Steve BallmerとInnovator’s Dilemmaをはっきりさせる

Horace Dediu氏が“Steve Ballmer and The Innovator’s Curse”という題で、Innovator’s Dilemmaの視点からSteve Ballmerを擁護しています。

具体的には、既存の製品からの利益を最大化する経営戦略、つまり経営者に通常期待される戦略そのものがMicrosoftをInnovator’s Dilemmaに陥れたということです。したがってもしもSteve BallmerがInnovator’s Dilemmaを避けるようなことをしたならば、むしろその方が早くクビにされたのではないかと述べています。

Clayton Christensen氏のInnovator’s Dilemma理論を深く理解していないと得られない視点です。一般的な考え方と逆なので。

Horace Dediu氏は抽象的に議論していますが、私なりに具体的に考えたいと思います。

Microsoft ascended because it disrupted an incumbent (or two) and is descending because it’s being disrupted by an entrant (or two). The Innovator’s Dilemma is very clear on the causes of failure: To succeed with a new business model, Microsoft would have had to destroy (by competition) its core business. Doing that would, of course, have gotten Ballmer fired even faster.

まずはMicrosoftがトップに躍り出たのは、既存の企業を破壊的イノベーションで押しやったからだとしています。この場合、「既存の企業」というのはIBMを指し、破壊的イノベーションというのは「パーソナルコンピュータ」を指すでしょう。個人用のパソコンを所有することが現実的となるぐらいに、そして普通の個人がパソコンを操作できるぐらいに簡単にしたのはMicrosoftです(アップルは操作は簡単にしましたが、値段を下げなかったので不十分でした)。これでIBMのオフィスコンピュータ、メインフレームのビジネスを破壊しました。

Microsoftが特にパソコンの値段を下げるのに成功したのは、ハードウェアをコモディティーにしたからです。ソフトウェアを広く供給し、普及させることで、パソコンメーカーは差別化ポイントを失います。そしてハードウェアの価格競争に巻き込まれます。

一方Googleはソフトウェアをコモディティーにする戦略を立てています。Cloudを利用することでソフトウェアに広告を配信するビジネスモデルを確立し(まだ収益の柱ではありませんが)、ソフトウェアを無償で利用できるようにしています。MicrosoftがGoogleのビジネスモデルを追従しようと思うと、今までのソフトウェアでの収益を犠牲にする必要があります。普通の経営者であればこの選択はしません。

またiPhoneが登場した背景には、最先端のハードウェアと優れたソフトウェアを組み合わせたことがあります。Microsoftはソフトウェアを広く供給することがビジネスモデルですので、最先端のハードウェアじゃなくても動作するソフトを供給しようとします。幅広いハードをサポートするようにします。したがって時代を先取りしたハードを必要とする製品はなかなか開発できません。特定のハードウェアメーカーをひいきして、密に組んで革新的なハードを開発するのはなかなかできません。Microsoftは早い段階からモバイルに着目していましたが、斬新なハードを作るのはビジネスモデルに合わず、Palmのそっくりさんの作る方がビジネスモデルに合っていました。

Tablet PCについては、Microsoftはパソコンの存在を脅かすものを作るのではなく、パソコンの進化形を作ろうとしていました。ですから、パソコンプラスアルファをデザインしていました。当然値段もパソコンより高くなります。一方、Appleは引き算でiPadをデザインしました。パソコンからマルチタスク、マルチウィンドウを取り除き、キーボードを外しました。Flashを外したのはむしろかわいい方です。引き算と引き替えに、低価格、長持ちする電池、簡単な操作性を手に入れました。iPadだとデバイスの単価は下がりますので、Microsoftの利益は減る可能性があります(Netbookの時と同じように)。Tablet PCにしていけば、利益は変わりません。

If anything, Steve Ballmer avoided The Innovator’s Curse. Being successful with new market innovations would probably have led to an even shorter tenure. Destroying prematurely the pipeline of Windows in favor for a profit-free mobile future would have been a fireable offense. Where established large companies are concerned, markets punish disruptors and reward sustainers.

MicrosoftはWindowsとOfficeが収益の柱です。MicrosoftにとってのCloud戦略にしてもMobile戦略にしても、あくまでもWindows/Officeの売り上げを増すようにデザインされていました。モバイルOSのWindows CEはあくまでもパソコンのアクセサリーであって、パソコンとWindowsに変わるデバイスではありませんでした。そしてWindows TabletはWindowsに変わる低価格製品ではなく、付加価値をつけたより高級な製品でした。

このようにMicrosoftの失敗の原因は、かなりの部分、ソフトウェアに価値の中心をおき、ハードウェアをコモディティーとして扱うビジネスモデルに由来します。

それでMicrosoftは立て直せるのか?

さて問題は、Microsoftを脅かしている現在進行形の破壊的イノベーションはどこまで進むかです。そしてTabletの北米の売り上げが鈍化しつつあるというデータを見ると、Tabletに関しては思ったほど早くは進まない気がします。またスマートフォンの売り上げの伸びに比べて、Androidスマートフォンの利用のされ方が限定的で、フィーチャーフォンの代わりに利用されているだけということも多いようです。騒がれているほどにはMicrosoftは窮地に立たされていない印象です。

MicrosoftにとってAndroid Tabletが普及してPCを代替するのが一番の脅威です。しかしAndroid Tabletは売れているものの、利用は余りされていないというデータが多数あります。特に企業には浸透していません。

今後のMicrosoftにしても、ヒステリックな方向転換をしない限り、継続してWindowsとOfficeを中心においた戦略を立ててくるでしょう。しかし世の中は完全にMobileに目が向いていますので、WindowsとOfficeの利益を確保することではなく、WindowsとOfficeの強い立場を利用してMobileを立て直そうとするでしょう。一旦はWindows 8やSurface RTで既存のWindows/Officeと縁を切るような大胆な戦略を試みましたが、これは失敗に終わっています。IntelのCPUも持ち直していますので、Windows/Officeの強みに乗っかった戦略がたてやすくなっているはずです。

破壊的イノベーションが成功するかしないかの最大のポイントは、既存のトップ企業が、まだ間に合ううちに反撃に出るかどうかです。間に合うかどうかというのは、新興の企業・製品が十分に既存製品を代替できるところまで進化しているかどうかにかかっています。つまりスマートフォンとTabletが十分にパソコンを代替できるかどうかです。十分に代替できるところまで来ていれば、Microsoftは反撃のしようが無くなります。しかしそうでなければ反撃が効きます。

Tabletについては、まだまだパソコンを代替できていません。特にAndroidは7インチに偏っていて、娯楽に完全にフォーカスしています。Tablet市場がパソコンを使って仕事をする方向に向かっていません。これではなかなかパソコンは代替しないでしょう。

反撃にいったん出れば、既存のトップ企業はそうそう負けるものではありません。Microsoftの場合、まだ間に合う気がします。