日立のV字回復に見る、アジア新興工業国に負けない日本の製造業の姿

2009年に国内の製造業で過去最大の赤字を計上した日立がV字回復しています。

ポイントはいろいろありますが、私が注目しているのは以下の点です。

  1. 社会インフラ関連に近いグループ会社は本体に近づけ、そうでない会社は遠ざける
  2. 携帯電話、液晶、ハードディスク、テレビ事業などを売却あるいはそこから撤退
  3. 「米GE、独シーメンスと互角に戦えるインフラ企業になる」

なぜそこに注目するか。簡単に紹介します(いつかもっと詳しく書きたいと思っていますが)。

  1. 日本の電機メーカーが苦しんでいるのは、アジア新興国が十分な品質の安い製品を製造できるようになったため。
  2. 日本のメーカーが得意なのは「過剰品質」とも言われるほどの高い技術力。ただしそれを必要としないぐらいに電子技術が発達した。
  3. メーカーが一番の強みとする技術は、その会社が成長した頃に使われていた技術。日本の電気メーカーはアナログ的なもの。今のアジア新興メーカーはデジタルなもの。したがって日本の電機メーカーは総じてアナログ的なものに強みがある。
  4. 一般消費者は「過剰品質」の使い道がない。しかしB to Bの場合、非常に品質の高い設備を用意することによって、具体的な競争力であるとか収益を上げていくことができる。「過剰品質」は消費者向けには無用だが、ビジネスやインフラ向けには価値がある。

私は日本の既存の電機メーカーがデジタルで新興アジアメーカーと戦うのは基本的に負け戦になると考えています。特に消費者向け製品では価格競争に巻き込まれるだけです。

日本の古い電機メーカーがやらなければならないのは、「過剰品質」が重視されるビジネス・医療・インフラなどの市場で、アナログ的な電子技術が依然とした活躍している分野の製品を提供し、そこにフォーカスすることです。

これが私の考えです。

こう考えると、家電のエコポイントというのは全くばかげた政策で、日本の電機メーカーに誤った経営判断をさせる政策に思えます。大切なことは、日本の古い家電メーカーにデジタル家電をあきらめさせることです。

人事の罠:アップルストアを大成功させたロン・ジョンソンはなぜJCペニーで大失敗したか

アップルストアを成功させたロン・ジョンソンが、百貨店大手JCペニーのCEOを17カ月で解任されました。売上高が25%落ち込み、株価が57%下落するという惨憺たる結果でした。

結果論は参考にならない

どうして彼が失敗したか、ウェブ上には様々な議論があります。ただしすべて結果論です。結果論は誰でも言えます。そして自然科学では予測が重視されていることからもわかるように、結果論をいくら並べてもなかなか真実には近づきません。

例えばアップルの取締役も務めたビル・キャンベル氏は「過去にどこで働こうと、製品を移行するときには、どうやってマイナス面を制限するか常に考えるものだ。彼はまったくそうしなかった」と述べています

このブログ記事にはウェブ上のいくつかの意見をまとめています。

  • 「CEOの経験はなく、ファッションやアパレル事業の知識は限られたものでした」
  • 「どんな人がJCペニーで買い物をして、何を求めているのかという理解がありませんでした」

結果論から得られるものはありません。

ロン・ジョンソン氏はいったい何をしたのか

それではいったいロン・ジョンソン氏はJCペニーで何をしたのでしょうか?以下にいくつかの記事から結果論的な記述を無視し、事実だけを取り出してみます。

Business Insiderの記事から。

  1. Johnson’s vision featured trendier brands and a more intimate boutique-like shopping experience to replace their standard rows of overcrowded clothing racks.
  2. Ending discount sales

TUAWの記事

  1. Johnson attempted to mimic the same type of atmosphere that made Apple retail stores so successful – quality merchandise coupled with an elegant shopping experience.
  2. Johnson sought to do away with coupons, clearance racks, and sales events.
  3. Johnson attempted to incorporate designer boutiques into J.C. Penney stores.
  4. Johnson wanted J.C. Penney’s in-store boutiques to forgo cheaper options and use high quality and more expensive materials for shelving and signage.

USNews

  1. The company significantly cut back on the promotions that department store consumers have been accustomed to for decades.
  2. The lesson of the story is that, even though marketers love to hate promotions, unless you have a very highly-differentiated and premium product, they are extremely important. Promotions offer both monetary and smart-shopper appeal.

ここではっきりわかるのは、ロン・ジョンソン氏は自分自身の成功体験をほぼそのままJCペニーに当てはめようとしたということです。JCペニーをアップルストアと同じようにしようとしたのです。

アップルストアで大成功したことをJCペニーでもやろうとしたら大失敗した。それだけです。

人を結果論で採用するのは誤り

十分に情報を集めていませんが、私が強く思っていることを一つ紹介します。

過去にどれだけ成功したか、過去にどれだけ失敗したかで人の能力を測ることはできません。結果で人を計ることはできません。なぜかというと成功や失敗はその人の能力だけではなく、環境の優劣、あるいは環境との適合性、チャンスの有無などに大きく左右されるからです。したがって人を採用するとき、過去の成功・失敗で採用するのは誤りです。

その人が新しい職場に入ったときにどうなるか。その職場で成功するかどうか。予想できることは限られています。はっきりとわかるのは、その人が過去の成功体験や失敗体験を元に判断をし、行動を起こすということです。多少の修正はあるものの、基本的には今までと同じようなことを考え、同じようなことを行うだろうということです。人間は原則として過去の体験を元に行動をします。過去の成功体験を踏襲する癖があります。

その行動が新しい職場にマッチするかどうか。その判断の責任は採用する側にあります。

ロン・ジョンソン氏の場合、アップルストアが成功したから彼を採用したのであるとすれば、それは採用側の根本的ミスです。成功・失敗という結果論で採用するのは誤りです。

もしJCペニーをアップルストアのように変革したいと思ってロン・ジョンソン氏を採用したのであれば、採用としてはそれは正解です。問題はそもそもの戦略です。アップルストアのように変革したいという戦略そのものが正しかったかどうかが問われます。

策略論・陰謀論が好きな人は本質を見失う

策略の観点から見たスマートフォンの市場

どうしてだかわからないが、世の中の人はものすごく策略や策略が好きです。大辞林を引用すると、策略とは

物事をうまく運び,相手を巧みに操るためのはかりごと。計略。 「 -を用いる」 「 -をめぐらす」 「 -にかける」

だそうです。

ここではスマートフォン事業における各プレイヤーの戦略と、それを解説するメディアについて考えます。

例えば本日「Tizen、Firefox OS……モバイルOSで新勢力が登場する背景にあるもの」という記事を佐野正弘氏が投稿しました。その中で新勢力が登場する背景として

  1. キャリアやメーカーが端末に独自のサービスを導入したいと思った場合でも、iOSのようにプラットフォーム側の制約を強く受けることなく、自由にできる。
  2. Androidは、当初こそオープンな姿勢が強かったものの、シェアを伸ばすに従って、開発の中心的な役割を果たしているグーグルの影響力が強くなっている。その結果、提供するアプリケーション、端末などさまざまな面において、独自性が出しにくくなってきている。
  3. つまり、プラットフォームを掌握する特定企業の影響力が大きくなることで、ビジネスの根幹にかかわる部分を握られてしまうことに対するキャリアやメーカーの懸念が、新OSの台頭に結び付いているといえそうだ。

佐野氏のような人の考え方は、スマートフォン市場を群雄割拠の戦国時代と見立てて、それぞれが領土争いをしている観点に立ったものです。そして他の企業に弱みを握られてしまわないように、製品の優劣とは別のところで策略を立てるのが企業のやり方だとするものです。

マーケットと製品から見たスマートフォン市場

本来、スマートフォン市場では製品の優劣で勝負がつくはずです。裏でメーカーが勢力争いをしたり、お互いの弱みを握ろうと策略するのは関係が無いはずです。TizenやFirefox OSなどの新勢力の登場についても、まずは製品の優劣の議論をし、それでどうしても説明がつかない場合に策略による解釈を試みるべきです。それなのに現実は、最初から策略の議論をしてしまっています。これは大きな間違いです。

私がここ何日か議論しているように、TizenとFirefox OSが登場するにはマーケティング上、そして技術上の必然性があります。それに沿って、私なりに「モバイルOSで新勢力が登場する背景にあるもの」をまとめます。

  1. 今後もスマートフォンが成長していくためには、ローエンドの市場を取り込む必要がある。これは新興国のみならず、先進国においても高額な固定データプランを払いたくない人(フィーチャーフォンを継続して使っている人)が多いからである。
  2. AppleはiPhone 4などの2年前の製品を継続して販売することでローエンド市場をカバーしている。またGoogleは事実上Android 4.0の製品ではローエンド市場をカバーできず、Android 2.3でローエンド市場をカバーしている(Android 4.0以上は1GBのRAMと1GHzのCPUを必要とするため、ローエンドに向かない)。
  3. つまり、各メーカーが自由に使え、低速CPUおよび少ないRAM (256MB~)で十分に動作するスマートフォン OSが必要になってきた。それを実現しようとしているのがFirefox OSでありTizenである。

今後のマーケット展望と既存の技術のミスマッチを考えれば、Tizen, Firefox OSの登場は十分に説明できます。策略を考慮する必要はありません。

見方が違うと展望が変わる

策略の視点に立つか製品・マーケットの視点に立つかで、いろいろなものの見方が変わってきます。

性能・品質にばらつきが出るのはオープンだからではない

佐野氏は

オープン性に伴う自由度が高いだけに、Androidで問題となっている端末のサイズ・性能や、アプリ品質のばらつきなどが生まれやすい。それがユーザーの使い勝手に悪影響を与えれば支持は得られないし、提供するハードウエアやプラットフォームの分散化を嫌うアプリのデベロッパーからの支持も獲得しにくくなる。

としています。勢力争いの観点でものを見ていますので、各キャリアやメーカーを取り込むためにはオープン性が有利だし、不可欠条件だと考えています。そしてオープンさは諸刃の刃で端末のサイズ・性能のばらつき、アプリ品質のばらつきを招いていると考えています。

しかし製品視点に立つと違います。製品の優劣においてはオープンかクローズドは無関係だからです。製品視点に立てば、性能のばらつきが起きたのはAndroidの必要スペックが一気に上がったためと推察できます。tsuchitani氏の記事を引用すると

2010年春に発売されたAndroid 1.6搭載のIS01がメモリ256メガバイトで動作していたのに、約半年後発表でAndroid 2.1.1搭載のIS03以降ではメモリ512メガバイト搭載が標準となり、その後しばらくこの容量で推移したものの、2012年初頭にはAndroid 4.x系へのアップデートを睨んでISW11SC(GALAXY S II)以降メモリの1ギガバイト搭載がはじまり、年末に最初のAndroid 4.1搭載機として発売されたHTL21(HTC J butterfly)からはフルHD液晶の搭載もあって遂にメモリ2GB搭載となりました。

そして、在来機種のOSバージョンアップの可否は、ほぼ例外なく搭載メモリ容量によって決定されてしまっています。

つまりAndroidの要求スペックが急速に高くなったため、2年前に購入した人と最近購入した人の製品スペックが全く異なります。またOSのバージョンアップをしたくても、1年前に購入した人ですらAndroid 4.x系にアップデートできず、Android 2.3の製品がまだ多く使用されています。

Androidのフラグメンテーションはオープンさに起因するのではなく、急激な要求スペック向上に起因すると考えた方が良さそうです。

クローズドでも性能・品質にばらつきが出る

例えばパソコンの世界では、未だにWindows XPの使用率が高いなどの性能・品質のばらつきが出ています。日本でのWindows XPの使用率を見ると、未だに全ネットユーザの15%を越えています。特に企業ではWindows XPを使い続ける傾向が強く、数十パーセントの利用率となっています。Androidに比べて圧倒的にクローズドなWindowsの世界でもこのようなフラグメンテーションが起こります。Windowsでフラグメンテーションが起こった理由は様々ですが、一般消費者の場合は価格やアップグレードの手間の問題、さらにWindows Vistaの要求スペックが高く、ネットブックでWindows XPを使わなければならなかった問題が挙げられます。企業サイドで言えば、既存のカスタムメイドソフトとの互換性の問題がしばしば話題になりました。

一方で2009年に発売されたiPhone 3GSは最新のiOS 6が搭載できます。iPhoneもAndroid同様に製品のスペックは劇的に向上していますが、それでも要求スペックは4年前の機種をカバーできるようにしています。iOSは85%のユーザがiOS6に移行していて、OSバージョンのフラグメンテーションがほとんど起こっていませんが、これはクローズドだからではなく、効率の良いOSをしっかり作ってきたおかげ、つまり製品が良いおかげと言えます。加えてOSのアップグレードを無償にしています。

こう考えるとiOSでフラグメンテーションが起こらないのは、クローズドであることが主な要因ではなさそうです。むしろ低スペックマシンにも対応できる、しっかりしたOSの土台を持っていること、アップグレードを非常に簡単にし、かつ無償にしていることがむしろ大きい要因と考えられます。

ダメうちでもう一つ例を挙げます。Mac OS Xです。Mac OS XはOSアップグレードの価格が安く、最近はDVDを購入することなく、オンラインですべてアップグレードできるため、アップグレード率が非常に高くなっています。しかしMac OS Xのアップグレード率の問題が一つだけあります。それはMac OS X 10.6 (Snow Leopard)を使用しているユーザがまだ30%ほどいることです。理由は簡単です。PowerPC用のソフトが動くのはSnow Leopardが最後だからです。Mac OS X 10.7からはPowerPCエミュレータのRosettaが外されています。つまり既存のソフトとの互換性が、フラグメンテーションの大きい要因となっているのです。

わずか1年前のスマートフォンでもAndorid 4.0にアップグレードできないなど、既存のデバイスとの互換性を完全に無視してしまったAndroidの世界でフラグメンテーションが起こり、様々なばらつきが出てしまうのはもう完全に必然です。オープンとクローズドとは全く別の話です。

上記を考えれば、「Firefox OSやTizenはオープンだから品質確保に苦労する」というのは誤りです。そうではなく、もしFirefox OSやTizenがしっかりとしたアーキテクチャーで作り込まれていて、低スペック機種から高スペック機種までをしっかりカバーできれば、品質確保では苦労しない」というのが正しい結論です。

Firefox OSのチームが最初はローエンドを狙うそうですが、これが大正解と言えるのはこのためです。

コンテンツの消費をビジネスにするAmazon、コンテンツ制作をビジネスにするApple

Amazonの新しいKindle Fire HDの発表を見て、AppleとAmazonが今後覇権を争うようなことを言っている評論家がインターネット上にたくさんいましたが、僕はあまりそう思いませんでした。

確かにAppleとAmazonはかぶるところが多いのですが、両者のイノベーションの方向が根本的に違うのです。

AppleはIT技術を通して、コンテンツを制作するツールをプロ及び大衆に提供する会社です。これは昔ではDTP、そして最近ではiLife, iBooks Authorなどで見ることができます。iPod発売前にiTuneが出た当初も宣伝コピーは”Rip, Mix, Burn”であり、単に音楽をPCで消費するのではなく、Mixという創作活動に大きなウェイトが置かれていました。

AmazonはタブレットPCをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置づけていて、その意味においては確かにコンテンツを握っていることが市場で非常に大きな力になります。

AppleはiPadをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置ていません。近い将来にはPCに代わるデバイスとして位置づけています。iPhotoやiMovieで音楽やビデオを編集することができますし、Garage Bandで音楽を作ることができます。スケッチをしたりするためのアプリケーションもサードパーティーからたくさん提供されていますし、Pagesをはじめとして文章を書くためのアプリも充実しています。

Amazonは世の中の見る価値のあるコンテンツは市場で発売されているものであり、それはAmazonを通して買ってもらいたいと思っています。

対してAppleは、創造力は誰にでもあり、誰でも高品質なコンテンツが作れるようにすることを一貫して会社の使命と考えています。

Appleもコンテンツを消費するためのツールはあり、そこはAmazonとかぶります。iTunes, iPodとApple TVです。iPadは違います。

個人的にはAppleのようにメディアの可能性をとことん追求して、新しいチャレンジをどんどんしてくれる会社がうれしいです。メディアの可能性はたくさん残っています。Amazonにように既存コンテンツの消費方法だけに注力するのは、世の中全体としては実にもったいない話です。

Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由

昨日、「AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?」という題で、「ハードで赤字を出してソフトで儲ける」という戦略はKindle Fireには適応できないという議論をしました。したがって短期的にKindle Fireの売り上げは伸び、いったんは成功したように見えたとして、長期的には成功しないと判断しました。

昨日、AsymcoのHorace Dediu氏がブログを更新し、別の角度からKindleがタブレット市場に破壊的イノベーションをもたらさない理由を紹介しました(“The case against the Kindle as a low end tablet disruption“)。要点は以下の通りです。

  1. 破壊的イノベーションが起こるためには製品が継続的に改良されていく必要があります。しかしKindle Fireは赤字で販売され、ソフトの利益でそれを埋め合わせています。したがってKindle Fireの改良に投資するインセンティブは低く、継続的な改良は望めません。
  2. Kindle Fireを赤字で売る戦略が成功する要件は、タブレット市場が成熟し、”good enough”の状態になっていることです。タブレット市場が製品ライフサイクルの後期にいることです。しかし少なくともAppleはその正反対に捉えていて、タブレットのイノベーションは始まったばかりだとしています。Appleがイノベーションを続けることができれば、Kindle Fireが破壊的イノベーションを起こすことはありません。

Horace Dediu氏の分析はClayton Christensen氏のイノベーション論に基づいていますが、非常に的確であると思います。Kindle Fireが破壊的イノベーションとしてiPadの脅威になるとは思えません。

僕はさらに一歩踏み込んで、Kindle FireがAndroidのイノベーションを大きく阻害する危険性が高いことを以下に論じます。その一方でAppleはiPadのイノベーションを阻害することは考えにくいので、iOSとAndroidの差がますます広がるだろうと考えています。 Continue reading Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由

AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?

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アップデート
関連する新しい記事「Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由」もご覧ください。

Amazon CEO Jeff Bezos 氏は、Android ベースのタブレット「Kindle」を驚異的な低価格で発売すると発表したそうです。

最も安い読書専用の端末の価格はわずか79ドル。その他のモデルも思い切った低価格に設定されている。Kindle Touch は99ドル、Kindle Touch 3G が149ドル。最上位モデルのKindle Fire でさえたったの199ドルだ。これは、Apple iPad 2 の最も安いモデルより、さらに290ドル安い。

しかしAmazonの狙いはハードを赤字で売ってソフト(電子書籍や映画などAmazon.com サイトからダウンロードするコンテンツ)で儲けることだという指摘があります。

古典的な手法です。

有名なのは安全剃刀(ホルダーを安く売って、替え刃で儲ける)、コピー機(コピー機を安く売って、トナーで儲ける)、プリンタ(プリンタを安く売って、インクで儲ける)、プレステ(ハードを安く売って、ソフトで儲ける)などです。

でもうまく行くとは限りません。残念ながらマーケティングの本で紹介されるのは成功例ばかりで失敗例が少なく、あまり有名な失敗例はありません。

でも例えばリアルタイムPCR装置等はその例と言えるでしょう。価格競争が激しい為に価格はどんどん下がって、ハード単体では利益がほとんどでないところまで値段が下がってきています。そこを試薬の利益でカバーしようとしましたが、賢い顧客はABIやロシュの試薬を買わずにキアゲンやタカラバイオの安くて高品質な試薬にどんどん切り替えました。

以下では、成功例と失敗例を分けるのは何か、この仕組みが成功するための条件は何かを考えます。そしてAmazon Kindle Fireが成功するかどうかを予想してみようと思います。 Continue reading AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?

He cared!

Steve Jobs:「どうしてアップルに帰ってきたの?」という質問に対して

When I was trying to decide whether to come back to Apple or not I struggled. I talked to a lot of people and got a lot of opinions. And then there I was, late one night, struggling with this and I called up a friend of mine at 2am. I said, ‘should I come back, should I not?’ and the friend replied, ‘Steve, look. I don’t give a fuck about Apple. Just make up your mind’ and hung up. And it was in that moment that I realized I truly cared about Apple.

この話を理解するには、当時のアップルの状態を理解しないといけません。

アップルは本当にひん死の状態で、あまりのひどさにSteve Jobsが直後に所有していたApple株を売っぱらったという話もあるぐらいです。DELL CEOのMicheal Dellも会社を清算することを勧めていました。

二十歳の頃に創業した会社なのに追い出され、今にも破産しそうにされてしまって、そして戻るべきなのかどうか深夜まで悩まなければならないなんて….。心が痛みます。

あなたの会社の社長は、あなたの会社のことを心から思ってくれていますか?

普通、思ってないですよね

HPがPCビジネスを分離(売却)を検討するという話で思うこと

HPがPCビジネス分離を検討しているということで、いろいろ思うことをリストアップします。調査はまだあまりしていないのですが、懸念はたくさんあります。

そもそも何のためにHPはCompaqを買収したのだろうか

  1. HPは2002年にCompaqを買収したおかげで世界一のパソコンメーカーになりました。でも利益率は低く、こうして10年もしないうちに売却を検討されてしまうようになりました。HPはいったい何が目的でCompaqを買収したのでしょうか。その目的は果たせたのでしょうか。
  2. 2002年のCompaq買収を強引に押し進めたのは当時のCEOのCarly Fiorina氏。HPを退職した後はいろいろなところで取締役をやって、いまは共和党政権で政治活動をしています。僕自身も何回か転職をして思いましたが、採用で重視されるのはもっぱら経験の有無であって、やったことが成功したか否かは不問に近いです。その傾向は幹部になればなるほど強いのでCarly Fiorina氏はまだ元気ばりばりです。

HPのPCビジネスを買うのは誰か

  1. PC市場は先進国では停滞しているので、買収する企業は発展途上国市場へのアクセスが強いところに限定されるでしょう。LenovoがIBMのPCビジネスを買収したのと同じ構図です。
  2. IBMがPCビジネスを2004年に売却したのも今回と理由は同じで、PCビジネスは利益率が低く、今後の大きな成長が見込めないと考えたからです。そのときの額は12億5千万ドルだったそうです。2004年の時にも既にPost-PCは言われていませんでしたが、脅威となる具体的な製品はまだ見えていませんでした。それから7年間。iPhoneが登場し、Netbookも一時的に流行し、そしてiPadが爆発的に売れました。12億5千万ドルだって決して高額ではありませんが(例えばGoogleはMotorolaを10倍の125億ドルで買収しました)、それよりもかなり安い価格でPCビジネスが売却されるでしょう。

HPの戦略は何だろう

  1. HPは表向きにはITサービスはソフト事業の強化を挙げて、今回のPCビジネス売却検討の理由としています。しかしプリンタ事業はしっかり残すようです。つまり今回の話は、本当の意味での戦略的な選択と集中ではなく、単に利益率が低いビジネスを切り捨てるというものです。もちろん株主としては合理的なやり方ですが、ビジョンを持ったやり方だとは思えません。
  2. そもそもなんでプリンタ事業は儲かるのでしょうか。2000年頃はいろいろなイノベーションがあってインクジェット式のプリンタが登場してきましたが、あれ以来、新しい話はほとんど聞きません。有名な話ですが、キャノン共々、特許で新規参入を徹底的に排除し、そして高額なインクを売って儲けているのがプリンタ市場です。消費者から利益を搾り取っているだけのビジネス、早くiPadなどでPaperless化が進んでくれたり、みんなが年賀状を出さなくなったりしてくれればイチコロのはずですが。。。

Appleはなぜ成功しているのだろうか

  1. HPがPCビジネスから撤退すれば、米国メーカーはDELLとAppleだけになります。特にAppleは絶好調で、Macは先進国でもぐんぐん売り上げを伸ばしています。いったいAppleの何が良かったのだろうか、考えさせられます。
  2. そのApple。大変な業績不振で1997年頃には破産の危機が迫っていました。アナリストはほぼ全員、Appleのビジネスモデルが間違っていると断じ、Wintel連合のようになるべきだと主張していました。つまりAppleはOSとハードウェアを切り離し、ハードウェア専業メーカーの活力を活かすべきだとしていました。Appleは結局その正反対のことをやり、クローンメーカーを排除し、ソフトとハードの垂直統合を強めていきました。全員が言っていたことの正反対をやったら大成功したというのは、非常に大きな意味があります。

他の業界への示唆

  1. 製造業がアジアにシフトしていくのはPC業界だけではなく、他のいろいろな市場でも起こっています。ですからここで起こっていることを他の業界に当てはめることはできそうです。
  2. PCを含めたIT業界について言えば、製造は既にアジアにシフトしていました。Appleの製品(少なくとも日本市場向け)はずいぶん前からシンガポールや中国などで製造されていましたし、DELLやHPにしても同様でしょう。HPがPCビジネスから撤退するのは、人件費が安いアジアに製造業が移るのとは全く話が違いします。
  3. むしろPCビジネスがアジアにシフトするのは、成長率の高い市場がアジアに集中しているからです。メディアで話題になりやすいのは人件費の問題です。しかし実際には、業界による程度の差こそあれ、製造業がアジアにシフトしているのはアジア諸国の購買力が牽引しているからです。
  4. AppleのMacが元気なのは、先進国市場で魅力のある製品が作れているからです。家には古いパソコンがあるけれども、新しいMacを買ってみたい。そういう気持ちにさせる製品を作っているからです。
  5. それに対してHPやIBMなどが作っていたWindows PCは先進国で買う人がなくなってしまいました。家に古いパソコンがあるし、新しいWindows PCと大差なくインターネットにつながるみたいだから買うのはやめておこう。Windows PCはそういう製品が多くなってしまいました。
  6. 一方で発展途上国の人はいままでパソコンを持っていない人が主な顧客です。インターネットにつながりたいからパソコンを買うのであって、それさえできれば安いものがいいのです。
  7. 総括すると、最低限のこと(インターネットにつなげること)以上の魅力を見せているのがMac。それができていないのがWindowsです。だからMacは先進国でも売れ、Windowsは発展途上国でしか成長できないのです。(もちろん先進国でもインターネットさえできればいいという人はたくさんいますのでWindowsは売れます。しかしもう成長しないのです。)
  8. 他の業界でも同じです。テレビでも車でも何でもそうだと思います。製造業が先進国に残るためには、先進国での市場が拡大し続けるか、あるいは古い製品を超えた魅力を常に提供し続けることが必要です。要するにイノベーション。

GoogleのMotorola Mobility買収と絡んで

  1. Motorola Mobilityの事業も将来はこうやって売却されるのねって思ってしまいました。

GoogleがMotorola Mobilityを買収したことで思うこと

GoogleがMotorola Mobilityを買収する計画を発表し、いろいろな考えがウェブで交錯しているようです。

僕自身はまだ十分に考えをまとめている訳ではありません。しかしこの買収、あまりGoogle社内で熟慮されていないように感じられるのが非常に気になります。

気になることをとりあえずリストアップしておきます。

Motorolaを買収してもAndroidの知的所有権の問題が解決されない可能性がある

  1. Google CEOのLarry Pageは声明の中で、Androidを知的所有権関連の訴訟から守ることが大きな役割であるとしています。
  2. しかし本当にMotorolaを買収することよってAndroidに対する訴訟で有利になるのでしょうか?どうも不透明な気がします。僕が最も参考にしているFoss Patents Blogでも、訴訟で有利にならないという立場をとっています($2.5 billion Google-Motorola break-up fee reflects sellers’ concern and buyer’s desperation, First reaction to Google/Motorola announcement, Oracle v. Google update: summary judgment pressure and Motorola Java license fallacy)。

Googleは退路を断った

  1. GoogleがAndroidを捨て、検索と広告に再度集中する戦略はいままでは合理的な選択肢の一つでした。しかしMotorolaの買収により、Googleはもはや後戻りができなくなりました。多数の特許紛争を抱えるAndroidが大コケする可能性は決して少なくありませんが、そのAndroidと運命をともにする決断をGoogleの経営陣は下しました。これはGoogleの根幹である検索と広告のビジネスを危険にさらす覚悟があるということです。
  2. PCの世界ではMicrosoftとAppleだけがOSを作っています(Linuxは除く)。それでもGoogleはPCからの広告収入に全く困っていません。同様に考えると、GoogleはAndroidがなくてもモバイルから多くの広告収入が得られそうです。ここまでして退路を断ち、根幹のビジネスを危険のさらす必要が本当にあるのか、かなり疑問に感じます。
  3. GoogleはMotorolaを買収したことによって、Android Phoneの売り上げに直接責任を持つようになりました。いままではAndroid Phoneが売れようが、iPhoneが売れようが、あるいはWindows Phoneが売れようが、ブラウザがある限りGoogleの売り上げにはプラスでした。しかし今度はAndroid Phoneが売れない限り、Motorolaの売り上げは落ち込みます。つまり今までのGoogleの売り上げはAndroidの成功失敗とは直接連動していなくて、Androidが大コケをしたところでGoogleの売り上げには響きませんでした。しかしMotorolaを持っていることで、GoogleはAndroidの浮沈に直接影響を受けます。
  4. Motorolaにしても、今までは仮にAndroidが失敗してもWindows Phoneに乗り換えれば良かっただけです。Androidがコケても、大きな問題ではなかったのです。実際にWindows Phoneの検討を始める動きも見せていました。しかしGoogleに買収されたことによってMotorolaはこのようなリスク分散ができなくなりました。MotorolaもまたAndroidに集中することを余儀なくされ、退路を断たれた格好になりました。
  5. 結果としてAndroidの浮沈に直接影響を受けていなかったGoogleとMotorolaの両社が、今後はAndroidと運命をともにすることになります。

Samsung, HTCなどのAndroid離れが加速され、Windows Phoneへの移行を真剣に検討することはほぼ確実となった

  1. 今の特許紛争を考えれば、SamsungとHTCがAndroid以外にWindows Phoneを取り入れることはどっちみち必然ではありました。それでもまだまだAndroidを主力と位置づけるだろうと思われました。しかし今回の買収によって、Android離れが加速することは確実です。
  2. Motorolaの持っている特許によってAndroid陣営の立場が強くなり、AppleやMicrosoft, Oracleなどからの訴えに対抗できるようになるという議論はあります。ただこれで各パートナーメーカーが安心するかは甚だ疑問です。
  3. 結果としてAndroidの成長は今年までではないかと思います(少なくとも先進国では)。各メーカーはWindows Phoneに本腰を入れていくでしょう。

どうしてGoogleはパートナーメーカーが嫌がるの承知の上でMotorola買収に踏み切ったのか

  1. 知的所有権に関する訴訟の問題で、Googleがワラをも掴む思いだった可能性。Androidが販売差し止めにされてしまっては、パートナーメーカーもへったくれもありません。それぐらいの思いでGoogleがMotorolaの買収に踏み切った可能性があります。
  2. Appleのような垂直統合が必要だと考えた可能性。しかしAndroidのマーケットシェアだけ考えると、水平分業でもうまくやっていけそうに思えます。これだけ大きな賭けをしてまで買収に踏み切るほどの理由にはなりません。

Motorolaはどうなるか

  1. 今までのMotorolaの経営陣が優秀だったとは思いませんが、このような形で買収が行われると、Motorolaは数年間リーダー不在の状態になると予想されます。
  2. まずMotorolaでリーダーシップを持っていた人間が社外に逃げる可能性が高いこと。それと残ったリーダーもGoogleの様子をうかがいながら判断をしていくことになるので、明確な決断を下しにくいこと。Motorola社内でこの2つのことが起こるでしょう。これが事実上のリーダー不在な状況を作り出します。一寸先が読めないモバイルのビジネスではリーダー不在は致命的です。
  3. リーダー不在な状況を作り出さないために、Motorolaの現在の経営陣に代わるリーダーシップチームをGoogleは遅くとも半年までの間に整えなければなりません。新しいリーダーシップチームはMotorolaの新しい戦略を明確に描いていないといけません。Googleがこのようなチームを短期間で作れるかどうか如何で、Motorolaビジネスの浮沈がかかっています。危惧するのは、Googleはそれどころではないことです。訴訟への対応に追われ、Motorolaの戦略はおざなりになる可能性が非常に高いと感じています。
  4. 結果として、Motorolaのビジネスは来年から大きく売り上げを落とすでしょう。SamsungやHTCにどんどんシェアを持っていかれそうです。

僕が予想するシナリオ

今後どのような展開になるのか、勝手に予想してみます。

  1. Googleは当初発表した声明どおり、Motorolaを特別扱いすること無く、パートナーメーカーを大切にした立場を取るでしょう。一方でMotorolaはリーダー不在の状況に陥り、SamsungやHTCに対抗し得るヒット商品が出せず、一気に売り上げが落ちるでしょう。
  2. GoogleはMotorolaの知的所有権を引き継いだものの、Apple, Oracleとの訴訟では劣勢が続くでしょう。いくつかの国や地域でMotorolaの製品そのものが販売できない状況が生まれるでしょう。
  3. Googleはこの状況を受けてAndroidを捨てるものの、携帯電話用OSの開発をあきらめることができないでしょう。そこでChromeOS的なモバイルOSの開発をはじめるでしょう。ちょうどMozilla Foundationが発表したBack to Geckoのようなプロジェクトのなりそうです。ただその頃にはWindows Phoneも普及し始めているでしょうから、この新しいOSは全くメーカーに採用してもらえないでしょう。
  4. SamsungやHTCなど、Smartphoneの大手メーカーは単純にWindows Phoneに移行するでしょう。iPadに対抗するタブレットの開発も行うでしょうが規模は縮小され、本腰を入れるのは自社のOS(例えばSamsungのBada)を待つか、あるいはWindows 8を待つことになるでしょう。現時点でiPadに対抗するのは無理だという判断を下すと思います。
  5. Googleにとって最も危険なのは、ビジネスの根幹である検索と広告を脅かされることです。Androidビジネスが経営資源を検索&広告から奪っているとしたら、これは大問題です。ただGoogle + Motorolaという会社では、社員の大半がAndroidに関わる可能性だってあります。未だに有力な対抗馬は見えませんが、Googleが検索と広告でのリーダーシップを失う危険性は現実味を増してきていると感じています。

「なぜ職場で仕事ができないのか」について

TED TALKSで37signalsのJason Friedが「なぜ職場で仕事ができないのか」という題で話しているビデオを見ました。

日本語字幕もあるので、ぜひ見てください。

自分の経験を合わせた感想を以下に紹介します。

  1. M&M (Managers & Meetings)が仕事の邪魔をしているのは全くその通りだと思います。M&Mの代わりにJason Friedが言うように、例えばチャットだとか、37signalsが提供しているBasecampなどのツールを使ってコラボレーションをやれれば良かったと思いますが、残念ながら普通の会社はそういうのをなかなか使わせてくれません。あるいはそこまで考えてITはツールを用意してくれません。僕の意識も十分ではなかったのですが、そういうツールをもっと積極的に使えば良かったと思っています。(ITはMicrosoftのSharepointは用意してくれていましたが、使い方がわかりませんでした。すぐに使い方がわかるBasecampの良さはここにあります)
  2. 前にいた会社は電話サポートの人にマーケティングをさせていました。これについては僕は強行に反対しました。理由はJason Friedが言うように、時間が分断されてしまうと人間は仕事ができないからです。電話サポートの人は必然的に時間が分断されてしまうので、マーケティング戦略をじっくり考えるなんて不可能なのです。残念ながら上司には聞き入れられませんでしたが、どうして断られたかははっきりしています。その上司が人の仕事を平気で中断させる人だったからです。
  3. 確かに会社にいると数時間でも中断されない時間を作るのは大変です。でも前の会社の上司は10時間ミーティングならやっていました。うーん。