イノベーション理論から見るIntelのビジネルモデルの問題

Microsoft Windows 8がARMをサポートするというニュースがありました。

Clayton Christensen氏のイノベーションに関する一連の理論に照らし合わせて、これが一体どういう意味を持つのかを、Horace Dediu氏が解説していました。

“Who killed the Intel microprocessor?”

以下その中の議論を元に、自分の意見をいろいろ述べたいと思います。

ARMとIntelの違いは何か

ARMはCPUのライセンスを提供し、NokiaとかAppleがBluetoothや音楽デコーディングの回路をCPUと同じ半導体上にデザインし、SOC (System on a chip)と言われるものを設計します。何を組み込むかは最終的な製品に合わせて、Appleなどが決定します。そしてSOCのデザインを元に、Samsungなどがこの半導体を製造します。

すなわちARMのライセンスは、最終製品に最適化された、統合された半導体のデザインと製造を可能にします。

それに対してIntelはデザインから製造までをすべて自社で行い、最終製品を販売します。どのような付加的な回路を組み込むかを選択することはできません。Bluetoothや音楽デコーディング用の回路を組み込むか否かはIntelが決め、変えることができません。

どうして今、Intelのビジネルモデルが失速しているのか

IntelのようにCPUに関わるすべてを自社で行うことは大きなメリットがあります。最高に高性能なCPUが作れるというのがそれです。製造工程を含め、CPUに関わるすべてのコンポーネントを最適化できます。例えばトランジスタ数が増やせるような製造工程の改善が行われれば、コア数を増やしたりキャッシュを増やしたりして性能の向上に役立てることができます。

しかしもはやCPUの性能だけが問題ではなくなっています。逆にCPUの性能はそこそこでも、デバイス全体の消費電力が低いことだとか、サイズが小さいことだとか、カスタムの回路を自由に組み合わせられるということの方が重要になってきています。

特にiPadやiPhoneに代表されるデバイスでは、サイズと電池の寿命が一番重要であり、まだまだ十分なレベルまで達していない、未解決の課題として残されています。このような状況では、それぞれのコンポーネントを互いに最適化させ、統合し、最後の一滴まで性能を搾りとることが優先されます。ARMのように、CPUを含めて統合が可能なビジネスモデルが好まれるのはこのためです。

垂直統合型のApple社が成功しているのは、自らIT市場にイノベーションをもたらしたから

Apple社の垂直統合モデルが成功するのか、Wintel連合の水平分業モデルが成功するのかという議論があります。多くの評論家は最終的には水平分業モデルが勝つという意見を持っているみたいですが、この人たちの理屈は決まってApple社の成功を説明できていません。Apple社の成功の理由を理解できずに、それでも水平分業が勝つと言い切っているのは、いつ聞いても不思議です。

Christensen氏の理論を理解するとApple社が成功理由は簡単です。

Apple社は既存の技術ではギリギリ作れるか作れないかという製品を世の中に提案し、それを消費者に新しい夢を見せ、消費者に渇望させ、垂直統合によるギリギリの最適化でそれを実現しています。常にレベルの高いものを消費者に提案することによって、垂直統合が栄えやすい土壌を作り上げています。

iPhoneは全く新しいコンセプトでした。同時にiPhoneはソフトウェアもさることながら、ハード面では電池消耗とCPU性能はギリギリのバランスでした。電池がギリギリ一日持つようにCPU性能は制限されていましたし、当初はマルチタスク等が出来なかったのは単純にこのためでしょう。

iPadは業界筋の大方の予想の半分の価格で市場に出ました。あれが10万円する製品だったらあれだけ話題にならなかったでしょう。大部分のネットブックを下回る4万円台で発売されたことは大きな意味がありました。iPadではARMデザインのA4 CPUにより性能の部分と電池の持ちはクリアできていましたが、価格がギリギリです。一年経って現れた競合ですら、価格では全く勝てていません。この価格を実現するために、不必要な部分を削る様々な最適化が行われたことでしょう。

遡ってApple IIのディスクドライブの話に戻ります。これもApple社の垂直統合が大成功した例です。このときSteve Wozniakが天才的なデザインでディスクコントローラを作り上げたおかげで、フロッピーディスクの容量を拡大しつつ、安いコストで製造することに成功しました。フロッピーディスクの容量がまだ90 kilobyteだった時代に、コントローラの改善で113 kilobyteに引き上げたのです。しかも半導体の数を数分の一に減らして、コストを下げています。

こう理解すると、Apple社の垂直統合が経ち行かなくなり、水平分業の方が勝つのはイノベーションが行われなくなったときだと言えます。コンポーネントによってもたらされる性能の向上に比べ、消費者の渇望を高めることが出来なくなったときです。こうなると垂直統合による最適化をしなくても、コンポーネントを普通に組み合わせるだけで顧客の用途を満たすだけの性能が実現できるようになります。水平分業でも十分な製品が作れるようになるのです。

Intelとしては、デバイスのイノベーションが盛んに続くだろうここ数年間は何をしても復活することは無さそうです。Intelのビジネスモデルがもたらす価値が市場に必要とされないからです。市場での影響力が低下するのは避けられそうにありません。

新聞がなせインターネットに乗り遅れ、業績を悪化させているか

AsymcoのHorace Dediuが新聞の現状について、どうしてこうもインターネットに乗り遅れて業績を悪化させているかについて述べています。

The integrated iPad news daily: Read all about it!

現在の新聞社は印刷工程の存在があまりにも巨大であることを紹介し、インターネット時代に適応するには全く新しい形の会社が出現する必要があるのではないかと結んでいます。

要するに新聞にとってのインターネットはClayton Christensen氏が言うDisruptive Innovationであって、新しい企業が主導権を取り、産業構造を変えるものだということです。逆の見方をすると、普通に言われる「良い経営」をしていると既存の新聞社は完全に追いやられてしまうということです。

Disruptive Innovationで主導権を取りうる新しい企業の例としては、Rupert Murdoch氏とSteve Jobs氏が準備していると噂されている”Daily”に期待が集まります。

この”Daily”はiPad専用で、印刷版もWeb版も用意しないそうです。そして毎週たったの$99で購読できます。ざっと今の日本の新聞(例えば日経電子版)のたった1/10の価格です。

これだけの低料金を実現するため、社員構成は今までの新聞社と全く違うものになります。完全にジャーナリスト主体です。100名ほどのジャーナリストとわずか8-10人ぐらいのテクニシャン。これだけの新聞社にするつもりだそうです。もちろん印刷機械等も必要ないので、設備投資も非常に少なく済むでしょう。

ほとんどジャーナリストだけの会社にして、印刷だとか営業、運搬等の業務を行わないということは、まさに新聞社としての本質への回帰です。購読者としては歓迎できることではないかと思います。

逆に日経電子版等が印刷版と比べてほとんど値段を下げられなかった理由は、やはり印刷版とインターネット版を両方抱えることによって生じる様々な内部矛盾にあったのではないかと想像されます。

最終的には記事の質が良いかどうかにかかっていますが、何しろ価格が魅力的なので、”Daily”の形ならかなりいけそうな気がします。

Applied BiosystemsのTaqMan® Assays QPCR Guarantee Programって素晴らしいアイデアだと思う件

Applied Biosystems (Life Technologies)がTaqMan® Assays QPCR Guaranteeというのを始めるそうです。

内容はこうです。

  1. カスタムTaqMan Assayを除くすべてのpre-designed TaqMan Assayが対象です。
  2. 実際に購入してみて、思い通りの性能が発揮できなければ(結果が出なければ)、必要に応じて無償で交換してくれます。
  3. ただし結果が出ない理由がAssay側にあるのか、それともサンプルにあるのかを確認するために、事前にテクニカルサポートに問い合わせる必要があります。

NewImage.jpg細かいことは十分に調べていませんが、このアイデアはとても素晴らしいのではないかと思います。

顧客である研究者にとってみて得なのは一目瞭然です。再実験の手間は仕方ないとしても、追加の費用が発生しないというのは大きな安心です。メーカーがまじめに向き合ってくれるという期待も生まれます。

そしてこの仕組み、実はメーカー側にこそメリットがあるのではないかと思います。Pre-designed TaqMan Assayの仕組みがそうさせています。以下に解説します。

  1. Applied BiosystemsのPre-designed TaqMan Assayは非常に膨大な数になります。ブローシャーの12ページにもありますが、製品はRefSeq (human, mouse, rat)を網羅し、その他のターゲットも多数あります。19の生物種を対象になんと120万 Assayがデザインされています。
  2. 120万 Assayというのはべらぼうに大きい数字です。仮に1アッセイが¥10,000で合成できたとしても(ABIの定価は¥39,000)120億円かかります。これはInvitrogenの日本国内年間売上げに相当する金額です。
  3. このため、Assayのほとんどはコンピュータの中で設計されただけの段階であり、実際に合成されている訳でもなければ、実験的に性能が確認されている訳でもありません。
  4. それでも安心して研究者に利用してもらうにはどうすれば良いかを考えなければなりません。販売前の品質管理が現実的でないのであれば、顧客に品質管理の協力をしてもらうのは一つの選択肢です。

通常であれば、仮にうまくいかないアッセイに当たったとしても、多くの研究者が泣き寝入りすることが多いでしょう。「研究用試薬なんて所詮そんなもの」という割り切りで、メーカーに連絡もしないで損をかぶるでしょう。

一部の研究者はテクニカルサポートに連絡をしてくるでしょう。そしてテクニカルサポート側とすれば、いろいろな面倒が起こると大変なので、その場その場で代替品を無償で提供したりするでしょう。通常であればそのコストは原価ではなく、販売費用に計上されてしまいます。ですからこのようなケースが頻発するようであれば予算の振り分けに影響が出てしまいます。

それに対して今回のように品質保証プログラムを実施すれば、良い結果が得られなかった研究者は非常に高い確率でフィードバックをくれます。そして社内にこれを吸い上げる正式なルートがあるということなので、フィードバックはきっちり製品開発部門に伝わり、次製品の改良に活かせます。その上、テクニカルサポートも非常に明確で分かりやすい対応が可能になり、顧客への接し方も良くなるはずです。経理上の問題にしても、このプログラム内であればコストはすべて原価に反映されますので、販売部門の予算への影響がありません。

もう一つ、このプログラムのメリットを大きくしているのは、代替品が簡単に作れるということです。所詮は計算機で設計して化学合成するだけの話ですし、通常のターゲットであれば、計算機がはじき出すデザイン候補は複数あるはずです。そこである1つのアッセイがうまくいかなかったら、計算機がひじき出した2番目の候補を作れば良いのです。そしてこれを顧客に送って、評価してもらえれば良いのです。

抗体の場合はこうはいきません。同一のターゲットに対して何種類もクローンがある訳ではありませんので、代替品を出すと言っても同じクローンしか出せないことの方が多いでしょう。

なおsiRNAはTaqmanアッセイと同様に計算機の中でのデザインが可能ですので、すでに同じようなアプローチが複数のメーカーでとられていると記憶しています(ちゃんと調べていませんが)。ただTaqmanアッセイの方にメリットがある理由は、実験結果がよりクリアだからです。siRNAの場合は生細胞が相手になるので、顧客が行った実験をメーカーがどれだけ信用するかは難しくなるでしょう。とはいうものの知的所有権の関係で競争が激しいので、siRNAに関してはメーカーは積極的にいろいろな策を打たざるを得ません。

感想

このようにTaqMan® Assays QPCR Guarantee Programは顧客にとってもメーカーにとっても非常にメリットのある、かなりウィンウィンの企画だと感じました。そしてそのメリットはTaqMan Pre-designed Assaysの技術およびビジネス上の特徴が背景にあります。

とは言うものの、同じように双方ともメリットのある企画はきっと他にもたくさんあるはずです。一所懸命になって頭をひねらないといけないかもしれませんが、ぜひ多くのメーカーにがんばってもらいたいです。その一助としてバイオの買物.comが役立つことが、僕の大きな願いです。

New York Times : Samsung Galaxy Tabは素晴らしいけど高すぎる

ユーモアたっぷりに最新のガジェットを素人にも分かりやすく紹介してくれるNew York TimesのDavid Pogueの記事。

“It’s a Tablet. It’s Gorgeous. It’s Costly.”

このトピックについてはiPadについて論じた一連のブログ記事で紹介していますので、それとの関連でいくつか引用します。

But the Galaxy doesn’t feel like a cramped iPad. It feels like an extra-spacious Android phone.

ということはAndroidの7インチタブレットはiPadと競合するのではなく、Galaxy SなどのAndroidスマートフォントと競合するってことなのかな?

そもそもどうして各メーカーが7インチタブレットを作っているかを考えると、10インチを作って真っ正面からiPadとガチンコ勝負をすると、ソフト的にも価格的にももっとぼろぼろに負けてしまうからではないでしょうか。

Because the Galaxy runs Android 2.2, it can also play Flash videos online (touché, iPad!). Or at least it’s supposed to. After some delay, I got Flash movie trailers and CNet videos to play, but at ESPN.com, the Play Video button just stared at me sullenly. (My Samsung rep says they play fine for him.)

まぁAdobeがどんなにがんばったって、Flashは終わっていますよね。

Another problem: most of the 100,000 apps on the Android store are designed for a phone-size screen, not a tablet. The Galaxy either blows them up, at the expense of clarity, or lets them float in the center of the larger screen with a Texas-size black border.

This problem, of course, was familiar to early iPad adopters: iPhone apps ran on the iPad, but couldn’t exploit the larger screen. But Apple encouraged programmers to come up with iPad-specific versions, and released a software-writing kit to help them along. Google hasn’t done that yet, so it may be awhile before 7-inch Android apps become the norm.

Googleとしてはまず7-inchタブレット用のAndroidを作らなければならないのですが、10-inchを無視するのも大きなギャンブルになります。ということはスマートフォン用、7-inch用、10-inch用のAndroid OSをGoogleが開発し、そしてアプリ開発者も同じように3つのバージョンのアプリを開発するのかって?それはちょっと考え難いですよね。

Googleとしては、現時点で7-inchタブレットにコミットできないのだと思います。10-inchも考えておかないといけませんので。

The biggest drawback of the Galaxy, though, may be its price: $600. You could buy two netbooks for that money, or four Kindles —or one 16-gigabyte iPad, with its much larger screen, aluminum body and much better battery life. (The iPad gets 10 hours on a charge; the Galaxy, about 6 hours.)

品質の有意性が明白ではないもの関わらず、トップブランドよりも明らかに高い価格で新規市場に参入するなんて、よほどのことがない限りうまくいくはずがないですよね。常識的にはあり得ない。

なんでそうなってしまうのか、それはiPadについて論じた一連のブログ記事でも紹介しています。iPadが発売された2010年1月末時点で、競合が同様の製品を作るのに何年もかかるだろうというのは明白でした。

しかもiPadの発表からすでに10ヶ月近く経ちますので、もう数ヶ月もすればiPadの新しいバージョンが発表されるのは間違いありません。1年前に僕が危惧した通りですが、ハッキリ言って今の時点では勝負になっていません。

Appleの価格競争力の優位性

Appleの価格競争力がすごいことに関する解説がJohn Gruberのブログ、Daring Fireballにありました。

“Apple’s Pricing Advantage”

このブログの中で僕がずっと言ってきたことではありますし、Steve Jobs氏本人も解説しているぐらいではあるのですが、Samsungですら高品質で安価なAndroidタブレットが作れないのがはっきりしてきたということのようです。(123456789

この記事の中でJohn Gruberはパソコン市場とiPod/iPad市場の違いについて述べています。

  1. パソコン市場ではAppleの製品は割高感があるのに、iPod/iPad市場だと価格が安くなるのはなぜか。
  2. 世界で一番Flashメモリを買っていて、メーカーから安く買えることが大きな原因でしょう。
  3. パソコン市場ではひどいデザインとか低品質のパーツを使ってもパソコンが売れてしまうが、iPod/iPad市場ではAppleがスタンダードになってしまっていて、まともな競合はこのスタンダードを目指さなければなりません。そのため安いパーツでごまかすことが出来ません。

僕は3番目の視点には気付いていなかったのですが、確かにそうかもしれません。

こう考えてみると、“Back To The Mac”の戦略的意義がすごく大きいことがわかります。

つまりAppleとしては、パソコン市場をiPod/iPad市場に近いものに誘導し、変質させることができれば、パソコンの価格競争力においてもAppleが圧倒的に優位に立てる可能性があります。

一番分かりやすいのはMacBook Airでハードディスクを排して、Flashメモリ(SSD)オンリーにする戦略です。パソコン用の保存領域としてFlashメモリがスタンダードになれば、Appleのパソコンは競合他社と比較して相対的に安くパソコンが作れるようになります。

いずれFlashメモリが標準になるのは必然で、時間の問題でしかないのですが、そのスピードを加速させることによってAppleは他社に先んじて価格競争力を身につけようとしているのではないでしょうか。

アナリストからはMacBook AirとiPadがカニバライズするのではないかという心配があったのに対して、Apple自身は全く気にしてないようです。よくよく考えてみるとAppleにとって大切なのはそういうことではなく、如何にマーケットをFlashメモリに切り替えさせ、自分たちの強みを最大化するかかも知れません。そういう意味ではiPadでもMacBook Airでも何でもいいから、一刻も早くFlashメモリをスタンダードにしたいのかもしれません。

そんな気がします。

Netscape創設者Marc Andreessen イノベーションについて

Netscape創設者の一人でインターネットブラウザの普及に決定的に大きく貢献したMarc Andreessen氏は、現在ベンチャーキャピタルの運営をしていますが、全く新しいスタイルのブラウザ、RockMelt Browserの開発会社に何億円相当ものを投資をしているそうです。

僕はTwitterは使うけどFacebookはほとんど使っていませんので、これが成功するかどうかについて語る立場には全くありませんが、Seattle Timesの記事に書かれていたAndreessen氏の言葉が非常に気に入りました。

Andreessen is convinced Internet Explorer’s lead remains vulnerable, even after more than a decade of domination and repeated upgrades.

“I don’t believe in mature markets,” he said. “I think markets are only mature when there is a lack of innovative products.”

「成熟したマーケットというのが存在しないと思っています。イノベーティブな製品がなくなるとマーケットが成熟するだけだと思います。」

product life cycle.pngマーケットが成熟したかどうかは単純にはその成長率で計ります。そして一般的な考え方ではどんな市場も次第に成熟していき、イノベーションが起こらなくなり、成長がとまり、そして価格競争等で利益が出なくなり、最後には衰退していくとしています。そしてこれを必然的なことと考えています。

ライフサイクルは必然的に進行し、その結果としていつかイノベーションが起こらなくなり、そして市場が成熟化するというのは、マーケティング等のテキストブックによく出てくるプロダクトライフサイクルの考えです。しかしAndreessen氏は因果関係が逆だと言っています。単に何らかの理由(独占・寡占による怠慢?)でイノベーションが停滞し、その結果としてマーケットが成熟するだけだとしています。マーケットの成熟ステージに関わらず、探しさえすれば常にイノベーションのチャンスは常にどこかにあり、その努力をしなくなってしまった結果がマーケットの成熟化だという考え方です。

DigitalHub.jpg2000年頃のパソコン市場は成熟化し、衰退に向かっていくマーケットだと考えられていました。インターネットの普及によって一気に盛り上がったパソコン市場ですが、2000年頃にはもうパソコンはおしまいだという論調が大勢を占めました。その代わりユビキタスコンピューティング等がもてはやされ、いずれパソコンがなくてもPalmなどのデバイスで十分だと考える評論家がほとんどでした。その結果としてパソコンメーカーは価格以外に攻め手がなくなり、価格競争が激化しているとされました。そのときにAppleのSteve Jobs氏はキーノートスピーチの中でDigital Hub戦略を発表し、パソコン市場は成熟してしまったのではなく、むしろこれからが第三の黄金時代(Digital Lifestyleの時代)を迎えると主張しました。そしてiTunes、iMovie、iPhotoなどを発表し、そしてiPodも発売しました。この戦略が見事にはまったのは、もう皆さんもご存知の通りです。

NewImage.jpgバイオの世界について言えば、2005年頃のDNAシークエンサーが成熟市場と言われていました。ゲノム解読の熱がいったん冷め、そしてキャピラリー電気泳動によるSanger法も完全に成熟した技術になりつつありました。僕も当時、アプライドバイオシステムズ社に転職するかどうかを考えてたりしていましたので面接を何回か受けましたが、話題は「あなたならうちのシークエンスビジネスをどうやって停滞から抜け出させるか」と言ったたぐいのことばかりでした。

しかし2005年秋に454 Life Sciences社が売り出したGenome Sequencer 20によって展開はがらりと変わりました。次世代シークエンサーの開発競争が白熱化し、半導体におけるMoores Lawを遥かにしのぐ勢いで一気にイノベーションが活発化しています。成熟してしまったと思われていた市場が、一気にバイオサイエンス全体のイノベーションドライバーになりつつあるのです。

僕がメーカーで主にマーケティングを担当していたのは、主に成熟期から衰退期と言われた製品でした(454 Life SciencesのGenome Sequencer 20も短期間担当しましたが)。でも上記の事例を見ていたので、絶対に成熟し切った訳ではないはずだと信じていました。今でも強くそう思っていますし、Marc Andreessen氏の言う通り「成熟したマーケットは存在しない」と思っています。ただ何かのイノベーションが必要です。イノベーション無しではマーケットは成熟してしまいます。

バイオの買物.comはライフサイエンス製品のイノベーションの活発化を強く望んでいます。それも次世代シークエンサーのような話題を集めるけれどもユーザが少ない大型機器だけではなく、PCR酵素、クローニング酵素、細胞培養用試薬など、どっちかというと成熟したと考えられるけれども、一方で非常に多くの利用者がいる製品分野でのイノベーションです。まず製品購入の意思決定にイノベーションをもたらし、研究者とメーカーの距離を縮め、製品のイノベーションが起こりやすい環境を作れないか。そんな形で貢献できたらいいなと思っています。

Grouponの割引を見て、バイオ業界のキャンペーンを考える

Grouponという会社やそのビジネスモデルが最近非常に話題になっているらしく(ただそういう僕もつい最近知ったのですが)、確かに面白いと思うのですが、その割引率が結構すごいんです。

Grouponについてはこのブログがたくさん書いていて、リンクした記事以外にも多くの記事があります。

それで実際にGrouponのウェブサイト(シカゴ)に行ってみると、何に驚くかというと割引率のすごさに驚きます。50%引きはまさに当たり前で、それより少ない割引率はほとんどありません。Grouponの日本法人のサイトを見てもやはり割引率はすごくて割引率は50-90%の間。多いのは50%強の割引のようです。

groupon.pngバイオの業界でも結構大きな割引が横行しているのですが、さすがにここまではなかなか割り引きません。少なくとも公に行う割引キャンペーンは50%までです。

Grouponのような大幅な割引を行うことの危険性についてはOPEN Forumの“To Groupon or Not to Groupon: The Cost of Offering Deep Discounts”という記事がありました。この記事ではRice Universityが行った調査を引用していて、Grouponを利用した1/3の企業にとっては利益面ではプラスにならなかったと紹介しています。

それでGrouponをうまく活用するためのアドバイスが紹介されていて、例えば

  1. リピート顧客が取れるようにキャンペーンをデザインしなさい
  2. 新規の顧客層が狙えるようにしなさい
  3. 新規顧客に限定しなさい
  4. 空いている時間やリソースを埋めるように使いなさい

個人的にはあまり賛同しないアドバイスもありますが、50%以上の割引をするときは確かにいろいろな注意が必要でしょうね。

バイオの業界で割引キャンペーンを担当していた僕としては常に意識していたものばかりではあるのですが、よくまとまった記事だと思います。バイオの業界で割引キャンペーンをやってうまくいくと通常より2-3倍ぐらいは売れるのですが、この程度では利益面ではプラスになりません。というか、確かにバイオの試薬は粗利が多いのが一般的ですが、それでも30%引きして利益が増えるほどではありません。

僕なんかが割引キャンペーンを割と盛んにやっていたのは、どちらかというと広告宣伝費という気持ちからです。バイオの業界は広告宣伝が未発達で、効果がしっかり出そうな広告媒体はありません。しかもほとんどが代理店を介して研究者と接しますので、分かりやすい割引キャンペーンでもやってチラシを用意しておかないと、代理店の担当者はメーカーのことを紹介してくれないのではないかと心配してしまいます。新製品はまだいいのですが、古いけど良く売れている製品は影が薄くなりそうなのです。

また財布の問題もあります。広告を打つときは、年初に割り当てられた広告宣伝費を使うことになります。これはしばしば削減の対象になってしまいますので、あまり余裕のないところです。それに対して割引キャンペーンを実施するときの損失分(利益を失った分)は、最終的な利益にならないというだけの話ですので、年初に予算化されて固定された上限がある訳ではありません。それぞれの会社の考え方や予算管理の仕方、目標設定の仕方にもよると思いますが、少なくとも僕がいたところだと同じ金額を消費するにしても、広告宣伝を行うよりも割引キャンペーンを実施する方がよほど簡単でした。そういうこともあって、本来ならば値引きせずにバラエティーのある活動を行って製品をPRしたかったのですが、経費として使えるお金がないので仕方なく割引キャンペーンを良くやりました。

まとめ

確かに割引キャンペーンは一時的に有効なことが多いのですが、割引率を大きくしないと注目してもらえなかったり、利益が下がったり、リピート顧客が獲得できなかったり等といった問題をたくさんはらんでいます。紹介した記事にはいくつかアドバイスはありますが、それに沿うぐらいでは解決できない問題もたくさん残っています。

それでもバイオの業界でキャンペーンが多いのは、ひとことで言えばメーカーの無策なのですが、実際にはそうせざるを得ない業界構造や社内の構造(これは日本だけでなく世界的に)があって、メーカーがそれに流されているだけという側面があります。

バイオの買物.comのようなサイトがそういう業界構造を変革し、より幅広いPR活動が行われるようになればいいなと考えています。まだまだ先の話ですが。

Appleの企業文化はiPhoneに不利か

New York Timesの記事に“Will Apple’s Culture Hurt the iPhone?”というのがありました。

割とバランスが取れた記事です。MacintoshがWindows PCに追いやられたのと同じように、iPhoneがAndroidに追いやられるかどうかについて議論しています。

Openが必ずしも勝利するかどうか分からないと言ったことだとか、Appleにスケールメリットがあることとかに言及しています。

ただ非常に大きなポイントを忘れています。

iPhoneがAT&Tのネットワークにしか載っていないこと。そして最初からiPhoneがVerizonに載っていれば、Androidの躍進はかなり抑制されただろうということ。つまりオープンとかクローズドが問題ではなく、Appleとキャリアの権力闘争が一番の背景にあることがこの記事からすっかり忘れられています。

みんな、オープンvsクローズドが好きなんですよね。

Steve Jobs が喋る!

Appleの記録的な売上げと利益を報告したアナリストとの電話会議にスティーブジョブズ氏が参加し、いろいろな思いをぶちまけたことがウェブで話題になっています。文章に起こしたものはここで読めます。

スディーブジョブズ氏が考えるイノベーションについて、いろいろなヒントがありましたので、僕が面白いと思った箇所を取り上げたいと思います。

In reality, we think the open versus closed argument is just a smokescreen to try and hide the real issue, which is, “What’s best for the customer – fragmented versus integrated?” We think Android is very, very fragmented, and becoming more fragmented by the day. And as you know, Apple strives for the integrated model so that the user isn’t forced to be the systems integrator. We see tremendous value at having Apple, rather than our users, be the systems integrator. We think this a huge strength of our approach compared to Google’s: when selling the users who want their devices to just work, we believe that integrated will trump fragmented every time.

And we also think that our developers could be more innovative if they can target a singular platform, rather than a hundred variants. They can put their time into innovative new features, rather than testing on hundreds of different handsets. So we are very committed to the integrated approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “closed.” And we are confident that it will triumph over Google’s fragmented approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “open.”

Googleは自らオープンを戦略の柱にしていると語っています。それに対してスティーブジョブズ氏はオープンとかクローズドかというのはあまり意味がないと反論しています。そうではなく、最終顧客にとって何が一番良いか、そしてアプリを開発してくれるソフトウェアデベロッパーにとって何が一番良いか。それだけが問題だと考えているようです。

そして何が一番良いかの一つの結論として、Appleは製品ラインアップを減らし、重複する機能を削減し、常に整理整頓されたポートフォリオを持つようにしています。MacでもiPodでもそしてiPhoneでも。

(iPadとその競合について)And sixth and last, our potential competitors are having a tough time coming close to iPad’s pricing, even with their far smaller, far less expensive screens. The iPad incorporates everything we’ve learned about building high-value products, from iPhones, iPods and Macs. We create our own A4 chip, our own software, our own battery chemistry, our own enclosure, our own everything. And this results in an incredible product at a great price.

垂直統合の結果として、iPadは非常に製造コストを安くできているという話です。一般的な定説では垂直統合は高コストの製品につながります。しかしこのブログでも紹介していますように、特にイノベーションが盛んに行われている市場のステージでは垂直統合によってむしろ価格は安く抑えられます(議論が十分に練れていなくて申し訳ありませんが)。

The reason we wouldn’t make a seven-inch tablet isn’t because we don’t want to hit a price point, it’s because we don’t think you can make a great tablet with a seven-inch screen. We think it’s too small to express the software that people want to put on these things. And we think, as a software-driven company, we think about the software strategies first. And we know that software developers aren’t going to deal real well with all these different sized products, when they have to re-do their software every time a screen size changes, and they’re not going to deal well with products where they can’t put enough elements on the screen to build the kind of apps they want to build.

まず、Appleは自分たちを”software-driven company”と考えていて、何よりも最初にソフトウェアの戦略を立てているというのが面白いです。考えてみると当たり前なのですが、改めて言われるとなるほどと思ってしまいます。

そしてスティーブジョブズ氏いわく、7インチのタブレットでは有用なソフトを作成するにはサイズが足りないとのことです。興味深いことに、7インチタブレットを発売する予定のメーカーにしても、7インチのサイズを高く評価している評論家にしても、ソフトウェアの使い心地についてはほとんど語っていないように思います。そうではなくて、大きさとか重さとか持ち運びのしやすさ等を議論しています。Appleは自分たちを”software-driven company”としていますが、競合は逆にまだ”hardware-driven company”であって、評論家たちもまだ”hardware-driven critics”のように感じられます。別に”hardware-driven”であること自体には何の問題もないのですが、ただAppleやその競合を批評するときにはこの視点を忘れてはいけないと思います。

ちなみに7インチタブレットで最も話題性のあるSamsung Galaxy Tabの紹介ビデオを見る限り、掲載されているソフトのUIはsmartphone用のものを大きくしただけのように見えてしまいます。iPadのアプリの多くは画面を複数の領域に分けて、一度に多くの情報を表示するようにしています。それに対してGalaxy Tabのソフトはsmartphoneと同じように、一度に一つの情報だけを表示し、あとは画面を切り替えていくというアプローチを取っているようです。スティーブジョブズ氏の言わんとしていることはこの辺りだと思います。

バイオ業界との関連で思うこと

メーカーが販売しているキット製品を評して、「若い人は原理も解らずに使うから困る」とか「中身が解らないからトラブルシューティングができない」とかよく言われます。クローズドな製品であることに対する不満です。

僕も近いうちに、キット製品におけるオープンとクローズドについて考えてみたいと思います。

それと”software-driven company”ということと関連して、各メーカーおよび代理店は自分たちが何-drivenかをよく考えたら良いと思います。それは製造プロセスかも知れないし、物流システムかもしれません。新技術を発見し育てる能力かも知れないし、マーケティングや営業力かもしれません。問題解決力や製品サポート力かもしれません。何となく市場を見ていると、自社の本当の強みを理解できずに変なことに手を出しているメーカーが多いような気がしています。

小売りマージンの考え方とバイオ業界について勉強

自分自身がメーカーに勤務していた以外は、時間を取って流通について勉強したことがありませんでしたが、ちょっと気になって調べました。

一般的な小売りのマージンはどれぐらいだろうか

平成19年商業統計確報というのが経済産業省のウェブサイトにあります。卸売業と小売業のいろいろな統計を紹介しています。この中のV.商業企業の年間商品仕入額、年間商品販売額、電子商取引の状にマージンの統計があります。

バイオ業界における代理店(池田理科とか、岩井化学とか)が小売りなのか、それとも卸売りなのか、ケースバイケースでちょっと曖昧なので両方のデータを貼っておきました。

distributor margins.png

retail margins.png

卸売り業界全体で18.6%のマージン、小売業界全体で27.6%のマージンがあるということです。

バイオ業界の代理店ではこんなに大きなマージンはありません。希望小売価格に対する卸値で見ればマージンは大きいように見えますが、代理店が研究室に製品を販売するときは希望小売価格では納入することはほとんどないと思います。必ず割引しています。平均するとどれぐらいのマージンになっているかは僕も資料がないので分かりませんが、経済産業省の統計のような20%弱(卸)から30%弱(小売)の水準ではないと思います。

就業者一人当たりの年間売上げ

これはこっちの資料になります。

distributor per head.png

retail per head.png

卸売業界では1.17億円、小売業界では2,022万円を売り上げているとのことです。

これに対してバイオの代理店では例えば岩井化学池田理科を見ると、従業員一人当たりおおよそ1億円を売り上げています。

医薬品の流通問題に関する資料

厚生労働省の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」の資料がありました。

その中でもこの資料にあった下記の図がバイオの業界を良く表しているように感じました。

sales-distribution-channel.png

バイオの業界に通じそうな問題も多そうなので、要勉強です。