テレビってこのままでいいのかな… Apple TVなどに期待すること

我が家ではApple TVをそれなりに使っているのは以前にこのブログで紹介しました。ライフスタイルによりますが、結構良い製品だと思っています。

さて、Apple TVもしくはGoogle TVなどのようなデバイスは果たしてヒットするのだろうか?インターネットを観ていると多くの人がこの点を議論しています。

ほとんどの議論は細かい機能の各論です。でも多分それは意味がありません。非常に当たり前のことですが、顧客が買うのは機能ではなく、ニーズを満たすものです。どんなに優れたマーケティング活動をしても、どんなにたくさんの広告宣伝費をつぎ込んでも、どんなに優秀なセールスマンを雇っても、顧客のニーズを満たさない製品は売れません。ですからある製品がヒットするかどうかを議論するのに一つ一つの機能を比較したりするのはあまり価値がなく、ニーズがあるのかないのかを調べることが重要です。

とうことで、現在の日本のテレビシステムの問題点と満たされていないニーズを考えたいと思います。

番組がつまらない

日本のテレビは下らないコンテンツが多すぎます。もう敢えて解説するまでもないと思います。

面白いコンテンツがあれば、もっと番組を観てもらえるはずです。

東京のサラリーマンは通勤で毎日2〜4時間を過ごしている

その分、家でゆっくりテレビを見る時間がありません。ならば通勤中でも番組が観られるようになれば便利です。ワンセグはその方向に向かっていますが、完全な解答ではありません。

レンタルはネットでできるのが便利じゃない?

普通に考えれば、映画コンテンツ等のレンタルはネットでできるのが便利に決まっています。プロバイダによっては光インターネット接続を使って観られるものはあります。でも限定的です。またネット配信ではありませんが、いろいろな方法でDVDを物理的に届けてくれたりするサービスもあります。

それぞれ無いよりはマシですが、もうちょっと何とかならないのという気もします。限界の中で無理矢理やりくりをしているという感じが残ります。

今どき、なんでテレビだけオンデマンドじゃないの?

オンデマンドじゃないサービス、つまりあらかじめ決まった時間にだけ放送されるというサービスは基本的に消費者にとって不便です。ニュース番組やスポーツ生中継の場合はリアルタイムであることが重要なので、オンデマンドというわけにはいきません。しかしそれ以外のコンテンツがオンデマンドで放送されていない理由は、少なくとも消費者のニーズからはありません。

確かに20世紀は一斉に放送をする技術以外は現実的ではなく、ビデオをオンデマンドで配信することは困難でした。しかし21世紀の今、ブロードバンドインターネットがあればオンデマンドが簡単に実現できます。なのにそれがテレビで普通にできないのは明らかに問題です。

なんで録画しないといけないの?

確かに録画をすれば、見過ごした番組を後で見ることはできます。しかし録画を忘れるともう後の祭りです。なんで?

クラウドの時代なのに、そもそもなんでローカルで録画しないといけないのでしょう。どこかのサーバに保存されていれば、それを観ればいいんですよね。そんな感じでなんでできないんですか?

iPhone/iPadでなんで観られないの?

20世紀までは、動画が見られる画面はテレビしかありませんでした。パソコンでは動画の画質も悪く、観るのが大変でした。それが今では手元の100グラム強のスマートフォンで映画が見られます。しかも高画質です。

10年前の高画質テレビをしのぐ解像度のビデオが、今は手のひらの画面で鑑賞できるのです。なのにビデオコンテンツをそこに移してくるシステムが確立されていません。せっかくの高画質画面なのに、日本の場合は映像コンテンツがうまく観られないのです。

もちろんサードパーティーのソフトを使って、若干法律的にグレーな方法でDVDソフトを持ってくることはできます。でも面倒でしょう?それでは広く普及するはずがありません。

まとめ

現在のテレビシステムへの不満はまだまだあります。上に挙げたのはまだ一部ですが、それだけ見ても満たされていないニーズが多そうなのは分かります。

それにも関わらずApple TVなどがなかなか成功せず、未だにビデオコンテンツの消費の仕方が20年前から根本的に変わっていません。ですからヒットするのがApple TVなのかGoogle TVなのか、あるいは今後出てくる新しいものかどうかは分かりませんが、確実に何か根本的に新しいものが出てくるはずです。

Apple社は音楽について言えばiTunes Music Storeで音楽配信システムにかなり大きな変化を起こしました。ビデオについても何かやってくれることを期待しています。最後まで諦めなければ、いつかはヒットが生まれるでしょう。

市場の力関係とイノベーション、そして顧客の利益

「Appleは単に最高の製品を作りたいだけだ」と昨日のブログに書きました。

今日、Elia Freedman氏が書いた“Fighting The Wrong Fight”という関連する記事を見つけました。

Eliaが言っているのはこうです。

スマートフォンではAppleとGoogleの戦いが重要ではないんだと。重要なのは携帯メーカーとキャリアの間の戦いだと。そして携帯業界のイノベーションを阻害し、より優れたユーザエクスペリアンスを妨害していたのはキャリアだったとしています。

キャリアが携帯電話を販売し、通信サービスを提供します。どのようなソフトウェアがインストールされるかを決める権限を持ち、何ができて何ができないかを決定してきました。日本においてもそして米国においても、キャリアに力があったのです。それがiPhoneの場合は、力関係がひっくり返っています。Appleが決定権を持っているのです。この力関係をひっくり返してこそ、Apple流のイノベーションを携帯電話に持ち込むことができたとも言えます。キャリアにはそれだけのイノベーションをする能力もインセンティブもありませんから。

ただ残念なことにGoogleのAndroidはオープンであることを逆手に取られて、キャリアに利用されてしまっているとこの記事では解説しています。

さてバイオの買物.comとの絡みで僕がいつも考えているのは、ライフサイエンス研究用製品の市場がイノベーションを生み、そして顧客に利益をもたらす構造になっているかどうかということです。もしや従来の携帯電話市場と同じように、イノベーションを生み出さないところに力関係が傾いていて、そして顧客の利益が損なわれてしまっているのではないかと。研究の発展を促すためには、既存の市場構造を変革させ、そして顧客に力がシフトするようなものにして行かなければならないのではないか。常にそう思ってきました。

バイオの買物.comはどのようなプラスの効果を生み出しうるか。僕の考えをちょっとだけ紹介します。

  1. ブランド力に関わらず、顧客のために努力している会社の製品が売れる : バイオの製品は猛烈な数がありますので、研究者はどうしてもブランドでフィルターをかけて、探すのを楽にしてしまいます。すべてのメーカーのカタログを探すよりは、馴染みのブランドに絞って探した方がずっと楽です。でも各メーカーの製品を簡単に比較できるのなら、ブランド力のフィルターはあまり必要なくなってきます。ブランド力に関わらず、適正な価格であり、十分サポートを提供し、品質の良いメーカーの製品が売れやすくなります。
  2. 営業担当者等がより充実した製品知識を入手しやすくなる : この業界の営業担当者は製品知識があまりありません。もともと製品が多いのもありますが、各メーカーが無節操に製品分野を拡大した結果、営業担当者としてはますます難しくなってきました。バイオの買物.comがそういう人の勉強のツールになれば、より顧客のニーズにあった提案ができるようになるのではと期待しています。
  3. イノベーティブな製品が売れやすくなる : メーカーが新しくて革新的な製品を開発しても、それをマーケティングして普及させるのは簡単ではありません。次世代シーケンサーほどに革新的であればNatureとかが取り上げてくれますが、例えばClontechのIn-Fusion PCRクロニングキットとか、タンパク質レベルで発現を調節できるProteoTuner Systemとかはなかなか知名度が上がりません。バイオの買物.comによってこういう製品が注目されやすくなるのではないかと期待しています。

メーカーのイノベーションが促進され、サポート力が注目され、企業努力による価格抑制が顧客の目に留まりやすい市場環境。そしてブランド力や代理店との力関係に頼った顧客の囲い込み等が行いにくく、顧客価値の創出の結果として売上げが伸びて行く市場環境。現状が果たしてそうなっているかを常に考えながら、より良い方向に持って行くために貢献できたら良いなと思っています。

Apple TV: 我が家での使い方

2007年1月10日に発表されたApple TVですが、Apple社としては思ったほどの成功を収めることが出来ず、ずっとビジネスではなく「ホビー」として製品事業を模索しているとスティーブ・ジョブズ氏は公言してきました。

そして去る2010年の9月1日に全く新しいバージョンのApple TVが発表されました。100ドルを切る非常に大胆な価格設定で、Netflixなどのサービスも取り込むとのことです。こうしてAppleはTVに再度挑戦をします。

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残念ながら日本ではまだ新しいApple TVは発表されていません。

そこでこの機会に、我が家でのApple TVの使い方を紹介したいと思います。我が家では2007年に初代のApple TVを購入しました。よく使うのは以下の機能です。

海外のニュース系ポッドキャストを見る

例えばCNN, ABC, CBS, NBCなどのアメリカの主要ニュース番組はPodcastを積極的に無料で配信しています。CNNの名物インタビューアのLarry Kingのショーは最初から最後までPodcastで見られますし(15分程度)、NBC Todayなどは全部ではないのですが40分間を見ることができます。

特に面白いPodcastはFareed ZakariaのGPS。国際政治の話題を非常に多角的に分析し、コリンパウエルやパキスタン大統領等著名人を独占インタビューする等、ものすごくレベルの高いPodcastです。

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子供を寝かしつけているときなど、よく見ていました。妻は授乳中によく見ています。

残念ながら日本の放送局ではこういうPodcastは用意していないようです。

子供の写真を見る

Apple TVはiPhotoに入っている写真をスライドショーにして見せてくれています。我が家は小さい子供がいるので、その子たちの写真を大型のテレビ画面で手軽に見られるのはとても楽しいです。子供たちも楽しんでいます。

何となくぼーっとくつろぐとき等にスライドショーを流したりしています。

音楽を聴く

うちは本格的なステレオを用意するほどの音楽好きではありませんので、音楽を聴くときはテレビのスピーカーもしくはDVDプレイヤー(一応ホームシアター仕様)で十分と感じています。iTunesに入れている曲はすべてApple TVで聞けるので、Apple TVからテレビもしくはDVDプレイヤーのスピーカーに出力しています。またインターネットラジオも聞けるので、BGM程度には結構使えます。

その一方でほとんど使わない機能もあります。

YouTubeは見ない

YouTubeのコンテンツは正直言ってテレビで見る気がしません。少なくと僕の場合、YouTubeで見るコンテンツは非常に私的なものになりがちです。例えば仕事のWeb関連の解説ビデオだったり、ある特定のスポーツシーンのビデオだったりするので、文字入力が簡単でいろいろと検索条件を試せるPC環境が必要です。

広い観衆を相手にプロフェッショナルなコンテンツを作っている団体は、インターネットにコンテンツを配信している場合であっても、主にYouTubeではなく専用のウェブサイトで動画を配信しています。逆にYouTubeのコンテンツはどうしても完成度の低いもの、もしくは非常にニッチ向けなものになってしまいます。僕の場合はこれをテレビで見ようとは思いません。完成度の高さで言えば、Podcastの方が良いものがたくさんあります。

大リーグの全試合をノーカットで放送しているYouTubeのMLB.jp channelみたいなものが多くなれば事情は変わるかもしれません。しかし個人的にはあまり期待していません。

映画やTVショーは見られない

これは単に日本では対応していないというだけのことです。USであれば、レンタルDVDの感覚でApple TVを使って映画を見ることができます。また映画だけでなく、TVショーを見ることもできます。なんで日本はやれないんですかね。まぁおおよその想像はつきますが、Appleジャパンにはもっとちゃんと働いてもらいたいものです。

まとめ

スティーブ・ジョブズ氏も言っていましたが、Apple TVはヒットしていないものの、顧客満足度が高い製品です。我が家でも買ってよかったと思っています。日本では恐らく著作権のごたごたとAppleジャパンの力不足でApple TVの本来の魅力の半分も活かせていないと思いますが、それでもしょっちゅう使っています。自分の写真を眺めたりPodcastを見たり、あるいは音楽を聴いたりするだけのためでも、Apple TVは十分に魅力的な製品だと思います。その人のライフスタイルに大きく依存はしますが。

新しいApple TVはiTunes、iPhotoのコンテンツがテレビで見られるというだけで99ドルの価値はあると思います。Appleジャパンが日本のビデオコンテンツ会社と何か重大な交渉を進めているというのであれば別ですが、そうでなければ今できることだけでもしっかりPRして、国内で販売を開始してもらいたいと思います。

iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと

アップデート

John Gruberのブログを読んだら、実際にiPadを触った多くの人の感想を知ることができました。特にすごかったのはスピードだったそうです。会場のみんながとにかくスピードをたたえていたそうです。
iPadのCPUは何でしょうか?Apple社が独自に設計/製造したA4というCPUです。他社はこのCPUを使うことはできないのです。これも、他社がiPadを真似できない理由となるでしょうね。大きな理由に。

iPadが発表されてそろそろ丸一日が経ちますが、いろいろな記事も出てきました。Twitter上でも話題になっています。高いとか安いとか、パソコンの変わりになるとかならないとか、Kindleに勝てるとかどうか。それぞれの面白い話題ですけど、僕はかなり別の角度からとても興味を持っています。それは前のブログにも書きましたが、アップル社の垂直統合モデルのすごさを見せつけられたという点です。そしてしばらくはどこのメーカーも同様な製品が作れないだろうという点です。

アップル社の垂直統合というのは、CPUからハードの組み立てからOSからアプリケーションソフトからオンラインショップまでのすべてをアップル社が持っているということです。そしてiPadにおいてはこのすべてのアップル社製になっています。アプリケーションソフトは確かに3rdパーティーが作ったものが非常に多いのですが、その流通チャンネルをアップル社が完全に握っているという意味ではやはり垂直統合モデルの一部と考えても良いと思います。

そしてこの垂直統合モデルのおかげで、イノベーションが非常に加速されています。iWorkというオフィススイートはiPad用に書き直されましたが、おかげで9.7インチスクリーンとマルチタッチに最適化されたユーザインタフェースになっています。ビデオを見ると分かりますが、感動的です。マック版のiWorkを使っている僕としてはとても悔しくなるぐらい、iPad版のiWorkは機能と操作性が充実していそうです。メールや写真を管理するアプリも非常に高度にiPadの仕様に合わせて最適化されています。こういうことはハードとOSとアプリケーションソフトを一社で作っているアップル社ならではのことです。

例えば話題のネットブックですが、AsusやAcerなどの台湾メーカーはハードを非常にがんばって作っています。どんどん性能の高いものを、安い価格で販売し、市場シェアを拡大しようと画策しています。彼らは既存メーカーのHPやDELLから市場シェアを奪いたいので、非常に積極的です。

しかしCPUを作っているIntelとOSを作っているMicrosoftはネットブックの台頭を喜んでいません。それぞれに非常に細かいルールを決めて、既存のラップトップと競合するような高性能のネットブックが登場しないように規制しているのです。例えば10インチのスクリーンサイズを越えるもの、あるいはRAMが1G byteを越えるものについてはAtomを供給しなかったり低価格のWindows XPを提供しなかったりという戦略で、ネットブックがCore 2 DuoやWindows Vista / 7の売上げをカニバライズしないように制限したのです。このようにネットブックに関しては、PC組み立て屋さんとパーツ屋さんとでは完全に同床異夢の状態だったのです。

アップル社以外のすべてのPCメーカーは水平統合のバリューチェーンを組んでいます。しかし水平統合をしていると、関連企業の思惑の不一致によりイノベーションが阻害されてしまうことがあります。ネットブックがまさにその好例なのです。

そこで問題になるのは、アップル社以外のパソコンメーカーがすべて水平統合のバリューチェーンしか持たない今、垂直統合モデルによって作り上げられたiPadの競合となりうる製品が果たして生まれるのか、そして生まれるとしたらそれは何年かかるのかということです。

特に問題なのはワードプロセサーと表計算ソフト、プレゼンテーションソフトのいわゆるオフィス系ソフトです。いまのところWindowsの世界で使われているオフィス系ソフトはほとんどマイクロソフトオフィスだけです。Google Appsという選択肢はありますが、まだまだ一般化している状態ではありません。そしてフリーのOpen Officeなどもありますが、無料だという以外には魅力のない製品です。ですからiPadに十分に対抗できるような製品(iWorkが使えるという意味で)を作るには、やはりマイクロソフトオフィスを載せることが、少なくともここ数年のスパンで見たときには必要になります。

その一方でiPadに対抗する製品に載せるべきOSはどれかといえば、いまのところ最有力なのはAndroidではないでしょうか。Androidはスマートフォン向けのOSとして開発されていますので、タッチインタフェースに最適化されていますし、小さい画面にも向いています。電力消費にも気を使っているはずです。iPadがMac OS XではなくiPhone OSを採用していることからも分かりますように、iPadライクな製品にはスマートフォン向けのOSが適しているのです。

しかし、マイクロソフトがAndroidで動くようなマイクロソフトオフィスを果たして開発してくれるでしょうか。答えは明白です。絶対に作ってくれるはずはありません。Android OSをベースとしたiPadが発売されるとしたらば、オフィスアプリは間違いなくGoogle Appsです。そうするとクラウド型のソフトであるGoogle Appsがどれぐらい早く成熟するか、デスクトップアプリケーションとおなじ安心感を与える存在になるかがポイントです。Googleはこれをやってのけるかもしれません。でもかなり未確定です。

そうなると、なんだかいつもの話に戻ってしまうのですが、iPad対抗製品に載せるOSはWindows系しかあり得なくなってしまいます。しかしタッチインタフェースと10インチ以下のスクリーンサイズということになると、それはWindows 7ではなく、いまのところ姿がはっきりしないWindows Mobile 7となるでしょう。Windows Mobile 7は2月15日から始まるMobile World Congressで披露されるという噂もあるみたいですが、まぁ実際のところどうなるか分かりません。はっきり言えることは、ぱっとした実績のないWindows Mobileシリーズに賭けなければならない状況というのは、実に危ういということです。

考えてみれば、2年半前に発売されたiPhoneに対抗できる製品を開発するまでにGoogleでも2年遅れました(アンドロイド社を買収したのは実際には2005年なので、開発には相当な年月がかかっています)。マイクロソフトはまだiPhoneに対抗できるOSを開発できていませんし、Windows Mobile 7は全面的な書き直しだという話もあるのでうまくいくかどうかはっきりしません。それに加え、iPadはiWorkの書き換えを含みますが、マイクロソフトがオフィスを書き直すのに必要な時間も相当にかかるでしょう。Mobile Office 2010という製品は開発途中でβ版も無料でダウンロードできるようですが、ビデオを見る限りあくまでも小さい画面のスマートフォン向けのものであり、とてもとてもiPadのiWorkに相当するものではありません。

そういう状況の中、結局はWindows 7とタブレットPCという、既にある組み合わせしかないという気もしてきますが、タブレットPCというのは大きさにしても価格にしても既存のラップトップPCです。必要なときにタブレットとしても使えますというだけのことです。iPadの価格はこれらの1/4。重さも半分かそれ以下です。これもダメです。

だらだらと書きましたが、要するにiPadと対抗できる製品を確実に作れるメーカーは、パソコン業界広しといえども見当たらないということです。iPadのすごいのは、アイデアがすごいのではなく、アップル社以外に作れないのがすごいのです。もしすべてがうまくいったらGoogleもしくはMicrosoftが数年間のうちにiPodに対抗する製品を作れるかもしれません。でも現時点はあまりにも不確実です。普通に考えたら、iPadと対等な製品を開発するのに5年はかかるのではないでしょうか。そのときはもちろんiPadも進化しているはずです。

iPadがどれだけ売れるかはまだ分かりません。でもかなり売れる可能性もあります。売れるとしたら、その市場セグメントはしばらくアップルが何年間も独占します。iPhoneがスマートフォンを席巻しているよりもさらに激しく、そのセグメントを独占してしまうでしょう。そういう大きな構造変化を起こしてしまう危険性を、iPadは持っていると思います。

iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命

iPadが発表されました。売れるかどうかは別としても、いろいろ考えさせられる製品であることは間違いないと思います。今思っていることをメモ程度に書き留めておきます。

垂直統合だからこそ可能なイノベーションのすごさ

iPadに見せつけられたのは垂直統合によるイノベーションのすごさだと思います。今回、アップルはCPU周りも作っているそうです(A4というらしい)。そうなるとアップルはCPUからハードの組み立て、OSからアプリケーションソフト、小売店からオンラインストアまで、バリューチェーンのほぼすべての要素を自社に統合していることになります。同じ市場にいるどの会社を見ても、このうちの数分の一しかカバーしていません。アップルの垂直統合の度合いは圧倒的に突出しています。

製品の性能がまだ未成熟な、市場の発展段階においては垂直統合が優れています。これはイノベーションの研究で知られているChristensen氏が述べていることです。どうして垂直統合が重要かと言いますと、最終製品の性能を可能な限り引き出すために、お互いのパーツを絡めたチューニングが必要だからです。例えばiPadの場合は電池の持ちが重要な課題になりますが、そのためにはハードとOS、アプリケーションソフトウェアのすべてが、パワーを消費しないように設計されている必要があります。

またマルチタッチを使った操作についても、ハードとOS、そしてアプリケーションが最適な操作性を確保するためにデザインされている必要があります。iPad用に開発されたiWorkのデモを見ると、このすごさが分かります。PC用のものを単純に移植したのではなく、マルチタッチ用にとことん最適化されたインタフェースはやはり桁違いに素晴らしそうです。

イノベーションを宿命づけられたアップル

一方製品の性能が成熟してしまうと、重要なのは最終製品の性能ではなくなり、同じ製品を如何に安く作るかになります。こうなると各パーツを高度にチューニングする必要は無くなりますので、各部品メーカーから納入されたものを単純に組み合わせれば良いだけになってしまいます。チューニングはコストを押し上げる要因になり、排除されます。組み立てを行うメーカーは利益が出にくく、変わりにパーツを作っているメーカーに利益が回りやすくなります。ウィンドウズパソコンの状態がまさにこれで、DELLとかNECには全然利益が行かず、マイクロソフトとインテルだけが潤うという構図です。

Christensen氏はPC産業もいずれは成熟するだろうから、早晩アップルの垂直統合モデルもうまくいかなくなり、そしていずれ過去と同じような衰退期を迎えると考えているようです(そんなことを言っているビデオがネットにありました)。ただ恐らくSteve Jobs氏は誰よりもこのことがわかっていて、古い製品をいち早く捨て(売上げの絶頂期であっても)、新しい製品にカニバライズさせたりしています。iPodとiPhoneの関係などはこの好例です。

その一方で、誰もが成熟してしまったと思っている産業に新しい息を吹き込むこともアップルはやってきています。例えばiPhoneが参入する前の携帯電話産業(特に日本)は成熟期にさしかかっているように見えました。ワンセグとかお財布携帯とかの機能を付けたり、いろいろなデザインに走ったり、確かに新製品は出ていました。しかし電話の本来の機能である「コミュニケーションのためのデバイス」としての役割については、新しいアイデアが出ていなかったように思います。iPhoneはこの停滞した雰囲気を全く変えてしまったのではないでしょうか。

また2000年代の初め、Windows 95の熱が冷め、インターネットも一通り普及し終わった頃、もうパソコンはいらないという空気が流れていました。DELLが安売りPCで絶頂を極めていた頃です。もう産業としては成熟し切ったので、後は製造コストを安くできるメーカーが勝ち残るという産業構造です。そのとき、Steve Jobsは”Digital Hub”戦略を発表しました( YouTube このビデオは必見)。パソコンの黎明期を作ったSteve Jobsだからこその素晴らしい歴史観です。その戦略に基づいてiTunesやiPod、iPhotoが開発され、そしてパソコン産業はデジタルメディアを管理するプラットフォームとして生まれ変わったのです。新しい成長が生まれたのです。”We don’t think that the PC is dying. We think that it’s evolving.”

Christensen氏は半分正しいのです。PC産業が成熟すればアップルのような垂直統合モデルは立ち行かなくなります。それをさせないためにアップルは次から次へと新しいビジョンとイノベーションを生まなければなりません。これができないと、Jobs氏がいなかった 1985年から1996年のころのアップルと同じ状態になってしまいます。その一方で垂直統合モデルはビジョンとイノベーションを生むのに適しています。ですからなんとか成り立ちます。アップルは垂直統合モデルが可能にする非常に早いイノベーションをし続けることによって、かろうじてInnovator’s Dilemmaを逃れているのです。

iPadのプレゼンテーション( apple.com, iTunes Music Storeのポッドキャストもあります) の中で、Steve JobsもScott Forestallも「ウェブを見るならPCよりiPadが断然良い」と繰り返しています。iPadのウェブサイトでは、「ウェブ、メール、写真、ビデオを体験する最高の方法。何の迷いもありません。」という見出しまで出ています。マックをカニバライズするよという公然としたメッセージです。普通にパソコンを使うのなら、もうマックを買わなくていいよ。半分の値段のiPadを買った方が断然良いよ。値段も安いけど、使い勝手もiPadの方が良いよ。CEOがそう言っているのです。これほどのカニバリゼーションを平然と行うこと、これがイノベーションをし続けなければならないアップルの宿命なのです。

アップデート

  • Christensen氏の研究をうまく紹介しているサイトがありました。ここ。でも本当はなるべく多くの人に彼の著書を読んでほしいです。
  • 日本のメーカーがどうして問題に直面しているかを考える上でも参考になると思います。日本のメーカーは垂直統合の構造になっているにもかかわらず、イノベーションで勝てなくなっています。ビジョンだけでなく勇気が必要です。構造が似ていますので、悲しいまでにイノベーションを続けるアップルを参考にするしかありません。
  • ちなみに国内スパコンの議論も、Steve Jobsのいなかったアップルを彷彿させますね。価値を生んでいない垂直統合という意味で。

日本のイノベーションに必要なのは、大学が優秀な人材を民間に吐き出すこと

1月1日なのに、大晦日に届いた Elhanan Helpman著 “The Mystery of Economic Growth”を読んでいます。

まだ読んでいる途中なんですが、すごく強く思ったことがありますのでここに書き留めます。

日本のイノベーションに必要なのは、博士を民間に吐き出すことです。日本のアカデミアに国民が税金を払う必然性はここにしかないと思います。もしも日本の大学などがアカデミアの人材しか排出しないのであれば、それは世界全体のイノベーションには貢献するかもしれませんが、日本の産業を有利にするものではありません。

どういうことかと言いますと、アカデミアは基本的に成果を世界中にシェアしますので、日本の研究者の成果は世界の誰もが利用できます。日本国民の税金で行われた研究であっても、中国の企業が利用できるのです。特許による保護は多少あったとしても、通常、これは限定的でしかありません。つまりアカデミアでどんなに高いレベルの成果を出しても、それだけでは日本の産業は有利になりません。逆に日本の産業界は米国で行われた研究の成果を利用できます。

アカデミアの研究はこのように世界共通の知識プールの中に入っていきます。世界の誰もがこれにアクセスできます。世界共通の知識プールに大きな貢献をすることは、名声を高めるという意味では大きな効果がありますが、直接的に特定の国の産業を有利に働きません。

問題は、この世界共通の知識プールからどこが最も大きな利益を得られるかです。最も大きな利益が得られるのは、この知識プールをいち早く理解し、産業に応用できる企業であり国家です。そしてこの担い手は、企業に勤める研究員です。研究員のレベルが高く、アカデミアで行われている研究の成果をいち早く理解し、いち早く実用化できる企業こそが世界共通の知識プールの成果を有利に活用できるのです。

ですから日本国家としては「世界一の研究成果を日本が生み出すこと」を目標に投資するべきではありません。あくまでも日本の産業界の研究を高めるために国内のアカデミアが存在すると認識する必要があります。日本の産業界に優秀な人材を送り出すこと、そしてその人材がアカデミアの最先端に常に触れられるようにしてあげることが重要だと思います。世界一レベルの研究を行うことが間接的に日本の産業界の活性化につながることはもちろんあります。でもあくまでもこれは間接的であり、自動的に行われるとは考えない方がいいでしょう。

繰り返します。世界共通の知識プールに日本の大学などが貢献することは、日本の産業の競争力を高める結果に直接つながりません。直接つながるのは、知識プールをいち早く利用できる国内企業研究者の育成です。日本の大学研究のレベルが高ければ高いほど、間接的にこの目的が果たされることは確かなので、大学研究のレベルを高めておくことは重要ですが、それはあくまでも手段の一つに過ぎず、十分条件とはならないと認識するべきです。

日本を選択的に有利にするという意味においては、最先端の研究をすることが日本のイノベーションを生むのではありません。最先端の研究の成果(世界のどこのものであっても)を日本の産業に応用することが日本のイノベーションを生むのです。

今はとりあえずここまで。後でもう少し私の考えを整理します。

極論注意

日本の大学院重点化政策やポスドクを増やす政策などのおかげで、それまでだったら修士で民間に行っただろう優秀な人材がアカデミアにずっと残るという事態が起きています。これは日本のイノベーションに重大なマイナスになっているかも知れません。博士の就職難なんて言っていますけど、そんなレベルの話では無いかもしれません。僕の言わんとしているのはこんなところです。

次世代シークエンサーは結局ABIか

The Scientistという雑誌でTop Innovations of 2008が発表され、ABIのSOLiDシステムが一番になりました。

さて、僕は市場に最初に出た454 Life Sciences社の次世代シークエンサーをロシュ経由で国内で発売開始するときに多少関わっていました。そこでそのときの社内の雰囲気を紹介しながら、お金でベンチャーを買っただけではなかなかトップの会社には勝てないことを話したいと思います。またトップの会社が入れ替わるようなイノベーションについて研究していることで有名なClayton Christensen氏の理屈を簡単に紹介したいと思います。

ただし、僕は最近の次世代シークエンサーの動向はほとんどフォローしていませんので、現時点でどの技術が勝ちそうかは全く判断がつきません。予めご了承ください。ただ、どの技術が勝つかということと、どの会社が勝つかというのは全く別だということにも注意してください。

ロシュが454 Life Sciences社の次世代シークエンサーを導入し、一気にDNAシークエンシング市場に乗り込もうとしたのは2005年の中頃です。また2007年の3月には454 Life Sciences社を1億4,000万ドルで完全に買収しました。454 Life Sciences社の従業員167名も完全統合しました。この167名は大部分が研究開発に関わっていたと思われますが、当時のロシュのバイオサイエンス部門の研究開発部門は大きくなく、454 Life Sciences社の統合でR&Dの人員は最低でも2倍に、僕の推測では3倍になったと思います。

プレスリリースにも書かれていますが、454 Life Sciences社の技術は確かに革新的なものでした。2005年にはウォールストリート・ジャーナル紙の2005年度トップ技術革新賞(top Innovation Award for 2005)を受賞し、2006年には米国技術情報誌「R&D」選による、最重要技術製品賞を受賞しました。

一方でABIのSOLiDはまだ製品化されておらず(受注開始は2007年10月)、IlluminaのGenome Analyzerは出て来たばかりでした(Solexaが一般に販売を開始したのは2007年)。

そのような状況の中、2005年および2006年のころのロシュの雰囲気はイケイケどんどんでした。「ABIの社員はもうがっかりしていて、アメリカではロシュに転職したがっている」とか「ABIには次世代シークエンサーの戦略がなさそうだ」とかいう話がしょっちゅうされていました。そしてロシュこそがDNAシークエンス市場でトップシェアを奪うだろうということが、経営者レベルでは言われていました(現場では違います。現場は世間知らずではありませんでした)。

そもそもロシュが454 Life Science社の技術導入をした背景には、DNAシークエンス市場の大きさがあります。DNAシークエンス市場は単独分野としてはライフサイエンスで最大のものであり、世界で1000億円規模です。ライフサイエンスで一番大きな市場でナンバーワンにならなければならない。そういう意識がロシュの経営者にあったと私は感じていました。

ロシュのライフサイエンス製品の大部分はベーリンガーマンハイム時代から引き継がれたもので、研究者に非常に愛用されているものが多くあります。しかし個別分野で見れば世界で高々100億円規模のものがほとんどで、ロシュのような巨大企業からみればアリのように小さなものです。製薬部門が絶好調で資金が余っているロシュとしては、ここで大きく出たかったのでしょう。DNAシークエンサー市場の1000億円のうち、将来的に最低でも半分の500億ぐらいは年間に売り上げたい。そう思ったに違いありません。

ちなみに製薬企業であれば従業員一人当たり、5,000万円以上を売り上げるというのが一般的だと思います。したがって454 Life Sciences社の167名を抱えるだけで、80億円を売りたいという計算になります。実際にはR&D費は全売上の高々20%というのがライフサイエンス業界では一般的ですので、ロシュの期待としては400億円程度を売り上げたかったのではないでしょうか。つまり40%の市場シェア。非常におおざっぱな計算ですが。

しかしSOLiDがTop Innovations of 2008に選ばれることなどからわかりますように、ロシュと454 Life Sciencesのテクノロジーは徐々に影が薄くなってきています。最近では真っ正面からのマーケティングスローガンではなく、固有のスペックに絞った宣伝文句になってきました。僕自身、技術動向に詳しい訳ではないので断言はできませんが、ロシュの当初のもくろみのような大きなシェアは、結局は奪えないのではないかと予想されます。最後はやはりABIというところで落ち着きそうな気がします。

ではどうしてこうなったのか、この結果は最初から予想できたかを考えたいと思います。そのときにはClayton Christensen氏の理論が大いに役立ちます。Clayton Christensen氏はThe Innovator’s Dilemmaという本で有名になり、イノベーションがどのように市場を変えていくか、どういうときに市場がひっくり返るかについて深く考察しています。

非常に興味深いのは、イノベーションが市場シェアをひっくり返すかどうかは技術の革新性によるのではなく、マーケットリーダーが反応できるかどうかにかかっているとしている点です。またマーケットリーダーが反応するかどうかは経営陣の有能さにかかっているのではなく、市場の力学によるのだとしています。そして市場をひっくり返すようなイノベーションは通常、低価格帯から高価格帯にシフトしながら起こると説いています。

例えばパソコンなどが良い例です。パソコンが出現する前はIBMなどが大型コンピュータをビジネス用に販売していて、競争相手を全く寄せ付けないほどの強さを誇っていました。そしてパソコンが出現してもなかなかそれに投資しませんでした。なぜかというとそんな低価格なものを売って大型コンピュータの代替をさせるより、大型コンピュータの性能を次から次へと高めて、これをたくさん売った方がよっぽど儲かるからです。IBMがMicrosoftの巨大化を許したもの、IBMがパソコンのプロジェクトにほとんど投資せずに、当時まだ非常に小さかったMicrosoftにアウトソーシングをせざるを得なかったからです。

気づいたときにはパソコンやUNIXのワークステーションの性能がどんどん高まって、大型コンピュータを代替できるレベルに達していました。しかし時は既に遅く、パソコンの覇権はIBMではなく、CompaqやMicrosoftに移ってしまっていました。IBMはパソコンやサーバを販売しているその他大勢の会社の一つに成り下がり、そしてついにはパソコン部門を中国のLenovoに売ってしまったのです。

それに対して、イノベーションが市場をひっくり返せない例もChristensen氏は紹介しています。航空会社です。格安の航空会社は何十年も前からたくさん出現しています。一部はある程度の成功を収めていますが、いまだにトッププレイヤーとなったことはありません。

Christensen氏は、これは主要航空会社が迅速に反応するためだとしています。航空会社の利益は搭乗率をいかに高めるかに関わっているため、高級化・高性能化で利益を高めていくことができません。格安航空会社が出現して乗客を失えば、搭乗率はたちまち低下して利益が下がってしまいます。お金持ちの高級志向の顧客をいくら引きつけて、彼らに高い料金を払ってもらっても、搭乗率が低ければ儲からないのです。実際に、主要な航空会社は格安航空会社の出現に反応し、トッププレイヤーは価格競争に参戦し、そしてどちらかが破綻するまで骨肉の争いを続けています。

Christensen氏によれば、既存のトップシェアの企業がこのように反応すれば、どのように革新的なイノベーションであっても市場をひっくり返すにはいたらないとしています。実際、どんなに特許でイノベーションを守ろうとしても、体力のある既存企業が本気で開発をすれば必ずまねをされてしまいます。重要なのは技術の革新性ではなく、トッププレイヤーが本気になるかどうかです。

DNAシークエンシングの場合、ロシュはいきなりABIのメイン顧客、超ハイスループットの顧客を狙いました。ABIとしても、これは最も収益があがる、何よりもメンツに関わる顧客層です。ABIとしては絶対に無視できない、絶対に奪われたくない顧客です。大幅な赤字を出してでも、また大量の研究開発資金を投じてでも守ろうとする顧客です。だからABIは多少時間はかかりましたが、確実に反応しました。そしてABIが本気になってしまえば、454 Life Sciences社の技術がどんなに優れていようと結果は見えていたのです。

まとめるとこういうことです

新規参入で成功したいのであれば、既存の企業が反応しないような参入の仕方をしなさい。通常、これはローエンド市場から入ることを意味します。そしてこのローエンドは、既存のトッププレイヤーとしては捨ててもいいと思っているローエンド市場でなければなりません。既存の企業が高級化路線で逃げられるようにしておきなさい。そしてローエンド市場で十分に力を蓄え、初めてメインストリームの市場に参入するべきです。

思えば日本の自動車メーカーが米国で成功したのはこのシナリオです。小さくて、パワーがなくて、壊れやすい車しか作れなかった日本のメーカーは、ビッグ3には軽蔑されながらも、それでも少しずつ力を蓄えました。その間に、小さい車を買う顧客なら魅力を感じるような低燃費技術を開発しました。ビッグ3はダイレクトに日本メーカーと戦うよりは、高い金で大型車を買う顧客に集中した方が儲かると考え、低燃費技術に本気になりませんでした。世の中が変わって、低燃費が重要になってしまったころにはもうビッグ3は対抗できなくなっていたのです。

札束にものを言わせて、いきなりトッププレイヤーを引きずりおろそうとしても、そうは簡単にはいかないのです。背面から攻撃を仕掛けないと、力のあるプレイヤーにはなかなか勝てません。

成功する会社は良いアイデアを潰せる

今回もBob Suttonのブログから。

Steve Jobsは次のように語ったそうです。

The thing I remember best was that Jobs advised them that killing bad ideas isn’t that hard — lots of companies, even bad companies, are good at that. Jobs’ argument went something like this: What is really hard – and a hallmark of great companies – is that they kill at lot of good ideas. Sure, this is tough on people who have come-up with the good ideas as they love them and don’t want to see them die. But that for any single good idea to succeed, it needs a lot of resources, time, and attention, and so only a few ideas can be developed fully. Successful companies are tough enough to kill a lot of good ideas so those few that survive have a chance of reaching their full potential and being implemented properly.

私が一番良く記憶しているのは、Steve Jobsの以下のアドバイスです。悪いアイデアを潰すのは難しくありません。悪い会社を含めた多くの会社でこれはできています。非常に難しいのは、そしてこれは優れた会社の特徴ですが、多くの優れたアイデアを潰すことです。良いアイデアを思いついて人にとって、これはつらいことです。自分が愛しているアイデアが潰されていくのは見たくありません。しかし、一つの優れたアイデアが成功するためには多くのリソースと時間と注意が必要です。ですから、十分に時間をかけられるのは少数のアイデアだけです。成功している会社はたくさんの優れたアイデアを潰すだけの勇気を持っていて、生き残った少数のアイデアが潜在的ポテンシャルを十分発揮し、正しく実施されるようにできるのです。

これには全く同感です。同時に昨日ブログに書いたように、非常に多くのアイデアを出すことの重要性も感じています。非常に多くのアイデアを生み出して、そして良いアイデアを含めて非常に多くのアイデアを潰していく過程がイノベーションには必要です。

通常はそのいずれかがおかしくなって、バランスが崩れます。

私が製薬企業に入社した1994年は、一般企業のバブルははじけていたものの、製薬企業のバブルはまだまだ膨らんでいました。各企業は最高益を更新し、研究開発においては非常に高い自信を持っていました。いつかは世界の大手製薬企業に飲み込まれ、日本の企業の淘汰が始まると言われていたものの、それが実際に始まる様子はありませんでした。

私が入社した協和発酵を含めた多くの企業は、この環境の中で多角化戦略を取りました。事業の多角化もそうですが、創薬だけをとってもターゲットする疾患の数が膨らみました。さらに分子生物学や構造生物学などの基礎研究にも積極的に取りかかり、気がつくと縦方向(基礎から応用)にも横方向(対象疾患の数)にも研究分野が広がっていました。これはSteve Jobsがいう、良いアイデアが潰せない状況です。

一方、製薬企業のバブルがようやくはじけた2000年前後になると、今度は極端な選択と集中が行われます。対象疾患を大幅に絞り込み、さらに基礎分野を大幅に減らしました。一見、これはSteve Jobsのいう良いアイデア潰しに見えますが、大きな問題がありました。というのは、ここまで絞り込みをした結果、発想力のある人間が力を発揮する場所がなくなってしまったのです。本来は選択と集中によって、極少数の生き残ったアイデアに優秀な人材と創造力が集中し、これが豊かに花開かなければいけません。しかし極端な選択と集中によって、アイデアが生まれる土壌すら枯れてしまい、生き残ったアイデアを膨らます補助的なアイデアも生まれない環境になってしまったのです。

大切なことは、勇気を持ってアイデアの絞り込みをしつつ、依然として様々なアイデアが涌き上がる環境を持続するでしょう。そのためにはアイデアやイノベーションが生まれる過程について十分に理解を深め、注意しながらバランスを保つことが重要だと思われます。アイデアがこんこんと涌き上がる環境を維持しつつ、適切な時期に適切な数までに絞り込みを行うことです。

さて、バイオの買物.comもそろそろアイデアの絞り込みをしないといけない時期に来ました。リソース不足でまともにサポートできない機能があり、それが放置されてしまっています。年内には大幅に見直す予定です。それについてはまたの機会にお話ししたいと思います。

アイデアが生まれる過程:600の思いつきから18の作品まで

Bob Suttonのブログに、良いアイデアを得るまでに必要な失敗作の数について、具体的な数字が書かれていました。

創造的なアイデアを作り出す人や組織が失敗を恐れず、日常の一部として捉えていることの例です。

紹介している例は1) おもちゃメーカーと 2)お笑い です。

1) おもちゃメーカー IDEO
1998年において、10人以下の社員が4,000のアイデアを生み出し、そのうち230はプロトタイプ化し、最終的に製品になったのは12個。

“You can’t get any good new ideas without having a lot of dumb, lousy, and crazy ones. Nobody in my business is very good at guessing which are a waste of time and which will be the next Furby.”

「新しくて良いアイデアを得るには、アホらしく、全くだめで、気違いじみたアイデアをたくさん出さなかればならないんだ。このビジネスでは、どのアイデアが時間の無駄で、どれが大成功するかを予測できる人はいないよ。」

2) お笑いニュース番組 The Onion
毎週のヘッドラインのネタ 18個を得るためには、普通600のネタを提案するそうです。この工程を紹介したポッドキャストもあります。
The Onionの白板はこんな感じだそうです。

僕自身はブレーンストーミングのファシリテーションをするときは、なるべく自分からばからしい提案をするようにします。自分が先に失敗をしてみせることによって、失敗しやすい雰囲気を作り出すのです。

日本のように上下関係をどうしても意識してしまうような文化圏では、上司の方から失敗してあげること大切です。変なプライドを持っている人だとできませんけどね。

アップルがなぜコンセプト製品を作らないか

MacやiPod、iPhoneを作っているアップル社がなぜコンセプト製品を作らないかについて書いているブログがありましたので紹介します。
Why Apple doesn’t do “Concept Products”

ポイントとしては;

  • GM, Microsoft, Nokiaを含めた多くの会社は、現実や経済性とはかけ離れた、全く発売する気のないコンセプト製品を作っています。
  • それにも関わらず、Microsoft, Nokiaはこのコンセプトを製品にできていません。TiVo (アメリカで人気の自動学習テレビビデオレコーダー)、iPod、iPhone、OS X、iTunes App Storeなどのように、わくわくするような新しいコンセプトの製品を具現化することができていません。
  • コンセプト製品の意義としてよく言われるのは、企業イメージの向上、デザインの実験、社員の士気の向上、市場の操作、トライアルアンドエラーなどなど。
  • その一方で、最もイノベーティブな会社の一つとされるアップルは、コンセプト製品を全く作りません。少なくとも80年代の後半に作られたKnowledge Navigator以降は。
  • “Real artists ship”: 「真の芸術家は作品を世に出す」というスティーブ・ジョブズの有名な言葉。マウスを使ったグラフィカルなインタフェースを発明したXerox社のPARC(パロアルト研究所)からは製品が生まれず、アップルのLisaMacintoshとして、アイデアを半ば盗まれる形で、始めて製品化されたことが典型例。
    製品のデザインというのは、現実の制約があってこそ、始めて生まれるものです。iPhoneで言えば電池容量、画面の解像度、人間の指の太さなど。この制限があってこそ、能力のあるデザイナーは優れた結果を生むことができます。コンセプト製品にはこの制限がなく、フォーカスの無い製品になってしまいます。コンセプト製品は、経済性や現実からデザイナーを離してしまい、間違った道に進ませてしまいます。