iPadに関する自分の予想を振り返る

iPad生誕3周年ということで、3年前に自分がどのような予想を立てたかを振り返ってみようと思います。

そもそもこのブログは自分の考え方がどれだけ確かなのか、自分はどれだけ世の中の流れを正確につかめているかをはっきりさせるために書き始めています。もし自分が世の中を正確に把握できているのであれば、それなりに高い確率で予言が的中するはずです。逆に予言が的中しないということは、世の中を理解できていないということです。そういう意味でもiPadの発売当初に自分が立てた予想を見返すのは重要です。

私が書いたのは以下のポストです;

  1. iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命
  2. iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと

その中で以下のような予想をしています。

普通に考えたら、iPadと対等な製品を開発するのに5年はかかるのではないでしょうか。そのときはもちろんiPadも進化しているはずです。

iPadのすごいのは、アイデアがすごいのではなく、アップル社以外に作れないのがすごいのです。

iPadがどれだけ売れるかはまだ分かりません。でもかなり売れる可能性もあります。売れるとしたら、その市場セグメントはしばらくアップルが何年間も独占します。iPhoneがスマートフォンを席巻しているよりもさらに激しく、そのセグメントを独占してしまうでしょう。そういう大きな構造変化を起こしてしまう危険性を、iPadは持っていると思います。

そしてその根拠としてアップル社の垂直統合のすごさをあげています。

アップル社の垂直統合というのは、CPUからハードの組み立てからOSからアプリケーションソフトからオンラインショップまでのすべてをアップル社が持っているということです。そしてiPadにおいてはこのすべてのアップル社製になっています。アプリケーションソフトは確かに3rdパーティーが作ったものが非常に多いのですが、その流通チャンネルをアップル社が完全に握っているという意味ではやはり垂直統合モデルの一部と考えても良いと思います。

3年前の言葉ですが、2013年の今の状況を正確に予測できたことがわかります。特に「iPadと対等な製品」というのを「iPadと同等の人気がある製品」と定義すれば、3年たった今も対等な製品は全く現れていないと言えます。

また多少なりともiPadの人気に食い込んでいるのがAmazon Kindle Fireですが、これが成功しているのはハードウェアとコンテンツ販売を統合しているからであって、これもまた垂直統合の一つです。つまり水平分業しているところはどこもiPad人気に食い込めず、唯一垂直統合を試みたところが一つ成功しているだけです。垂直統合に着眼したことの正しさの裏付けにも思えます。

それならこの先はどうなると予想されるのか

とりあえず3年前の予想が今のところ当たっていそうなので、私の着眼点が正しかった可能性が高いと言えます。ならば同じ着眼点でさらに先を予想してみることができます。

私は3年前に述べたことをもう少し引用します。

特に問題なのはワードプロセサーと表計算ソフト、プレゼンテーションソフトのいわゆるオフィス系ソフトです。いまのところWindowsの世界で使われているオフィス系ソフトはほとんどマイクロソフトオフィスだけです。Google Appsという選択肢はありますが、まだまだ一般化している状態ではありません。そしてフリーのOpen Officeなどもありますが、無料だという以外には魅力のない製品です。ですからiPadに十分に対抗できるような製品(iWorkが使えるという意味で)を作るには、やはりマイクロソフトオフィスを載せることが、少なくともここ数年のスパンで見たときには必要になります。

アップル社の垂直統合の中でも特に真似るのが難しいのは、OSとアプリケーションソフトの両方を作るノウハウだと述べました。3年前のブログではアプリケーションソフトとしてオフィスソフトウェアのことだけを述べましたが、これはiPhotoやiMovieなどのマルチメディア系のソフトについても当てはまります。

私の3年前の予想では、アプリケーションソフトを含めた垂直統合ができない限り、iPadに対抗できる製品は作れないとしています。そしてこれを実現できる可能性がある会社はMicrosoft社とGoogle社であるとしました。そこでMicrosoftとGoogleの現状を見てみます。

GoogleはAndroid OSをかなり改善してきました。もちろんiOSという明確なターゲットがあって、基本的にはそれを真似れば良いし、それを法律ギリギリのところでやってきましたので改善は難しいことではありませんでした。その一方でアプリケーションソフト、つまりAndroid用のGoogle Docs(Google Drive)というのはあまりパッとしません。未だにプレゼンテーションソフトが無いなど、今時のオフィス業務をカバーできる状況ではありません。

MicrosoftはWindows 8の販売が不調と報じられ、また新タブレットのSurfaceもあまり売れないと言われているなど、まだ戦う体勢が整っていません。Androidと異なり、Microsoftは単にiOSを真似るのではなく、新しいアプローチを試みました。そのためにタブレット用の新OSの開発だけで時間がかかり、ようやくスタートラインにたった状況です。

このように3年たった今でも、GoogleおよびMicrosoftは未だにアプリ−ケーションソフトを含めた垂直統合でiPadに対抗できる状況にありません。したがって3年前の予想の通り、まだまだiPadの独占は続くでしょう。

予想とずれた点

私は当初はiWorksなどのオフィスアプリケーションを中心に考えていましたが、実際のiPadの使用状況を考えるとその視点は狭かったようです。iPadで実際によく使われているのはオフィスアプリケーションばかりではアンク、むしろブラウザやメール、写真、Facebook、Twitterなどです。それでも結果として予想が当たったのはなぜでしょうか。

考えてみれば当たり前ですが、スマートフォンやタブレット、そしてPCを使っているとき、私たちが実際に接するのはOSそのものではなくアプリです。アプリの善し悪しがそのデバイスのエクスペリエンスの善し悪しを決めます。オフィスアプリケーションだけでなく、すべてのアプリがそうです。

OSの主な役割は、アプリ開発の土台を提供することです。MacWrite, MacPaint以来、25年間のアプリ開発の経験を持つアップルはその土台がどうあるべきかをよく知っています。自らがOSの開発と、その上で動作するアプリの開発の両方を行っているので、アプリ開発の優れた土台が作れます。そしてサードパーティーのアプリ開発を的確に支援できます。

新しいモバイルOSはいくつも誕生しています。PalmのWebOS、FirefoxのFirefox OS、SamsungらのTizen OSなどがそうです。しかしOSの役割を考えれば考えるほど、優れたOSが作るためには豊かなアプリ開発経験が不可欠に思えます。新しいOSを作っているところが一番欠けているのは、このアプリ開発経験かも知れません。

予想の修正

2010年時点で、私は「iPadと対等な製品を開発するのに5年はかかるのではないでしょうか」と述べました。これを修正します。2013年の現時点からさらに5年かかりそうだというのが新しい予想です。本当はもっともっと時間がかかりそうな気がしていますが、ITの世界で5年以上先を予想するのはさすがに難しいので、5年に留めます。

修正の理由は以下の通り;

  1. タブレット市場はアプリの優劣が重要。その点、GoogleもMicrosoftもまだまだ戦える状況にありません。
  2. 「メディアを消費するためのタブレット」という誤った方向にシフトしつつあるAndroidが、生産性アプリなどに再び目を向けるには時間がかかります。
  3. Androidのフラグメンテーション問題は複雑なアプリの開発に相当マイナスに働きそうです。
  4. Androidタブレットの価格破壊はイノベーションを阻害します。
  5. iPadの真の対抗馬はAndroidではなくWindows 8だと私は思っていますが、出足が思った以上に遅いです。
  6. Androidそのものの方向性が変化し、「iPadと対等な製品」の開発を支援できなくなるかも知れません。