人事の罠:アップルストアを大成功させたロン・ジョンソンはなぜJCペニーで大失敗したか

アップルストアを成功させたロン・ジョンソンが、百貨店大手JCペニーのCEOを17カ月で解任されました。売上高が25%落ち込み、株価が57%下落するという惨憺たる結果でした。

結果論は参考にならない

どうして彼が失敗したか、ウェブ上には様々な議論があります。ただしすべて結果論です。結果論は誰でも言えます。そして自然科学では予測が重視されていることからもわかるように、結果論をいくら並べてもなかなか真実には近づきません。

例えばアップルの取締役も務めたビル・キャンベル氏は「過去にどこで働こうと、製品を移行するときには、どうやってマイナス面を制限するか常に考えるものだ。彼はまったくそうしなかった」と述べています

このブログ記事にはウェブ上のいくつかの意見をまとめています。

  • 「CEOの経験はなく、ファッションやアパレル事業の知識は限られたものでした」
  • 「どんな人がJCペニーで買い物をして、何を求めているのかという理解がありませんでした」

結果論から得られるものはありません。

ロン・ジョンソン氏はいったい何をしたのか

それではいったいロン・ジョンソン氏はJCペニーで何をしたのでしょうか?以下にいくつかの記事から結果論的な記述を無視し、事実だけを取り出してみます。

Business Insiderの記事から。

  1. Johnson’s vision featured trendier brands and a more intimate boutique-like shopping experience to replace their standard rows of overcrowded clothing racks.
  2. Ending discount sales

TUAWの記事

  1. Johnson attempted to mimic the same type of atmosphere that made Apple retail stores so successful – quality merchandise coupled with an elegant shopping experience.
  2. Johnson sought to do away with coupons, clearance racks, and sales events.
  3. Johnson attempted to incorporate designer boutiques into J.C. Penney stores.
  4. Johnson wanted J.C. Penney’s in-store boutiques to forgo cheaper options and use high quality and more expensive materials for shelving and signage.

USNews

  1. The company significantly cut back on the promotions that department store consumers have been accustomed to for decades.
  2. The lesson of the story is that, even though marketers love to hate promotions, unless you have a very highly-differentiated and premium product, they are extremely important. Promotions offer both monetary and smart-shopper appeal.

ここではっきりわかるのは、ロン・ジョンソン氏は自分自身の成功体験をほぼそのままJCペニーに当てはめようとしたということです。JCペニーをアップルストアと同じようにしようとしたのです。

アップルストアで大成功したことをJCペニーでもやろうとしたら大失敗した。それだけです。

人を結果論で採用するのは誤り

十分に情報を集めていませんが、私が強く思っていることを一つ紹介します。

過去にどれだけ成功したか、過去にどれだけ失敗したかで人の能力を測ることはできません。結果で人を計ることはできません。なぜかというと成功や失敗はその人の能力だけではなく、環境の優劣、あるいは環境との適合性、チャンスの有無などに大きく左右されるからです。したがって人を採用するとき、過去の成功・失敗で採用するのは誤りです。

その人が新しい職場に入ったときにどうなるか。その職場で成功するかどうか。予想できることは限られています。はっきりとわかるのは、その人が過去の成功体験や失敗体験を元に判断をし、行動を起こすということです。多少の修正はあるものの、基本的には今までと同じようなことを考え、同じようなことを行うだろうということです。人間は原則として過去の体験を元に行動をします。過去の成功体験を踏襲する癖があります。

その行動が新しい職場にマッチするかどうか。その判断の責任は採用する側にあります。

ロン・ジョンソン氏の場合、アップルストアが成功したから彼を採用したのであるとすれば、それは採用側の根本的ミスです。成功・失敗という結果論で採用するのは誤りです。

もしJCペニーをアップルストアのように変革したいと思ってロン・ジョンソン氏を採用したのであれば、採用としてはそれは正解です。問題はそもそもの戦略です。アップルストアのように変革したいという戦略そのものが正しかったかどうかが問われます。

社会系の議論に対する根本的な思い – 自然科学をもっと見習って欲しい

先日「なぜ日本にリーダーがいないと言われるのか、ちゃんと論理的に議論しようよ」という書き込みをこのブログにして、はてぶなどに拾われて、サーバが2回もダウンするぐらいに多くに人に見ていただきました。

その後Wordpressにキャッシュのプラグインを入れて、サーバダウンの対策を施しました。

コメント欄にはあまり書き込みはなかったのですが、Twitterなどでいろいろな人が意見を述べていました。Twitterやはてなブックマークの意見をまとめてくれているのが以下のリンクです。是非ご覧ください。

はてなブックマーク

また自身のブログにいろいろ書いたり付け足したりしている方もいました。
「リーダーシップを妄信しすぎる日本国民」

もちろん短いコメントだけでは何とも言えないことが多いのですが、皆さんがそれぞれに考えているので、しばらく何回か眺めながら、自分も考えを巡らしたいなと思います(あの書き込みへのレスポンスが出てからというもの、正直仕事には支障が出ています。ハイ)。

そこで今回は、あの記事の裏にある僕の根本的な思いについて、簡単に紹介したいと思います。

社会科学系の学問に対する一般的な批判です。 Continue reading 社会系の議論に対する根本的な思い – 自然科学をもっと見習って欲しい

なぜ日本にリーダーがいないと言われるのか、ちゃんと論理的に議論しようよ

先ほどNHKで「シリーズ日本新生 : 生み出せ!“危機の時代”のリーダー」という討論番組をやっていましたが、会場でプレゼンとかをしている人の論理があまりにもめちゃくちゃなので、耐えられずに消してしまいました。

「日本にリーダーがいない」というのはよく言われる話です。でもその原因をちゃんと論理的に考えている人はほとんど聞きません。またリーダーがいないから日本がだめになっていくんだという議論についても、本当にそうなのかを論理的に述べている人も見かけません。単なる憶測や思い込みで話している人がほとんどです。

番組をちゃんと見ていないので、本当は批評する資格はないのですが、一般的な話として自分の考えを紹介します。

日本の問題をなるべく論理的に考えてみましょう。 Continue reading なぜ日本にリーダーがいないと言われるのか、ちゃんと論理的に議論しようよ

「なぜ職場で仕事ができないのか」について

TED TALKSで37signalsのJason Friedが「なぜ職場で仕事ができないのか」という題で話しているビデオを見ました。

日本語字幕もあるので、ぜひ見てください。

自分の経験を合わせた感想を以下に紹介します。

  1. M&M (Managers & Meetings)が仕事の邪魔をしているのは全くその通りだと思います。M&Mの代わりにJason Friedが言うように、例えばチャットだとか、37signalsが提供しているBasecampなどのツールを使ってコラボレーションをやれれば良かったと思いますが、残念ながら普通の会社はそういうのをなかなか使わせてくれません。あるいはそこまで考えてITはツールを用意してくれません。僕の意識も十分ではなかったのですが、そういうツールをもっと積極的に使えば良かったと思っています。(ITはMicrosoftのSharepointは用意してくれていましたが、使い方がわかりませんでした。すぐに使い方がわかるBasecampの良さはここにあります)
  2. 前にいた会社は電話サポートの人にマーケティングをさせていました。これについては僕は強行に反対しました。理由はJason Friedが言うように、時間が分断されてしまうと人間は仕事ができないからです。電話サポートの人は必然的に時間が分断されてしまうので、マーケティング戦略をじっくり考えるなんて不可能なのです。残念ながら上司には聞き入れられませんでしたが、どうして断られたかははっきりしています。その上司が人の仕事を平気で中断させる人だったからです。
  3. 確かに会社にいると数時間でも中断されない時間を作るのは大変です。でも前の会社の上司は10時間ミーティングならやっていました。うーん。

Asymco: 企業内アナリストは虚しいからブロガーになった

Asymcoというハイテクの動向を追いかけたブログが非常に秀逸で、急速に話題になっているみたいですが(僕はJohn GruberのDaring Fireball経由で知りました)、著者のHorace Dediuが「存在の理由」(“the existential theory”)というこれまた面白い記事を書いていました。

簡単に言うとこうです。

  1. 会社にいるときは、主にデータの収集とそれをプレゼンテーションすることを行っていました。聴衆は最小で一人、最大でも数十人。そしていったん発表が済むと、記憶としてはだいたい3日持ちません。ひと月もすれば完全に忘れ去られます。
  2. なぜこうなるかというと、企業内では情報の伝達と貯蔵、消費は制限されるからです。この結果、企業内アナリストの仕事は限りなく無駄になってしまいます。
  3. もう嫌になってしまったきっかけは、経営陣のミーティングで発表する分析に2週間費やしたのにも関わらず、スケジュールの関係で議題から外されたときです。そのときの分析は誰にも発表する機会がありませんでした。
  4. そのときに悟ったのは、自分の分析はミーティングに必須ではなかったということ。それは「経営陣のための余興」だったのです。だったらと思って、自分のエンターテインメントスキルを磨くことを決心しました。そしてなるべく大きな聴衆に向かってブログを書くようになったのです。

Horaceの気持ちは痛いほど分かります。

僕はアナリストではありませんでしたが、経営陣に対して発表をするというのは常に虚しさがありました。ただただ、自分のチームのやっている仕事を評価してもらい、僕らが生命科学に貢献できるようにリソースを分配して欲しいと思ったからがんばったまでです。そうでもなければ、バイオテクノロジーの知識が無いのはむろんのこと、研究に貢献する喜びを感じず、使命感も持たない人たちのために時間をかけてプレゼンテーションを準備することはありません。

しかもせっかく分析をしても、Horaceが言うように、それを部下やその他の社員に公開することは原則としてしません。経営上部に対するプレゼンテーションの場合は。

The Smithsの”Heaven Knows I’m Miserable Now”の歌詞に

In my life
Why do I give valuable time
To people who don’t care if I live or die ?

というのがあって、すごく好きなんですが、経営陣のミーティングにたくさん参加するとこういう気持ちになります。

PS.
そういえば僕が最初に入社した製薬企業では、研究報告書というのがあって、研究の切りがつくとそれを書くことになっているのですが、この管理の仕方がまたすごかったです。原本は地下の倉庫にしまわれて、研究管理室に鍵をもらいに行かないと取りに行けません。しかもコピーは厳禁でした。

その上、どのような研究報告書があるかを知りたくて検索をしようと思っても、許可をもらって上でITチームに依頼を出さなければなりません。ですから結果として、研究報告書の内容はもちろん、そういう報告書があったかどうかもすぐに忘れられてしまうのです。

僕は自分の研究にすごく重要な情報をMedlineで検索して、論文を見つけて、驚いたことに自分の研究所の人間が10年前にそれをやったということを知って、ITチームに検索を依頼して、そして初めて研究報告書の存在を知ったということがありました。

会社って時々とてもおかしなことになってしまいます。

創業者社長が良い理由

ネットスケープの創業者としても有名なMarc Andreessenと共にベンチャーキャピタル “Andreessen Horowitz”を設立したBen Horowitz氏のブログに面白い記事がありました。

「我々がなぜ創業者社長を好むか」

ビジネスが立ち上がったら創業者CEOは退き、そして後はプロフェッショナルなCEOに経営を譲るべきだというのが一般的な常識だとした上で、その考えは誤りであると結論しています。

ポイントを以下に列挙しました;

  1. 大成功したハイテク企業の大部分は創業者社長が長く経営していました:Apple、HP、Intel、Microsoftなどは言うに及ばず、Sonyなども例として挙げています。
  2. 創業者は製品サイクルを見いだします:プロフェッショナルなCEOは製品サイクルを最大化する能力はあります。しかし製品サイクルを見いだす力はありません。製品サイクルを見いだすイノベーションはビジネスの中でも最も難しいものであり、プロフェッショナルCEOにその方法を教えるよりも、創業者社長にプロダクトサイクル最大化の方法を教える方が簡単です。
  3. 製品サイクルを見いだすためには、自社と市場と技術の深い理解が必要です:この知識が無いと、会社を全く新しい方向に向かわせる勇気が持てないとしています。
  4. Moral Authority (信望に基づいた権威):会社の根幹を築いた創業者社長には、時代に合わせてその根幹をひっくり返すだけの権威があります。外部から雇ったプロフェッショナルCEOにとっては既存のビジネスモデルを覆し、新しいものを取り込むことが非常に困難です。
  5. 長期的な展望へのコミットメント:長期的な利益にコミットすることは、しばしば短期の利益を犠牲にすることにつながります。創業者CEOは当然ながら長期にコミットしてます。一方でプロフェッショナルなCEOは短期的なゴールに影響されがちです。

全くその通りだと思います。