スマートフォン市場の異常さ

先日のApple vs Samsungの訴訟を受け、またそれに対するいろいろなリアクションを見ながら、スマートフォン市場の特殊性について考えてみました。

以下、メモ;

  1. iPhoneは一夜にして携帯電話市場をがらりと変えました。携帯のデザインを一変させたばかりではなく、携帯にできること、ウェブを見ること、メールを読むこと、アプリを買うことの状況を一変させました。ユーザインタフェースを一変させました。当時はAndroidですらキーボード中心のBlackberryのような製品を想定したOSでしたが、iPhone後は方向を180度変えてタッチインタフェースを真似ました。
  2. 他の会社が注力していなかったタッチインタフェースを早い段階から研究開発していたAppleが、数多くの特許を独占できたのは自然なことです。タッチインタフェースを発明したのはAppleではないのですが、それを実際に製品に応用していくところの特許は圧倒的にAppleが保有していて、独占状況に近いです。こうなったのはひとえに他社が注目していない頃にタッチインタフェースを突き詰めたからです。
  3. それまでの携帯電話はパソコンと比較して大きく見劣りしていました。性能はもちろんのこと、ソフトウェア面でも圧倒的に単純なものでした。iPhoneはその状況を一変させます。iPhoneのOSであるiOSは、土台がMacOS Xと同じです。そしてMacOS Xで初めて導入された数多くの先進的な技術が含まれています。例えばグラフィックスやアニメーションの描写などがそれです。iPhoneは初代Macintoshから数えて20年余の技術の上に立つ製品です。パソコンで蓄積された技術を携帯に持ち込んだ製品です。しかしパソコンの世界では一般消費者向けのオペレーティングシステム技術はたった2つの会社しか持っていませんでした。AppleとMicrosoftだけです。このことが何を意味するかというと、iPhoneにまともに対抗できる製品を作れるのは基本的にMicrosoftしかなかったということです。GoogleがAndroidを開発できたのはJavaをハイジャックしたりiPhoneを真似たからであり、自社技術を積み重ねてつくることはできなかったのです。かなり近道をしているので、特許を数多く侵害したのは自然なことです。
  4. NokiaはAndroidの携帯を開発しませんでした。そうではなくWindows Phoneに賭けました。なぜかというとAndroidでは差別化は不可能と考えたからです。これについてはCNETの記事で紹介されています。実際に現時点でのAndroidの状況を見ると、Androidスマートフォンで儲かっているのはSamsungだけで、他のメーカーは差別化に苦労し、高い価格で製品が売れずに儲かっていません。(もちろん一番儲かっているのはAppleですが)
  5. SamsungだけがなぜAndroid陣営の中で儲けることができているか?もちろん社内に高い技術力を持っているのは有利だとは思いますが、むしろ大きいのは、ハードもソフトもiPhoneに似せたからではないかと思われます(SamsungはAndroidを改変して、よりiPhoneに似せました)。つまりスマートフォン市場の中では、ほぼiPhoneに似ているか似ていないかだけが差別化につながっていると言えます。

以上をまとめると、a) 知的所有権ではマーケットリーダー1社が圧倒的な有利な状況があります、 b) スマートフォン市場での差別化ポイントは、現時点ではマーケットリーダーの製品に似ているか似ていないかの1点に絞られています。これがこの市場の特殊性です。

MicrosoftのWindows Phoneが売れていけば、a)の問題は解決されます。Microsoftはパソコン関連の知的所有権をたくさん保有していますし、その一部はiPhoneでも使われているでしょう。MicrosoftはAppleとクロスライセンス契約をしていると言われていますので、Windows PhoneはAppleに訴えられる可能性がぐっと少ないです。

b)の差別化についてははっきりわかりません。NokiaはMicrosoftと早い段階からパートナーになることによって、他社のWindows Phoneでは得られないような差別化ポイントを手に入れようとしています。パートナー契約の内容に依存しますが、確かにそうなるかも知れません。Windows PhoneはiPhoneとはかなり違うユーザインタフェースなので、現在の差別化ポイントの一極集中は解消していくでしょう。

そうなればスマートフォン市場も多少はまともなものになっていくかも知れません。

AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと

SamsungがiPhone, iPadのデザインを真似たとしてAppleがSamsungを訴えていたアメリカの裁判は、2012年8月24日に、Appleの勝訴でひとまず幕を閉じました。

その内容をカバーした記事はネットにあふれています。特に良いと思ったのはAllThingsDの特集でしたので、詳細を知りたい方は英語ですがご覧ください。

今回の裁判は一般人による陪審員裁判でしたので、特に興味深いのは判決の理由です。
陪審員の一人とのインタビューが紹介されていますので、ご覧ください。

陪審員の人が判決の中で一番重視した証拠を聞かれて、こう答えています;

The e-mails that went back and forth from Samsung execs about the Apple features that they should incorporate into their devices was pretty damning to me. And also, on the last day, [Apple] showed the pictures of the phones that Samsung made before the iPhone came out and ones that they made after the iPhone came out. Some of the Samsung executives they presented on video [testimony] from Korea — I thought they were dodging the questions. They didn’t answer one of them. They didn’t help their cause.

彼が言及しているのは以下の証拠と思われます。

  1. 「iPhoneとGalaxyを比較するとGalaxyのここがいけていない。よってiPhoneに似せるべし」というサムスンの内部資料。
  2. グーグルとのミーティングでグーグル側が「アップルとソックリすぎだからちょっと変えた方がいいんじゃないか?」と言ったというメール。

この判決に対する印象は様々ですが、私の印象は「相当に常識的な判断が下された」というものです。

この判決でAppleの力が強大になり、競合を閉め出し、結果としてイノベーションが停滞するのではないかという議論があります。特にネット関連の評論をしている記者やブロガーの多くがこの主張をしています。私は決してそうは思いませんが、彼らの言っていることは一理があることは否定はしません。

ただ陪審員が下した結論はもっと単純明快で

他の会社が何年もかけて苦労して開発した画期的な技術を、悪意を持って意図的に真似てはいけませんよ!

ということだと感じました。

良い判決だったと思います。

さて今後どうなるか。以下ではこっちの方を大胆に予想してみたいと思います。 Continue reading AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと

AppleとGoogle, Amazonのイノベーションのおさらい

「iBooks Authorは電子書籍ではなくブックアプリを作るソフト。だからePub3じゃない。」というエントリの補足の意味で、AppleのイノベーションDNAの特殊性について簡単にメモをします。

Googleのイノベーション

インターネットの検索を劇的に改良したというのがGoogleの最初のイノベーションでした。その後、インターネット広告を使いやすくし、無料で情報を公開していても収入が入る仕組みを作りました。

今まで全く不十分だったネット検索の完成度を高め、インターネットの使い勝手をよくし、無料コンテンツが増える仕組みを作ったのがGoogleです。

ただその後に出してきているGMail, Google Apps, Androidなどを見ると、Googleのイノベーションの形は変化しています。

すでに十分な性能を持っていた他社の製品をまねて、無料で公開し、そして広告で収入を得ていくモデルです。GMailは、それまでは有料でメールアカウントを購入していたのを無料にしたものです(もちろんいろいろと使い勝手はいいのですが、GMailの最大の売りは無料で容量が大きいことです)。Google Appsはマイクロソフト・オフィスを無料にしたものです。そしてAndroidはiPhoneのOSを無料にしたものです。

初期のGoogleは「不十分」なものを改良していくイノベーションをしていました。

現在のGoogleは「十分」なものを無償化するというイノベーションをしています。

Amazonのイノベーション

Amazonのイノベーションは、店舗をインターネットに持っていったことです。インターネットに持って行くことによって、エンドユーザに与えたベネフィットは、家に居ながらにして本が買えるという利便性だとか、在庫している本の種類が多いことだとかだったと思います。あと物流のスケールメリットを活かして、価格を安く抑えたりできているのだと思います。

あとKindleでは、紙媒体の本を電子端末で閲覧できるようにしています。これもイノベーションです。

Amazonのイノベーションの特徴は、物理的な店舗あるいは物理的な書物を電子化しているということです。

Appleのイノベーション

Appleのイノベーションの特徴は、それまで一般消費者が全く見たこともない技術を、わかりやすいパッケージで一般の人向けに販売していくことです。

カラーパソコンの走りだったApple IIに始まり、Macintosh、iPod、iPhone、iPadのいずれをとっても、一般人が想像もしていなかったものを、いきなりわかりやすいパッケージで出したというのがAppleです(「一般人」を強調しているのは、Appleがその技術を発明しているとは限らないからです)。

今のGoogleそしてAmazonは、すでにあるものをほぼそのままにインターネットに持って行ったり、価格を下げたり(無料にしたり)しています。それが可能なだけのビジネスモデルを裏で持っているからそれができるのです。

Appleはビジネスモデル云々ではありません。価格云々でもありません。少なくとも一般人から見ると、どこからともなく画期的な製品が沸いてくるというのがAppleのイノベーションです。

AppleのイノベーションDNAからすると、ePub3のスペックに則って、紙媒体の書籍を電子化するだけというのは許されません。そういうのはAmazon流のイノベーションです。AppleのイノベーションDNAはiBooks Authorを作るDNAなのです。

Firefoxの功績を考える:FirefoxはなぜGoogleから10億ドルがもらえるのか

Images先週GoogleとFirefoxはパートナーシップを更新し、Googleから3年間で10億ドル(800億円弱)が支払われることになったと報じられました。

Chrome Engineer: Firefox Is A Partner, Not A Competitor

Firefoxは今までもGoogleとのパートナーシップが主な収入源で、実に84%に相当していました。この資金の見返りとしてFirefoxのデフォルトの検索エンジンはGoogleとなり、Googleに広告収入が入るのをFirefoxが手助けするという形になります。

今回更新された契約額は以前のものよりも数倍高くなっているようです。Firefoxのマーケットシェアは20%以上で、競合のMicrosoftに持っていかれてしまうのをGoogleが恐れた可能性もあります。

いずれにしてもGoogleはChromeというやはりシェアが20%の製品を抱えながらも、競合のFirefoxとパートナーシップを継続しているわけです。そこで自分なりにブラウザ開発の歴史を振り返り、このパートナーシップの意義について考えたいと思います。 Continue reading Firefoxの功績を考える:FirefoxはなぜGoogleから10億ドルがもらえるのか

GoogleがMotorola Mobilityを買収したことで思うこと

GoogleがMotorola Mobilityを買収する計画を発表し、いろいろな考えがウェブで交錯しているようです。

僕自身はまだ十分に考えをまとめている訳ではありません。しかしこの買収、あまりGoogle社内で熟慮されていないように感じられるのが非常に気になります。

気になることをとりあえずリストアップしておきます。

Motorolaを買収してもAndroidの知的所有権の問題が解決されない可能性がある

  1. Google CEOのLarry Pageは声明の中で、Androidを知的所有権関連の訴訟から守ることが大きな役割であるとしています。
  2. しかし本当にMotorolaを買収することよってAndroidに対する訴訟で有利になるのでしょうか?どうも不透明な気がします。僕が最も参考にしているFoss Patents Blogでも、訴訟で有利にならないという立場をとっています($2.5 billion Google-Motorola break-up fee reflects sellers’ concern and buyer’s desperation, First reaction to Google/Motorola announcement, Oracle v. Google update: summary judgment pressure and Motorola Java license fallacy)。

Googleは退路を断った

  1. GoogleがAndroidを捨て、検索と広告に再度集中する戦略はいままでは合理的な選択肢の一つでした。しかしMotorolaの買収により、Googleはもはや後戻りができなくなりました。多数の特許紛争を抱えるAndroidが大コケする可能性は決して少なくありませんが、そのAndroidと運命をともにする決断をGoogleの経営陣は下しました。これはGoogleの根幹である検索と広告のビジネスを危険にさらす覚悟があるということです。
  2. PCの世界ではMicrosoftとAppleだけがOSを作っています(Linuxは除く)。それでもGoogleはPCからの広告収入に全く困っていません。同様に考えると、GoogleはAndroidがなくてもモバイルから多くの広告収入が得られそうです。ここまでして退路を断ち、根幹のビジネスを危険のさらす必要が本当にあるのか、かなり疑問に感じます。
  3. GoogleはMotorolaを買収したことによって、Android Phoneの売り上げに直接責任を持つようになりました。いままではAndroid Phoneが売れようが、iPhoneが売れようが、あるいはWindows Phoneが売れようが、ブラウザがある限りGoogleの売り上げにはプラスでした。しかし今度はAndroid Phoneが売れない限り、Motorolaの売り上げは落ち込みます。つまり今までのGoogleの売り上げはAndroidの成功失敗とは直接連動していなくて、Androidが大コケをしたところでGoogleの売り上げには響きませんでした。しかしMotorolaを持っていることで、GoogleはAndroidの浮沈に直接影響を受けます。
  4. Motorolaにしても、今までは仮にAndroidが失敗してもWindows Phoneに乗り換えれば良かっただけです。Androidがコケても、大きな問題ではなかったのです。実際にWindows Phoneの検討を始める動きも見せていました。しかしGoogleに買収されたことによってMotorolaはこのようなリスク分散ができなくなりました。MotorolaもまたAndroidに集中することを余儀なくされ、退路を断たれた格好になりました。
  5. 結果としてAndroidの浮沈に直接影響を受けていなかったGoogleとMotorolaの両社が、今後はAndroidと運命をともにすることになります。

Samsung, HTCなどのAndroid離れが加速され、Windows Phoneへの移行を真剣に検討することはほぼ確実となった

  1. 今の特許紛争を考えれば、SamsungとHTCがAndroid以外にWindows Phoneを取り入れることはどっちみち必然ではありました。それでもまだまだAndroidを主力と位置づけるだろうと思われました。しかし今回の買収によって、Android離れが加速することは確実です。
  2. Motorolaの持っている特許によってAndroid陣営の立場が強くなり、AppleやMicrosoft, Oracleなどからの訴えに対抗できるようになるという議論はあります。ただこれで各パートナーメーカーが安心するかは甚だ疑問です。
  3. 結果としてAndroidの成長は今年までではないかと思います(少なくとも先進国では)。各メーカーはWindows Phoneに本腰を入れていくでしょう。

どうしてGoogleはパートナーメーカーが嫌がるの承知の上でMotorola買収に踏み切ったのか

  1. 知的所有権に関する訴訟の問題で、Googleがワラをも掴む思いだった可能性。Androidが販売差し止めにされてしまっては、パートナーメーカーもへったくれもありません。それぐらいの思いでGoogleがMotorolaの買収に踏み切った可能性があります。
  2. Appleのような垂直統合が必要だと考えた可能性。しかしAndroidのマーケットシェアだけ考えると、水平分業でもうまくやっていけそうに思えます。これだけ大きな賭けをしてまで買収に踏み切るほどの理由にはなりません。

Motorolaはどうなるか

  1. 今までのMotorolaの経営陣が優秀だったとは思いませんが、このような形で買収が行われると、Motorolaは数年間リーダー不在の状態になると予想されます。
  2. まずMotorolaでリーダーシップを持っていた人間が社外に逃げる可能性が高いこと。それと残ったリーダーもGoogleの様子をうかがいながら判断をしていくことになるので、明確な決断を下しにくいこと。Motorola社内でこの2つのことが起こるでしょう。これが事実上のリーダー不在な状況を作り出します。一寸先が読めないモバイルのビジネスではリーダー不在は致命的です。
  3. リーダー不在な状況を作り出さないために、Motorolaの現在の経営陣に代わるリーダーシップチームをGoogleは遅くとも半年までの間に整えなければなりません。新しいリーダーシップチームはMotorolaの新しい戦略を明確に描いていないといけません。Googleがこのようなチームを短期間で作れるかどうか如何で、Motorolaビジネスの浮沈がかかっています。危惧するのは、Googleはそれどころではないことです。訴訟への対応に追われ、Motorolaの戦略はおざなりになる可能性が非常に高いと感じています。
  4. 結果として、Motorolaのビジネスは来年から大きく売り上げを落とすでしょう。SamsungやHTCにどんどんシェアを持っていかれそうです。

僕が予想するシナリオ

今後どのような展開になるのか、勝手に予想してみます。

  1. Googleは当初発表した声明どおり、Motorolaを特別扱いすること無く、パートナーメーカーを大切にした立場を取るでしょう。一方でMotorolaはリーダー不在の状況に陥り、SamsungやHTCに対抗し得るヒット商品が出せず、一気に売り上げが落ちるでしょう。
  2. GoogleはMotorolaの知的所有権を引き継いだものの、Apple, Oracleとの訴訟では劣勢が続くでしょう。いくつかの国や地域でMotorolaの製品そのものが販売できない状況が生まれるでしょう。
  3. Googleはこの状況を受けてAndroidを捨てるものの、携帯電話用OSの開発をあきらめることができないでしょう。そこでChromeOS的なモバイルOSの開発をはじめるでしょう。ちょうどMozilla Foundationが発表したBack to Geckoのようなプロジェクトのなりそうです。ただその頃にはWindows Phoneも普及し始めているでしょうから、この新しいOSは全くメーカーに採用してもらえないでしょう。
  4. SamsungやHTCなど、Smartphoneの大手メーカーは単純にWindows Phoneに移行するでしょう。iPadに対抗するタブレットの開発も行うでしょうが規模は縮小され、本腰を入れるのは自社のOS(例えばSamsungのBada)を待つか、あるいはWindows 8を待つことになるでしょう。現時点でiPadに対抗するのは無理だという判断を下すと思います。
  5. Googleにとって最も危険なのは、ビジネスの根幹である検索と広告を脅かされることです。Androidビジネスが経営資源を検索&広告から奪っているとしたら、これは大問題です。ただGoogle + Motorolaという会社では、社員の大半がAndroidに関わる可能性だってあります。未だに有力な対抗馬は見えませんが、Googleが検索と広告でのリーダーシップを失う危険性は現実味を増してきていると感じています。

AndroidがEUで意匠権侵害で販売仮差し止めになって思うこと

GoogleのモバイルOS Androidが特許を侵害しているとして非常に多くの訴訟に巻き込まれ、またSamsungがGalaxy TabおよびGalaxy S IIで意匠権を侵害しているとして販売差し止めの訴えをAppleより起こされていることは、このブログで何回も取り上げています。

8月9日にはEUでSamsung Galaxy Tab 10.1がEUで販売仮差し止めになったということが報じられ、8月1日には同様の判断がオーストラリアでもくだされましたヨーロッパではMotorola Xoomも同じく意匠権で販売差し止めの訴えを起こされているようです。

一方でGoogleはこのような特許訴訟がイノベーションを阻害しているとブログで訴えています。ただGoogle自身が強力な特許に守られながら大きくなった会社であることや、特許以外の知的所有権に対するGoogleの姿勢にも甚だ疑問があることなどをあげて、Googleは単に自分に都合の良いことを言っているだけではないかという意見もあります。

携帯電話やソフトウェアに関する特許は確かに複雑なようで、各製品には多数の特許が含まれ、メーカーは互いに複雑なクロスライセンスをしているという現状はあるようです。そもそもソフトウェアには特許を与えるべきではないという議論もあるようです(私自身はその根拠が理解できませんが)。

さて私自身は製薬企業にいるときに、間接的に出はありますが、1990年代の半ばの遺伝子特許の問題を見てきました。この時代はシーケンス技術の発達のおかげでヒトゲノムプロジェクトなどが本格的に開始された時期です。それまでの時代と大きく変わったのは、A) 生命現象があって、それからその原因となっている遺伝子を特定するという研究のやり方に変わって、B) まずはシーケンスを闇雲にやり、遺伝子を片っ端から解読し、配列から有望そうだと推定されたものについて生命現象との関係を探っているというやり方が台頭してきたことです。いわゆる逆遺伝学(reverse genetics)と呼ばれる手法です。

しかしB)のreverse geneticsを行う際に、最後まで遺伝子と生命現象との関係を見つけるのは意外に困難です。1990年代半ばはRNAiもまだ知られていませんでしたので、ほ乳動物の細胞で遺伝子を欠損させるにはノックアウトマウスを作るしかなかった時代です。したがって現実的にせいぜいできることは、細胞に遺伝子を強制発現させることぐらいでした。遺伝子はいくらでも見つかるのに、その機能がわからないというものが山ほど出てきました。

それでも製薬企業にいる以上、見つかった遺伝子の特許が早く取りたいのです。でも特許は「有用性」が言えないといけません。そこで遺伝子配列からバイオインフォマティックスで導かれた推定機能だけで特許を申請してしまう企業も多く現れました。

果たしてそんないい加減な特許(つまり「有用性」がしっかり書かれていない特許)が成立してしまうのか。法律の世界は簡単に白黒がつくものばかりではないので、企業としては非常に不安でした。多分成立しないと思うけど、成立したら大変なことになってしまう。関係者はそんなことを案じていました。

なぜそんなに不安になるかというと、遺伝子配列そのもので特許を取られてしまうと、特許を所有している企業が非常に有利になると考えられていたからです。特許を申請するときは可能な限り多くの権利(クレーム)を書くことが当たり前のことですが、当時の遺伝子特許には i) その遺伝子配列から生産されたタンパク質はもちろんのこと、ii) そのタンパク質に結合する他のタンパク質を免疫沈降などで発見する実験、iii) そのタンパク質と結合する化合物(医薬品候補)をスクリーニングする実験さえもクリームされていました。したがって遺伝子配列の特許を持っていれば、他の製薬企業がそのタンパク質に作用する医薬品を発見したとしても(それがどんな方法で見つけたにせよ)、ほぼ特許侵害で訴えることができる訳です。

実際に遺伝子特許問題がどのように収束したかは、私もほどなくしてその分野から去ってしまいましたので詳しくは知りません。まだいろいろな問題が残っているという印象は受けています。

ただそういう問題を見てきた人間として感じるのは、ソフトウェア特許以外にも特許制度は非常に難しい問題を抱えているということです。もちろん独創的な発見やイノベーションを行った個人や企業は多いに奨励されるべきですし、特許のような強力な独占権を与えることも場合によって必要だとは思います。しかし科学技術の発展が速いだけに、また様々な利害関係が対立するだけに、法律が時代に追いつくのは難しいのです。そういう状況を考えれば、特許制度は決してベストが実現可能ではなく、「無いよりかなりマシ」ぐらいの存在であるような気もします。

遺伝子特許を議論していた印象からすると、Googleがやった行為が問題になるのはきわめて当たり前ですし、もしあれが許されるのであれば製薬企業やベンチャーが基礎研究をする価値はほとんど失われてしまうとさえ思えます。ベンチャーにとっての最大の資産が特許ということも珍しくないでしょうから、特許侵害まがいの行動が許されてしまったら、製薬産業のイノベーションの構造が覆されるでしょう。

私はそういう目でAndroidの訴訟を見ていますので、どうしてもAppleだとかMicrosoft, Oracleの側に立ちます。

Google+ が成功するかどうかはその機能を見ても分からないよ

アップデート:
2ヶ月ぐらいでFacebookが反応したみたいです(Facebook revamped to combat Google+ threat)。

具体的な機能はまだ見ていませんが、上の記事でsocial media strategistのTiphererh Gloria氏は”With Facebook’s new share options, many of the privacy concerns reasons to leave Facebook for Google+ have been removed.”と語っています。FacebookをやめてGoogle+に移行する理由はなくなったと。

以前からFacebookはこの機能を用意していたと考えるのが順当ですが、Google+が成功しているのを見て反撃を早めたのではないかと想像されます。

Googleの新たなソーシャルネットワークサービス、Google+ (plus)が公開され、招待制であるにもかかわらず急速に利用者が増えているようです。

  1. GoogleがSNSに再挑戦するプロジェクト「Google+」が始動
  2. Google+の先週の訪問者は180万、283%の成長(Hitwise調べ)

新しいサービスが出てくることは一般の人にとってはありがたいことです。

一方でGoogleの狙いはもちろん打倒Facebookです。

Google+の方がかなり後発だし、Googleのエンジニアはとても優秀なので、Google+にあってFacebookに無い機能があるのは当たり前のことです。問題は、これらの機能のおかげでFacebookの脅威になりうるかどうかです。

ハッキリ言って、それは無理でしょう。

もしGoogle+の新機能の中で特に人気が高いものがあれば、Facebookは単にそれを真似れば良いのです。Facebookには十分なお金と優秀なエンジニアがいますので、真似るのは難しくないでしょう。

改めてイノベーション、特に業界をひっくり返すような破壊的なイノベーションについてのChristensen氏の著書を読むと明確に書いてあります。業界リーダーを引きずり降ろすようなイノベーションが起こるためには、業界リーダーがそのイノベーションを取り入れない何らかの障害が必要なのです。この場合、Google+の新機能をFacebookがあえて真似ない理由が必要です。

例えばFacebookを横目にTwitterが躍進した理由を考えてみましょう。Facebookはクローズドであり、自分が友人と認めた者にしか情報は発信されません。それに対してTwitterは誰にでもメッセージを送ることができ、また誰でもTweetを読むことができるオープンさがあります。FacebookとTwitterはこの意味では対極に位置していますので、FacebookがTwitterと直接対抗することは非常に困難でした。Twitterとの連携を計る以外に、Twitterの躍進に対抗する手段はありませんでした。Facebookにとって幸いだったのは、TwitterはFacebookを補完する存在だったということ、そしてそれぞれがお互いの領域で成長できたことです。

Google+の場合はFacebookと全面的に対抗しようとしています。アクセスをきっちり管理するという意味でFacebookと同じ領域で戦っています。しかしその結果、Google+の新機能はFacebookと親和性が高く、その気になればFacebookがいつでも真似られるものです。Google+のイノベーションを取り入れる上で、Facebookにとって障害になることはほとんどないのです。

技術力によるイノベーションをいくら繰り返しても、Googleがソーシャルネットワーク関連でFacebookで勝つのはほぼ無理です。ただ何か決定的な技術の特許がとれれば話は変わります(例えばPagerank等のような)。

それよりも必要なのはソーシャルネットワークの魅力を根底から考え直して、新たなソーシャルのニーズを掘り起こすことでしょう。それもFacebookと親和性が無いようなものを探さないといけません。

Google+がFriendFeed(機能的に優れていたけど一部の人しか使わなかったTwitterライクなサービス)化するような気がしてなりません。

Google CEOにとって、競合はAppleでもFacebookでもなく、Bingだ

Google CEOのEric Schmidt氏がWall Street Journalのインタビューで語ったことです。

さすがです。Googleのコアビジネスが何かをちゃんと理解し、そこにフォーカスをし続けているようです。

多くのCEOは新しい話題のことばかりを気にして、その会社の屋台骨となっている事業に注力することをしばしば忘れていますが、Eric Schmidt氏は違うようです。

「もうサーチはGoogleで決まりなんじゃないの?」と思う人が多いかもしれませんが、僕はまだまだサーチは始まったばかりだと思っています。Googleはまだ人間と同じようにウェブサイトの意味を理解することができませんし、情報を整理してまとめることができません。人間がやるよりは遥かにスピードは速いのですが、でも人間よりは精度は圧倒的に落ちます。ですから新しいテクノロジーのブレークスルーがあれば、Googleの立場がどうなるかはまだまだ分かりません。

Googleがサーチに最大限に注力してくれれば新しいイノベーションも生まれやすいので、ユーザにとっても素晴らしいと思います。Netscapeを駆逐した後にIEをアップデートしなくなったMicrosoftの例もあるので、ああならないでくれれば大助かりです。

僕にとって面白いのは”open”という言葉というか信念を繰り返して強調していることです。僕が翻訳した”The Official Google Blog”にあった“The meaning of open”というポストでは、オープンであることがどういうことか、そしてそれがどうしてGoogleに利益をもたらすかを書いています。

そのポストの中で

可能な限り産業を大きくしたいのであれば、オープンシステムはクローズドシステムに勝ります。我々がインターネットでやろうとしているのはまさにこれです。我々がオープンシステムにコミットするのは、利他主義だからではないのです。ビジネス上、オープンシステムの方が賢明だからです。オープンなインターネットは安定してイノベーションを生み出し、ユーザの増大とユーザの活発な利用を促し、産業全体を成長させるからです。

というのがあります。

GoogleはiPhoneを利用できない人(例えばSoftbankの電波が届かないところに住んでいる人)でもスマートフォンが利用できるようにしたいと思っているだけかもしれません。Androidそのものがどれだけのシェアを獲得するかではなく、誰もがスマートフォンが利用できるかを重視しているのかもしれません。だとすれば、iPhoneとAndroidのどちらが勝つかではなく、スマートフォンの市場全体がどれだけ拡大するかを重視することになります。

こう考えると、僕としては非常に納得がいきます。

オープンであることの意味 : “The Meaning of Open”の和訳

2009年末、”The Official Google Blog”に掲載された Jonathan Rosenberg, Senior Vice President, Product Managementの記事、“The meaning of open”を和訳しましたので、以下に紹介いたします。

この内容に賛同するかしないかは別として(私も部分的には賛同していません)、非常に示唆に富んだ文章であることは間違いないと思います。

もし何かに利用したいということであれば、引用、転載、修正は全く自由ですので、よろしくお使い下さい。

なお、この翻訳はGoogle翻訳者ツールキット (http://translate.google.com/toolkit)を使って行いました。

—– 以下翻訳 —-

オープンであることの意味

2009年12月21日3時17分00秒午後

インターネット、グーグル社、そして我々の利用者にとって「オープン」であること意味について、先週、社内にメールを送りました。オープンの精神に則り、グーグル社外にもこの考えを共有したいと思いました。

グーグル社では、オープンシステムが勝つと信じています。オープンシステムはより多くのイノベーションを生み、価値を創造し、消費者の選択の自由を拡大します。そしてより活発でより収益性があり、より競争が行われるビジネス環境を作り出します。他の多くの会社も似たようなことを言っています。自社もオープンだと宣言することがブランドの向上に貢献し、同時にリスクがないことを知っているからです。そもそも我々の業界にはオープンであることの意味が明確に定義されていません。これはいってみれば「羅生門」的な言葉です。非常に主観的でありながら、極めて重要なのです。

グーグル社内でオープンが話題になることが最近多くなっているようです。製品の議論をしているミーティングに参加しているときなどにも、我々はもっとオープンであるべきだという意見が出ます。しかしそのあと議論を続けていると、会議室のほとんどの人はオープンが良いと信じてはいるものの、具体的にそれが何を意味しているかについては必ずしも意見を共有していないことが分かります。

このような議論はかなり頻繁になってきています。そこでそろそろ全員が理解し、支持できるような形でオープンを明確に定義しなければいけないと私は思います。以下に紹介するのは私自身の経験と数人の同僚の意見を元に作成した、そのような定義です。私たちが会社を運営し、製品の判断を行う際は、ここに紹介する原則に従っています。ですからこの文章を注意深く読み、振り返り、そして議論してほしいと思います。そしてこの定義を自分のものとし、自分の仕事に活かしてください。これは複雑なトピックなので必ず議論があるはずです。議論はオープンで行ってください!自由にコメントをしてください。

我々のオープンの定義は2つの要素からなっています。それはオープンな技術とオープンな情報です。オープンな技術というのはオープンソースソフトウェアとオープンスタンダードを含みます。オープンソースを含むという意味は、我々はインターネットを成長させるソフトウェアを公開し、積極的にサポートしますということです。オープンスタンダードを含むという意味は、我々は公認のスタンダードに従い、スタンダードがない場合は(グーグル社だけでなく)インターネット全体の利益となるようなスタンダードを作り出すということです。オープンな情報というのは、我々がユーザに関する情報を持っているときは、これを利用者に有用な価値を創造するために使用し、どのような個人情報を持っているかについて透明性を持たせ、かつその情報をコントロールする権限を利用者に全面的に与えるということです。我々がやらなければならないのはこの2つのことです。多くの場合、我々はまだこれが達成できていません。しかしこのメールを出発点に、現実と理想のギャップを埋め始められることを期待しています。

我々がオープンを一貫して実践できれば(そしてできると信じています)、我々は行動を通して模範を示すことになります。そして他の会社や産業が同じくオープンを実践することを奨励できるでしょう。他の会社や産業もオープンになれば、世の中はより良くなります。

オープンシステムは勝利します
我々の立場をより詳細に説明するために、オープンシステムが勝利するということをまず強調したいと思います。伝統的な訓練を受けたMBAは、クローズドなシステムを作り、それを普及させることによって持続可能な競争的優位を築き、そしてプロダクトライフサイクルに沿って利益を搾り取ることを教育されています。したがって彼らにとっては、オープンシステムが勝利するというのは直感に反します。伝統的な考え方では、会社は顧客を囲い込むことによって競合他社を閉め出すべきです。戦術的にはいくつかの異なるアプローチがあります。カミソリの会社はカミソリのホルダーを安く売り、刃は高く売ります。昔のIBMはメインフレームを高くし、ソフトウェアも…高くしていました。いずれにしても正しく運営されたクローズドシステムは多くの利益をもたらします。また短期的には良くデザインされた製品を生み出しますが(誰でも分かる例としてはiPodとiPhone)、クローズドシステムにおけるイノベーションはいずれ小さな前進しか生まなくなります(4つ刃のあるカミソリは3つ刃のカミソリよりそんなに良くなっていますか?)。なぜなら現状を維持することが目的だからです。クローズドシステムは常に慢心を生みます。顧客の維持が楽にできるようになってしまえば、楽をしてしまうのです。

オープンシステムはこの逆です。競争が激しく、もっと変化が早いです。オープンシステムでの競合優位は顧客の囲い込みから生まれるのではありません。変化の激しいシステムを誰よりもよく理解し、より良い、よりイノベーティブな製品をつくることによって競合優位が生まれるのです。オープンシステムで成功する会社はイノベーションが早く、同時に思想面でもリーダーです。これは簡単なことではありません。とても大変なことです。しかし行動の素早い会社は何も恐れることはありません。そして成功すれば、大きな株主価値を生むことができます。

オープンシステムは新しい産業を生み出すことができます。オープンシステムでは一般大衆の知性がときはな、各会社はビジネス戦術だけでなく製品の優劣に基づいて競争し、イノベーションし、勝敗を付けるようにしむけられます。ヒトゲノムの解読はその一例です。

Wikinomicsという本でDon TapscottとAnthony Williamsは1990年代の半ばに私企業がDNA配列データをたくさん発見しては特許出願し、その情報を誰がいくら払ってアクセスできるかをコントロールしていたことを紹介しています。ゲノム情報を私企業が所有することによってコストがかさみ、創薬の効率が落ちました。そして1995年にはメルク社とワシントン大学のゲノムシーケンスセンターはMerck Gene Indexというオープンなイニシアティブを作り、ゲームのルールそのものを変えました。わずか3年間で800,000の遺伝子がパブリックドメインに公開され、まもなく同様な行動的なイニシアティブが生まれました。この業界では初期のR&Dはクローズドな研究室で行うのが伝統的であり、メルク社のオープンなアプローチは業界全体のカルチャーを変えただけでなく、医薬開発のスピードを速めました。この成果により世界のどこの研究者であっても、オープンな遺伝情報に制限なくアクセスできるようになりました。

またオープンシステムはすべてのレベル(OSレベルからアプリケーションレベルまで)でのイノベーションを可能にします。それに対してクローズドシステムでは一番上のレベルでしかイノベーションできません。ですからある会社が製品を出荷する際、もう一つ別の会社の善意に頼る必要がないのです。例えば私が使用しているGNU Cコンパイラにバグがあれば、オープンソースなので自分で修正することができます。バグレポートを送って、修正がタイムリーに行われることを祈らなくていいのです。

したがって、可能な限り産業を大きくしたいのであれば、オープンシステムはクローズドシステムに勝ります。我々がインターネットでやろうとしているのはまさにこれです。我々がオープンシステムにコミットするのは、利他主義だからではないのです。ビジネス上、オープンシステムの方が賢明だからです。オープンなインターネットは安定してイノベーションを生み出し、ユーザの増大とユーザの活発な利用を促し、産業全体を成長させるからです。Hal Varianの"Information Rules"という著書には、これに当てはまる数式があります:

報酬 = (市場に提供されるすべての付加価値) * (我社の付加価値のシェア)

他の条件を同一と見なしたとき、10%のシェア増大と10%の市場全体の拡大は同じ結果を生みます。しかし我々の市場では市場全体の10%の拡大の方がより多くの報酬を生みます。なぜなら産業全体にスケールメリットをもたらし、生産性を向上させ、すべての競争相手のコストを下げるからです。我々が安定してすばらしい製品を提供し続ける限り、我々は市場全体とともに繁栄します。シェアは小さくなるかもしれませんが、パイは大きくなるのです。

別の言い方をすれば、グーグル社の将来はインターネットがオープンであり続けることに依存しています。そして我々がオープンを推し進めることよって、グーグル社を含めたすべての人が恩恵を受ける形でウェブが拡大するでしょう。

オープンな技術
オープンの定義をするためには、インターネットの土台となった技術:オープンスタンダードとオープンソースソフトウェアの話から始めなければいけません。

オープンスタンダード
ネットワークが繁栄するためにはいつの時代もスタンダードが必要でした。19世紀の初めにアメリカに鉄道網が敷かれ始めたとき、線路幅の規格は異なるものが7つありました。当初はネットワークが繁栄することはありませんでした。それぞれ異なる鉄道会社が標準幅の4フィート8.5インチに同意して始めて、鉄道網が繁栄し西に拡大することができたのです。(この場合、規格戦争は本物の戦争でした:アメリカ内戦で南部連合国が合衆国に負けると、南部の鉄道会社は11,000マイルの鉄道を強制的に変更させられたのです)

1974年にVint Cerfと同僚らがアメリカ合衆国のいくつかのコンピュータネットワークを接続する際、(後にTCP/IPとなった)オープンスタンダードの使用を提案しましたが、これはこのような前例のあることでした。どれだけの数のネットワークが存在するかははっきり分からなかったので、"Internet"(これはVintが名付けたのもだが)はオープンでなければなりませんでした。どんなネットワークであってもTCP/IPを使って接続することができました。そしてその時の判断の結果、現在ではインターネット上に6億8100万ほどのホストが存在しています。

利用者の選択の自由を確保する上では相互互換性が必須ですので、開発社向け製品については我々はオープンスタンダードで作ります。したがって、グーグル社のプロダクトマネージャーと技術者は可能な限りオープンスタンダードを使用するべきです。オープンスタンダードがまだ無い分野に挑戦しているときは、オープンスタンダードを作りなさい。オープンスタンダードがまだ十分でない場合は、それを改善し、改善点をなるべくシンプルにし、ドキュメンテーションも可能な限り充実させなさい。我々のグーグル社だけでなく、利用者および産業全体を常に優先させるべきです。あなたたちはスタンダード策定団体と協力し、我々が行った改善点が公認スタンダードの一部となるように努力するべきです。

我々は以前からこれを実践しています。Google Data Protocol(XML/Atomに基づく我々の標準APIプロトコール)を作っていたころ、我々はIETF Atom Protocol Working Groupと協力し、Atomの仕様策定を共に行いました。また最近ではW3Cと協力して、ブラウザ上で位置情報を利用したアプリケーションが簡単に作れるように、標準の位置情報APIを作成しました。このスタンダードは我々だけでなく、すべての人の役に立ちます。そしてとても面白いアプリケーションが何千もの開発者によって作られ、利用者の手にわたることでしょう。

オープンソース
先に述べたアプリケーションの大部分はオープンソースソフトウェアで作られるでしょう。オープンソースソフトウェアはここ15年間のウェブの爆発的な成長の原動力です。ここにも前例はあります。「オープンソース」という言葉が生まれたのは1990年代の終わりですが、産業を活性化するために重要な情報を共有しようという発想はインターネットのずっと前から存在していました。1900年代の初め頃、アメリカ合衆国の自動車産業は特許のクロスライセンス協定を結び、メーカー間で特許がオープンにかつ自由に共有されました。この協定以前は、ツーサイクルガソリンエンジンの特許の保持者たちが産業全体を事実上閉じ込めてしまっていました。

今日のオープンソースは昔の自動車メーカーの「パテントプール」よりも大幅に発展し、グーグル社を支えているLinux, Apache, SSHなどの高度なソフトウェアコンポーネントの開発につながりました。実際、我々の製品を運用する上で、何千万行ものオープンソースコードが使用されています。また我々はオープンソースにこの恩を返しています。我々は世界最大のオープンソースソフトウェア提供者です。合計2000万行のコードに達する、800以上のプロジェクトを提供しています。Chrome, Android, Chrome OSとGoogle Web Toolkitの4つはそれぞれ100万行以上のコードです。またMozillaとApacheをサポートするチームもありますし、250,000以上のプロジェクトをホスティングしているプロジェクトホスティングサービスも提供しています(code.google.com/hosting)。これらの活動によって社外の人間が我々のプロジェクトに協力し、我々がより良い製品を提供できるだけではありません。もし我々が十分にイノベーションできなければ、社外の人間が我々のソフトウェアを土台に自らの製品を作ることもできるのです。

我々がコードをオープンソースするときはApache 2.0ライセンスを使用します。つまり我々はそのコードをコントロールしないということです。他人がそのオープンソースコードを入手し、修正し、閉じ込め、自分のものかのように出荷することもできます。Androidはこの典型例です。複数のOEMはこのコードを入手し、すばらしいものを作り上げています。このアプローチにはリスクもあります。ソフトがお互いに互換性の無い、複数の系統に分かれることがあるからです(ワークステーション用のUnixがApollo, Sun, HPなどに分岐したのを思い出してください)。Androidではこうならないように努力しています。

開発者用のツールをオープンソース化することには努力を惜しみませんが、すべてのグーグル製品がオープンソースだという訳ではありません。我々の目標はインターネットをオープンにしておくことです。これによって選択の自由と競争を奨励し、利用者や開発者が囲い込まれてしまうのを防ぎます。多くの場合、特に検索や広告関連製品などでは、オープンソース化はこの目標の実現に役立ちませんし、むしろ利用者に害をもたらします。検索と広告関連市場は既に競争が激しく、利用者も広告主も選択の幅が広いですし、囲い込まれてもいません。これらのシステムを公開してしまえば、アルゴリズムをだまし、検索結果や広告品質ランキングを人為的に操作することが可能になり、すべての人にとっての品質を低下させてしまうのは言うまでもありません。

ですからあなたたちが製品を作ったり新しい機能を付け足しているとき、いったん立ち止まって考えてみてください。「このコードをオープンソース化することによって、インターネットはよりオープンになるでしょうか。利用者、広告主および協力者の選択の自由を拡大してくれるでしょうか。競争やイノベーションの拡大に貢献するでしょうか。」そうであればオープンソース化するべきです。そしてオープンソース化するときはちゃんとやってください。単にそれを公にして、忘れてしまうということはしないでください。コードを管理して、他の開発者を取り込めるだけのリソースがあることも確認してください。我々がオープンに開発して、公開されたバグトラッカーとソース管理システムを使用したGoogle Web Toolkitはこの好例です。

オープンな情報
オープンスタンダードとオープンソースの基盤によって、今日のウェブ上には膨大な量の個人情報があふれています。写真、連絡先、近況アップデートなどが頻繁にアップロードされています。情報量が膨大であることおよびそれが永久に保存されうることによって、今まで考える必要も無かった課題が生じました。すなわち、この情報をどう扱えばいいのかということです。

歴史的に、新しい情報技術は新しい商売の形を可能にしてきました。地中海の商人が紀元前3千年頃に印鑑(bullae)を発明し、出荷した製品が途中で開けられることなく目的地まで届けられるように保証しました。この結果、商売はローカルなものから遠距離なものに変わりました。同様の革新は書き言葉の到来や最近ではコンピュータによってもたらされました。約束の遵守を保証する新しいタイプの情報野のおかげで、商取引のすべてのステップにおいて、トランザクション、すなわち関係各団体が何らかの価値を得る双方同意が促進されたのです。

ウェブ上では新しい商売の形というのは、何らかの価値と引き換えに個人情報を提供することです。この取引には毎日何百万人もの人が参加しています。そして潜在的には非常に大きなメリットがあります。数年前にはなかったGPS追跡技術から得られる情報により、自動車保険業者は顧客の運転技術をリアルタイムで確認し、安全運転に対しては割引(そしてスピードの出し過ぎには超過料金)を与えることができるかもしれません。これは比較的簡単な取引です。以下ではもっと注意を要するシナリオも考えます。

例えばあなたの子供がいくつかの薬に対してアレルギーがあるとします。コンピュータが埋め込まれた注射器がその子のカルテを自動的に読み取り、看護婦が誤って薬を投与してしまわないようなシステムをあなたは承認しますか。私なら承認しますが、手首に金属のブレスレットをつけるだけで十分とあなたは考えるかもしれません。それでいいのです。人はそれぞれ異なる判断をしますし、個人情報について言えば、我々はそれぞれの判断を同様に尊重しなければいけません。

より多くの個人情報をオンライン化するのはすべての人にとって有用ではあると思います。しかしその情報の利用に際しては、産業の変化とともに成長でき、責任ある、スケールアップできるような柔軟性をもった原則にしたがって、これを行わなければなりません。オープンな技術についての我々の目的はインターネットの生態系を拡大することでしたが、オープンな情報へのアプローチはこれと異なり、インターネット生態系と関わる個人(利用者、パートナーと顧客)との信頼関係を築くことが目的です。オンラインで最も重要な通貨は信頼であり、これを築くためにはオープンな情報の三原則に沿わないといけません。すなわち、価値と透明性とコントロールです。

価値
まず第一に、我々は利用者にとって価値のある製品を作る必要があります。多くの場合、利用者についての情報があればあるほど良い製品が作れます。しかし利用者が提供する情報の対価として、我々がどのような価値を提供するのかを理解してもらわないと、プライバシーの問題が生じます。そのような場合、その価値を説明してあげれば彼らは情報提供に同意してくれるでしょう。例えば、どのようなものを購入したかの履歴を何百万もの人がクレジットカード会社に提供していますが、これは現金を持ち歩く煩わしさから解放されるという利便性の対価として同意されたものです。

我々が3月に関心ベースの広告(IBA)を提供開始したとき、これはうまく出来ました。IBA広告によって、広告はより的確で有用なものになります。これは我々が収集する情報によって創造される付加価値です。また利用者のための設定管理ツールも含まれていまして、設定ツールの中では利用者にどのような価値が提供されるかが説明されています。また設定を変更したり利用を中止したりすることもできます。設定管理ツールを利用した大部分の人は、利用を中止せず、設定を変更しました。彼らは自分の興味に合わせてカスタマイズされた広告を受け取ることの価値を理解してくれたからです。

これが私たちのデフォルトのアプローチであるべきです:我々は利用者に対して、どのような情報を知り得たか、そして我々がそれを知っていることがどうして利用者にとっても有用かを、分かりやすい簡潔な言葉で説明しなければいけません。わざわざ利用者に説明するまでもなく、自分が作り上げた製品の価値は自明であるとお考えですか。それは多分間違っています。

透明性
次にすべての製品について、我々がどのような情報を収集し保存しているかを、利用者が簡単に調べられるようにしなければなりません。我々は最近、Googleダッシュボードでこれに向けて大きな前進をしました。Googleダッシュボードは、各Google製品(Gmail, YouTubeとSearchを含めた20以上の製品)にどのような個人情報が保管されているかを一カ所に集め、個人設定を変更できるものです。我々が知る限り、このようなサービスを提供しているインターネット企業は我々だけです。これが標準になることを期待しています。もう一つの良い例は当社のプライバシーポリシーです。弁護士だけでなく、一般の人間にも分かるように書いています。

これにとどまること無く、もっと透明性を高めるよう努力するべきです。あなたが個人向けの製品を管理していて、利用者の情報を集めているのであれば、その製品をGoogleダッシュボードに含めるべきです。すでにダッシュボードに掲載していたとしても、それで満足してはいけません。新しい機能を追加するたびに、バージョンを更新するたびに、ダッシュボードに追加できるような新しい情報(他のサイトに公開されている個人情報を含めて)があるかどうかを自分に問い直してください。

自分の製品の中での透明性を高められないかも考えてみてください。例えばAndroidのアプリケーションをダウンロードしたとします。そのアプリケーションがどのような個人情報もしくは携帯電話の情報にアクセスできるかをAndroidは教えてくれます。その情報を元にインストールを続けるか、中断するかを判断できます。あなたのどのような情報が暴露されるかを調べるのに探しまわる必要はありません。Androidはまず利用者にそのことを知らせ、判断を仰ぎます。あなたの製品もそうしていますか。どうやれば、透明性を高め、利用者をより魅了することができますか。

コントロール
最後に、私たちは常に利用者にコントロール権限を与えなければなりません。IBAの場合のように我々が利用者の情報を持っているのであれば、利用者自身がその情報を削除し、利用を中止することが簡単にできなければいけません。利用者が我々の製品を使い、我々のサーバにコンテンツを保管してくれている場合、それは利用者のコンテンツであって、我々のものではありません。利用者はいつ何時でもそのコンテンツをエキスポートしたり削除したりできなければいけません。それも無料で、なるべく簡単にです。Gmailは非常に良い例です。我々はどんなEmailアドレスへの転送も無料で提供しています。ブランドスイッチできるというのは必須の機能です。自分たちの製品の周りに壁を作るのではなく、橋を作りなさい。利用者には、真に意味のある選択肢を提供しなさい。

利用者のデータを取り扱うための既存のスタンダードがあれば、それに従いなさい。スタンダードが存在しない場合は、ウェブ全体の利益となるようなオープンスタンダードを作るように努めなさい。クローズドスタンダードの方が我々にとって利益があるように思えても、実際にはそうではないことを思い出しなさい。同時に、利用者がなるべく簡単にGoogle製品から離れられるよう、可能な手を尽くさなければなりません。GoogleはEaglesの歌の中のホテルカリフォルニアでは無いのです – いつでもチェックアウトできますし、ちゃんとその場を去ることができるのです!

Ericが2009年の戦略メモに記したように「我々は利用者を囲い込みません。簡単に競合にうつれるようにしてあげるのです。」この政策は、飛行機の非常口に似ています – パイロットでもあるCEOはこの比喩を喜んでくれるでしょう。それを使わなければならない日が決して来ないことを望んでいますが、それがあることで利用者は安心し、無ければ利用者は激怒します。

我々が – データ解放軍 (Data Liberation Front : dataliberation.org) – という、「チェックアウト」を簡単にすることが任務のチームを社内に持っているのは、このためです。データ解放軍の最近の仕事としてはBloggerとDocsがあげられます。Bloggerを去って他社のサービスを利用したい人は、自分のコンテンツを簡単に持っていくことができます。Docsの利用者は、自分の書類、プレゼンテーション、スプレッドシートをすべてZIPファイルに集めて、ダウンロードできます。データ解放軍が作業しやすいように、あなたたちの製品を作りなさい。一つの方法は利用者のデータをすべて解放する優れた公的APIを用意することです。バージョン2とかバージョン3まで待ってはいけません。製品計画会議の早い段階からこの議論をし、スタート時点からある機能にしなさい。

英国大手新聞のガーディアンデータ解放軍の仕事を取材したとき、「今までの企業間の戦いにおけるロックインという考え方に慣れた」人にとっては「直感に反する」と伝えました。確かにその通りです。古いMBA的な発想で凝り固まった人にとっては直感に反します。しかし我々がちゃんと仕事をやり遂げれば、直感に反しない日が来ます。私たちの目標は、オープンがデフォルトとなるようにすることです。人々はオープンに自然に引きつけられていくでしょう。そしてそれを期待し、要求し、手に入らないときは激怒するようになるでしょう。オープンが直感的になる日が、我々が成功を収めた日となるのです。

大きければ大きいほどよい理由
クローズドシステムは良く知られていて利益があがります。ただし、それをコントロールする人だけの利益です。オープンなシステムは混沌としていて利益があがります。ただし、そのシステムを理解し、誰よりも早く行動できる人だけの利益です。クローズドシステムは早く成長します。それに対してオープンシステムはゆっくり成長します。ですからオープンシステムに賭けるには、長期的展望に立つために必要な楽観的精神、意思、そして手段が必要です。幸いなことに、Googleではこの三つがそろっています。

我々にはリーチの広さ、技術のノウハウ、大規模プロジェクトへの渇望がありますので、大きな投資と必要とし、かつ短期的な明確なリターンが無いような大プロジェクトに挑戦できるのです。我々が世界中の道路を撮影しているおかげで、千マイル遠くは慣れた地点からでも、引っ越しを検討しているマンションの近隣を調べることができます。我々は何百万もの本をスキャンし、広くアクセスすることが可能にしています(出版社と著者の権利に配慮しながら)。他のサービスでは数百メガバイトしか提供していないのに、我々は1ギガバイト(今では7ギガバイト)の容量を無償で提供するメールシステムを作り上げることができます。我々は51の言語で書かれたウェブページを瞬時に翻訳することができます。我々は検索データを分析し、公的衛生機関がインフルエンザの発生をより早く探知できるのを手助けできます。我々はより高速ブラウザ(Chrome)、より優れたモバイルオペレーティングシステム(Android)、そして全く新しいコミュニケーションプラットフォーム(Wave)を作り上げ、そして世界の誰もがそれを土台とし、カスタマイズし、そして改良できるようにオープンにできるのです。

これらのことができるのは、それが情報についての課題であり、我々はその課題を解決するのに必要なコンピュータ科学者、技術、そして計算処理能力を持っているからです。そして我々がこれらの課題を解決すると、さまざまなプラットフォーム – ビデオ、地図、モバイル、PC、音声、エンタープライズ – がより良くなり、競争が激しくなり、イノベーティブになります。我々はしばしば大きすぎると非難されることがあります。しかし大きいからこそ、我々は不可能に挑戦することができるのです。

しかし我々がオープンであることに失敗すれば、すべてが無駄です。ですから、常にオープンになるように自分たちに言い聞かせなくてはなりません。我々は業界に役立つようなオープンスタンダードに貢献していますか。我々が自社のコードをオープンソース化できない理由は何ですか。我々は利用者に価値と透明性とコントロールを提供していますか。なるべく頻繁に、なるべく多くをオープンにしなさい。そしてその是非を問う者がいたら、オープンにすることのメリットを説明してあげるだけでなく、オープンにすることが最善であることを説明してあげなさい。オープンというのはまだ始まったばかりの21世紀のビジネスとコマースを変革するアプローチです。そして我々がオープンを広めることに成功すれば、これから数十年間のMBAのカリキュラムが書き直されるでしょう。

オープンなインターネットは世界中の人々の暮らしを変えます。すべての人の手元に世界中の情報を届け、すべての人に言論の自由を与える可能性を持っています。以前にインターネットの将来に関する私のビジョンをメールで送りましたが(そして後にブログにも掲載しました)、その中にもこの予想が含まれていました。しかし今はビジョンの話をしているのではありません。アクションについて話しています。オープンなインターネットを阻害する抵抗勢力を忘れてはいけません。アクセスを管理する政府、自分の利益のために現状を維持しようとする企業などです。彼らは強力です。もし彼らが勝ってしまえば、インターネットは断片化され、停滞し、価格は高く、そして競争が少なくなるでしょう。

我々のスキルとカルチャーを持ってすれば、こうなってしまうのを防ぐことができますし、防ぐ責任があります。技術は情報を提供する力があると信じています。情報は、善を施す力があると信じています。そしてこの善がなるべく多くの人の生活に影響を与えるためには、オープン以外に道はないと信じています。我々は技術の可能性を楽観視しており、オープンによって生じる混沌は、すべての人に利益をもたらすと信じています。そして機会があれば、オープンを押し進めるように戦います。

オープンは勝利します。まずインターネットで勝利し、次に生活の多くの方面に広がっていくでしょう。例えば政治の未来は透明性です。商取引の未来は情報の対称的な行き来です。文化の未来の自由さです。科学と医学の未来はコラボレーションです。エンターテイメントの未来は参画です。ここに紹介した未来の姿は、いずれもオープンなインターネットが前提です。

グーグル社のプロダクトマネージャーとして、我々が死んでも存続し続けるものをあなたたちは作っています。また我々の誰一人として、グーグル社がどれほどに成長し、人々の生活にどれだけ影響を与えるかを想像し尽くせる人はいません。そう考えると、どれだけのネットワークが「インターネット」に加わるかを正確に把握できず、デフォルトをオープンとした盟友、Vint Cerfと我々は同じです。Vintは誰が見ても正しかったのです。我々もきっと正しいと信じています。

Google的世界とAmazon的世界

ふと思ったことですが、同じウェブ2.0でもGoogle的世界とAmazon的世界があるなと。そしてそれぞれかなり方向性が違うなと。

Google的な世界で起こっていること;

  1. 簡単にウェブサイトを構築できるツールが非常に多くなっています。ブログツールもそうですが、CMSやSNSだってフリーでホスティングできるようになっています。
  2. ウェブの制作を完全に外注しても、10万円台からやってくれる会社が結構あります。
  3. SEO対策をやってくれるという会社が、もう掃いて捨てても捨てきれないぐらいに多いです。次から次に作られていきます。

要するに、小さなウェブサイトが無数に増えていって、そしてGoogleのような検索エンジンがそれらをすべてランキングし、見つけられるようにする世界です。そしてそれぞれのウェブサイト管理者がSEOなどを施し、Googleでのランキングを上げるように努力する形です。アダム・スミスの言う「神の見えざる手」の役割をGoogleが演じ、無数のウェブサイトは個々バラバラにアクセス数を稼ごうとする中で、結果としてウェブ上の情報が豊かになって人の役に立つように発展していくという世界観です。

それに対してAmazonというのはかなり違う形の世界を描いています。

  1. 可能な限り多くの製品を一つの屋根の下に納め、Amazonが販売します。
  2. 書評を書く人は個々のブログに書き込むのではなく、Amazonのウェブサイトに書き込みます。
  3. コントロールされた自社サイト内の情報と自社で製品を購入した顧客の情報を解析し、各顧客にカスタマイズされたベストの情報を導きだしています。
  4. Amazonで販売されている書籍の評価や売れ行きは、このコントロールされた中で収集された情報の解析結果に左右されて、決定されていきます。

Googleは個々人が無秩序に作成した無数のウェブサイトを解析し、さらにそのウェブサイトを見えざる手で導いています。それに対してAmazonは、自分がコントロールするシステム内に膨大な情報(読者の書評)が書き込まれる仕組みを用意し、コントロールされた環境内での顧客の動向を観察し、誘導しています。

どちらもユーザが作った情報を主体としているという意味でWeb 2.0的です。しかし、無秩序さのレベルにおいて大きく異なります。

完全な無秩序であっても、各ウェブサイトの情報をロボットが理解できるのであればGoogleとAmazonの世界はほとんど同じ結果をもたらすでしょう。同じ情報が書かれているのであれば、Google的世界のようにその情報が無数のウェブサイトに書き込まれていようが、Amazonのように一つの定型システムの中に書かれていようが、結果はそう変わらないはずです。

しかし現実には、GoogleのPage Rankアルゴリズムやその他の自動解析技術は、各ウェブサイトの内容を理解することができません。様々なフォーマットで書かれた無数のウェブサイトの内容を、全体として理解することはできないのです。ですから、少なくとも今の技術水準では、Amazonのような定型システムにしない限り、数多くの情報を総合して全体として理解することは困難なのです。実際Amazonを使うと目的の本が非常に簡単に見つかるのに、Googleだとなかなか目的の情報が見つからないとか、余計な情報ばかり見つかるという経験は誰でもしているでしょう。

残念ながらAmazon的な活動よりもGoogle的な活動が、特にビジネスと関連するところで目立つように思います。ノンプロフィットであればWikipediaもまたAmazon的ですし、Linuxのようなopen source softwareもまたAmazon的だと思います。しかし残念ながらビジネスでは競合している会社が互いに一つのシステムに沿って発展するのはなかなか難しいようです。

本当はもう少しAmazon的な会社が、より多くの分野で活躍した方がウェブの発展のためには良いと思いますが。