競合が出てくると、自分にもプラス (BlackBerryの売上倍増)

日本以外の先進国に行くとBlackBerryという携帯電話があります。会社のメールやスケジュール管理ソフトと直接連動する携帯電話で、一般にスマートフォンと呼ばれる種類の製品です。日本では最近ようやくDoCoMoが売り始めていますが、まだ全然浸透していません。

このBlackBerryを販売しているResearch In Motion社(R.I.M.)の第4四半期の売上と利益が前年比で倍増したというニュースです。

競合のiPhoneが話題をさらっていて、Windows Mobileを超えていきなりアメリカ スマートフォン市場の27%を奪ったにも関わらず、どうしてBlackBerryがこんなに売れているのか。Cannaccord Adamsのアナリスト、Peter MisekはiPhoneが投入されたことによってスマートフォン市場が脚光を浴びたと考えているようです。「『BlackBerryとかiPhoneがあるんだったら、Razr(大人気の超薄型携帯)を買うことは無いな』と思う人が増え始めています。R.I.M.にとってはiPhoneが一番大きく貢献したのではないだろうか」

まだ利用者が比較的少ない新しい製品のマーケットでは、競合企業が出てくることによってマーケット全体が活性化して、パイが拡大することはよくあります。初期段階のマーケットの顧客は非常に限られたニッチ顧客で、特別なニーズがあったり、もしくはマニアだったりすることがほとんどです。BlackBerryは大企業ユーザには広く浸透していましたが、小さい企業やプライベートユースではほとんど顧客を集められていなかったと思われます。

Appleという有名大企業がスマートフォン市場に参入することによって、小さい企業やプライベートユースでのスマートフォン利用が急拡大したと考えられます。そして何らかの理由でiPhoneを選択できなかった多くの顧客がBlackBerryに流れたと考えられます。

さて話をライフサイエンスに戻しますと、インターネットを利用したマーケティングや広告宣伝というのはまだ非常に寂しい状態です。ちまたではインターネット広告が雑誌を抜いたなどと話題になっているのですが、日本のライフサイエンスでは全然そんな状態にありません。Nature Japanのウェブサイトに行ってもメーカーの広告はほとんどありませんし、羊土社もそうです。いずれもバナー広告をかなり低料金で募集しているのですが、メーカー広告が載っていることなんて滅多に無いので、気づいていない人がほとんどだと思います。

ライフサイエンスでのインターネットマーケティングを普及させ、ビジネスにしようという会社は少しずつ現れています。バイオ・コンシェルジェバイオインパクトバイオ百科などです。でもまだまだ活気が出てきていません。メーカーのマーケティング担当をしていた時の僕の感覚からいうと、ライフサイエンスでのインターネットマーケティングはまだまだ実験的なものです。僕も広告掲載などをお願いしましたが、実際の効果を期待していたというよりは、こういう会社にはがんばってもらいたいという応援の気持ちが大部分です。

多くの会社が参入してきて活気が出てくればどんどんパイが広がっていくと思いますので、どんどん参入してほしいものです。僕の「バイオの買物.com」もその一つになっていくと思いますが。

 

技術サポートを”Ask A Scientist”と呼ぶ

Sigma-Aldrich (大きいメーカーなのに日本語ウェブサイトがあまり役に立たないのですが)の英語のウェブサイトを見ていたら、おもしろいものが見つかりました。

製品ページ
http://www.sigmaaldrich.com/catalog/search/ProductDetail/SIGMA/G8168
ここの右側に

普通なら”Technical Support”と書いてある所ですが、”Ask A Scientist”と書いておいてあるのが面白いところです。「ちゃんと技術がわかる人がお答えしますよ」ということを強調したいんですね。

ちなみに僕が知っている限りでは、アメリカやヨーロッパのテクニカルサポートの人はPhDをもっていないか、PhDを持っていてもその後すぐに研究をやめたような人でした。ですから、それほど技術に詳しくない人がどちらかという多かったですね。バイオベンチャーバブルがはじけた後ですが、ポスドクをやった人がメーカーに入ってきたことがありました。その人の知識は格段に上でしたね。

日本だとテクニカルサポートは大抵修士卒ですが、やはり修士をとってすぐにメーカーに入ってきている人が多いので、技術はあまり詳しくないことが多いですね。もちろん入社後に努力してとても詳しくなる立派な人はいますが、残念ながら多数派ではないようです。社内の教育体勢にもよりますけど。

ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す

表題の「ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す」という考え方は別に新しいものではなく、これに関する著書は割とよく聞きます(僕自身は読んだことはありませんが)。どっちかというとミスに対してというよりは、その後に発生するクレームに関することが多く書かれているという印象はありますが。

今回は僕が購読しているブログにたまたまNetflix Says They’re Sorryという記事(英文)があったので、取り上げたいと思います。この記事で紹介しているのは、ブログの著者がウェーターをやっていたとき、クレームを上手に処理するといつも顧客が感心してくれてチップが弾んでいたそうです。そこで今度はさらに一歩先にいって、顧客が気づかないようなミスであってもわざわざ教えていたというのです。

さてライフサイエンスの業界では、顧客である研究者は一般にメーカーの技術サポートをあまり信用していなくて、「どうせわかっていない人が電話に出ているんでしょう」と考えている人が多数派ではないかと思います。メーカーに電話をするというのは最後の手段みたいなところがあって、簡単に別のロットと交換してくれそうなときとか、あまり技術的ではない質問のときに限って電話するという感じです。少なくとも僕を含め、何かうまくいかないときにメーカーに電話する人は僕の周りには一人もいませんでした。

このようにメーカーと研究者が離れてしまっている状態というのは、もちろんあるべき姿ではありません。製品で問題があったときには研究者がすぐにメーカーに連絡してくれるような、研究者がメーカーを信頼してくれるような関係が本来は理想的です。

そのような関係はもちろん簡単には築けるものではありません。でもバイオの業界ではこのブログに書いてあるような「ミス」というのは結構頻繁に起こります。社内システムがしっかりしていないことが多いので、納期遅れや小さな不良品、リコールというのは日常茶飯事です。ミスにうまく対応するにはもちろん人的リソースをしっかり割くことが重要ですが、それを優先課題と位置づけてきっちりやれば、「ミス」から逆に顧客との信頼関係を築く機会はいくらでもありそうです。

僕がメーカーの日本支店を経営していたら、研究者の技術サポートが十分にできる部隊をお金をかけて作り上げ、「ミス」を利用して研究者と会話する機会を作り出して、研究者の間で話題になるぐらいの対応をしていくのがいいと思いますけどね。僕がメーカーに勤務していたときは、ボスはそのリソースの必要性を全然理解してくれなく、結局は何もできずじまいでしたが。

バイオの製品比較サイト Biocompare

アップデートその2
この記事を書いてから、私が作っているバイオの買物.comはかなりアップデートしています。是非ご覧下さい。

アップデート
Biocompareの抗体検索に、日本のメーカー情報を連動させたサイトを作りました。まとめて抗体検索にありますので、試してみてください。
製品の機能と価格の比較もできます。

英語版しか無いのですが、ライフサイエンス製品の比較サイトとしてBiocompareというものがあります。ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)統合TVサイトビデオによるBiocompareの解説もあります。またJun Seita氏のブログにも紹介されています。

どうも抗体検索機能を高く評価している人が多いようです。

Biocompareはこのようにライフサイエンスで一番有名な製品比較サイトであり、事実上唯一のものです。ライフサイエンスの製品は多くのメーカーから多くの製品が販売されているので、このようなウェブサイトがあるというのは非常にありがたいのは間違いの無いことです。しかしBiocompareは比較サイトとしては本当に十分なものでしょうか。例えば価格.comと比べるとどんなものなんでしょうか。

結論を先に言うと、Biocompareは価格.comなどに比べれば、製品比較サイトとしてはずいぶんとレベルが低いと言えると思います。以下、解説します。

カテゴリー分けに依存しすぎていて、カテゴリーが細かすぎる

例えばPCR用の酵素を探したいとします。そのときは Molecular Biology > PCR/Real-Time PCR > PCR Reagents までいきます。さらにここから > Thermostable Polymerases に入る分けですが、ここに入ったときのカテゴリー分けが実にびっくり。

ちょっと普通に考えると訳が分からない分かれ方になっています。例えばOther Thermostable Polymerasesというカテゴリーが出てきますが、TgoとかTflというのがどんなpolymeraseなのかはPCRマニアでもなかなか知らないはずです。そして実はTgoというのはRocheが発売している非常にFidelityが高いPCR酵素なのですが、これは左にあるHigh Fidelity Polymerasesのカテゴリーには入っていないのです。

提携していないメーカーの製品は載せていない

同じPCR用酵素の中で例えば High Fidelity Hot Start Polymerase を見ると、9つのメーカーの製品が紹介されています。そして下の方に

というのが表示されて、リストアップされていないけど該当する製品を取り扱っているメーカーが表示されています。

繰り返します。下の方に表示されているメーカーの製品はBiocompareの製品リストの中に含まれていません。しかもその中には、PCR酵素で有名なStratagene、それほど有名ではないけど比較的知られているClontechも含まれています。

もっと悲惨な例もあります。Plasmid Purification Kits (Midi)になんとQiagenがない。なんじゃそりゃ〜〜〜!!

つまりBiocompareは情報を提供してくれたメーカー(Biocompareにお金を払わないといけないのかどうかは不明)の製品は載せますが、そうでないメーカーは載せていないのです。Biocompareには網羅性が基本的にありません。Biocompareを見たって言っても、実は一番有名な製品を見逃してしまう可能性は高いのです。

絞り込み抽出条件はメーカー名のみ

驚くべきことに、Biocompareの絞り込み検索はメーカー名しかありません。

これに対して価格.comはこんなに絞り込み条件があります。

大部分の製品は価格が載っていない

どっちみち日本の価格ではなく、アメリカでの価格なので直接関係はないのですが、Biocompareの大部分の製品は価格が掲載されていません。

これはかなり う〜ん という感じです。

比較するスペックが少ない

一覧表で表示されるスペックが非常に少ないです。どうやって比較するんだという感じです。例えば以下の例では、PCR酵素の容量しか書いてません。容量だけ書いてあっても、価格が書いてない訳ですから、いったい何を比較すればいいだって感じです。

これに対して価格.comでは

もう比較のしやすさが月とスッポンです。

ユーザレビューが書き込めない

決定的に重要なことですが、Biocompareでは製品ごとに書き込みをすることができません。価格.comやAmazonでは、製品ごとにユーザが自由に製品をレビューしたりできます。しかしBiocompareにはその機能がありません。

研究者というのは基本的にはメーカーの言うことよりも他の研究者のいうことを圧倒的に信じます。サイエンスというのがpeer reviewの上に成り立っている以上、これは当たり前のことです。なのにユーザがレビューを書き込めないのはBiocompareにとっては大きな欠点と言えると思います。

結論

今回はBiocompareの一側面しか見ていませんが、”compare” = 「比較する」という所においてかなり弱いことがはっきりわかると思います。

どちらかというと「あっ、こんな製品もあったのか」という発見には便利なのですが、そこから掘り下げて具体的にどの製品を購入するかを判断するためには、結局ユーザは相当な不便を強いられることになります。

ライフサイエンスの世界ではBiocompareの競合となる製品比較サイトが無いので、まぁ現状ですませているのでしょうが、製品比較サイトとしては決してレベルの高い作りにはなっていないと言っていいと思います。

まぁ、ひとことで言うと

Bio “compare” ではなく Bio “見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない” という名前の方がbiocompareのサイトを正しく表現していると思います。

この記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

Google的世界とAmazon的世界

ふと思ったことですが、同じウェブ2.0でもGoogle的世界とAmazon的世界があるなと。そしてそれぞれかなり方向性が違うなと。

Google的な世界で起こっていること;

  1. 簡単にウェブサイトを構築できるツールが非常に多くなっています。ブログツールもそうですが、CMSやSNSだってフリーでホスティングできるようになっています。
  2. ウェブの制作を完全に外注しても、10万円台からやってくれる会社が結構あります。
  3. SEO対策をやってくれるという会社が、もう掃いて捨てても捨てきれないぐらいに多いです。次から次に作られていきます。

要するに、小さなウェブサイトが無数に増えていって、そしてGoogleのような検索エンジンがそれらをすべてランキングし、見つけられるようにする世界です。そしてそれぞれのウェブサイト管理者がSEOなどを施し、Googleでのランキングを上げるように努力する形です。アダム・スミスの言う「神の見えざる手」の役割をGoogleが演じ、無数のウェブサイトは個々バラバラにアクセス数を稼ごうとする中で、結果としてウェブ上の情報が豊かになって人の役に立つように発展していくという世界観です。

それに対してAmazonというのはかなり違う形の世界を描いています。

  1. 可能な限り多くの製品を一つの屋根の下に納め、Amazonが販売します。
  2. 書評を書く人は個々のブログに書き込むのではなく、Amazonのウェブサイトに書き込みます。
  3. コントロールされた自社サイト内の情報と自社で製品を購入した顧客の情報を解析し、各顧客にカスタマイズされたベストの情報を導きだしています。
  4. Amazonで販売されている書籍の評価や売れ行きは、このコントロールされた中で収集された情報の解析結果に左右されて、決定されていきます。

Googleは個々人が無秩序に作成した無数のウェブサイトを解析し、さらにそのウェブサイトを見えざる手で導いています。それに対してAmazonは、自分がコントロールするシステム内に膨大な情報(読者の書評)が書き込まれる仕組みを用意し、コントロールされた環境内での顧客の動向を観察し、誘導しています。

どちらもユーザが作った情報を主体としているという意味でWeb 2.0的です。しかし、無秩序さのレベルにおいて大きく異なります。

完全な無秩序であっても、各ウェブサイトの情報をロボットが理解できるのであればGoogleとAmazonの世界はほとんど同じ結果をもたらすでしょう。同じ情報が書かれているのであれば、Google的世界のようにその情報が無数のウェブサイトに書き込まれていようが、Amazonのように一つの定型システムの中に書かれていようが、結果はそう変わらないはずです。

しかし現実には、GoogleのPage Rankアルゴリズムやその他の自動解析技術は、各ウェブサイトの内容を理解することができません。様々なフォーマットで書かれた無数のウェブサイトの内容を、全体として理解することはできないのです。ですから、少なくとも今の技術水準では、Amazonのような定型システムにしない限り、数多くの情報を総合して全体として理解することは困難なのです。実際Amazonを使うと目的の本が非常に簡単に見つかるのに、Googleだとなかなか目的の情報が見つからないとか、余計な情報ばかり見つかるという経験は誰でもしているでしょう。

残念ながらAmazon的な活動よりもGoogle的な活動が、特にビジネスと関連するところで目立つように思います。ノンプロフィットであればWikipediaもまたAmazon的ですし、Linuxのようなopen source softwareもまたAmazon的だと思います。しかし残念ながらビジネスでは競合している会社が互いに一つのシステムに沿って発展するのはなかなか難しいようです。

本当はもう少しAmazon的な会社が、より多くの分野で活躍した方がウェブの発展のためには良いと思いますが。

 

ライフサイエンスでの代理店(ディーラー)の役割 その1

ライフサイエンス分野の代理店について、2chではかなり頻繁に話題になっています(例えばディーラーについてスレッド)。存在意義がどうであるとか、今後も存続していくのだろうかとか。Googleで検索しても2ch以外になかなか生の声がブログなどには掲載されていない用ですが、2chのスレッドもかなり正確で、ライフサイエンス業界の置かれている現状を理解するには良いと思います。一応業界関係者だった人間の意見として。

先のディーラーについてのスレッドの主題だったみたいですが、「(ディーラーの)存在意義を真面目に考えましょう 」というのを僕なりの立場から考えたいと思います。

かなり長い話になりそうですので、結論から先に言います。

僕は何らかの形でメーカーと研究者の間に小売業者が入るべきだと思います。その小売業者の形は現在の代理店の形とは異なりますが、かといって直販を主体とした欧米のライフサイエンス業界の形もあまり良いと思いません。時代の流れていずれはオンラインでの販売が多くなると思いますが、そのときもメーカーサイトからの直販という形ではなく、アマゾンのような小売りが間に入る形が理想的だと思っています。

欧米での事情を含め、話すべきは背景はたくさんありますので何回かのブログに分けて書こうと思います。今回は日本の現状のアウトラインの整理だけをしておきます。

日本のライフサイエンスでの代理店とメーカーの現状

  1. 日本ではライフサイエンス分野の製品の販売の100%近くが代理店を介して行われます。代理店がとってきたのではなく、顧客が自分から勝手に注文した場合およびメーカーの営業が自分自身でとってきた商談であったとしても、後づけで代理店が間に入ってくることがほとんどです。
  2. 代理店を必ず間に入れる理由として、一番はっきりしているのは大学からの代金の回収が非常に大変なケースがあることが上げられます。メーカーは外資系も多いので、比較的厳しい支払い条件を購入者に要求しますが、大学研究者はこの条件に対応できないケースも多いので、代理店がその間を仲介しているという形です。
  3. 大部分の代理店は、製品の知識が非常に不足しています。というか全然ないというのがより現実に近いです。最終顧客である研究者に対して、しっかりと製品を薦めることはほとんどの代理店営業担当者にはできません。
  4. ただし、代理店の営業担当者に製品をすべて把握せよというのもかなり酷な話です。ライフサイエンスの研究試薬はおそらく100万製品ぐらい発売されていて、専門性も高いものが大部分です。最初から勉強をあきらめてしまう気持ちもわかります。各メーカーの営業担当者だって自社の製品だけだって勉強していないのが現状ですし。
  5. 日本のライフサイエンス分野の代理店はほとんど在庫を持ちません。研究者から注文が入った時点でメーカーに注文し、翌日届いた製品をすぐに研究者に持っていくだけです。非常によく売れる一部の製品については在庫をとっていますが、95%の製品については研究者から受注が来てからメーカーに発注しています。
  6. もっとも外資系メーカーの日本支店もかなり限られた在庫しか持ちません。全製品の半分以下しか在庫を持っていないでしょう。販売数量が少ない製品はほとんどは注文が来てから海外に発注しています。しかも海外からの発送は週に1回しかないので、国内に入って顧客の手元に到着するまでは通常2週間程度かかってしまいます。
  7. 販促キャンペーンはほぼメーカー主導です。メーカーが大々的にキャンペーン中の割引率などを末端顧客に案内します。代理店が戦略を練って、販促資料などを用意して、顧客を呼び込むという活動を行うことはほとんどありません。
  8. 欧米では大部分はメーカーが末端顧客にダイレクトに販売しています。一部代理店はありますが、日本のようにほとんどの注文が代理店を通るということはありません。その一方でアメリカなどは国土面積が非常に大きいので、メーカーの営業がくまなくエリアをカバーすることなどは不可能であり、ダイレクトメールなどが大切になります。またメーカーの営業は、一般に大きい顧客しか訪問しないようにしています。
  9. 欧米ではフリーザープログラムというのが流行しています。これはそれぞれのメーカーが研究所のスペースを借りて、そこに自社専用の冷蔵・冷凍庫を置き、その中に自社の試薬だけを置きます。そして研究者は、試薬が欲しいときにその都度、この冷蔵・冷凍庫から取り出すのです。富山の薬売りと同じ形態です。また別の言い方をすれば、これは各メーカーの自動販売機を置いているのと同じです。実際、このフリーザーというのはバーコード読み取りやオンライン接続、タッチパネルディスプレーなどかなりのハイテクが導入されており、大型機器並みの価格です。このフリーザープログラムの場合、どこにフリーザーを置かせてもらえるか、近くに他社のフリーザーがどれだけ置いてあるかなど、かなり小売店舗での販売スペース競争みたいなことがメーカー間で起こるのは容易に想像できます。
  10. 日本は、新製品の売れ行きが世界の中でかなり早い方です。他国と比較すると、新製品の売れ行きは2-3倍早いそうです。欧米では直販制度をとっているので、新製品の情報を末端顧客に浸透させるのに非常に時間がかかってしまうのかもしれません。それに対して日本の代理店制度を利用すると、新製品案内が速やかに全国の研究者に届きます。これだけが理由ではないかもしれませんが、情報伝達に置いては日本の代理店網の有用性は高いと言えるでしょう。
今回はとりあえず以上にします。次回以降、より深く話していきたいと思います。

Clontech ProteoTuner System

細胞内のタンパク質の量を、タンパク質レベルで直接制御するキットがClontechより発売されました[日本語] [英語]。さすがClontechという感じのとても面白い製品です。

細胞内のタンパク質のレベルを制御する方法として、通常はmRNAの発現量を調節します。この代表的な製品がこれまたClontechのTet Systemですね。ただし、細胞内のタンパク質の量というのはmRNAの発現量だけでなく、mRNAの安定性、タンパク質の合成量、さらにタンパク質の安定性によって最終的に決定されるので、mRNAの発現量を変えても、タンパク質の量がほとんど変化しないこともあります。また変化したとしても、何時間もしてやっと変化することになるかも知れません。

今回のProteoTunerシステムは、細胞外から膜透過性の因子を添加することによって、細胞内のタンパク質の安定性を変化させて、直接タンパク質の量を上昇させるものです。mRNAの発現量を調節するよりもよっぽど直接的にタンパク質の量を制御できるので、いろいろな面白い実験ができそうです。一度合成されたタンパク質も安定性が低いので、因子を取り除いたらすぐに分解されるので、タンパク質レベルを短時間だけスパイクすることもでできます。

特に早い応答が重要な細胞周期などの研究に利用できそうです。

mixiはどうやって会員を増やしていったか

私はMixiで生命科学関連のコミュニティーに参加していますが、なんだか余盛り上がっていない気がします。バイオ関係のメーリングリストもバイオインフォマティックス関連が主で、ウェットのものでメジャーなものはほとんどないような気がします。
ウェットなもので言うと 医科学・分子生物学の集い、バイオインフォマティックス関係だとbioinformatics-jpぐらいかなと思います。

どうして、活発なコミュニティーが無いんだろうとちょっと不思議です。最近の生物学は非常に高度に細分化されていて、学会に行っても他の分野のセッションは全然聞かずに、関連の深い話題の話だけ聞いているひとが多いと聞きます。自分がよく知っていて、直接会って顔もよく知っているコミュニティー意外との接触を積極的に行わない風潮があるのでしょうか?私自身は製薬企業出身で、そうなるとあまり一つの分野に深く入りすぎる訳に行かないので、どうしても多くの分野の話を聞くことになります。ですから正直、私にはよくわからないところがあります。

その一方で異なる分野の人間と接触することによってクリエイティビティーが刺激されるということは、芸術の世界では非常に当たり前の話になっていますし、バイオの関係でもそのような経験をした人は多いと思います。私はいろいろな分野を実際に経験していますし、マーケティングやっているときにはいろいろな分野の研究者と接することもあるので、これは確信しています。

そう考えると、何かバイオの世界に活発なコミュニティーを築くことができないか、それができれば日本の研究は大いに進むのではないかと考えてしまいます。そのために、ひとまず、mixiが多くの会員を獲得して大きなコミュニティーとして育った背景を調べたいと思います。

以下、今日ネットで調査をした結果です。

  • 最初の頃は社員と社員の知り合いを中心にネットワークを築いていった。
  • その他、公募で人を集めた。ただし、ある程度面接を行い、厳選した。以上はHatenaより
  • 運用開始のプレスリリースCNET
  • 1年で30万人突破CNET
  • 17ヶ月で200万人突破RBBNAVi。こっちには時系列での会員数の増加データもある。

特に最後のユーザ数の時系列的推移が興味深いです。
mixi会員数推移
mixi会員数推移(対数目盛り)
グラフを対数目盛りで見て非常に良くわかるのは、会員10,000人までがおそらく積極的なmixi発の口コミ活動が必要だった時期(言ってみれば臨界値)、それ以降は会員同士の口コミで広がっていったと想像されます。

バイオの世界であれば、規模はうんと小さいので、最大限に拡大しても2-3万人が天井だと予想されます。ですから、10,000人が臨界値のmixiと比べて、おそらくそれよりうんと少ない1,000人ぐらいが臨界値ではないでしょうか。特に根拠はないけど。人の知り合いの知り合いは知り合いという感じで広がっていった場合、どれぐらいのステップでカバーできるかを論じているものとして、六次の隔たりというのがありますが、多少は参考になります。これをmixiで検証しているのがmixi Engineers’ Blogにあります。

さて、本題のバイオのコミュニティーをしっかり作っていく話に戻ります。
数学的なことはよくわからないので、テキトウに数字を出していきます。一般的に六次の隔たりが成立するとして、バイオの業界に限れば人数が少ないこと、さらにより密接につながっていることを考えると3-4次の隔たりがいいところではないでしょうか。ちなみにmixiの分析では、知り合いの知り合いで1300人、知り合いの知り合いの知り合いで既に7万人を突破しています。ということは、魅力的で有用なコミュニティーを築くことができれば、知り合いの知り合いぐらいでもうカバーできてしまう。

良いコミュニティーサイトをしっかり作って、高い評価を受けることができればたちまち情報を広げることができる。例えばNatureのメーリングリストを使ったりして繰り返し広告を出す必要は無く、もっと限定したやり方でも十分によいコミュニティーを作ることができそうです。

その一方で悪い評判が立ってしまったら、たちまちすべてを失うという怖さもありますが。

コカ・コーラの広告効果実験

NikkeiBPに日本コカ・コーラ社が行った広告効果の実験についての紹介記事がありました。
インターネット広告だけでなく、いろいろな広告の組み合わせが重要とする結果に対して、記者の中野目純一氏はこれが意外だと紹介していますが、顧客のモードを考えると特に以外とも言えないと思います。ただ、いずれにしても非常に面白いので、以下に抜粋します。

「週1回以上は飲むようになった」人に対して最大のきっかけとなった広告媒体がどれだったかを聞いたところ、交通機関での広告を挙げた人が20万人近くに達した。その一方で、ほかの媒体は愛飲者を生み出すきっかけにはほとんどなっていなかった。….
つまり、愛飲者を生み出す最強の広告媒体はテレビでもインターネットや携帯電話でもなく、実は駅構内の壁に張られたポスターといった交通機関における広告だったのである。

これが結論で、記者の中野目純一氏が意外と評した点です。確かにこれだけはっきりしたデータが出てくることはあまりありません。そしてインターネット広告の躍進ばかりが話題を集めている状況では、通常の記者にとっては非常に意外にうつるかもしれません。この記事では残念ながらインターネット広告の効果が見られなかった理由については言及していませんし、交通広告が有効だった原因についても議論していません。でもその理由はかなりはっきりしてます。

広告を見ている潜在顧客のシチュエーション、そのときの気持ちのモードを考えれば決して意外ではないと私は考えます。

まずはインターネットについて考えます。前に私が書いたインターネットは本当に広告メディアなのか?でも話していますが、インターネットでは顧客は、情報を得るという明確な目的を持ってネットを見ている訳で、インプレッションを目的としたバナー広告などは邪魔でしかありません。コカ・コーラはイメージで売る製品ですので、インターネットで情報を探して飲むようなものではありません。したがってインターネット広告に向かない製品であるのはかなり明白と思われます。

オンラインの対極にあるのが交通広告と言えます。顧客が交通広告を見るシチュエーションというのは、要するに暇なのです。そして多くの場合、一人ではなく、友人と話したりしています。ですから大して役に立たない情報であっても、顧客はじっくりと見てくれます。また友人との会話のネタにもなります。何よりも、交通広告を見るシチュエーションというのは外に出歩いている訳ですからノドも乾いているでしょうし、近くのキオスクやコンビニ、自動販売機に行けばすぐにコーラが飲めます。それも友人と一緒であれば、その場で品評会でもやればいい訳です。つまり広告を見た後、すぐ後にコーラを買うというアクションがとれますし、友人と品評会でもすれば、コーラの印象が強く残るので、次回もまた購入してくれる可能性が高い訳です。

このように顧客のシチュエーション、モードを意識すれば、今回のコカ・コーラの結果というのは当たり前のように思えます。それじゃー、ここで余広告が無いという結果になったインターネット広告ですが、どのような製品をどのようにプロモーションした場合にインターネット広告は有効なのでしょうか?
残念ながらコカ・コーラ社の調査のように、効果をしっかり測定したデータを私は知りませんので、ここでは上記の議論の延長としてのみ説明します。

おそらくインターネット広告が有効なのは以下のようなケース。

  1. 情報をしっかり調べてから購入することが多い製品。広告主が自社ウェブサイトで情報をしっかり用意していれば、バナーなどから自社ウェブサイトに誘導されたユーザは実際の購入に至るケースが多くなるだろう。
  2. 友人の意見を聞くのではなく、自分の判断で購入することが多い製品。例えば結婚相談、就職斡旋、消費者金融など、どちらかというと友人には敢えて相談したくないような商品の場合、インターネットという、他人に知られることの無い個人空間は非常に都合が良い。

バイオの業界は1.のようなケースが多いはずです。ですから、本来はインターネット広告に非常に向いているはずです。
残念ながらバイオの業界でインターネット広告がまだ十分に利用されていない背景には、おそらくウェブに掲載されている情報の不足があると思われます。学術的な情報はウェブにたくさんありますが、いざ試薬や機器を購入しようとしたときのウェブ上の情報が不足しているのです。結果として、多くの顧客はウェブから得られる情報ではなくて、昔ながらの口コミ情報などに頼って製品を購入してしまっていると思われます。

私がやろうとしているのは、製品の購入に関するウェブサイトとして「バイオの買物.com」を作り、研究者がより多くの情報をウェブから得られる仕組みを作り出すことです。製品の購入に必要な情報を研究者がウェブからすぐに入手できるようになれば、身近な人からの口コミに頼るだけでなく、より幅広い情報の中から、自分にとって最適の製品を選べるようになると期待しています。そうやって、製品を購入するときにウェブを真剣に利用する研究者が増えれば、自ずとバイオの業界でもインターネット広告の有効性が認識され、利用が増えるだろうと考えています。