タブレット市場で何が起こっているかの仮説

Androidタブレット市場の怪

タブレット市場ではAndroidがマーケットシェアを拡大していると言われていたものの、理解しがたい不思議な点がいくつかありました。

  1. Androidタブレットは出荷台数では大きなシェアを奪っているものの、どれだけ使用されているかを示す統計では20%に届きませんでした。
  2. iPad miniの登場以降、9.7インチのiPadだけでなく7.9インチのiPad miniがかなり多く売れるようになりました。とはいえ、9.7インチモデルも相当数売れていて、使われています(例えばFiksuのデータでは、iPad 4の使用率がiPad miniを若干上回っています)。一方でAndroidタブレットの10インチモデルはほとんど売れません。このあたりの統計はGoogleは公開していませんが、Benedict Evans氏が考察しています。つまりiPadでは9.7インチモデルが売れるのに、Androidタブレットでは10インチモデルが全然売れないのです。
  3. タブレットの市場は最近の数四半期を見る限り、成長が大きく鈍化しています。特にiPadについては、iPadの新機種待ちという事情はあるものの、前年比でほぼフラットになっています。Androidタブレットは1年前はほとんど売れていなかったこともあり、前年比こそは大幅に成長していますが、前期比ではやはり成長が大きく鈍化しています。
  4. Androidタブレットの販売台数の半分は中国のnon-brand市場です。しかしウェブの使用統計などを見る限り、中国国内でもこれらのタブレットは余り使われていません。
  5. Androidには、タブレットに最適化されたアプリのがわずかしかありません。Androidタブレットは市場に大量に出回っているにもかかわらずです。これだけのビジネスチャンスがあれば、当然Androidタブレット専用アプリがもっと登場しても良いはずです。

上記から推察されるのは、Androidタブレットの市場とiPadのマーケットは何かが根本的に異なることです。何が違うのかはわかりませんでした。しかし最近、中国の市場に関する情報が出てきて、そこからだんだんとAndroidタブレット市場の姿が見えてきました。

中国のAndroidタブレットはビデオ専用

実はAndroidタブレット市場の半分以上は、中国で売られている非ブランド品の超安価なタブレットです。以下のグラフはBen Bajarin氏のものを引用しました。

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Ben Bajarin氏がこの中国タブレットについて解説しています;

First, most of these low cost tablets in the category of ‘other’ are being used purely as portable DVD players, or e-readers. Some are being used for games, but rarely are they connecting to web services, app stores, or other key services.

It is certainly not a genuine revenue opportunity for app developers, services companies, or other constituents in the food chain.

この中国タブレットはほぼDVDプレイヤーやeBookリーダー代わりに使われていると言うことです。そしてウェブへのアクセスやアプリの購入には全然使われていないので、アプリ開発者などにとっては全く魅力のない市場セグメントです。

どうして中国だけが突出しているのか?

DVDプレイヤー代わりにタブレットを使うのは別に中国だけではありません。例えばiTunes Storeでは映画をレンタルしたりダウンロードしたりできますし、アメリカではテレビ番組を見ることもできます。

どうやら中国でタブレットが人気なのは、著作権違反のとりしまりが緩いことと関係しているようです。

11月3日の朝日新聞に「スマートTV中国席巻 緩い著作権、ネット動画見放題」という記事が掲載されました。これはスマートテレビ市場の話ですが、タブレットについてもあてはまるでしょう。

中国では米動画サイト「ユーチューブ」は閲覧できない。代わりに、国内の動画サイトでは、テレビ番組や映画が大量にアップされている。国内放映の番組は放送直後からほとんどネット視聴でき、話題の映画でも公開から3~4カ月後には無料視聴できる。国内コンテンツは権利者の許諾を得たものが主流だが、日本のドラマなど海外コンテンツは違法にアップされているものも少なくない。

こういう国内状況ならば、ビデオ閲覧だけのためにタブレットが購入されるのも納得がいきます。

他のAndroidタブレットはどうか?

上記は中国のタブレット市場に関する話です。それは他の「ブランド品」のAndroidタブレットはどうでしょうか?例えばSamsungやAsus、Google NexusやAmazon Kindle Fireなどのタブレットはどうでしょうか?

Androidタブレットのウェブ使用率が低いというのは中国だけの話ではなく、例えば米国市場でも顕著に見られます。これはTim Cook氏がプレゼンの時に良く紹介しているChikitaのデータでわかります。またAmazon Kindle Fireはそもそもがウェブ閲覧やアプリの購入ではなく、Amazonからの電子書籍購入やビデオ購入を目的に開発されたデバイスです。

中国タブレットと同様に、「ブランド品」のAndroidタブレットも同様の使われ方をしている可能性は決して低くありません。

ビデオ専用で買ったとしても、どうして他の用途に使わないのか?

中国のタブレットはビデオの閲覧のために購入されているということですが、とはいえれっきとしたAndroidタブレットです(Google公式のものではありませんが)。ウェブを閲覧することもメールを確認することもできますし、ゲームだったできます。その気になればワープロとしても使うことができます。

なのにそうはなっていません。

なぜか?なぜビデオ閲覧以外の用途に使われないのでしょうか?

可能性としては以下のことが考えられます;

  1. 中国人の多くはそもそもウェブ閲覧やメールをあまりしない可能性。
  2. ウェブ閲覧やメールはスマートフォンですませている可能性。
  3. ウェブ閲覧やメールはパソコンですませている可能性。

この中で1.は可能性が低いでしょう。そうなると2.もしくは3.の可能性が残ります。中国で売られている携帯電話の91%がスマートフォンであるというデータもあり(これは米国の87%を超えています)、2.の可能性の方が断然高そうです。

つまりビデオ専用で買われた中国タブレットが、それ以外の用途で余り使われない理由は、スマートフォンにその用途を奪われているためと推測できます。ビデオ鑑賞には優れているものの、ウェブ閲覧やメール作成の用途については、中国タブレットはスマートフォンよりも利便性が落ちると言うことです。

今度は質問をひっくり返します。「どうしてiPadはよく使われているのか?」

すると自然な答えは、iPadはビデオ鑑賞にしても、ウェブ閲覧にしても、メール作成にしても、スマートフォンより利便性が高いから、ということになります。

タブレットはOSにしても操作性にしてもスマートフォンと同じなので、当然競合する可能性があります。中国製タブレットはビデオ鑑賞以外では完全にスマートフォンに競合して負け、iPadではスマートフォンと棲み分けができている感じです。中間に位置するブランド品のAndroidタブレットもまたスマートフォンと競合して、かなりの部分で負けている可能性があります。

Androidタブレット専用アプリはなぜ少ないのか?

一番自然な答えは、Androidタブレットのユーザが少ないからとなります。ウェブ使用率を見るとAndroidタブレットのユーザは少ないという結果になっています。アプリについて同じ結果になっても不思議ではありません。

Androidタブレットの販売台数が多いのにユーザが少ないのは、上述したようにAndroidタブレットが主にビデオ観賞用に使われていること、スマートフォンと競合していることと関連しています。

ユーザが少なければ、そして収益につながらなければアプリを作る理由もありません。ましてやタブレット専用のアプリを作る余裕はありません。

他にもいろいろな説明は可能ですが、上記の最も素直な理屈が真実に近いだろうと私は考えています。

10インチのAndroidタブレットがなぜ売れないか?

この謎に対する解答はまだありません。

例えば小飼弾氏も先日ブログで書いていますが、Androidの主力である7インチはウェブを見るのには狭すぎると感じる人がいます。これは新しいことではなく、Phil SchillerがiPad miniの発表で話した内容と同じです。

それなのにどうしてAndroidの10インチタブレットは売れないのか。

一番わかりやすいのは、タブレット専用アプリが少ないからでしょう。スマートフォン用アプリを拡大しただけのようなアプリは7インチなら我慢できますが、10インチだとバカバカしくなります。

10インチAndroidタブレットが売れないのはこのためでしょう。

タブレットの成長はなぜ鈍化しているのか?

iPadの成長が鈍化し、Androidも対前年比では成長著しいものの対前期比では大きな成長をしていない話は、このブログでも以前に紹介しています()。

世の中はとかくiOS vs. Android的な見方をしますが、用途別で見ると、ポストPC用途(ウェブ閲覧やメール)の市場が鈍化しているのに対し、ビデオ観賞用とが伸びているという構図にも見えます。

これらは本来は全く別の市場ですので、分けて考えるべきです。

ビデオ観賞用の市場はTVの普及率から見ても極めて大きいものです。特にTVは通常は一家に一台ですが、タブレットでTVを見るのであれば、家族一人あたり一台ということも想定できます。

それに対してポストPCというのはまだ流動的な市場です。ポストPC時代の主役がタブレットになるのかスマートフォンになるのか、それとも引き続きPCが主役であり続けるのかも不明です。スマートフォンは一人一台の時代が来ることは想定できますが、タブレットがどれだけ普及するかは未知数です。

こう考えるとタブレットの成長が鈍化したのは、ポストPC時代の主役がタブレットではないこと、そしてタブレット市場が飽和しつつあることを示しているのかも知れません。

またまだタブレットにはイノベーションが起こる可能性があるので、ずっと飽和したままであり続けることはないでしょうが、ひとまずは飽和してきたと私は見ています。

まとめ

繰り返し出てくるのはAndroidタブレットの市場とiPadの市場が全く異なることです。

この原因と意義をしっかり理解しない限り、タブレット市場で何が起こっているかは理解できないでしょう。