参入障壁の幻想と、顧客が嫌がることに走る企業

散文的に長々と書いてあって読みにくいのですが、Michael Porterが昔に説いたFive Forcesを現代のハイテク業界に当てはめ、顧客が嫌がることを積極的に行ってしまっている企業の愚について紹介している文章がありましたので紹介します。

この文章(The Five Forces Circles of Hell)について、僕なりにまとめまてみました。

 

  1. AppleがMacやiPhoneで非常に好調な理由は、他のパソコンメーカーや携帯電話メーカー・ネットワークプロバイダーが問題を抱えているからです。他の企業の問題とは、これらの企業は顧客を嫌っていて、顧客の要望を嫌っていて、顧客のニーズを嫌っていて、そしてノート型パソコンや携帯電話の定義をわざと限定しているからです。
  2. これはMichael Porterの”Five Forces”を学んだMBAたちが、閉鎖的なシステムやプラットフォームを躍起になって作っているからです。つまり参入障壁をうまく築いて、維持して、そして自社製品から顧客が逃げられないように囲い込み、利益を搾り取ろうとしているのです。
  3. Porterの”Five Forces”に習って、製品は良くないのに参入障壁を巧みに利用している例として
    1.  レンタルDVDのBlockbuster社。全国に数多くのレンタル店を展開。DVD供給会社と契約を結び、DVDの一般発売より先にレンタルはできるようにしていた。ブランド力、DVD配給会社に対する強い力、強力なレンタル店網のため、参入障壁を高く維持できていた。レンタル料金だとかサービスは至って普通です。
    2. SMS (携帯電話メールの世界スタンダード)はだいたい160文字で$0.10ですが、これは一般的な携帯電話データ通信量の100倍。でも世界でみんなが使っています。
    3. ADSL vs. SDSL。一般家庭用のADSLは上りデータ通信速度が下りよりも遅くなってますが、これは技術的にはもはや必要がないと議論しています。ビジネスユーザ用のSDSLから高い料金がとれるように、わざと一般家庭用のスペックを制限している議論しています(僕は詳しくわからないのでなんともいえませんが)。
  4. Appleはこの参入障壁と利益搾取の構造にとらわれず、顧客が本当に欲しいものを提供するようにつとめています。
    1. 音楽配信はもはやコモディティーと捉え、新しい配信モデルを作り出しました。iTunes Music Storeではアルバムを丸ごと買わなくても、シングルを個別にかえるようにしました。人工的な規制であるDRMの廃止にも積極的に動きました。
    2. 無線ネットワークが牛耳っている携帯電話業界に対して、iPhoneで風穴を開けました。今はAT&Tとの契約でいろいろな規制をしていますが、必死に規制しているようにも見えないと議論しています。おそらく携帯ネットワーク業者に対して今後より圧力をAppleは加えて、業界構造を変えようとするのではないかと議論しています。
さて、僕の意見です。
紹介した文章は本当に読みにくいのですが、言っていることはすごく正しいです。自分なりにまとめると
  1. 利益を確保するためには参入障壁を高くすることが重要と勘違いしている企業が多いです。そして一番の問題は、人工的な参入障壁を築くために、製品そのものの魅力を制限してしまっていることです。マーケティングの教科書にはこの考え方が実に良く紹介されていて、大きな弊害になっています。
  2. Appleがやっているのは、その逆です。まず、圧倒的に魅力的な製品を魅力的な価格で提供します。誰もその製品に追いつけないがために、それが結果として参入障壁となります。
  3. Appleは閉鎖的と思われる箇所はいくつかあります。例えばMacOSはAppleのパソコン以外では動きませんし、iTunes Music StoreのDRM付き音楽はiPodでしか再生できません。しかしこれはイノベーションのためには必須なインテグレーションと捉えた方が性格だと思います(クレイトン・クリステンセン, “イノベーションへの解 収益ある成長に向けて” 参照)。
  4. バイオの業界では「機器では損をしても試薬で儲けられる」という考え方があります。機器は赤字で売ってもいいから、その分を試薬で儲けようという発想です。しかしこの考え方は顧客にメリットはありません。
    1. たくさん実験をすればするほど、研究者は損をします。たくさん実験をする研究者にとっては、機器が高くても試薬が安い方がメリットがあります。
    2. 試薬のゾロ品メーカーを抑えるために、あの手この手の人工的なことをメーカーはやってしまいます。例えばゾロ品を使ったときのサポートや保証を制限したりします。
    3. 特許などでゾロ品メーカーを完全に抑えられている場合は、試薬の値段はずっと高いままにされてしまいます。一旦手に入れた顧客からなるべく利益を搾り取るためです。
  5. バイオの業界では流通の障壁も問題です。いくつかの理由で代理店をほぼ100%通すという商習慣になっていますが、これは大手メーカーに有利に働き、参入障壁になります。代理店に体する力が弱い小さいメーカーは、良い製品を作っていても販売が難しくなります。結果として、売っている商品は体したことが無くても、代理店とうまくつきあっている大手メーカーが有利になってしまいます。
  6. 各企業が本当にやらなければならないのは、マーケティングのテクニックで利益を守るのではなく、圧倒的に魅力的な製品やサービスを作り出すための努力を重ねることです。
  7. 研究者のサイドでは、業界構造をよく理解して、メリットの無い参入障壁の温床を無くしていく努力が必要です。

マーケティングにおける製品のカニバリゼーション

マーケティングではカニバリゼーションという用語があります。マーケティングという職業をやっている人に中には、自社製品間のカニバリゼーションはなるべく避けるべきだと考える人がいるようです。

例えばGoogleするとこんな感じ;

  1. http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_262.html
  2. http://mbasolution.com/onepointmba/lesson60.htm

詳細はお話しできませんが、前職でも新製品発売時にカニバリゼーションが話題になりました。その新製品が旧製品の売上を奪ってしまうのは問題だというのです。だから新製品の用途をマーケティング的に制限して(いわゆるセグメント分けとか差別化とかいうやつです)、旧製品の売上を守ろうという議論がありました。

もっとひどいのは、それができないのならば、今までのお客様には新製品のことはなるべく黙っていようという話がまことしなやかに行われていたことです。

でも誰が見ても、大部分の人にとってあらゆる用途で新製品の方がいいのです。なのにどうして新製品のことを黙っていようというのか。マーケティングを中途半端にしか勉強していない人の理屈というのは、ときとして摩訶不思議な結論を導いてしまうようです。

マーケティングをもっとしっかり勉強すると、別の見方ができるようになります。ということで、Apple社のSteve Jobsはどう考えているかを紹介します。USA Todayとのインタビューでの言葉です。

 Q: The iPod Touch is very similar to the iPhone — all that’s missing is the phone and built-in camera. Are you concerned about cannibalization?

A: If anybody is going to cannibalize us, I want it to be us. I don’t want it to be a competitor.

和訳すると;

Q(記者): iPod TouchはiPhoneと非常に似ているように思います。電話機能とカメラが無いだけです。自社製品間のカニバリゼーションは気になりませんか?

A(Jobs): もしどこかの製品がiPhoneとカニバリゼーションするのなら、それはうちであった方がいい。競合他社にカニバリゼーションされて欲しくはない。

 

ちなみに上記の前職での新製品ですが、日本だけはカニバリゼーションを気にしないという戦略をたててやったこともあってか、他国と比べてもすごく良く売れました。

もう一つ、カニバリゼーションを防ぐ戦略をとると、マーケティングと営業の意思疎通が難しくなります。カニバリゼーション防止戦略のもとでは、回りくどい差別化ポイントを説明しないといけないし、訪問する顧客もうまく選ばないといけません。それに対してカニバリゼーションを無視すれば、「とにかく多くのお客様が望むものを提供しよう」という単純な戦略を採ることができますし、単純なメッセージをなるべく多くの人に伝えればいいだけになります。戦略が単純になるので、マーケティングと営業が一体となって活動しやすくなります。

これを何回説明しても、わかってくれない人はわかってくれないんですけどね。中途半端なマーケティングの知識がいかに有害か、その良い例だと思います。

すべてのコミュニケーションが失敗する仕組み。偶然に成功する場合を除いて。

Jukka Korpelaがコミュニケーション学者のOsmo A. WiioWiio’s lawsについてコメントしている記事が面白かったので、抜粋して日本語に翻訳しました。

以下Wiioの法則

1. コミュニケーションはたいてい失敗します。偶然に成功するとき以外は

これは人間の間のコミュニケーションを指すのであって、コンピュータ間のコミュニケーションを指すものではありません。人間のコミュニケーションは抽象的かつ漠然と定義されたシンボルを使用しています。そして抽象的なシンボルを使用しているがために、コミュニケーションは誤解されやすく、さらに困ったことに誤解されても確認する方法がありません。

自分の考えを言葉に表現し、さらにそれを聞き手が受けて考えを再構築する行程は何ステップもあるので、たいていどこかで失敗が起こります。

1.1 コミュニケーションが失敗する可能性があるのなら、必ず失敗します

1.2 コミュニケーションの失敗のしようがないときでも、やはりほとんど失敗します

1.3 思い通りにコミュニケーションが成功したと思える場合は、何か誤解があります

1.4 自分の発しているメッセージに満足している場合は、コミュニケーションは必ず失敗します。

2. あるメッセージの解釈の仕方が何通りかある場合、最もダメージの大きい解釈のされ方をされるでしょう

3. あなた自身が云わんとしていることを、あなた以上によく知っている人が必ずいます

あなたの言っていることを理解したつもりになっている人は本当に迷惑です。彼らは自分の言いたいことを、あたかもあなたが言ったかのように広めてしまいます。

4. コミュニケーションをすればするほど、コミュニケーションの成功率は下がります

4.1 コミュニケーションをすればするほど、誤解の伝搬は速くなります

コミュニケーションの成功率は非常に低いので、繰り返しても大して良くなりません。むしろ間違った解釈を繰り返すことによって、誤解されたメッセージが増強されてしまうということです。

5. マスコミュニケーションで重要なのは、事実そのものではなく、事実がどう見えるかです

6. イベントの重要性は、距離の二乗に反比例します

どのようなメッセージを伝えようとも、それを受け取る人は自分自身の枠組みの中でそのメッセージを解釈し、プライオリティーを与えるということです。

7. 状況が重大であれば重大であるほど、ちょっと前のやはり重要なことを忘れてしまっている可能性が高いでしょう

 

そしてJukka Korpela氏のまとめの言葉をいくつか;

コミュニケーションは対話を通して成功させることができます。あなたのメッセージの一部を理解した人でも、必ず他の部分は理解できていません。ですからフィードバックというのはコミュニケーションに必須なのです。それが非難めいたコメントかどうかはその人の教養と礼儀正しさの問題だけであって、重要なことではありません。

コミュニケーションを成功させることはできません。できることは上記の問題点を良く理解した上で、偶然の成功が起こる確率を高めることです。

フィードバックが得られない環境であれば、受け手が自分自身の理解度を練習問題を通して確認できるようにしてあげることです。

ライフサイエンス業界を元気にするヒント(前アップルCEO 原田泳幸インタビューから)

Macで知られるアップルコンピュータは1990年代の大スランプから見事に復活し、今ではアメリカでMacの売上が全パソコンの21%にまでシェアが回復したそうです。

その成功は決して平坦な道のりではなく、特に最初の頃は非常識とも自殺行為とも思えることをかなりやっていました。例えば販売店を大幅に減らして、大部分の販売店はMacを売ることができなくなりました。またApple Storeを作ったときも、当時はDELLの電話・インターネット販売が主流と考えられていたので、多くのアナリストに非難されました。

しかし、その一見非常識と思える行動が正しかったのです。間違っていたのはマーケティングの常識の方でした。前アップルのCEO 原田泳幸のインタービュー記事が会ったので、そこからいくつかピックアップします。

次の年にiMacを発表する。それまでに相当、販売店のインフラの改革をおこなったり、サプライチェーンのインフラを整えていたから、大成功した。

Steve JobsがAppleに復帰した直後にやったことの中に流通とサプライチェーンの大幅な見直しがありました。これは全世界規模で行われたことで、日本はその流れを踏襲したまでですが、日本の商慣行という大きな壁がありましたので、それを実施するのは大変なことだったと想像されます。でもそれを日本でもしっかり行い、原田氏がおっしゃる通り後の成功の基盤が築かれました。

教訓: 地味ですけど、サプライチェーンのインフラの整備は成功の土台となります

40社以上あった1次卸店を4社に減らして、3000店舗以上あった販売店を100店舗に減らしました。これはとんでもない改革ですよ。

 雑誌を増やしたこともそうですし、ソフトの数を増やしたこともそうですし、販売店インフラのリストラをやったのもそうですが、限りなく経営資源をお客さんのために使うということですね。販売店にお金をあげても、店が多過ぎれば、ディスカウント競争をやってそこで消えるわけです。従って、販売店のマージンを少なくして、その分、お客さんのためにフリーセールス、ポストセールスにお金を使う、そのようにシフトをしていった。

当時のパソコン業界はコンパック・ショックの影響がまだ強く残っており、量販店でどんどんディスカウントをさせていかないとパソコンは売れないと考えられていました。アップルに対しても自社でパソコンを製造することをやめて、クローンメーカーにライセンスさせるべきだという考えが主流で、そうやって安いパソコンを売らないと生き残れないと考えられました。その中で販売店のマージンを少なくして、ディスカウントを抑制して、高い価格でパソコンを販売させるという戦略は自殺行為にも見えました。

でもアップルがやったのは、ディスカウントするのではなく、良質のサービスを提供する環境を整備することでした。マックの販売権のある販売店にはマックの専門家集団を配置させ、きれいにマックを陳列することを義務づけ、マックを見にきたお客様が良いサービスを受けられるようにしたのです。その環境が用意できない販売店はマックが売れなくなったのです。そしてその環境を用意できた販売店はディスカウント競争に巻き込まれないですむために、投資した分の利益をきっちり回収できたのです。

この活動は後のApple Store(直営店)に引き継がれて、アップルのブランドイメージが世界一になることに最終的につながりました。

教訓: ディスカウントでお金を失うのではなく、お客様の役に立つことにお金を使いなさい

これをライフサイエンスに当てはめると、以下のようになるのではないかと思います(メーカーの立場で書いています);

  1. サプライチェーンを見直しましょう。土台が怪しいメーカーが多すぎます。代理店との関係も考え直すタイミングです。
  2. 製品が話題になる環境を作りましょう。パソコン雑誌みたいなものはライフサイエンスには無いけれども、お客さんとか第3者が製品を語り合える環境を作りましょう。Web 2.0をうまく使いこなしましょう。
  3. ディスカウントキャンペーンとか営業強化、代理店政策にばかりお金をかけるのではなく、ポストセールスサービスなどを充実させて末端顧客が喜ぶサービスを提供しなさい。そのためには少数の代理店に徹底して教育をしてあげるとか、自社の営業がちゃんと製品をサポートできるようにしてあげるとかです。
  4. お客様のトラブルシューティングができるぐらいの営業を増やしましょう。研究者は「営業」とは話したがらなくても「学術」とは話したがるという話はよく聞きます。でもそうじゃなくて、どの「営業」でも「学術」並にお客様をサポートできるようにしないと行けません。Apple Store(直営店)のGenius Barのように。
その中で「バイオの買物.com」は2.と将来的には4.あたりに貢献できればと思っています。

競合が出てくると、自分にもプラス (BlackBerryの売上倍増)

日本以外の先進国に行くとBlackBerryという携帯電話があります。会社のメールやスケジュール管理ソフトと直接連動する携帯電話で、一般にスマートフォンと呼ばれる種類の製品です。日本では最近ようやくDoCoMoが売り始めていますが、まだ全然浸透していません。

このBlackBerryを販売しているResearch In Motion社(R.I.M.)の第4四半期の売上と利益が前年比で倍増したというニュースです。

競合のiPhoneが話題をさらっていて、Windows Mobileを超えていきなりアメリカ スマートフォン市場の27%を奪ったにも関わらず、どうしてBlackBerryがこんなに売れているのか。Cannaccord Adamsのアナリスト、Peter MisekはiPhoneが投入されたことによってスマートフォン市場が脚光を浴びたと考えているようです。「『BlackBerryとかiPhoneがあるんだったら、Razr(大人気の超薄型携帯)を買うことは無いな』と思う人が増え始めています。R.I.M.にとってはiPhoneが一番大きく貢献したのではないだろうか」

まだ利用者が比較的少ない新しい製品のマーケットでは、競合企業が出てくることによってマーケット全体が活性化して、パイが拡大することはよくあります。初期段階のマーケットの顧客は非常に限られたニッチ顧客で、特別なニーズがあったり、もしくはマニアだったりすることがほとんどです。BlackBerryは大企業ユーザには広く浸透していましたが、小さい企業やプライベートユースではほとんど顧客を集められていなかったと思われます。

Appleという有名大企業がスマートフォン市場に参入することによって、小さい企業やプライベートユースでのスマートフォン利用が急拡大したと考えられます。そして何らかの理由でiPhoneを選択できなかった多くの顧客がBlackBerryに流れたと考えられます。

さて話をライフサイエンスに戻しますと、インターネットを利用したマーケティングや広告宣伝というのはまだ非常に寂しい状態です。ちまたではインターネット広告が雑誌を抜いたなどと話題になっているのですが、日本のライフサイエンスでは全然そんな状態にありません。Nature Japanのウェブサイトに行ってもメーカーの広告はほとんどありませんし、羊土社もそうです。いずれもバナー広告をかなり低料金で募集しているのですが、メーカー広告が載っていることなんて滅多に無いので、気づいていない人がほとんどだと思います。

ライフサイエンスでのインターネットマーケティングを普及させ、ビジネスにしようという会社は少しずつ現れています。バイオ・コンシェルジェバイオインパクトバイオ百科などです。でもまだまだ活気が出てきていません。メーカーのマーケティング担当をしていた時の僕の感覚からいうと、ライフサイエンスでのインターネットマーケティングはまだまだ実験的なものです。僕も広告掲載などをお願いしましたが、実際の効果を期待していたというよりは、こういう会社にはがんばってもらいたいという応援の気持ちが大部分です。

多くの会社が参入してきて活気が出てくればどんどんパイが広がっていくと思いますので、どんどん参入してほしいものです。僕の「バイオの買物.com」もその一つになっていくと思いますが。

 

ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す

表題の「ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す」という考え方は別に新しいものではなく、これに関する著書は割とよく聞きます(僕自身は読んだことはありませんが)。どっちかというとミスに対してというよりは、その後に発生するクレームに関することが多く書かれているという印象はありますが。

今回は僕が購読しているブログにたまたまNetflix Says They’re Sorryという記事(英文)があったので、取り上げたいと思います。この記事で紹介しているのは、ブログの著者がウェーターをやっていたとき、クレームを上手に処理するといつも顧客が感心してくれてチップが弾んでいたそうです。そこで今度はさらに一歩先にいって、顧客が気づかないようなミスであってもわざわざ教えていたというのです。

さてライフサイエンスの業界では、顧客である研究者は一般にメーカーの技術サポートをあまり信用していなくて、「どうせわかっていない人が電話に出ているんでしょう」と考えている人が多数派ではないかと思います。メーカーに電話をするというのは最後の手段みたいなところがあって、簡単に別のロットと交換してくれそうなときとか、あまり技術的ではない質問のときに限って電話するという感じです。少なくとも僕を含め、何かうまくいかないときにメーカーに電話する人は僕の周りには一人もいませんでした。

このようにメーカーと研究者が離れてしまっている状態というのは、もちろんあるべき姿ではありません。製品で問題があったときには研究者がすぐにメーカーに連絡してくれるような、研究者がメーカーを信頼してくれるような関係が本来は理想的です。

そのような関係はもちろん簡単には築けるものではありません。でもバイオの業界ではこのブログに書いてあるような「ミス」というのは結構頻繁に起こります。社内システムがしっかりしていないことが多いので、納期遅れや小さな不良品、リコールというのは日常茶飯事です。ミスにうまく対応するにはもちろん人的リソースをしっかり割くことが重要ですが、それを優先課題と位置づけてきっちりやれば、「ミス」から逆に顧客との信頼関係を築く機会はいくらでもありそうです。

僕がメーカーの日本支店を経営していたら、研究者の技術サポートが十分にできる部隊をお金をかけて作り上げ、「ミス」を利用して研究者と会話する機会を作り出して、研究者の間で話題になるぐらいの対応をしていくのがいいと思いますけどね。僕がメーカーに勤務していたときは、ボスはそのリソースの必要性を全然理解してくれなく、結局は何もできずじまいでしたが。

ユーザが決定権を持つコンピューティング

Accentureのレポートそのものはウェブで見つからないのですが、
‘User-Determined Computing’ Redefines Information Technology Priorities, Accenture Survey Finds

大部分の企業が短期の利益追求のためIT予算を抑制する一方で、社外の顧客および社員は、現在のITに対する不満がますます増大しているとしている。

  1. 世界中のFortune 1000のうち300の会社に対して調査をしたところ、ITチームは時間の40%を既存システムの保守管理に費やしている。
  2. 顧客接点のうち、わずか22%だけがオンラインで取り交わされている
  3. ITシステムのわずか11%だけが、顧客にフォーカスしたものである

そして、業績の良い企業に限って調べると

  1. ITシステムの25%を顧客フォーカスの活動に投入している。これは平均の11%を大きく上回る
  2. 既存システムを大幅に整理することにより、システムの保守にかける労力を19%減らすことができている
  3. 業績の良い企業は、既存システムに代わる新しいシステムを常に探していて、特にSaaSに興味を示している

バイオの世界で私は2つの会社に所属しましたが、大きい会社の方が非常に多くのITリソースを持っていました。でも顧客向けのITに関して言えば、1/10のサイズの小さな会社の方がよっぽど良いサービスを提供していました。そして大きい会社のITリソースは何に費やされていたかというと、まさにAccentureの調査の通り、ほとんどが社内向けの古いアプリケーションの保守と管理。

なんでそうなっていたのかを自分なりに考えると、営業が強すぎたのだと思います。営業というのは自分の目の前にいる顧客ばかり見るので、訪問できていない顧客のことがよくわからないのです。だから営業が強すぎる会社は、目の前にいる顧客のためのサービスばかりに注力して、ITを介してより多くの顧客にアピールすることを忘れていまいがちのように思います。

いずれにしても、その大きい方の会社は、ITに関しては非常に大変な思いをさせられた会社でした。小さい会社の方もITは良くはなかったのですが、小さいからこっちの言いなりに丸め込めたのが良かったですね。

お金というのは最も役に立たないスコアカード

The Canadian Pressの記事に、GiveMeaning.comを立ち上げた20代後半の社会起業家、Tom Williamsの話が紹介されていました。

記事によると、GiveMeaning.comは小さな草の根的なチャリティーと、お金を小額ずつ出す個人の間を取り持って、寄付したお金が具体的に何に使われたかという透明性を大切にしたサイトだということです。

Tom Williamsはアップルでの高収入な仕事をやめて、GiveMeaning.comを立ち上げています。
“It used to be all about the money, but you know what I found out is money is the most useless scorecard because there’s always a guy who has way more money, who is far less intelligent, who is far less moral or ethical, and yet he has more money. It was frustrating, I was pulling my hair out. Now, I can say my measurement of my success is around how much meaning I’ve made. If somebody is making more meaning than me, all can say is, ‘Man, I admire you.’ As opposed to ‘I envy you.’ ”
「前はすべてがお金でした。でもその中でわかったのが、お金というのは最も役に立たないスコアカードだということでした。なぜかっていうと、どこにいても、自分よりも頭が悪く、倫理的に劣るけれでも、それでも自分よりもお金がある人は常にいるからです。この頃はすごく不満がたまりました。でもいまの自分にとっては、成功の尺度は自分がどれだけ意味のあることを成し遂げたかです。自分よりも意味のあることをしている人がいたとしても、”お前のことがうらやましいよ”ではなく、”お前のことは尊敬するよ”って言えるから。」

バイオの業界の収入というのは、大部分が国民の税金です。ですからバイオの業界で働く人間は、常に福祉の心を持つべきだと僕は思っています。少なくとも、自分の仕事がどれだけの収入になるかだけではなく、どれだけ世のため人のためになったか。より短期で考えれば、自分たちの仕事の結果、どれだけ研究者を手伝うことができたかを意識しなければいけないと思っています。それこそがバイオ企業の存在意義だと思います。

僕の夢は、Castle104がバイオの研究者から、”お前らのことは尊敬するよ”っていってもらえる会社になること。

マーケットシェア追求の過ち

ペンシルベニア大学のWharton校のJ.Scott Armstrong先生の研究で、マーケットシェアに固執することが利益の低下を招くことが導かれているそうです。The ‘Myth of Market Share’: Can Focusing Too Much on the Competition Harm Profitability?

競争に勝つことではなく、利益を最大化することが大切だということ。そして競争に勝ってマーケットシェアの最大化につとめるあまり、多くの経営者は利益を喪失していると説いています。

トヨタ自動車、キャノン、任天堂などを、マーケットシェアではなく利益の最大化に勤めている企業の例に出し、一方でPS3やXboxのソニーやマイクロソフトをマーケットシェアに固執するメーカーの例に挙げています。

バイオの業界では競争が激化し、値下げが恒常的に行われています。売上を最大化しようというあまり、営業の増強にばかりリソースを割き、テクニカルサポートやフィールドサポートの人員は減らされています。付加価値を最大化し、利益を最大化するのではなく、「売り込む」ことに力が注がれています。いまは利益がなくても、このようにしていったんマーケットシェアをとれば、将来利益が得られるという幻想を追いかけているのです(どこかのPS3のように)。でも結果として、研究者にとってもっとも価値を提供してくれるテクニカルサポートとフィールドサポートの人員が削減されているのです。とても悲しいことです。

ちなみにABC World News Webcastを昨日見ていたら、老人ホームでWiiが盗まれて悲しんでいるおじいさんおばあさんが紹介されていました。このような人にも喜んでもらえる商品こそがすばらしいと思う今日この頃です。