オブジェクト指向プログラミングと生物学

僕は生化学・分子生物学の研究が専門で、2001年以降にプログラミングを始めています。そしてオブジェクト指向プログラミングをちゃんと勉強したのは2005年頃からです。

プログラミングを勉強しながら、オブジェクト指向プログラミングと多細胞生物の仕組みとのよく似ていることを強く感じました。オブジェクト指向プログラミングではオブジェクト同士がメッセージをやり取りできますが、メッセージをやり取りする以外にはお互いに直接干渉しないようになっています。また各オブジェクトは独立性が高く、作業をするためのメソッドとデータを共に内包しています。

同じように細胞は、仮にそれが人間などの多細胞生物の一部であったとしても、独立性が高く、お互いにサイトカインなどでメッセージをやり取りしています。そして受け取ったメッセージを処理するためのメカニズムはすべて個々の細胞が内包しています。その独立性を最も顕著に示しているのは癌化という現象で、癌化してしまった細胞はサイトカインなどのメッセージを無視して、独自に増殖をし、体の中を駆け回り、そして個体を死に至らしめます。それだけ細胞は独立性を本来持っているのです。

オブジェクト指向プログラミングが生まれた背景には、プログラムは大きくなるととてつもなく複雑になってしまうために、なるべくプログラムをわかりやすい単位に区切ろうという発想があります。同じように多細胞生物というのは、細胞数が50億(人間の場合)に達し、DNAに書き込まれている個体の設計図は3 Giga文字にもなるという非常に複雑なシステムです。

これは僕の勝手な憶測ですが、非常に複雑なプログラムの扱いに人間が困ったのと同じように、生物も進化の過程で同じ困難に直面し、そしてオブジェクト指向という同じ解答に収斂したのではないでしょうか。

細胞生物学とプログラミングの類似性というテーマは、僕がいつか時間をとってまじめに研究したいテーマの一つですが、最近インターネットを見ていたら、オブジェクト指向が実は細胞生物学からヒントを得て生まれたものであることを知りました。

いずれのリンクもAlan KaySmalltalkを作ったとき、大学で学んだ細胞生物学のコンセプトを頭に描いていたことを紹介しています。オブジェクト指向で言うinheritanceとencapsulationをそれぞれ細胞生物学の発生と細胞膜に対比させています。

ただ、細胞生物学とプログラミングの類似性はこれにとどまらず、非常に広い範囲に及ぶと僕は直感的に感じています。

例えば細胞は基本的にsingle inheritanceですが、有性生殖のときだけ例外的にmultiple inheritanceが行えるようになっています。プログラミングではmultiple inheritanceはオブジェクトの拡張が簡単に行えるということで柔軟性が高いものの、state(状態)によるバグが発生しやすくなります(Single Inheritance vs. Multiple Inheritance)。そこでJavaなど多くのオブジェクト指向言語ではsingle inheritanceのみが可能で、interfaceという別の非対称な方法によって柔軟にオブジェクトが作れるようになっています。生物の有性生殖におけるstate(状態)の管理というのはまだ研究が盛んに行われていて、どうなっているかはまだ十分に理解されていませんが、有性生殖によって生じる受精卵はstateがリセットされて状態に近いと考えられていて、したがってmultiple inheritanceが起こりにくい状態になっていると想像されます。ですからこのときだけはmultiple inheritanceが許容されるのかもしれません。そしてJavaのinterfaceのような非対称な継承というのは多細胞生物には無いのですが、大腸菌などの原核生物にはTransformationやConjugationという形であります。大腸菌のような原核生物は受精卵のようなstateのリセットされた状態をつくることが困難なので、非対称のinheritanceをするようになったのかもしれません。

いずれにしてもオブジェクト指向自身が細胞生物学を参考に設計されたということを知って、ますますプログラミングと生物学を対比する研究をしたくなりました。

AISAS理論の近未来

ネットレイティングス株式会社社長の萩原雅之氏のCGMに関する記事を先日読んで、AIDMAに変わるAISASモデルについて始めて知りました。僕自身は欧米のマーケティング情報を勉強していることが多いので、日本発のAISASという言葉は始めて知りました。AIDMAやAISASがどういうことかはその記事に任せて、僕はAISASの真ん中のS (Search)について話したいと思います。

AISASモデルそのものついて詳しく紹介しているページとしてはNBonlineのネットマーケティング用語集のAISASのページが参考になるかと思います。その記事を引用すると、

新しく加わった「Search」は、Yahoo!やGoogleなどの検索サービスの利用が一般化し、商品やサービスに関心を持った消費者が、「まずはネットで調べてみる」行動パターンを指す。最後の「Share」は、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、クチコミ・サイトなどを介して、消費者同士による商品の使用感や感想などの情報交換・共有が日常化してきた状況を表す。どちらも2002年ころから顕在化してきた消費者の行動パターンである。

さて、この紹介については全くその通りだと思いますし、消費者がネットで調べてみるという行為は非常に一般化していると思います。しかし、消費者がネットで調べる行為を「Search」とうい言葉で表していることには多いに疑問を持ちます。

確かにYahoo!とGoogleが「Search」を中心とした広告ビジネスモデルを構築し、これが非常に注目されていることが「Search」という言葉を使った大きな理由だと思います。「Search」で自社の立場を有利にすることを目的とした、SEOという大きな産業も現れました。その意味でネットでの検索を「Search」というひとことでまとめてみたくなる気持ちはわかります。

しかし消費者の目的は「Search」ではなく、「情報を調べる」ということを忘れてはいけません。そして情報を調べる方法がYahoo!やGoogleに代表される「Search」に限らないことを理解しないといけません。

例えば、僕が’SEO’という言葉について調べたいとします。そのときにGoogleで’SEO’と検索してもいいのですが、そうすると’SEO’サービスを提供している会社のウェブサイトへのリンクばかり出てきて、肝心の’SEOとは何か’を中立的に教えてくれそうなサイトが見つかりません。そこで最近ではGoogleで’SEO’と入力せずに’SEO Wikipedia’と入力するようにしています。なぜならWikipediaであれば’SEO’について基礎から詳しく解説している比較的中立的な記事があると期待できるからです。

Page Rank技術などによって飛躍的に性能が向上したとはいえ、GoogleやYahoo!の「Search」はまだまだ利用者が目的としている情報を短時間で的確に提供するサービスにはなっていません。それに対してWikipediaは、適切な記事さえあれば、目的とする情報を非常に短時間で提供してくれます。ですから、「情報を調べたい」と思ったときはまず最初にGoogleをするのではなく、まずWikipediaで調べるということが今後増えてくると思います。

Wikipediaは一般的な情報の記事が多いのですが、各メーカーの製品についてはあまり書いてありません。各メーカーの製品について同じように情報を集めたい場合に活躍するのがAmazonや価格.comのレビュー記事でしょう。

こう考えるとAISASの真ん中はSearchのSではなく、例えばInvestigateのI + CompareのCと考え、AIICASなどとした方がいいように思います。

また僕の考えてでは、SEOなどのSearch中心の技術はあくまでも過渡的な技術であって、最終的にはWikipedia, Amazonや価格.comのように情報が最初からある程度整理されたものが消費者に大きな影響を与えていくのではないかと思います。

実は同じようなことはバイオインフォマティックスの世界で10年ほど前に既に起こっています。コンピュータが全自動で情報をまとめたり優先順位をつけていくことには限界があること、人間が意味を理解しながら一つ一つ整理していかなければならないということが90年代後半にははっきりしてきました。そこで人間によるキュレーションやアノテーションのプロジェクトが進められ、成功しています。同じようにGoogleやYahoo!の全自動サーチ技術の重要性が相対的に減少し、人間が編集したWikipedia, Amazon, 価格.comのようなサイトが主流になっていくのではないでしょうか。

Invitrogen.com培地のページ

Invitrogen.comの培地のページはつくりはまぁまぁわかりやすいのですが、間違いだらけ。それもケアレスミス。

大急ぎで作ったのかな...

ちょっとみっともない。

 

Low glucoseなのかHigh glucoseなのか、どっちだ??

もっとも日本語のサイトはもっとひどくて、成分がさっぱりわからない。価格の載っていないので、正直、何の役にも立たないページになってしまっています。

これだと、一番上のD-MEMと一番したのD-MEMの何が違うのかはさっぱり見当がつかない。一つ一つ培地組成:検索サイトで調べろってこと?

ライフサイエンス業界を元気にするヒント(前アップルCEO 原田泳幸インタビューから)

Macで知られるアップルコンピュータは1990年代の大スランプから見事に復活し、今ではアメリカでMacの売上が全パソコンの21%にまでシェアが回復したそうです。

その成功は決して平坦な道のりではなく、特に最初の頃は非常識とも自殺行為とも思えることをかなりやっていました。例えば販売店を大幅に減らして、大部分の販売店はMacを売ることができなくなりました。またApple Storeを作ったときも、当時はDELLの電話・インターネット販売が主流と考えられていたので、多くのアナリストに非難されました。

しかし、その一見非常識と思える行動が正しかったのです。間違っていたのはマーケティングの常識の方でした。前アップルのCEO 原田泳幸のインタービュー記事が会ったので、そこからいくつかピックアップします。

次の年にiMacを発表する。それまでに相当、販売店のインフラの改革をおこなったり、サプライチェーンのインフラを整えていたから、大成功した。

Steve JobsがAppleに復帰した直後にやったことの中に流通とサプライチェーンの大幅な見直しがありました。これは全世界規模で行われたことで、日本はその流れを踏襲したまでですが、日本の商慣行という大きな壁がありましたので、それを実施するのは大変なことだったと想像されます。でもそれを日本でもしっかり行い、原田氏がおっしゃる通り後の成功の基盤が築かれました。

教訓: 地味ですけど、サプライチェーンのインフラの整備は成功の土台となります

40社以上あった1次卸店を4社に減らして、3000店舗以上あった販売店を100店舗に減らしました。これはとんでもない改革ですよ。

 雑誌を増やしたこともそうですし、ソフトの数を増やしたこともそうですし、販売店インフラのリストラをやったのもそうですが、限りなく経営資源をお客さんのために使うということですね。販売店にお金をあげても、店が多過ぎれば、ディスカウント競争をやってそこで消えるわけです。従って、販売店のマージンを少なくして、その分、お客さんのためにフリーセールス、ポストセールスにお金を使う、そのようにシフトをしていった。

当時のパソコン業界はコンパック・ショックの影響がまだ強く残っており、量販店でどんどんディスカウントをさせていかないとパソコンは売れないと考えられていました。アップルに対しても自社でパソコンを製造することをやめて、クローンメーカーにライセンスさせるべきだという考えが主流で、そうやって安いパソコンを売らないと生き残れないと考えられました。その中で販売店のマージンを少なくして、ディスカウントを抑制して、高い価格でパソコンを販売させるという戦略は自殺行為にも見えました。

でもアップルがやったのは、ディスカウントするのではなく、良質のサービスを提供する環境を整備することでした。マックの販売権のある販売店にはマックの専門家集団を配置させ、きれいにマックを陳列することを義務づけ、マックを見にきたお客様が良いサービスを受けられるようにしたのです。その環境が用意できない販売店はマックが売れなくなったのです。そしてその環境を用意できた販売店はディスカウント競争に巻き込まれないですむために、投資した分の利益をきっちり回収できたのです。

この活動は後のApple Store(直営店)に引き継がれて、アップルのブランドイメージが世界一になることに最終的につながりました。

教訓: ディスカウントでお金を失うのではなく、お客様の役に立つことにお金を使いなさい

これをライフサイエンスに当てはめると、以下のようになるのではないかと思います(メーカーの立場で書いています);

  1. サプライチェーンを見直しましょう。土台が怪しいメーカーが多すぎます。代理店との関係も考え直すタイミングです。
  2. 製品が話題になる環境を作りましょう。パソコン雑誌みたいなものはライフサイエンスには無いけれども、お客さんとか第3者が製品を語り合える環境を作りましょう。Web 2.0をうまく使いこなしましょう。
  3. ディスカウントキャンペーンとか営業強化、代理店政策にばかりお金をかけるのではなく、ポストセールスサービスなどを充実させて末端顧客が喜ぶサービスを提供しなさい。そのためには少数の代理店に徹底して教育をしてあげるとか、自社の営業がちゃんと製品をサポートできるようにしてあげるとかです。
  4. お客様のトラブルシューティングができるぐらいの営業を増やしましょう。研究者は「営業」とは話したがらなくても「学術」とは話したがるという話はよく聞きます。でもそうじゃなくて、どの「営業」でも「学術」並にお客様をサポートできるようにしないと行けません。Apple Store(直営店)のGenius Barのように。
その中で「バイオの買物.com」は2.と将来的には4.あたりに貢献できればと思っています。

競合が出てくると、自分にもプラス (BlackBerryの売上倍増)

日本以外の先進国に行くとBlackBerryという携帯電話があります。会社のメールやスケジュール管理ソフトと直接連動する携帯電話で、一般にスマートフォンと呼ばれる種類の製品です。日本では最近ようやくDoCoMoが売り始めていますが、まだ全然浸透していません。

このBlackBerryを販売しているResearch In Motion社(R.I.M.)の第4四半期の売上と利益が前年比で倍増したというニュースです。

競合のiPhoneが話題をさらっていて、Windows Mobileを超えていきなりアメリカ スマートフォン市場の27%を奪ったにも関わらず、どうしてBlackBerryがこんなに売れているのか。Cannaccord Adamsのアナリスト、Peter MisekはiPhoneが投入されたことによってスマートフォン市場が脚光を浴びたと考えているようです。「『BlackBerryとかiPhoneがあるんだったら、Razr(大人気の超薄型携帯)を買うことは無いな』と思う人が増え始めています。R.I.M.にとってはiPhoneが一番大きく貢献したのではないだろうか」

まだ利用者が比較的少ない新しい製品のマーケットでは、競合企業が出てくることによってマーケット全体が活性化して、パイが拡大することはよくあります。初期段階のマーケットの顧客は非常に限られたニッチ顧客で、特別なニーズがあったり、もしくはマニアだったりすることがほとんどです。BlackBerryは大企業ユーザには広く浸透していましたが、小さい企業やプライベートユースではほとんど顧客を集められていなかったと思われます。

Appleという有名大企業がスマートフォン市場に参入することによって、小さい企業やプライベートユースでのスマートフォン利用が急拡大したと考えられます。そして何らかの理由でiPhoneを選択できなかった多くの顧客がBlackBerryに流れたと考えられます。

さて話をライフサイエンスに戻しますと、インターネットを利用したマーケティングや広告宣伝というのはまだ非常に寂しい状態です。ちまたではインターネット広告が雑誌を抜いたなどと話題になっているのですが、日本のライフサイエンスでは全然そんな状態にありません。Nature Japanのウェブサイトに行ってもメーカーの広告はほとんどありませんし、羊土社もそうです。いずれもバナー広告をかなり低料金で募集しているのですが、メーカー広告が載っていることなんて滅多に無いので、気づいていない人がほとんどだと思います。

ライフサイエンスでのインターネットマーケティングを普及させ、ビジネスにしようという会社は少しずつ現れています。バイオ・コンシェルジェバイオインパクトバイオ百科などです。でもまだまだ活気が出てきていません。メーカーのマーケティング担当をしていた時の僕の感覚からいうと、ライフサイエンスでのインターネットマーケティングはまだまだ実験的なものです。僕も広告掲載などをお願いしましたが、実際の効果を期待していたというよりは、こういう会社にはがんばってもらいたいという応援の気持ちが大部分です。

多くの会社が参入してきて活気が出てくればどんどんパイが広がっていくと思いますので、どんどん参入してほしいものです。僕の「バイオの買物.com」もその一つになっていくと思いますが。

 

技術サポートを”Ask A Scientist”と呼ぶ

Sigma-Aldrich (大きいメーカーなのに日本語ウェブサイトがあまり役に立たないのですが)の英語のウェブサイトを見ていたら、おもしろいものが見つかりました。

製品ページ
http://www.sigmaaldrich.com/catalog/search/ProductDetail/SIGMA/G8168
ここの右側に

普通なら”Technical Support”と書いてある所ですが、”Ask A Scientist”と書いておいてあるのが面白いところです。「ちゃんと技術がわかる人がお答えしますよ」ということを強調したいんですね。

ちなみに僕が知っている限りでは、アメリカやヨーロッパのテクニカルサポートの人はPhDをもっていないか、PhDを持っていてもその後すぐに研究をやめたような人でした。ですから、それほど技術に詳しくない人がどちらかという多かったですね。バイオベンチャーバブルがはじけた後ですが、ポスドクをやった人がメーカーに入ってきたことがありました。その人の知識は格段に上でしたね。

日本だとテクニカルサポートは大抵修士卒ですが、やはり修士をとってすぐにメーカーに入ってきている人が多いので、技術はあまり詳しくないことが多いですね。もちろん入社後に努力してとても詳しくなる立派な人はいますが、残念ながら多数派ではないようです。社内の教育体勢にもよりますけど。

ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す

表題の「ミスを機会に顧客との信頼関係を作り出す」という考え方は別に新しいものではなく、これに関する著書は割とよく聞きます(僕自身は読んだことはありませんが)。どっちかというとミスに対してというよりは、その後に発生するクレームに関することが多く書かれているという印象はありますが。

今回は僕が購読しているブログにたまたまNetflix Says They’re Sorryという記事(英文)があったので、取り上げたいと思います。この記事で紹介しているのは、ブログの著者がウェーターをやっていたとき、クレームを上手に処理するといつも顧客が感心してくれてチップが弾んでいたそうです。そこで今度はさらに一歩先にいって、顧客が気づかないようなミスであってもわざわざ教えていたというのです。

さてライフサイエンスの業界では、顧客である研究者は一般にメーカーの技術サポートをあまり信用していなくて、「どうせわかっていない人が電話に出ているんでしょう」と考えている人が多数派ではないかと思います。メーカーに電話をするというのは最後の手段みたいなところがあって、簡単に別のロットと交換してくれそうなときとか、あまり技術的ではない質問のときに限って電話するという感じです。少なくとも僕を含め、何かうまくいかないときにメーカーに電話する人は僕の周りには一人もいませんでした。

このようにメーカーと研究者が離れてしまっている状態というのは、もちろんあるべき姿ではありません。製品で問題があったときには研究者がすぐにメーカーに連絡してくれるような、研究者がメーカーを信頼してくれるような関係が本来は理想的です。

そのような関係はもちろん簡単には築けるものではありません。でもバイオの業界ではこのブログに書いてあるような「ミス」というのは結構頻繁に起こります。社内システムがしっかりしていないことが多いので、納期遅れや小さな不良品、リコールというのは日常茶飯事です。ミスにうまく対応するにはもちろん人的リソースをしっかり割くことが重要ですが、それを優先課題と位置づけてきっちりやれば、「ミス」から逆に顧客との信頼関係を築く機会はいくらでもありそうです。

僕がメーカーの日本支店を経営していたら、研究者の技術サポートが十分にできる部隊をお金をかけて作り上げ、「ミス」を利用して研究者と会話する機会を作り出して、研究者の間で話題になるぐらいの対応をしていくのがいいと思いますけどね。僕がメーカーに勤務していたときは、ボスはそのリソースの必要性を全然理解してくれなく、結局は何もできずじまいでしたが。

バイオの製品比較サイト Biocompare

アップデートその2
この記事を書いてから、私が作っているバイオの買物.comはかなりアップデートしています。是非ご覧下さい。

アップデート
Biocompareの抗体検索に、日本のメーカー情報を連動させたサイトを作りました。まとめて抗体検索にありますので、試してみてください。
製品の機能と価格の比較もできます。

英語版しか無いのですが、ライフサイエンス製品の比較サイトとしてBiocompareというものがあります。ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)統合TVサイトビデオによるBiocompareの解説もあります。またJun Seita氏のブログにも紹介されています。

どうも抗体検索機能を高く評価している人が多いようです。

Biocompareはこのようにライフサイエンスで一番有名な製品比較サイトであり、事実上唯一のものです。ライフサイエンスの製品は多くのメーカーから多くの製品が販売されているので、このようなウェブサイトがあるというのは非常にありがたいのは間違いの無いことです。しかしBiocompareは比較サイトとしては本当に十分なものでしょうか。例えば価格.comと比べるとどんなものなんでしょうか。

結論を先に言うと、Biocompareは価格.comなどに比べれば、製品比較サイトとしてはずいぶんとレベルが低いと言えると思います。以下、解説します。

カテゴリー分けに依存しすぎていて、カテゴリーが細かすぎる

例えばPCR用の酵素を探したいとします。そのときは Molecular Biology > PCR/Real-Time PCR > PCR Reagents までいきます。さらにここから > Thermostable Polymerases に入る分けですが、ここに入ったときのカテゴリー分けが実にびっくり。

ちょっと普通に考えると訳が分からない分かれ方になっています。例えばOther Thermostable Polymerasesというカテゴリーが出てきますが、TgoとかTflというのがどんなpolymeraseなのかはPCRマニアでもなかなか知らないはずです。そして実はTgoというのはRocheが発売している非常にFidelityが高いPCR酵素なのですが、これは左にあるHigh Fidelity Polymerasesのカテゴリーには入っていないのです。

提携していないメーカーの製品は載せていない

同じPCR用酵素の中で例えば High Fidelity Hot Start Polymerase を見ると、9つのメーカーの製品が紹介されています。そして下の方に

というのが表示されて、リストアップされていないけど該当する製品を取り扱っているメーカーが表示されています。

繰り返します。下の方に表示されているメーカーの製品はBiocompareの製品リストの中に含まれていません。しかもその中には、PCR酵素で有名なStratagene、それほど有名ではないけど比較的知られているClontechも含まれています。

もっと悲惨な例もあります。Plasmid Purification Kits (Midi)になんとQiagenがない。なんじゃそりゃ〜〜〜!!

つまりBiocompareは情報を提供してくれたメーカー(Biocompareにお金を払わないといけないのかどうかは不明)の製品は載せますが、そうでないメーカーは載せていないのです。Biocompareには網羅性が基本的にありません。Biocompareを見たって言っても、実は一番有名な製品を見逃してしまう可能性は高いのです。

絞り込み抽出条件はメーカー名のみ

驚くべきことに、Biocompareの絞り込み検索はメーカー名しかありません。

これに対して価格.comはこんなに絞り込み条件があります。

大部分の製品は価格が載っていない

どっちみち日本の価格ではなく、アメリカでの価格なので直接関係はないのですが、Biocompareの大部分の製品は価格が掲載されていません。

これはかなり う〜ん という感じです。

比較するスペックが少ない

一覧表で表示されるスペックが非常に少ないです。どうやって比較するんだという感じです。例えば以下の例では、PCR酵素の容量しか書いてません。容量だけ書いてあっても、価格が書いてない訳ですから、いったい何を比較すればいいだって感じです。

これに対して価格.comでは

もう比較のしやすさが月とスッポンです。

ユーザレビューが書き込めない

決定的に重要なことですが、Biocompareでは製品ごとに書き込みをすることができません。価格.comやAmazonでは、製品ごとにユーザが自由に製品をレビューしたりできます。しかしBiocompareにはその機能がありません。

研究者というのは基本的にはメーカーの言うことよりも他の研究者のいうことを圧倒的に信じます。サイエンスというのがpeer reviewの上に成り立っている以上、これは当たり前のことです。なのにユーザがレビューを書き込めないのはBiocompareにとっては大きな欠点と言えると思います。

結論

今回はBiocompareの一側面しか見ていませんが、”compare” = 「比較する」という所においてかなり弱いことがはっきりわかると思います。

どちらかというと「あっ、こんな製品もあったのか」という発見には便利なのですが、そこから掘り下げて具体的にどの製品を購入するかを判断するためには、結局ユーザは相当な不便を強いられることになります。

ライフサイエンスの世界ではBiocompareの競合となる製品比較サイトが無いので、まぁ現状ですませているのでしょうが、製品比較サイトとしては決してレベルの高い作りにはなっていないと言っていいと思います。

まぁ、ひとことで言うと

Bio “compare” ではなく Bio “見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない” という名前の方がbiocompareのサイトを正しく表現していると思います。

この記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

Google的世界とAmazon的世界

ふと思ったことですが、同じウェブ2.0でもGoogle的世界とAmazon的世界があるなと。そしてそれぞれかなり方向性が違うなと。

Google的な世界で起こっていること;

  1. 簡単にウェブサイトを構築できるツールが非常に多くなっています。ブログツールもそうですが、CMSやSNSだってフリーでホスティングできるようになっています。
  2. ウェブの制作を完全に外注しても、10万円台からやってくれる会社が結構あります。
  3. SEO対策をやってくれるという会社が、もう掃いて捨てても捨てきれないぐらいに多いです。次から次に作られていきます。

要するに、小さなウェブサイトが無数に増えていって、そしてGoogleのような検索エンジンがそれらをすべてランキングし、見つけられるようにする世界です。そしてそれぞれのウェブサイト管理者がSEOなどを施し、Googleでのランキングを上げるように努力する形です。アダム・スミスの言う「神の見えざる手」の役割をGoogleが演じ、無数のウェブサイトは個々バラバラにアクセス数を稼ごうとする中で、結果としてウェブ上の情報が豊かになって人の役に立つように発展していくという世界観です。

それに対してAmazonというのはかなり違う形の世界を描いています。

  1. 可能な限り多くの製品を一つの屋根の下に納め、Amazonが販売します。
  2. 書評を書く人は個々のブログに書き込むのではなく、Amazonのウェブサイトに書き込みます。
  3. コントロールされた自社サイト内の情報と自社で製品を購入した顧客の情報を解析し、各顧客にカスタマイズされたベストの情報を導きだしています。
  4. Amazonで販売されている書籍の評価や売れ行きは、このコントロールされた中で収集された情報の解析結果に左右されて、決定されていきます。

Googleは個々人が無秩序に作成した無数のウェブサイトを解析し、さらにそのウェブサイトを見えざる手で導いています。それに対してAmazonは、自分がコントロールするシステム内に膨大な情報(読者の書評)が書き込まれる仕組みを用意し、コントロールされた環境内での顧客の動向を観察し、誘導しています。

どちらもユーザが作った情報を主体としているという意味でWeb 2.0的です。しかし、無秩序さのレベルにおいて大きく異なります。

完全な無秩序であっても、各ウェブサイトの情報をロボットが理解できるのであればGoogleとAmazonの世界はほとんど同じ結果をもたらすでしょう。同じ情報が書かれているのであれば、Google的世界のようにその情報が無数のウェブサイトに書き込まれていようが、Amazonのように一つの定型システムの中に書かれていようが、結果はそう変わらないはずです。

しかし現実には、GoogleのPage Rankアルゴリズムやその他の自動解析技術は、各ウェブサイトの内容を理解することができません。様々なフォーマットで書かれた無数のウェブサイトの内容を、全体として理解することはできないのです。ですから、少なくとも今の技術水準では、Amazonのような定型システムにしない限り、数多くの情報を総合して全体として理解することは困難なのです。実際Amazonを使うと目的の本が非常に簡単に見つかるのに、Googleだとなかなか目的の情報が見つからないとか、余計な情報ばかり見つかるという経験は誰でもしているでしょう。

残念ながらAmazon的な活動よりもGoogle的な活動が、特にビジネスと関連するところで目立つように思います。ノンプロフィットであればWikipediaもまたAmazon的ですし、Linuxのようなopen source softwareもまたAmazon的だと思います。しかし残念ながらビジネスでは競合している会社が互いに一つのシステムに沿って発展するのはなかなか難しいようです。

本当はもう少しAmazon的な会社が、より多くの分野で活躍した方がウェブの発展のためには良いと思いますが。

 

ライフサイエンスでの代理店(ディーラー)の役割 その1

ライフサイエンス分野の代理店について、2chではかなり頻繁に話題になっています(例えばディーラーについてスレッド)。存在意義がどうであるとか、今後も存続していくのだろうかとか。Googleで検索しても2ch以外になかなか生の声がブログなどには掲載されていない用ですが、2chのスレッドもかなり正確で、ライフサイエンス業界の置かれている現状を理解するには良いと思います。一応業界関係者だった人間の意見として。

先のディーラーについてのスレッドの主題だったみたいですが、「(ディーラーの)存在意義を真面目に考えましょう 」というのを僕なりの立場から考えたいと思います。

かなり長い話になりそうですので、結論から先に言います。

僕は何らかの形でメーカーと研究者の間に小売業者が入るべきだと思います。その小売業者の形は現在の代理店の形とは異なりますが、かといって直販を主体とした欧米のライフサイエンス業界の形もあまり良いと思いません。時代の流れていずれはオンラインでの販売が多くなると思いますが、そのときもメーカーサイトからの直販という形ではなく、アマゾンのような小売りが間に入る形が理想的だと思っています。

欧米での事情を含め、話すべきは背景はたくさんありますので何回かのブログに分けて書こうと思います。今回は日本の現状のアウトラインの整理だけをしておきます。

日本のライフサイエンスでの代理店とメーカーの現状

  1. 日本ではライフサイエンス分野の製品の販売の100%近くが代理店を介して行われます。代理店がとってきたのではなく、顧客が自分から勝手に注文した場合およびメーカーの営業が自分自身でとってきた商談であったとしても、後づけで代理店が間に入ってくることがほとんどです。
  2. 代理店を必ず間に入れる理由として、一番はっきりしているのは大学からの代金の回収が非常に大変なケースがあることが上げられます。メーカーは外資系も多いので、比較的厳しい支払い条件を購入者に要求しますが、大学研究者はこの条件に対応できないケースも多いので、代理店がその間を仲介しているという形です。
  3. 大部分の代理店は、製品の知識が非常に不足しています。というか全然ないというのがより現実に近いです。最終顧客である研究者に対して、しっかりと製品を薦めることはほとんどの代理店営業担当者にはできません。
  4. ただし、代理店の営業担当者に製品をすべて把握せよというのもかなり酷な話です。ライフサイエンスの研究試薬はおそらく100万製品ぐらい発売されていて、専門性も高いものが大部分です。最初から勉強をあきらめてしまう気持ちもわかります。各メーカーの営業担当者だって自社の製品だけだって勉強していないのが現状ですし。
  5. 日本のライフサイエンス分野の代理店はほとんど在庫を持ちません。研究者から注文が入った時点でメーカーに注文し、翌日届いた製品をすぐに研究者に持っていくだけです。非常によく売れる一部の製品については在庫をとっていますが、95%の製品については研究者から受注が来てからメーカーに発注しています。
  6. もっとも外資系メーカーの日本支店もかなり限られた在庫しか持ちません。全製品の半分以下しか在庫を持っていないでしょう。販売数量が少ない製品はほとんどは注文が来てから海外に発注しています。しかも海外からの発送は週に1回しかないので、国内に入って顧客の手元に到着するまでは通常2週間程度かかってしまいます。
  7. 販促キャンペーンはほぼメーカー主導です。メーカーが大々的にキャンペーン中の割引率などを末端顧客に案内します。代理店が戦略を練って、販促資料などを用意して、顧客を呼び込むという活動を行うことはほとんどありません。
  8. 欧米では大部分はメーカーが末端顧客にダイレクトに販売しています。一部代理店はありますが、日本のようにほとんどの注文が代理店を通るということはありません。その一方でアメリカなどは国土面積が非常に大きいので、メーカーの営業がくまなくエリアをカバーすることなどは不可能であり、ダイレクトメールなどが大切になります。またメーカーの営業は、一般に大きい顧客しか訪問しないようにしています。
  9. 欧米ではフリーザープログラムというのが流行しています。これはそれぞれのメーカーが研究所のスペースを借りて、そこに自社専用の冷蔵・冷凍庫を置き、その中に自社の試薬だけを置きます。そして研究者は、試薬が欲しいときにその都度、この冷蔵・冷凍庫から取り出すのです。富山の薬売りと同じ形態です。また別の言い方をすれば、これは各メーカーの自動販売機を置いているのと同じです。実際、このフリーザーというのはバーコード読み取りやオンライン接続、タッチパネルディスプレーなどかなりのハイテクが導入されており、大型機器並みの価格です。このフリーザープログラムの場合、どこにフリーザーを置かせてもらえるか、近くに他社のフリーザーがどれだけ置いてあるかなど、かなり小売店舗での販売スペース競争みたいなことがメーカー間で起こるのは容易に想像できます。
  10. 日本は、新製品の売れ行きが世界の中でかなり早い方です。他国と比較すると、新製品の売れ行きは2-3倍早いそうです。欧米では直販制度をとっているので、新製品の情報を末端顧客に浸透させるのに非常に時間がかかってしまうのかもしれません。それに対して日本の代理店制度を利用すると、新製品案内が速やかに全国の研究者に届きます。これだけが理由ではないかもしれませんが、情報伝達に置いては日本の代理店網の有用性は高いと言えるでしょう。
今回はとりあえず以上にします。次回以降、より深く話していきたいと思います。