携帯電話の価格って何だろう。インドでiPhoneが2年契約で安くなる報道を受けて…

日本ではiPhoneなどは実質0円で買うことが可能です。実質0円というのは、2年間の通信料をキャリアが割引して、それで割引額の合計がiPhoneの本体価格と同じになるという仕組みです。つまり2年間キャリアと契約することを約束すれば、キャリアがiPhoneの代金を割引してくれるという仕組みです。

表題のインドの件は、いままではインドではこのような割引がなく、本体価格を丸ごと末端消費者が払わなかったのに対し、最近RComというキャリアがiPhone本体価格を割引してくれるようになったという話です。例えばインドでの iPhone 5S 16G本体価格は 53,500ルピー(約84,000円)であるのに対して、RComと2年契約(毎月2,800ルピー、約4,400円)を約束すれば実質 0ルピーになります。

「インドのような発展途上国でiPhoneを売っていくためには低価格のiPhoneモデルが必要だ」と多くのアナリストは述べていましたが、またしてもAppleは“Think Different”をしたことになります。

このようなアナリストが期待したほどにiPhone 5Cが安価ではなかったことからもわかるように、Appleの発展途上国での戦略は低価格モデルの導入ではなく、先進国で成功しているキャリア補填モデルであることは明白です。

まずRComとはどのようなキャリアか?

RComがインドでiPhoneを実質0円から提供するというのはいったいどれだけの意義があるのか。それを知るためにはRComがどのような会社かを知る必要があります。

Wikipediaによると、RComはインドで第二のキャリアで1.5億人のユーザがいます。そしてインドで4Gを提供する準備をしている2社のうちの1つだそうです。したがってインドでは相当に大きなキャリアであることがわかります。

RComがiPhoneを実質0円にするというのは相当にインパクトがありそうです。

加えて現在RComのウェブサイトに行くと、次の画面に転送されます。このことからRComがかなり本気だというのがわかります。

Reliance Communication

最初の画面の後のトップページもiPhoneばかりが目立ちます。

Reliance Communications Online Recharge Reliance Mobile India s premier GSM CDMA service provider

間違いなくRComは本気です。

iPhoneは誰が買うのか?

代理店、卸や問屋を相手にマーケティングやセールスを経験したことがある人なら常識ですが、メーカーは末端ユーザに製品を売る前に、まず中間業者や小売店に製品を売り込む必要があります。中間業者は必ずしも末端ユーザの利益を最優先していません。その上、中間業者が「売りたくない」「売り場に置いてやらないよ」と言ったら製品は売れません。

これは例えば安値を武器に市場に参入しようとするときに障害になります。既に販売されている高額な製品と競合するものとして安価な製品を新規に導入しようとして、中間業者はなかなかOKしません。末端顧客にメリットがあってもです。なぜならば高額な製品を売った方が中間業者は儲かるからです。営業の人はよほどのことがない限り、わざわざ高額な製品を購入し続けているユーザに安価な製品を紹介しに行きません。自分から売り上げを落としているようなものです。

Googleが安価に販売しているスマートフォンのNexusシリーズがことごとく売れていない理由はここにあります。キャリアとしては、高額なGalaxy Sシリーズを買ってくれる顧客にわざわざ安価なGoogle Nexusを紹介することはしないのです。

それではキャリアに「売りたい」と思わせるスマートフォンとはどんなものでしょうか?それはずばり、高額なデータプランを継続して購入してくれるような上客を(他のキャリアから)引き寄せてくれるスマートフォンです。そしてロイヤルティーが高く、長期継続してくれる顧客を呼び寄せるスマートフォンです。

それをやってくれるのがiPhoneです。そして今のところiPhoneだけです。

iPhoneはキャリアにとってのマーケティングツールです。広告です。客寄せパンダです。優良な顧客が手に入るのであれば、実質0円となるように補填することは十分にペイします。だからキャリアはiPhoneを買い、優良顧客に「あげる」のです。

キャリアはiPhoneを売っているのではありません。iPhoneを買っているのです。

キャリアがそこまでして顧客を欲しがる理由は?

通信キャリアはほぼ固定費のビジネスです。無線ネットワークを一端構築すれば、パンクしない限り、利用者が増えても増設はしません。利用者が増えてもインフラは同じで済みます。

ですから利用者が増えれば増えるほどキャリアは単純に儲かります。

逆にせっかくインフラを構築しても利用者が少なければあっという間に赤字です。それが固定費ビジネスの怖さです。

4Gネットワークが普及してくると、まずキャリアはインフラ構築のために大きな支出(固定費)を強いられます。その一方で回線に余裕が生まれます。その余裕分をなるべく優良顧客で埋めておきたい。余裕が少なくなるように顧客を増やしたい。それがキャリアの本音になります。

そこでRComは世界で一番優秀なセールスマン、つまりiPhoneを採用したのです。

今後は

Androidの急成長ぶりが注目されている一方で、日本と米国では逆にAndroidのシェアが下がり、iPhoneのシェアが上がっています

日本にいるとその理由はよくわかります。iPhoneの方が品質が高く、そして本体価格そのものはAndroidよりも高価なのですが、キャリアからの補填で実質ではAndroidよりも安価だからです。

注目されるのは A) 世界でのAndroidの成長が継続し、iPhoneのシェアが下がっていくのか? それとも B) 日米を追いかけるように、他の国でも徐々にAndroidのシェアが下がり、iPhoneのシェアが上がる局面を迎えるか、です。どっちのシナリオが主になるかです。

そして上記の議論にしたがうと、Aが主になるのかBが主になるのかは直接的には携帯電話本体の価格や顧客の経済力によって決まるのではありません。むしろキャリアのビジネスの構造、例えば利益や次世代通信インフラへの投資によって決まります。例えば途上国のキャリアが積極的にデータ通信インフラに投資すれば、固定費が多くなり、それを埋めるための良質の固定客を積極的に集める必要があります。これはB)に傾くシナリオです。

A)のシナリオが主であり続けるならば、いずれAppleはiPhoneの価格を下げて、新興国での売り上げ拡大に走るでしょう。一方 B)のシナリオが多くなってくれば、AppleはiPhoneの価格を下げることなくシェアを拡大することができ、今まで以上に強い地位を築くことができるようになります。

Androidが登場して以来、A)のシナリオが特に途上国では主でした。しかしインドのキャリア補填が成功し、なおかつChina Mobileが中国でもiPhoneのキャリア補填を実施すれば、世界は急速にBのシナリオに傾くかも知れません。

その流れに注目していきたいと思います。