の時も、経営者は「シナジー」という言葉を口にします。多くの場合「シナジー」が本当に生まれることはまれで、 1 + 1 < 2 という結果になることがほとんどです。

しかし今回は非常に納得性の高い「シナジー」です。一つ一つのポイントが具体的で、的確です。本当に 1 + 1 > 2 となる予感があります。

$5.7 billionという金額はRocheにとってどんな金額か

RocheはGenentechを買収したときは $46.8 billionで買っています。Ventanaを買収したときは $3.4 billion

次世代シーケンサーで最大のシェアを持つIlluminaを$5.7 billionで買収できるのであれば、Rocheにとってはそんなに高い買い物ではありません。Rocheが2007年に454 Biosciencesを買収したときは $152 millionだったということなので、これに比べれば桁違いに大きな金額になりますが、次世代シーケンサーの発展と臨床への応用の可能性を考えれば、それは妥当な線ではないかと思います。

Illuminaの研究者が逃げたらどうするのか

買収があるときに良くある話です。454 Life Sciencesを創設したRothbergが後にIon Torrentを創設して、良く似た原理で454シーケンサーの発展形を作ったという話などがそうです。

でもそろそろ関係なくなってきました。$1,000ゲノムの実現が目の前に迫り、そしてゴールテープを切ってももうしばらく価格が下がる状態が容易に想像できます。現在の技術だけでも例えば$500とか$200ぐらいに落ち着いてくるでしょう。そうなるとゲノムをシーケンスすること自身は診断コストを決定する要因ではなくなります(化学者にとっては律速段階と言った方がわかりやすいかも)。

まだまだ技術の発展の可能性はありますが、臨床応用をすることに限って言えばコストは十分に下がってきています。$500からさらに一桁二桁価格が安くなったとしても、最終的な診断コストが大きく変わることはありません。そういう意味で、仮にIlluminaの買収によって頭脳流出があっても、Rocheにとってはあまり悩む話ではなさそうです。

イノベーションの次の段階

Clayton Christensen氏のコンセプトの中に “Law of conservation of attractive profits”というものがあります。バリューチェーンの中の要素(この場合はDNAシーケンサー)の技術が進化し、結果としてもう十分すぎるぐらいの性能が出るようになったとき、そこには”attractive profits”は蓄積されなくなります(つまりIlluminaの技術の価値が下がります)。その代わりその要素の前後、バリューチェーンの他の要素に”attractive profits”が蓄積されるようになります。そしてそこにイノベーションが生まれていきます。

ゲノムシーケンスの場合は、それはサンプルの調整であったり、データの解析であったりするはずです。また臨床応用にはレギュレーションという大きなハードルがありますので、これを突破できる会社(例えばRoche)に”attractive profits”が蓄積されていくという状態になります。

研究者はデータの解析に目が行ってしまうと思います。しかし実際にはレギュレーションをクリアしていくことの方が遙かに人間のリソースが必要で、ノウハウやコネクションが重要で、参入障壁も高くなっています。”attractive profits”はまさにここに蓄積されていくでしょう。

またレギュレーションのことを考えると、機器をレギュレーションにマッチするように作っていくことも大切です。仮にDNAシーケンスの研究用のハードウェアの価格下落が激しかったとしても、診断向けのものはしばらく後まで高い利益を確保できる可能性が残ります。

つまりDNAシーケンスの次のイノベーション・フロンティアは、今となってはレギュレーションをどうやってクリアしていくかになってきました。個人情報管理や診断で得られた様々な知見をどのように患者に伝えていくか、まだまだクリアされていない課題は山ほどあります。ボールはシーケンス技術の世界から、レギュレーションの世界に投げ込まれました。

iBooks Authorをバイオのメーカーはどう活用できるか

「iBooks Authorをバイオのメーカーはどう活用できるか」というブログをバイオの買物.com公式ブログにアップいたしました。

iBooks Authorはデジタル教科書の制作で注目されていますが、いろいろなマルチメディアコンテンツの制作もできます。とても使いやすく、できあがったものは非常に魅力的です。

メーカーならば製品プロトコルだと季刊誌などに活用できると思います。是非ブログを読んでみてください。

学会にソーシャルをどうやったら持ち込めるか

久しぶりに分子生物学会に一般会員として参加することになり、思い出したのが昔の重たい要旨集。昔はあれをそのまま担いだり、あるいは人によっては一部を切り取ったりして歩き回っていました。聞きたいフォーラムや見たいポスターのところはポストイットを貼って、それでもすぐには確認したいものが見つからずに苦労していました。

「今はどうなっているのだろうか?」「オンラインになって便利になったのだろうか?」

そういうことを思いながらいろいろ調べみました。その中で面白いと思ったのは「マイスケジュール」とか「Myスケジュール」とか呼ばれるものがここ数年で普及し始めていることです。医者向けの学会を中心に、基礎系の学会でも昨年頃から取り入れられているようです。

  1. SESAのシステムのデモ
  2. 2010年日本外科学会のもの(誰でも登録可能)
  3. 学会支援システム東海大学医学部小見山准教授、コンベンション静岡、株式会社トライテックが共同開発したiPhone, iPad用システムです
  4. 日本霊長類学会のiPhone, iPad版上の学会支援システムを利用

また2010年の分子生物学会・生物化学学会の合同大会でも「マイスケジュール」システムが導入され(現在はオンラインになっていません)、学会アンケートの自由回答欄(「スケジュール」や「schedule」の語句を探してください)でも概ね好評だったようです。まだ改善するべき点はたくさんあるようですが。

僕はまだ「マイスケジュール」を本格的に使ったことが無く、今回の分子生物学会が初めてになります。とても便利そうなので楽しみです。

それはそれとして、今回のブログではより一歩先を考えたいと思います。

インターネットのソーシャルメディアを活用した学会の将来像です。 Continue reading 学会にソーシャルをどうやったら持ち込めるか

海外のPhDは評価が高いのか?

NewImage.jpg日本ではPhDの一般的な評価が低く、そのために就職にも有利とならず、博士の就職難問題などの原因になっているという話があります。

実際、大企業でも研究職の大半が修士卒以下だというのは先進国では珍しいのに対して、欧米ではPhDを持っていないとアカデミックでも企業でも一人前の研究職とは認められないようです。

しかし先日読んだThe Economistの記事、“The disposable academic: Why doing a PhD is often a waste of time”では、欧米でもPhDの評価が低いと論じています。平均年収の話もあり、説得力があります(例えば修士卒と博士卒では給料の差がほとんどなく、学部によっては逆転するそうです)。以下に抜粋します。

海外でもPhDは奴隷のように働かされている

ドクターコースを終え、企業に就職したドイツ人の同僚もこんなことを言っていました。安い労働力としてこき使われ、長時間労働と低賃金、そして将来への不安は同じようです。

One thing many PhD students have in common is dissatisfaction. Some describe their work as “slave labour”. Seven-day weeks, ten-hour days, low pay and uncertain prospects are widespread. You know you are a graduate student, goes one quip, when your office is better decorated than your home and you have a favourite flavour of instant noodle.

But universities have discovered that PhD students are cheap, highly motivated and disposable labour. With more PhD students they can do more research, and in some countries more teaching, with less money.

PhDコースで教える内容は就職に結びつかない

PhDコースはアカデミア職に就く人のためにデザインされていますが、アカデミア職の空きが足りないようです。また企業が求めるスキルは身に付いていないようです。

PhDが不足しているのは新興国だけのようです。

There is an oversupply of PhDs. Although a doctorate is designed as training for a job in academia, the number of PhD positions is unrelated to the number of job openings. Meanwhile, business leaders complain about shortages of high-level skills, suggesting PhDs are not teaching the right things.

America produced more than 100,000 doctoral degrees between 2005 and 2009. In the same period there were just 16,000 new professorships.

in Canada, where the output of PhD graduates has grown relatively modestly, universities conferred 4,800 doctorate degrees in 2007 but hired just 2,616 new full-time professors.

Only a few fast-developing countries, such as Brazil and China, now seem short of PhDs.

アメリカのPhDコースに新興国の学生が集まるのは低賃金だから

確かにこのような見方もありますね。

In some countries, such as Britain and America, poor pay and job prospects are reflected in the number of foreign-born PhD students. Dr Freeman estimates that in 1966 only 23% of science and engineering PhDs in America were awarded to students born outside the country. By 2006 that proportion had increased to 48%. Foreign students tend to tolerate poorer working conditions, and the supply of cheap, brilliant, foreign labour also keeps wages down.

PhDを取っても給料は高くならない

英国でのデータ;

  • 大卒 vs. 高卒 : 14%高い給料
  • 大卒 vs. 修士卒 : 23%高い給料
  • 大卒 vs. 博士卒 : 26%高い給料

つまり修士卒に比べて3%しか高い給料は得られないという話です。

しかも数学と計算機、社会科学と言語学ではこの差は消滅します。さらに工学や技術、建築と教育では逆転し、修士卒の方が高い給料が得られています。

In some subjects the premium for a PhD vanishes entirely. PhDs in maths and computing, social sciences and languages earn no more than those with master’s degrees. The premium for a PhD is actually smaller than for a master’s degree in engineering and technology, architecture and education. Only in medicine, other sciences, and business and financial studies is it high enough to be worthwhile.

ソーシャルメディア(TwitterやFacebookなど)を使う上での注意点

NewImage.jpgここ数日、ある代理店とあるメーカーのTwitter公式アカウントで不正確なツイートがありました。私がその点を指摘したところ、ツイートはいずれも削除されましたので、詳細は省きます。ただこれらの「問題ツイート」がどうしてマズイのか、そしてこれをやらないようにするためには何を注意すれば良いのか、自分なりの考えをまとめたいと思います。

続きはバイオの買物.com公式ブログにアップしました。

ライフサイエンス研究用試薬・機器メーカーのFacebook利用状況

表記の記事をCastle104公式ブログにアップしました。

ライフサイエンス研究用試薬・機器メーカーがどのようにFacebookを活用し、顧客とコミュニケーションを計ろうとしているかを調査しています。

結論としてはClontechの一人勝ちです。Facebookの活用を考えているメーカーはぜひClontechのやり方を勉強してください。

ちょっと力が入った記事ですので、ぜひご覧下さい。

ASPサイト内検索の限界:GE Healthcareのサイト内検索が改善された件

表記の記事をCastle104公式ブログにアップしました。

ASPサービスをサイト内検索に利用した場合の利点や問題点について言及し、バイオの買物.comの取り組みについても紹介しています。

ちょっと力が入った記事ですので、ぜひご覧下さい。

Applied BiosystemsのTaqMan® Assays QPCR Guarantee Programって素晴らしいアイデアだと思う件

Applied Biosystems (Life Technologies)がTaqMan® Assays QPCR Guaranteeというのを始めるそうです。

内容はこうです。

  1. カスタムTaqMan Assayを除くすべてのpre-designed TaqMan Assayが対象です。
  2. 実際に購入してみて、思い通りの性能が発揮できなければ(結果が出なければ)、必要に応じて無償で交換してくれます。
  3. ただし結果が出ない理由がAssay側にあるのか、それともサンプルにあるのかを確認するために、事前にテクニカルサポートに問い合わせる必要があります。

NewImage.jpg細かいことは十分に調べていませんが、このアイデアはとても素晴らしいのではないかと思います。

顧客である研究者にとってみて得なのは一目瞭然です。再実験の手間は仕方ないとしても、追加の費用が発生しないというのは大きな安心です。メーカーがまじめに向き合ってくれるという期待も生まれます。

そしてこの仕組み、実はメーカー側にこそメリットがあるのではないかと思います。Pre-designed TaqMan Assayの仕組みがそうさせています。以下に解説します。

  1. Applied BiosystemsのPre-designed TaqMan Assayは非常に膨大な数になります。ブローシャーの12ページにもありますが、製品はRefSeq (human, mouse, rat)を網羅し、その他のターゲットも多数あります。19の生物種を対象になんと120万 Assayがデザインされています。
  2. 120万 Assayというのはべらぼうに大きい数字です。仮に1アッセイが¥10,000で合成できたとしても(ABIの定価は¥39,000)120億円かかります。これはInvitrogenの日本国内年間売上げに相当する金額です。
  3. このため、Assayのほとんどはコンピュータの中で設計されただけの段階であり、実際に合成されている訳でもなければ、実験的に性能が確認されている訳でもありません。
  4. それでも安心して研究者に利用してもらうにはどうすれば良いかを考えなければなりません。販売前の品質管理が現実的でないのであれば、顧客に品質管理の協力をしてもらうのは一つの選択肢です。

通常であれば、仮にうまくいかないアッセイに当たったとしても、多くの研究者が泣き寝入りすることが多いでしょう。「研究用試薬なんて所詮そんなもの」という割り切りで、メーカーに連絡もしないで損をかぶるでしょう。

一部の研究者はテクニカルサポートに連絡をしてくるでしょう。そしてテクニカルサポート側とすれば、いろいろな面倒が起こると大変なので、その場その場で代替品を無償で提供したりするでしょう。通常であればそのコストは原価ではなく、販売費用に計上されてしまいます。ですからこのようなケースが頻発するようであれば予算の振り分けに影響が出てしまいます。

それに対して今回のように品質保証プログラムを実施すれば、良い結果が得られなかった研究者は非常に高い確率でフィードバックをくれます。そして社内にこれを吸い上げる正式なルートがあるということなので、フィードバックはきっちり製品開発部門に伝わり、次製品の改良に活かせます。その上、テクニカルサポートも非常に明確で分かりやすい対応が可能になり、顧客への接し方も良くなるはずです。経理上の問題にしても、このプログラム内であればコストはすべて原価に反映されますので、販売部門の予算への影響がありません。

もう一つ、このプログラムのメリットを大きくしているのは、代替品が簡単に作れるということです。所詮は計算機で設計して化学合成するだけの話ですし、通常のターゲットであれば、計算機がはじき出すデザイン候補は複数あるはずです。そこである1つのアッセイがうまくいかなかったら、計算機がひじき出した2番目の候補を作れば良いのです。そしてこれを顧客に送って、評価してもらえれば良いのです。

抗体の場合はこうはいきません。同一のターゲットに対して何種類もクローンがある訳ではありませんので、代替品を出すと言っても同じクローンしか出せないことの方が多いでしょう。

なおsiRNAはTaqmanアッセイと同様に計算機の中でのデザインが可能ですので、すでに同じようなアプローチが複数のメーカーでとられていると記憶しています(ちゃんと調べていませんが)。ただTaqmanアッセイの方にメリットがある理由は、実験結果がよりクリアだからです。siRNAの場合は生細胞が相手になるので、顧客が行った実験をメーカーがどれだけ信用するかは難しくなるでしょう。とはいうものの知的所有権の関係で競争が激しいので、siRNAに関してはメーカーは積極的にいろいろな策を打たざるを得ません。

感想

このようにTaqMan® Assays QPCR Guarantee Programは顧客にとってもメーカーにとっても非常にメリットのある、かなりウィンウィンの企画だと感じました。そしてそのメリットはTaqMan Pre-designed Assaysの技術およびビジネス上の特徴が背景にあります。

とは言うものの、同じように双方ともメリットのある企画はきっと他にもたくさんあるはずです。一所懸命になって頭をひねらないといけないかもしれませんが、ぜひ多くのメーカーにがんばってもらいたいです。その一助としてバイオの買物.comが役立つことが、僕の大きな願いです。

Grouponの割引を見て、バイオ業界のキャンペーンを考える

Grouponという会社やそのビジネスモデルが最近非常に話題になっているらしく(ただそういう僕もつい最近知ったのですが)、確かに面白いと思うのですが、その割引率が結構すごいんです。

Grouponについてはこのブログがたくさん書いていて、リンクした記事以外にも多くの記事があります。

それで実際にGrouponのウェブサイト(シカゴ)に行ってみると、何に驚くかというと割引率のすごさに驚きます。50%引きはまさに当たり前で、それより少ない割引率はほとんどありません。Grouponの日本法人のサイトを見てもやはり割引率はすごくて割引率は50-90%の間。多いのは50%強の割引のようです。

groupon.pngバイオの業界でも結構大きな割引が横行しているのですが、さすがにここまではなかなか割り引きません。少なくとも公に行う割引キャンペーンは50%までです。

Grouponのような大幅な割引を行うことの危険性についてはOPEN Forumの“To Groupon or Not to Groupon: The Cost of Offering Deep Discounts”という記事がありました。この記事ではRice Universityが行った調査を引用していて、Grouponを利用した1/3の企業にとっては利益面ではプラスにならなかったと紹介しています。

それでGrouponをうまく活用するためのアドバイスが紹介されていて、例えば

  1. リピート顧客が取れるようにキャンペーンをデザインしなさい
  2. 新規の顧客層が狙えるようにしなさい
  3. 新規顧客に限定しなさい
  4. 空いている時間やリソースを埋めるように使いなさい

個人的にはあまり賛同しないアドバイスもありますが、50%以上の割引をするときは確かにいろいろな注意が必要でしょうね。

バイオの業界で割引キャンペーンを担当していた僕としては常に意識していたものばかりではあるのですが、よくまとまった記事だと思います。バイオの業界で割引キャンペーンをやってうまくいくと通常より2-3倍ぐらいは売れるのですが、この程度では利益面ではプラスになりません。というか、確かにバイオの試薬は粗利が多いのが一般的ですが、それでも30%引きして利益が増えるほどではありません。

僕なんかが割引キャンペーンを割と盛んにやっていたのは、どちらかというと広告宣伝費という気持ちからです。バイオの業界は広告宣伝が未発達で、効果がしっかり出そうな広告媒体はありません。しかもほとんどが代理店を介して研究者と接しますので、分かりやすい割引キャンペーンでもやってチラシを用意しておかないと、代理店の担当者はメーカーのことを紹介してくれないのではないかと心配してしまいます。新製品はまだいいのですが、古いけど良く売れている製品は影が薄くなりそうなのです。

また財布の問題もあります。広告を打つときは、年初に割り当てられた広告宣伝費を使うことになります。これはしばしば削減の対象になってしまいますので、あまり余裕のないところです。それに対して割引キャンペーンを実施するときの損失分(利益を失った分)は、最終的な利益にならないというだけの話ですので、年初に予算化されて固定された上限がある訳ではありません。それぞれの会社の考え方や予算管理の仕方、目標設定の仕方にもよると思いますが、少なくとも僕がいたところだと同じ金額を消費するにしても、広告宣伝を行うよりも割引キャンペーンを実施する方がよほど簡単でした。そういうこともあって、本来ならば値引きせずにバラエティーのある活動を行って製品をPRしたかったのですが、経費として使えるお金がないので仕方なく割引キャンペーンを良くやりました。

まとめ

確かに割引キャンペーンは一時的に有効なことが多いのですが、割引率を大きくしないと注目してもらえなかったり、利益が下がったり、リピート顧客が獲得できなかったり等といった問題をたくさんはらんでいます。紹介した記事にはいくつかアドバイスはありますが、それに沿うぐらいでは解決できない問題もたくさん残っています。

それでもバイオの業界でキャンペーンが多いのは、ひとことで言えばメーカーの無策なのですが、実際にはそうせざるを得ない業界構造や社内の構造(これは日本だけでなく世界的に)があって、メーカーがそれに流されているだけという側面があります。

バイオの買物.comのようなサイトがそういう業界構造を変革し、より幅広いPR活動が行われるようになればいいなと考えています。まだまだ先の話ですが。