Firefoxの功績を考える:FirefoxはなぜGoogleから10億ドルがもらえるのか

Images先週GoogleとFirefoxはパートナーシップを更新し、Googleから3年間で10億ドル(800億円弱)が支払われることになったと報じられました。

Chrome Engineer: Firefox Is A Partner, Not A Competitor

Firefoxは今までもGoogleとのパートナーシップが主な収入源で、実に84%に相当していました。この資金の見返りとしてFirefoxのデフォルトの検索エンジンはGoogleとなり、Googleに広告収入が入るのをFirefoxが手助けするという形になります。

今回更新された契約額は以前のものよりも数倍高くなっているようです。Firefoxのマーケットシェアは20%以上で、競合のMicrosoftに持っていかれてしまうのをGoogleが恐れた可能性もあります。

いずれにしてもGoogleはChromeというやはりシェアが20%の製品を抱えながらも、競合のFirefoxとパートナーシップを継続しているわけです。そこで自分なりにブラウザ開発の歴史を振り返り、このパートナーシップの意義について考えたいと思います。

Googleにとって大切なのは、ウェブが進化すること

上述の Chrome Engineer: Firefox Is A Partner, Not A Competitor ではChromeのエンジニア Peter Kastingの言葉を引用しています。

People never seem to understand why Google builds Chrome no matter how many times I try to pound it into their heads.

It’s very simple: the primary goal of Chrome is to make the web advance as much and as quickly as possible.

It’s completely irrelevant to this goal whether Chrome actually gains tons of users or whether instead the web advances because the other browser vendors step up their game and produce far better browsers. Either way the web gets better. Job done.

It’s not hard to understand the roots of this strategy.

Google succeeds (and makes money) when the web succeeds and people use it more to do everything they need to do. Because of this Chrome doesn’t need to be a Microsoft Office, a direct money-maker, nor does it even need to directly feed users to Google. Just making the web more capable is enough.

Firefox is an important product because it can be a different product with different design decisions and serve different users well.

要するにGoogleはウェブの広告から収入を得るので、多くの人がブラウザを使ってインターネットを活用してくれれば十分です。その人たちがChromeを使おうが、Firefoxを使おうが、Googleにとっては同じなのです。

もちろんこれがGoogleの本心かどうかはわかりませんが、ブラウザの歴史を振り返ると、妙に納得します。ついこの前までブラウザの暗黒時代がありましたから。

ブラウザのイノベーションの完全な衰退

1995年のInternet Explorer 1.0の公開で始まったブラウザ戦争は、90年代後半にはマイクロソフト社が圧倒的に優勢になりました。そしてブラウザ戦争に完全勝利し、Netscapeをほぼ完全に駆逐したマイクロソフト社は2001年8月のInternet Explorer 6の公開以来、ブラウザの開発に力を入れなくなります。5年後の2006年10月になってやっとInternet Explorer 7を出しますが、5年というのはあまりにも長い年月です。

いくら市場を独占したとは言え、ここまで開発が滞るというのは驚くしかありません。それだけ完全なマイクロソフト社の勝利だったのです。

Firefoxは不死鳥だった

Firefoxの歴史はWikipediaに紹介されています(“History of Firefox”)。2002年に登場したときはFirefoxではなく、Phoenix(不死鳥)という名前でした。

2002年というのはNetscape vs. Internet Explorerのブラウザ戦争がすでに完全に決着していた時代です。当時のInternet Explorerのマーケットシェアは96%に達し、Netscapeは完全に駆逐されていました。完全に打ちのめされた状態からの復活を目指したのがFirefoxだったのです。不死鳥という名前がついていたのも納得です。

そのFirefoxはマイクロソフト社がずっとブラウザをアップデートしない間、もっと快適なウェブブラウジングがしたいと願うユーザの間で着実に利用者を増やしていきました。

Safariはアップルの復活には不可欠だった

アップル社は完成度の高い製品を作ることで差別化をしている会社です。デザインやハードウェアもそうですが、ソフトウェアの完成度が高くないとアップル社は存続することができません。それは今も昔も同じです。

2000年頃、インターネットの存在が大きくなるにつれ、ブラウザの役割は巨大になっていきました。パソコンの価値の大半はブラウザが快適に動作するかどうかにかかっていました。当時、マイクロソフト社とアップル社はMac版のInternet ExplorerをMacのデフォルトブラウザにするという契約を取り交わしており、Macのブラウザは完全にマイクロソフト社に依存していました。なおこの契約は、ジョブズ氏が今にも破産しそうなアップル社を救済するために推し進めたマイクロソフト社との提携の一環でした。

しかしマイクロソフト社が開発したMac版のInternet Explorerはウィンドウズ版とは別の製品であり、様々な点で見劣りしていました。

そこでマイクロソフト社との契約が切れる頃、アップル社はSafariの開発を発表します。

Safariの最大の特徴はずばり”Speed”でした(下のビデオでもそれを強調しています)。それを実現するためにFirefoxとは全く別のエンジン、WebKitという新しいエンジンをアップルが独自に開発しています(KHTMLというオープンソースのエンジンがベースです)。

i-BenchのHTML Load Speed Testでは、Mac版のIEの53.7秒に対して、Safariは16.6秒だったとアップル社は紹介しています。Netscapeも33.6秒、Chimera (後にCaminoと呼ばれたFirefoxライクなNetscape系ブラウザ)は21.8秒と、いずれもSafariにはかないませんでした。Safariのことを”Turbo Browser”といったほどです。

なお公開された当初のSafariはまだバグが多く、うまく表示できないウェブサイトが多数ありました。しかしアップル社は開発を続け、2005年にはAcid2テスト(ブラウザのバグが少ないことを証明する試験)に合格します。SafariはAcid2テストに合格した最初のブラウザでした。

Google ChromeはいってみればWindows用のSafari

スピードを最重要視し、なおかつバグの少なさでも一流のSafariでしたが、ウィンドウズ版はありませんでした。2007年にウィンドウズ版のSafariは公開されましたが、以後は力を入れてプロモーションされることもなく、普及しませんでした。

その中で2008年末に発表されたGoogleのChromeは、Safariをウィンドウズに持ち込みました。

Chromeはアップルが開発したSafariと同じWebKitエンジンを使用し、そしてSafariと同じようにスピードを最大の売りとして登場しました。同じエンジンを使用していますので、Safariと同様にバグが非常に少ないものでした。

GoogleはChromeのスピードの速さを高らかに謳っていて、それを実現するための相当な工夫が行われています。しかしそれが可能なのも、大変厳しい状況の中で生まれたWebKitがあったからこそです。

なお非常に詳細なChrome対その他のブラウザのベンチマークはこちらからどうぞ。

モバイルではWebKitが圧勝

スマートフォンでは主要OSはそろってSafari譲りのWebKitを使っています。アップルのiPhone, iPod Touch, iPadはもちろんのこと、GoogleのAndroid、BlackBerry、Nokiaのスマートフォン、HPのWebOS、Samsungが開発中のBada OSもすべてWebKitをベースとしたブラウザを搭載しています。最大の理由はWebKitが軽くて速いからといわれています。

スピードを最重視してWebKitを開発したアップル社の先見性が、スマートフォンの普及に大きく貢献したといえます。

今はまさにブラウザの黄金時代

Wikipediaの記事では“The second browser war”と紹介されています。

Internet Explorerの開発も加速し、マイクロソフト社もようやくバグの少なく、かつ高速なブラウザを開発することに本腰を入れています。マイクロソフト社が本腰を入れるとやはり強力で、Internet Explorer 9は性能面でかなり好成績を収めています。

HTML5というウェブの新しいフロンティアも生まれ、各ブラウザはHTML5を早くサポートしようと競争が激化しています。モバイルもまだ未解決の問題が多く、同様にブラウザ開発者に新しい課題を与えています。

Firefox, Chromeのマーケットシェアもともにシェアが20%を超えています。

Netscapeが打ちのめされて、マイクロソフト社が完全勝利を果たした後にやってきたブラウザの暗黒時代。その中で地道によりよいウェブの実現のためにがんばっていたのがFirefoxでした。自社の復活をかけたアップル社のWebkitも加わり、Googleも乗っかり、10年間をかけて、ブラウザの世界に新しいイノベーションの黄金時代がようやくやってきました。

これを知ると、GoogleがFirefoxを応援し、Firefoxを必要と感じる理由がよくわかります。